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【開催報告】なごやの水はどこから来るの?第1回を実施しました。

  • レポート

5月7日(土)「なごやの水はどこから来るの」第1回を実施しました!
今回は「いま、水源の山や森で起きていること」をテーマに流域における総合的な環境状態の把握および保全を研究されている、岐阜大学の工学部教授 篠田 成郎様に普段から使用している安全な水について
水源である山や森で起きている問題についてお話ししていただきました。

蛇口をひねればすぐに恩恵にあずかれるなごやの安全な水について、
森林で起きている環境問題や、川の上流域での水環境が下流域に及ぼす影響など
篠田様が実際に森に行って採取した水や森の写真を見せていただきました!

こちらは実際に篠田様が森に行った際の写真で
ヘリコプターに乗って上空から撮影された写真だそうです。

森の状態によって雨が降った後、流れてくる水が茶色くなる川や色が変わらない川と違いがあってビックリしました!
水を川へ流している森林の管理を怠ると泥が流れやすくなったりするんですね。
森の管理ができていないと保水機能が低下するそうです。

また、実際の森で管理が出来ているところと出来ていないところを比べてみると管理ができていないところは十分に地面に光がいきわたらず
木々の根っこが浮き上がって、森に元気がないようにみえました。

未来のためにも地元の今ある資源を生かし、
森や自然に遊びに行ったりしたいなと思いました!

当たり前に使用している水について考えさせられる講座でした。

アンケートの質問と回答内容を掲載させていただきますので是非ご覧ください。

【質問内容】

(1)窒素移動の話があったが、計測方法(センサー他)をもう少し具体的に知りたい。人工衛星から?窒素を計るセンサーという物がある?

ご回答:一般に、水環境中での窒素動態把握に係る調査では、採水したサンプルの水質分析によって窒素濃度を計測します。採水は河川などの表流水だけでなく、雨水も対象とすることもあります。当研究室での現地調査では、自動採水装置を用いた河川水の自動サンプリングや降雨分割採取装置などによる雨水サンプルを実験室に持ち帰り、全窒素濃度を得ていました。また、これと併せて、河川水流量や雨量も計測することで、全窒素の移動速度を求め、これを数値モデルに適用して、流域内での全窒素動態を検討していました。こうした数値モデルでは、人工衛星リモートセンシングによる流域内土地被覆の空間的分布情報を条件として入力することになります。

(2)林業は地域産業活性化と上流下流地域の連続した環境開発でしょうか?

ご回答:林業は、各種の木質材料を生産・供給する産業であり、森林の経済的利用を目的としています。その過程では、植林、下草刈り、枝打ち、間伐などの森林保育や木材伐出のための主伐が実施され、このサイクルを繰り返しながら森林の公益的機能維持にも貢献しています。このため、近年では、単なる木材生産に留まらず、水源涵養、土砂流出防止、生態系保全などの森林機能を向上させるための森林管理も林業の役割とされてきています。私は、これらは開発行為というよりも、むしろ環境保全活動と位置づけられるべきであり、環境保全型農業と同様な環境保全型林業がこれからの林業のあるべき一つの姿と考えています。
もちろん、中山間地域の活性化に大きく寄与するものになると期待されます。
また、こうした森林管理は主に上流域で実施されますが、その影響は下流域にも波及するため、効果を享受することになる下流域も上流域での森林管理活動に対して積極的に関心を持ち、これに必要なコストを流域全体で負担する仕組みが大切になるでしょう。全国各地の自治体で導入されてきている森林環境税や国の森林環境税・森林環境譲与税などは、正にこうした思想に基づいて構築された仕組みと理解されます。

(3)「一般市民にできること」この日の森林を守る為には、一般市民より国、地方を動かす運動が必要ではないか?(補助金等?)

ご回答:人工林の間伐、植林(再造林)、伐出材運搬路としての林道・作業道整備など、森林管理のために多くの補助金制度が設けられています。これらの行政的施策により近年では森林管理が進んできていますが、それでもなお、森林面積が広大であるために、その効果は限定的と言わざるを得ないのが現状です。これらの施策は税金を原資としているため、その財源には限りがあります。持続可能性を高めるためには、公的資金に頼る現在の方策だけでなく、民間資金を森林に廻す方法も考える必要があります。民間の財を使うためには、資金提供者にとっての受益が不可欠です。これが森林の持つ多面的な公益機能なのですが、このことを一般の人たちに理解いただくことが真っ先に大切となります。
一方、森林の公益機能は税金によって賄われるとの考え方もあります。そうなると直接的な受益者は誰になるのかが重要なポイントになってきます。これには様々な考え方やアイディアがあるのですが、従来のような住宅建設などで必要となる木材の購入者だけでなく、木質バイオマスエネルギーの購入・利用者も含めていく必要性が認識されつつあります。森林認証制度による木質材料への付加価値向上策も進められています。また、カーボンオフセットや森林信託など、民間の力を効果的に活用する試みも始まっています。さらに、昨今のアウトドアブームに併せて、ハイキング、キャンプ、グランピングなどの森林空間利用を積極的に進めていくことにも期待が集まっています。これら以外にも画期的なアイディアがあるかもしれません。まずは森林の問題が人ごとでないことを理解するところからスタートさせ、個々にどのような受益が望まれるのか、実現可能なのか、を考えることこそが、一般市民の皆さんに期待されることと感じています。

(4)森林の公益的機能維持のための産業育成をCO2吸着の観点から都市域の企業からの資金導入で可能にできるような仕組み(CO2取引)はできるのでしょうか?

