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【開催報告】地球環境学2022 第2回「世界の森林問題」

  • レポート

 6月18日、地球環境学2022 第2回「世界の森林問題」を開催いたしました。

 この講座は、「なごや環境ハンドブック」を使用して、専門家から最新の環境トピックを学ぶことができる講座です。

 第2回「世界の森林問題」は、東京大学大学院 農学生命科学研究科 森林科学専攻 教授香坂 玲(こうさか りょう)様をお招きしました。ご専門は自然資源マネジメント、森林科学、地理的表示、風土論でいらっしゃいます。
 世界の森林や森林資源豊かな日本の森林が置かれている状況や、持続可能な森林経営はどうあるべきかについてお話していただきました。会場は満席で、学生をはじめさまざまな年代の方が熱心に聴講されていました。

 講演ではスライドや動画、なごや環境ハンドブックをもとに、森林の現状や気候変動に影響されやすい生き物や植物の具体例、森林を維持し活用していくためのしくみ作りなどのお話がありました。今後私たちがどういった視点で森林をとらえ、またどう関わっていけばいいのかを示唆してくださいました。

 国土面積の約3分の2が森林である日本。森や風土を活かした産業の創出は、持続可能な生態系維持の活動につながることがよくわかりました。旅行に行った先々でその土地にどんな特産品があるのか、気にしてみると新たな発見があるかもしれません。

 また、気候変動を受けやすいきのこの調査をすることで、私たちが気づきにくい環境の変化を知ることができるそうです。なんと「全国きのこ新聞」というものがあり、その中では世界農業遺産の展望と課題などの情報発信も行われているとのこと。先生のお話は興味深いものばかりでした。

 さらに森林に対する評価は時代とともに変化していること、かつては、放棄や管理が行き届いていないと見向きもされなかった森林の倒木などの光景が、ドイツの現代社会では人々にとって癒しの空間や生息域として再評価されているというお話は、時代の変化により環境への認識の変遷を感じるものでした。

 森林を守っていくために国としてどのような対策があるのかについては、森林環境譲与税の紹介があり、各市町村に配分されるその財源をもとに森林が保全されるような取組、森林経営管理の効果を知ることができました。

 森林や環境について今後どのようなアプローチで私たちが関われるのかについては、市民科学という考えが紹介されました。例えば各地域の住民がそれぞれ、ある植物や生物のモニタリングをして発信することにより、広域的なビッグデータの作成が可能となり、科学調査に貢献できるというお話がありました。すでにマルハナバチの分布推定やチョウのモニタリングなどが実施されているとのことです。               
 他には、ゲーム的要素を取り入れ、今まで関心の薄い層に関心をもってもらうアプリなどの開発がすすめられていることも知りました。

 次回の講演会のテーマでもある、生物多様性への話につながる話もありました。 例えば、環境創造型農業としては、コウノトリを育む農法の紹介がありました。コウノトリが生きている土地でものが生産されることは、その地域の風土や生態系を守りつつ、その地域ならではの独自な取組として評価されていきます。


 その他にも、各地の産品では「その土地ならではの魅力」を発信できる地理的表示によるブランドや産地の保護を押し出すことで、地域のブランド力を担保することができ、その動きが全国にあることなどを紹介していただきました。もともとは地理的表示の保護はワインのテロワールを発祥とした概念ですが、日本酒などのお酒づくりはもちろん、農作物、水産品などの食に加え、国内の制度では岩手県の木炭や漆なども登録されています。このような産品を購入し、消費することは産地の持続的な資源の利用を後押しする力にもなりえます。
 私たち一人ひとりの力が集まって日常生活のなかでも環境保全、改善に向けた取組ができることは素敵ですね。また、気軽にこれらの活動に参加できそうなところがいいと思いました。

 まだまだ紹介しきれない内容があります。以下には、会場での質疑応答や受講後アンケートからのご質問とご回答をご紹介します。

■会場での質疑応答

[質問]
 森林の生産における材の搬出について、木の切り出し搬出のため、キャタピラー付きの重機で林道をつくりトラックで運ぶというやり方が各所で見受けられる。まるでマスクメロンのように山肌が筋だらけの山になっている。材の大量生産のための搬出道の開発はやりすぎに思えるがどうでしょうか。

[回答]
 路網のつけ方など、かつてはもう少し土留めを丁寧に行っていたが、今はコスト面を重視した開発、伐採後に植林を行わない場合などがあり、日本の林業の課題といえます。背景には人件費やコスト面ですでに赤字になり採算が合わない現状があり、林業として成り立つためのやり方の模索が課題となっています。持続的ではなく、再造林も行われず、また土壌への保水機能が失われる現場が見受けられ、森林保全を視野に入れた取組になっていないという現状もあります。次の世代に残していく森林にしていくことは、大きな挑戦だと思います。

[質問]
 森林環境譲与税について、法人や企業から税金とかを徴収するという仕組みはあるのでしょうか。

[回答]
 事業者に対して国による森林に特化した課税はありません。

*森林環境税及び森林環境譲与税についての詳細は総務省ホームページをご覧ください。https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/04000067.html

