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【開催報告】地球環境学2022 第3回 「生物多様性の減少」

  • レポート

 地球環境学2022の第3回は7月16日(土)に生物多様性の減少について
ビオトープ管理士会中部支部 会長 長谷川 明子氏をお招きし開催いたしました。

■講演

 第3回の構成は、前半が講演、後半がワークタイムでした。長谷川氏にはスライドの他、「なごや環境ハンドブック」のSDGsや生物多様性の章も用いながら、環境問題がいつから注目されてきたのかに始まり、世界、日本における生物多様性の減少について現状や課題をわかりやすく解説していただきました。

いつから環境っていわれたの? 
 戦後、環境問題が意識されだしたのはいつごろからでしょうか。1962年に農薬等の化学物質が環境へ及ぼす影響について一石を投じた「沈黙の春」が発刊され世界的に注目されました。世界的な取組としては、名古屋でおなじみの藤前干潟が登録(2002年)されている湿地の保全に関するラムサール条約(1971年)も有名です。そして、ストックホルムで開催され世界110カ国以上が参加した国連人間環境会議(1972年)が「環境保護と改善が全ての政府の義務」という考えのもと、世界的規模で環境問題について話し合われた最初だとのことです。

少女の伝説のスピーチ
 1992年6月にブラジル・リオデジャネイロで開かれた地球サミットでは、地球環境の保全と持続可能な開発の両方について話し合われました。そこで当時まだ12歳だったカナダの少女が語った伝説のスピーチの一部の紹介がありました。
 セヴァン・スズキ氏が言った「どうやって直すのかわからないものをこわし続けるのはもうやめてください」という言葉。もう30年も前のスピーチです。その間私達は環境について何をしてきたのか。シンプルな言葉は、当たり前のことなのに日々の生活の中で私達が忘れてしまった大切な心構えを思い出させてくれました。
 このスピーチは2010年名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締結国会議(COP10)でも用いられたそうです。長谷川氏に紹介されるまで少女のスピーチを知らなかった方も多いかもしれないですね。
 なお、地球サミットについては「なごや環境ハンドブック」P3にも載っていますのでお手持ちの方はぜひご覧ください。

 そして、現在、環境問題はいくつかの分野において対策が話し合われていますね。その中で生物多様性についてはどうなのでしょうか。

ビオトープとは
 Bio(生き物)+Top(場所)が合わさった言葉で、「生き物たちがすんでいるところ」という意味だそうです。そして、ビオトープ事業は生態系を回復させるひとつの手段。保護・保全・復元・創出という活動で自分たちの営みの中で生き物を守っていけるようにする事業。生き物が生息する場所を保護する、維持していくものを保全し、失ってしまった環境を復元、そしてあらたな環境を創出するための事業です。
 例えば「創出」について。街にも多くの生き物がいるのに、開発ですめなくなってしまった生き物たちがいる。そうした生き物たちがすめる空間づくりをするといった活動を「創出」というそうです。こうした活動が生態系を回復させる手段だということ。「それは私達にとっても快適な空間のはず」と長谷川氏。

生態系の安定と生物多様性条約・気候変動枠組み条約
 生態系の安定には2つのポイントがあり、1つは、多くの生き物がいることでバランスが取れているということ。もうひとつは太陽が昇ると気温が上昇し暑くなる、そして太陽が沈むと気温が低下し涼しくなるということ。専門用語では前者を並列安定機構、後者をネガティブフィードバック機構というそうですが、この2つにより生態系が安定するとのことです。
 これを条約に置き換えると前者については生物多様性条約、後者については気候変動枠組み条約があり、この2つが両輪となって生き物を守っていくということがわかりました。

バランスを保つには
 なごや環境ハンドブックのP31のところに「バランスが大切」とあります。「ここが大切!線をひいて」と長谷川氏。
 バランスを保つには3つの視点から守ることが大切。それはそれぞれの気候帯に生息する生態系を守ろう!種を守ろう!そして遺伝子を守ろう!です。
 生物多様性の減少について、ハンドブックP31~34にも書いてあるのでお手持ちの方はぜひ参考になさってください。

