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【開催報告】地球環境学2022 第4回 「水資源の減少・枯渇」

  • レポート

 地球環境学2022の第4回は8月20日(土)に水資源の減少・枯渇というテーマで

総合地球環境学研究所 副所長 谷口 真人(たにぐち まこと)氏をお招きし開催いたしました。

 谷口氏には、世界の水資源の状況と動向、地下水資源の減少のお話だけではなく、水、食料、エネルギーのつながりなどを身近な事例を含めわかりやすく解説していただきました。

世界の水資源の現状

 約40億年、地球上に存在する水の総量は変わらないそうです。水というのは、雨が降りそれが地下水に、あるいは河川に流れ海へ、そして太陽エネルギーによる海面蒸発等により循環している資源であること、また、水は重力に従い高い所から低い所へ流れるということを最初に話してくださいました。

 そして、なんと、全世界の河川の水は13日ほどで入れ替わるのだとか。一方で、地下水が入れ替わるのには830年もかかるそうです。普段意識していない水の循環が、実はそうした仕組みを理解することで水資源として保全・活用していくことにつながるのだと気づかされました。

 さらに「なごや環境ハンドブック」P37の 表「世界の水需要予測」をもとにお話がありました。

 全世界で使われている水の7割が農業のための「灌漑水」、その次は「発電」のために使われています。水の力を利用する水力発電や発電する際に発生する熱の冷却として水が使われています。表をみると、2050年に使われると予測される水の用途について「発電」が増えています。「水のことを考えるということはエネルギーのことも考えることになる」と谷口氏。水が何に使われるのかを考えること、そこには間接的にエネルギーが結びついていること、それは私たちの生活と深い関わりがあるということですね。

 続いてハンドブックP40の表「地球温暖化が水資源に与える影響」についても解説してくださいました。右上の表は、温暖化による4つの影響がどのように海に影響しているかを表しています。お手元にハンドブックがある方はぜひご覧ください。 

 昔に比べ、雨が降る日は減っているのに集中的に雨が降る、といったように雨の降り方が変わってきているとのこと。実際に、あるいはニュースで最近の気象の変化を感じている方も多いのではないでしょうか。

地球温暖化によるシュミレーション

 講演では、地球の気温が1,5℃、2℃、4℃と上昇した時のシュミレーション図も示されました。温暖化が加速するほど、大陸、地域により平均降水量の差が大きくなるというのが特徴です。

 緯度の高い地帯や赤道付近等は降水量が増加するが、亜熱帯の一部や熱帯の限られた地域では減少するようです。一方、日本では温暖化により積雪量が減少する他、降水量の変化により渇水の増加が懸念されるとのことです。さらに西日本では河川の流量が減少するが、東日本、特に東北・北海道はその量が増加することが予測されるようです。

 水に恵まれた日本というイメージが強いですが、将来、日本も地域により水との関わり方が異なってしまうことが予想されますね。

水資源の減少への評価

 ウォーターストレスという言葉があります。これは、私たちが使う水の量に対して、自然界にどれくらい水があるのか、つまり、水需要のひっ迫状態の程度をさすそうです。

 その指標としてはガイドブックによると、「人口1人あたりの最大利用可能水資源量」が用いられています。その比率がどの要因から影響を受けるのかというと、2つの要因があるそうです。1つは気候変動で2割、そしてもうひとつは人口増加で、その影響は8割とのこと。人口増加がこれほど水に影響しているとは驚きです。しかし、生き物全ては空気同様、水なしでは生きていけないので当然ともいえますね。

 ガイドブックではP38にある「年間ベースライン水ストレス」の世界地図があります。こちらもぜひご覧ください。

 その他、気候変動の影響を評価する方法の一つとして、重力を測るGRACEという衛星を使って地球上の水の変化が測定できるそうです。この2つの衛星による測定は、高度450㎞、距離250㎞の2点間で髪の毛10分の1の差がわかるという恐るべき精度です。こうした科学技術を利用して気候変動に伴う水の量の変化が把握できるのです。21世紀の水資源を考えていく上で大切なことですね。

地下水という水資源への依存

 地下水について、興味深いお話がありました。

 日本の地下水依存率は約12%、世界平均は約40%とのこと。そして、地下水利用の仕方の変遷をみると次のようなことがわかるそうです。それは、日本の1900年代は地下水の依存率は60~90%だったが、現在は0~40%未満になり都市化と共に依存率が低くなっているということ。

 そして、その中である時期に地下水の依存率が高くなっている年があります。それは戦争や災害のあった年です。災害時に地域で活用できる水資源として地下水の依存率が上がるということは、地下水の利用が歴史とも関わりをもつことを谷口氏は教えてくださいました。

 地下水のプラス面とマイナス面についてのお話もありました。それは例えば、水は栄養分を運ぶことと同時に汚染物質を運ぶということ。大切で安全な水資源として地下水を利用するために私達が心がけることはまだまだありそうです。

 地下水も化石燃料と同様、使えば使うほど減っていきます。特に比較的乾燥している地域は地下水がもともと少ないので地下水資源が減少し、特に乾燥地域や半乾燥地域を中心に過去40年間で地下水の減少スピードは2倍に加速しているそうです。