[質問]
 森林という場所が今後レクリエーションの場になっていくとのことでしたが、日本より森林が多い北欧でも森林がレクリエーションの場として利用されてきているのでしょうか。

[回答]
 北欧に限らず、ヨーロッパでいうと森の幼稚園という形で、おおもとはデンマークだと思うのですが、ドイツなどヨーロッパでもいろいろやっています。北欧の森の幼稚園っていうのは校舎がなく掘っ立て小屋のような感じで主にフィールドを学びの場としています。
 日本では安全重視思考で行動を制限しがちですが、ヨーロッパではけがも含めてふくめて経験であり、けがは自己責任として自分で引き受けるという感覚で森での活動を楽しむ傾向があります。また、どうやったら森で教育活動が出来るか、教育プログラムが模索されています。森だから植物や生物の勉強をするというのではなく、例えば木の高さを知るためにタンジェントなど数学の学習ができるといった提案も研究機関によってされています。他に、森の中で寝そべり心を無にするという心のケアに関するプログラムもあります。
 日本は湿気が多いので、モンスーン型のプログラムがあるといいなと思います。森との親しみ方には文化の違いがあり、安全重視の日本ではレクリエーションのプログラムをつくるのに担当者の方は苦労があるのではと思っています。

[質問]
 ウッドショックについて、いつまで続くのでしょうか。

[回答]
 材木の流通について、ウクライナ情勢やコロナの影響による物流やコンテナとかの船の状況が関わってくると思います。また。ロシアとの関係について、ロシア側が先に輸出制限をし、日本も輸入を禁止しているという双方が行き来できない状況になっていると商社の方から聞いています。そうした材の代替について、大きくは物流やアメリカでの需要によって材の値段が世界的には上がってきています。ただ日本のマーケットの中では、むしろうまく流通できていない混乱も若干あると聞いています。やはり物流のところが大きなポイントだと思います。
 ウッドショックについて、いつ終わるとかは断言できないですが、林業白書とか森林白書とかを見ていただいて、それが一過性のものなのかどれくらいの時間がかかるものなのか、推移をみていかなければならないと考えています。

■アンケートのご質問とご回答

[質問]
 一部の外国人が日本の山々を買いあさっているという話を聞いていますが本当でしょうか?

[回答]
 スキーリゾート地ニセコなどの土地の値上がりが有名です。水源に対する懸念などがありましたが、購入する際に、登録をしなければならない制度変更がありました。法的には内外の差別はなるべく少なくするのが原則です(安全保障は除く)。

[質問]
 地域で女性林業家として山守りをしている友人からの話だと、森林組合の中には旧態依然とした体質があり、せっかく就職した若者が生計を立てづらく現場を離れていく現状とのことです。補助金がありながら現場の作業者に十分お金が下りてこない仕組みが不思議です。北欧の組織では、林業で生計が立てられる仕組みが整っていますか。

[回答]
 北欧などでは、大きな製紙や林業の会社が存在し、規模のうえでは零細な所有者が多い日本とは異なります。体制の他に、作業をしやすい平坦な林地が多いこともメリットです。

[質問]
 日本の森林を守るために、市民として、企業として、何ができるのか、

 また、国はどのように動いているのか、先生の見解をお伺いしたい。

[回答]
 消費者としては、文具から家まで木材を活用する行動をとることだと思います。また、余暇で森林を利用すること、その地域を訪問することなども貢献します。
 企業の活動については、カーボンの取引、あるいは 森林への投資という形で実施できるのではないかと思います。森林のサービス産業化という流れの中で、木材生産・災害防止の機能以外のレクリエーション機能の活用を、例えば、従業員の健康管理のために森林を活用する例などもあります。JR関連の企業が、島根県などの森林を活用している例があるという風にも伺っております。
 国としては、森林環境税の他、例えば、環境庁のホームページでは森林保全への紹介や個人の選択として取り組めることへの提案が行われています。私たちがこうした発信に敏感になり、かつ話題に取り上げていくことが大切だと思います。

[質問]
 森林問題の観点からの今後の日本のエネルギー問題、原子力発電の是非についてお伺いしたい。

[回答]
 再生可能エネルギーの促進がカギだと思いますが、バイオマスひとつとっても規模や安定性をとると、輸入のチップに頼ることになり、なかなか一筋縄ではいかないという現状だったと思います。

[質問]
 日本の森林が荒廃したのは価格的に外材に勝てなかったという。経済的かつ政治的背景があった筈である。これを解決しないで本当に森林復活がされるかは甚だ疑問。このような背景と森林復活についての先生のお考えをお聞きしたい。

[回答]
 価格だけではなく、品質でも競合できなかったという指摘もあります。今後は木材製品に加えて、多面的機能に対する 生態系サービス支払いなど、木材生産、治山に加えて、環境面での機能や貢献に対する対価を支払う時代が来るかもしれませんね。

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 以上が受講者のご質問と先生からのご回答になります。

 ご質問いただいた皆さま、ありがとうございました。

 今後もなごや環境大学では環境を知り考えることを意識した講座を企画していきます。

 引き続き、なごや環境大学の情報をお見逃しなく!