バックキャスティングという考え方
 私達が取り組むべき課題は多種多様です。うっかりすると、気になりながらも何も取り組まなかった・・・という事態になってしまいます。それを防ぎ、しっかり行動計画を立てるために有効な考え方も紹介してくださいました。
 それがバックキャスティング。目標達成期限から逆算してそれまでに各時点で何をしておかなければならないのかを考えて行動計画を考えていくという考え方です。
 生物多様性条約の愛知目標(2010)として、2050年に「自然と共生する社会」を実現するビジョンを掲げ、2020年までの行動目標を約束したそうです。
 ある時点での理想の姿を想像して、それまでの各時点で、生物多様性の減少を食い止め、また回復していくための手立てを考えることが大切なのですね。

生物多様性ホットスポット
 生物多様性ホットスポットとは、生物多様性が高いのに破壊の危機にひんしている地域を指すそうです。固有植物種やその土地ならではの生き物の生存が厳しくなっている地域ということ。長谷川氏曰く、実は、日本全土がそのホットスポットなのだそうです。
 例えば日本に生息するカエルのうち、83%が固有種であるとか。花について、四季を代表する花を想像してみましょう。長谷川氏は一般に「サクラ、ヒマワリ、コスモス、シクラメン」を取り上げる人が多いがサクラ以外は外国原産だとおっしゃっていました。公園や観光地に広がる花々は原産国が外国のものが多いようです。そして、その風景も癒されるものですが、「日本の自然の風景の花としてサクラ、キキョウ、ワレモコウ、ツワブキがいいですね」ともおっしゃっていました。
 日本古来の植物や生き物を知り、それを大切にしていくことが必要なのだと気づかされました。 


私達ができること
 SDGsには17の目標がありますが「生物多様性が担保されないと関連するSDGsの80%が達成されない!」のだそうです。長谷川氏の呼びかけは、やはり、私達が今できる行動を起こそう!でした。身近なこととして、例えば有機野菜、ノンケミカルな化粧品など環境にやさしいと認定された商品をできる範囲でいいから買おう!ということ。
 確かに無理せず、でも一人ひとりが心がけ実行に移すことで大きな力になりますよね。さっそくやってみましょう。

 生物多様性条約の愛知目標(2010)で掲げられた「2050年 自然と共生する社会」を実現するために私達はどうしていけばいいのか。
 そのために長谷川氏曰く「ハッピーアクション」を考えていきたいと呼びかけてくださいました。そして、後半のワークタイムに続きます。

■ワークタイム

「生物多様性を減少させない」「回復させる」にはどうしたらいいか。
 行政は今後どう対応していくかの戦略は立てているものの、それをどう実行していくかが重要であり、実行するのは私達なのだと長谷川氏は力説されていました。

 今回は「自然と共生したなごや」にするために、「誰と」「どこで」「何をしたらいいか」を参加者の皆さんが付せんに書いて、会場に設置したボードに貼り付けていきました。
 新たなしくみ、新なやり方を考えて実行することが最も重要とのこと。

 自分事として考えるにあたりまず名古屋で何ができるのか。
いきなり地球規模で実行できることを考えるより、まずは住んでいる地域で自分ができることを考えていくことは、実現しやすいし、皆さん、アイデアが浮かびやすいですよね。
「行政」「企業・商店」「NPO/NGO」「住民」「学校」「その他」の各項目について、多くのアイデアが貼りだされていきました。

 付せんに書かれたアイデアはいくつか紹介されました。
 例えば、「商店では環境に良い商品が安く売られるといい」という内容。有機野菜は割高なイメージですが、そうした野菜が注目される今日では以前よりも低い価格で売られているそうです。「2030年、2050年にはスーパーの野菜がすべて有機野菜になっているといいですね!」と長谷川氏。その他の付せんには「学校で水田をつくってはどうか」、「まちの中のちょっとした空き地を有効利用しよう」などさまざまなアイデアがありました。

 長谷川氏は、こうした皆さんの素晴らしいアイデアの中からいくつか取り組めそうなことを長谷川氏自身が関わる名古屋市の生物多様性に関する行動計画にも反映していきたいとおっしゃってくださいました。

 私達一人ひとりが環境問題、生物多様性について、自分は何ができるのかをまずは身近なところと結び付けしっかり考えてみること、そしてそのためにできることを行動に移すことの大切さが実感できるワークタイムでした。

 私達の行動の先に2050年の社会があります。その社会が自然と共生する社会、素敵な地球でありますように。
 長谷川氏の講演やワークタイムから、私達は今、行動するべき!という強いメッセージが伝わってきました。

 長谷川様、参加者の皆さま、ありがとうございました。