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食から始まるSDGs 野菜メニューを増やす、カフェ クロスロードの取り組みとは

取材・文 松橋 佳奈子
  • SDGs

最近、SDGsという言葉をよく聞くようになった。SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称のこと。その意味や概要を知り、「私たちが身近にできることは何だろう」と考える人たちも増えているようだ。
そこで今回は、カフェ クロスロードを訪問し、SDGsにもつながるさまざまな取り組みを取材した。食という身近な分野から、SDGsにどうアプローチしているのだろうか。またカフェで最近注力している「野菜メニューを増やす」という試みには、どのような想いが込められているのだろうか。

「カフェ クロスロード」とは

カフェ クロスロードは、JICA(独立行政法人 国際協力機構)中部の建物1階「なごや地球ひろば」内にある。もともとは世界各地から派遣された研修員のための食堂であるが、一般の人々も利用できる。名古屋駅南側のささしまライブ24地区(名古屋市中村区)に位置しており、アクセスも便利だ。ランチの時間帯には、近くで働く会社員などの利用も多い。

店名のクロスロードは、直訳すると「交差点」という意味。「いろんな国の人たちが集まるカフェにしたい」という想いが込められている。コロナ禍以前は、毎年100カ国以上から研修員を受け入れていた。カフェには民族衣装に身を包む研修員の姿があり、異国情緒あふれる雰囲気だった。

新型コロナウィルスの影響により、研修員が少なくなった現在も、カフェのコンセプトは基本的には変わっていない。「食事を通して、世界の国々の文化に触れる」ことを目指している。

ランチメニューには、日替わりや週替わりのもの、JICA中部なごや地球ひろばの企画展示に合わせた料理などが並ぶ。名前を初めて聞くような国の料理もあり、メニューを眺めているだけでも世界を旅しているような気分になる。

料理長の河田克彦さん(右側)とスタッフの皆さん

■多様な意見を取り入れて、料理を作る

今回は取材として訪問したが、実は私自身は、数年前にもこのカフェを訪れたことがある。グローバルな料理や、カフェの独特の雰囲気に圧倒されたことを覚えている。当時から「どんな人たちが、どんなふうに料理を作っているのだろう」という関心を持っていた。

そのことを、カフェの料理長である河田克彦さん(以下、河田さん)に率直に尋ねてみた。「各国の研修員や駐在員たちと話しながら、メニューを考えたり料理を作ったりしている」とのこと。「母国の料理を作ってほしい」というリクエストだけでなく、「せっかく日本に来たので、和食が食べたい」という声もある。また、研修の最後のアンケートでは「この料理がおいしいかった」という喜びの声や、「こんな料理を取り入れてほしい」といった要望の声なども届く。

いろいろな意見があるので、全ての意見を採用するのはきっと難しいことだろう。でも、河田さんは「できるだけ期待に応えたいと思って取り組んでいます」と語る。日本では手に入らない材料などもあるが、できるだけ忠実に再現すべく、試作を重ねている。河田さんが所属する会社は、全国各地のJICAの食堂を運営しており、仲間と蓄積したレシピも多数あるという。

以前にランチで提供した「アフリカンプレート」
カフェ室内の様子
温かい日には、屋外のデッキも利用できる

「企画展×ランチ」により、世界の国々への理解を深める

私が訪れた時は、なごや地球ひろばでは企画展「Story of the Pacific Islands(太平洋の島をめぐる旅、2021年3月11日(木)~7月11日(日))」が開催されていた。そこでは、太平洋の島々の暮らしや文化、JICAが実施するプロジェクトなどが紹介されていた。

展示を眺めていると、豊かな自然を持つ島々には、自然災害や気候変動、廃棄物の処理などの課題がたくさんあることが分かる。現地で活動していたJICA海外協力隊が制作した絵本などもあり、子どもと一緒に読むのも良さそうだ。

企画展に合わせて、カフェの週替わりランチは「イカバカミティ」。イカバカミティは、赤魚にピリ辛のココナッツミルクソースをかけて、フィジー風に仕上げた料理のこと。魚とココナッツミルクの組み合わせは日本では珍しいが、あっさりとした味付けで食べやすい。企画展に合わせたランチは「太平洋の島ごはん」というシリーズとして、毎週内容が変わっていく。