ご回答:すでに、カーボンオフセットの考え方に基づくJ-クレジット制度が企業等において活用されています。しかし、こうした制度の活用が全国の森林に拡大するところまでは至っていません。
従来型の林業という業界全体を支えるには絶対的な資金が不足しているためと私は考えています。
このため、林業の枠組みを改変し、中山間地における資金と人の持続的確保を可能とする新たな方策が必要となっています。

(5)一時的、水源辺りの山を外国資本が買い取っていると言われていますが、実際岐阜県では何%くらいが外国資本の山林保有率となっていますか?

ご回答:岐阜県では、外国資本のみならず、水源地域の土地取引全般に対して事前届出を義務づける条例(岐阜県水源地域保全条例)が平成25年に制定されました。その後、令和3年には、土地取引だけでなく、水源地域内での開発行為に対しても事前届出を課すこととするよう、条例が一部改正されました。
なお、私が知る範囲では、これまでに、岐阜県内において外国資本による直接的な山林取得は確認されていません。

(6)下草も大事とのお話でしたが、苗木を育てるときに下草刈りが必要かと思いますが、どのようなことに注意したらよいでしょうか?森や木についてもっと知りたい!!

ご回答:苗木の育成だけでなく、植林後しばらくの間も含め、樹木がある程度生長するまでの間は下草刈りが重要になります。これは、樹木が日射、水分、栄養分の獲得競争に勝つための方策です。一方、他の植生に負けないまでに生長した以降は、林床土壌保全や林内水分保持のために、下層植生が大切になります。最も高い位置にはメインの樹木樹冠があり、その下にはいくつかの層を成すようにして低木や草類の生長を確保し、さらに林床を落葉落枝で覆うような鉛直方向層状に植生を配置することで、土壌や水分の保持を促せるようになります。とくに近年では気温上昇による蒸発散量の増加や極端気象による大規模降雨/無降雨の極端化が進んでいるため、こうした複層林化はより有効な森林保全策になると考えられます。

(7)友人の住んでいる熊本市近辺は、低地、比較的標高低い山里で、きれいな湧き水があり、有効活用している。名古屋との違いは?間伐やっているかどうか?広葉樹と針葉樹の違いは?伏流水の有無と土壌の違いは?

ご回答:熊本を研究対象フィールドとしたことがないため、詳細を述べることは差し控えますが、熊本県阿蘓地域は阿蘇山のカルデラによって形成された広い地下水盆が水源になっているそうです。また、降水量の多さや火砕流堆積物による水分浸透・貯留能力の高さも大きく寄与しています。一方、木曽川水系も全国有数の年間降水量ですが、水源涵養のメカニズムは熊本とは大きく異なります。基本的には、豊富な降水を森林土壌内で一次貯留しつつ、より下方の地層部分に水分を保持させ、それがゆっくりと渓流に流れ出すことによって河川を形成しています。短時間の集中豪雨やまとまった降雨が長期間継続した場合、森林土壌が減少・消失した場合などには、降水を徐々に地下浸透させられないため、短期集中的な出水を引き起こします。また、地中水分量を急増させるため、山地斜面災害の発生リスクも高めます。こうした降水の浸透や流出のメカニズムにおいて、広葉樹と針葉樹の違いは、樹冠での水分遮断、樹木による蒸散、および林床土壌の発達状況に関する相違として考える必要があります。現地観測や数理モデル解析により私が調べてきた知見としては、落葉広葉樹・常緑針葉樹などの樹種の違いだけでこれらのメカニズムを区分することはできず、林分の鉛直構造や林床土壌も含めて判断しなければならないと考えています。もちろん、間伐が実施されず放置された人工林では、水分貯留能力は低下し、土砂流出を顕著化させることは確かです。一方、伏流水の有無や発達の程度は、森林や林床土壌の状態だけでなく、山地の地質特性に大きく依存します。例えば、石灰岩質の地層が分布している山地では、大量の伏流水を保持しており、渓流(表流水)は涸れていても湧水は豊富に存在するという場所もあります。また、断層などにより多くの亀裂が含まれる地層は透水性が高く、多くの湧水が確認できる場合もあります。

(8)土壌が流れて根まで出てしまっている森林に対する改善策は何かありますか?木を伐採するしかないのでしょうか?

ご回答:林床土壌が流失してしまった人工林は「手遅れ林分」と呼ばれ、急傾斜地で多く確認されます。斜面勾配が大きいと土壌が流出しやすいためですが、急傾斜地では間伐などの森林施業が容易ではなく、後回しにされるケースが少なくないことも原因となっています。
こうした林分に対して皆伐すると、雨水が地面に直接到達・流下し、地表面の浸食を加速させます。
このため、徐々に樹木を伐採し、日射を林床に届けることにより、林床植生の回復を促します。立木本数を減らした当初は1年草が育つようになり、これが枯死して土壌表面を保護する役割を果たします。こうしてある程度まで土壌表面が覆われた段階で、さらに立木本数を減らします。これにより草類だけでなく、低木も回復し始めます。こうした草木の回復速度は地形・斜面方位による日射の入り方や周辺植生の状況によって異なるため、草木の回復状況や林床被覆状況を注意深く確認しながら、徐々に間伐を進めることが重要となります。これら一連の作業を「リハビリ施業」と呼ぶこともあります。一方、自然の回復を待つのではなく、落葉樹を植林することで落葉による林床被覆を促す方法もあります。
しかし、獣害として近年問題となっているように、折角植えた苗木がシカによる食害に遭うこともあります。また、雪害を受けやすい場所もあります。その場所の特性に応じた方法を見極めることが欠かせません。

以上となります。

またウェブサイトにて情報を更新していきますので
どうぞよろしくお願いします!