 原因はそこに居住している人の責任かといえばそうとも言えないとのこと。気候変動や食物も影響しているようです。

水資源の減少についてのお話から次はバーチャルウォーターのお話へと続きます。

バーチャルウォーター(仮想水)とバーチャルな水輸送

 ハンドブックP40には「バーチャルウォーターの輸入量」が示された世界地図が掲載されています。ガイドブックによれば、バーチャルウォーターとは、輸入している食料や工業製品の量を、その生産に必要な水の量で表現するものです。

 例えば南米産の大豆を日本に輸入し、大豆製のものを食べるということは、生産地で水を使って栽培されたものを食するということであり、仮想的に海外から大量に水を輸入していることになるのです。私達は生産地の水環境に影響を与えているわけですね。

人と社会と自然をつなぐ水―食料―エネルギーとの関わり

 ここまでのお話で水資源は人だけでなくさまざまな事柄と結びついていることがわかりました。そんな中、「後発の利益」という初めて聞く言葉がありました。

 工業化による地盤沈下について、東京では1961年頃からようやく揚水規制が始まったそうです。しかし、それは沈下開始から41年経ってからなのだとか。各国の都市の状況をみると、後から地下水を利用した都市の方が、沈下から揚水規制を開始する期間が短いそうです。これを「後発の利益」といいます。資源を大切にしていこうという動きが世界で情報共有され活かされているのですね。 

 水資源とエネルギーについて、水道事業に使っているコストの6割ぐらいは、配水に必要なポンプや汚れた水を浄化して使える水にするために使うエネルギーにかかるコストとのこと。言われてみれば当然ですが、意識していなかった分、新鮮な驚きでした。私達の生活の中では水とエネルギーは非常に密接な関わりがあるということ。水の使用量とエネルギーの関係からカーボン排出量が分かるというお話も納得です。

 さらに温暖化による水とエネルギーとの関わりについてもお話がありました。

 温暖化により各地の降水量は変化していますね。また、水温の上昇もあります。こうした温暖化の影響が発電とどのように関わるのか、考えたことはありますか。

 水力発電は降水量等、水との関わりが大きいですよね。しかし、火力発電にも水が必要なのです。火力発電に使う冷却水は、温暖化による水温上昇によって冷却コストがかかるそうです。つまり、温暖化は水力発電より火力発電への影響が大きいとのこと。谷口氏は「水とエネルギ―の関係性を理解しておくことが大事」とおっしゃっていました。

これからの水資源との関わり方

 そして、谷口氏は、これからの水資源との関わりについて、環境を管理することと保全することの連携が大事であり、資源管理の課題「トレードオフからシナジーへ」というキーワードを示してくださいました。

 トレードオフとは、ある目的を達成しようとした時に、一方を立てれば他方が成り立たないという一種のジレンマのような関係や状況をいいます。そして、シナジーは、相乗効果のことです。私たちは、状況を分析し知恵を出し合い、水資源の保全のために協働していくことをあきらめず、柔軟に対応していくことを目指したいものです。

 そして、シナジーの事例紹介がありました。

 熊本市は地下水減少の原因を受けて、熊本市外上流域の休耕田での水張(地下水涵養)事業に参加することで下流域である熊本市の地下水を復活させたというお話です。

 これは高い所から低い所へ水が流れるという、重力に従った自然水の循環の恩恵が滞っていたものを、自分たちの管理の範囲外にまでコストをかけ越境資源管理をすることで、水資源が見事に復活したそうです。

 縦割りではなく横断的に協働していくことの大切さがわかりました。私達はまだまだ知恵を絞って環境課題の保全・改善をしていける手だてを考えていかなくてはなりません。

 最後にSDGsにおける水の位置づけについてSDGsウェディングケーキのお話がありました。SDGsにはご存じのように17の目標があります。以下の図のように、それぞれの目標を4つずつ3分割して段のケーキのように積み上げ一番上に目標17がくる、いわゆるSDGsウェディングケーキ。一番下の土台にあたる4目標の一つが水に関わる目標です。

 それぞれの段にはこれまでの地球誕生から現在までの生命の誕生に始まる生命史、人類の誕生に始まる人類史、社会・経済の変遷という歴史がそれぞれ関わり合っているとのだそうです。

 人と社会と自然を水がつないでいる。そしてその関わりを私達は忘れず、水資源、地球上の貴重な資源と共生し、知恵を絞り工夫しながらよりよい未来を目指すことの大切さを谷口氏は教えてくださいました。

■アンケートからのご質問

 気候変動ー地下水ー生活、エネルギーとのつながりの中でどこを抑えることで、今後の持続可能な水利用が可能ですか。

 ■ご回答                                                                                                   

 「どれくらいの時間で循環している水」を使っているのかを抑えることが一つのポイントです。もう一つは、トレードオフを減らしてシナジーを増やすための広い意味でのコミュニケーションが、様々な事象に広くつながる水の持続可能な利用にとって必要です。

 谷口様、講座に参加してくださった皆様、ありがとうございました。

 今後もなごや環境大学では皆様と共に学ぶ講座を充実させてまいります。

 どうぞご期待ください。