カフェの壁面には、パラオについての展示もあった。パラオは日本から約5時間のフライトで到着し、時差も少ないが、日本ではあまり知られていない国かもしれない。併設しているなごや地球ひろばの壁面には、パラオの美しい海の様子とともに、自然環境の保護やSDGsに関連する取り組みが紹介されていた。「サンゴに有害な化学物質を含む日焼け止めは禁止」「パラオ誓約『私は自然を壊さず廃棄物は持ち帰ります』にサインしてから入国する」など、積極的な取り組みが行われている。

カフェでランチを味わっていると、現地の暮らしや文化への関心がじわじわと湧き上がってくる。「ランチの後には、企画展もぜひ見ていってくださいね」と河田さん。本場の味を楽しんだ後で、現地のことを学ぶ。こうした一連の流れによって、異国の地への理解がより深まっていく。

企画展のテーマは4カ月ごとに変わるが、企画展とカフェは常に連動している。いつ来ても、目と口から五感を通して、世界の国々の現状を知ることができそうだ。

企画展の入口付近の様子
太平洋の島ごはん「イカバカミティ」
ランチは日替わりや週替わりメニューなど計5種類
バナナの木や各地の民芸品などもあり、異国情緒にあふれている

SDGs達成に向けた、カフェの取り組みとは?

カフェの出入り口付近には、SDGsに関する展示もあった。SDGsの意味や世界を変えるための17の目標など、基本的な知識がわかりやすくまとまっている。もちろん、カフェでもSDGsを意識した取り組みをスタートしている。

そのひとつが、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」に向けて、プラスチックごみを減らす取り組みだ。まず、飲み物などに添えていたプラスチック製のストローは、全面的に廃止。温かい飲み物が冷めないようにするドリンクキャップは、プラスチック製から紙製のものに変更。マドラーは、プラスチック製から竹製のものに切り替えた。

お客さんのなかには「ストローはありませんか」と尋ねる人もいる。そんな時には、その主旨を丁寧に伝えて、理解をしてもらうように努めている。「SDGsのことを知らない人も多いが、知ってもらうきっかけになれば」と河田さん。

「脱プラスチック」に関する記事は、特集・なごやエコ最前線のなかでたびたび取り上げられている。こうした脱プラスチックの動きは、2020年7月から有料化されたレジ袋だけでなく、これまで何気なく使い捨てされてきた身近な物品にも広がってきている。一連の動きは、カフェ クロスロードのような現場での丁寧な対応によっても支えられていると感じた。

野菜をたっぷり使用した「ベジタブルカレー」

■野菜メニューを増やす「ベジライフマンデー」への想い

SDGsを意識した取り組みとして現在注力しているのが、野菜メニューを増やすこと。「ベジライフマンデー」と名付けて、月曜日には動物性の食材を使わないランチを提供している。私が訪れた時に食べたランチは「ベジタコライス」だった。メニュー名の下には「地球環境保護のために菜食を取り入れてみませんか?」という文字が添えられている。

昨今、環境の負荷を減らすための手法のひとつとして菜食が見直され、SDGsの取り組みとしても注目を集めている。畜産により食肉を生産するためには、大量の土地、飼料、水が必要になる。畜産による温室効果ガスの増大による環境問題が懸念されており、ドイツやデンマークなどでは食肉税の導入も検討されている。もちろん、肉食から菜食への動きが進んでいる背景には、人の健康を保つという意味合いもある。

「ベジライフマンデーや野菜メニューは好評です」と河田さん。実は、そこにはSDGsのような大きな流れだけでなく、河田さんの個人的な想いも強く関わっている。

河田さんは、ある映画がきっかけで「工業型畜産」の現状を知り、一年ほど前から菜食を貫いている。工業型畜産とは、効率化・画一化された家畜の飼育方法のこと。工業型畜産は、温室効果ガスの増大など環境問題だけでなく、動物愛護の視点からも問題視されている。河田さん自身は、人間が食べるためだけに育てられた動物たちの様子を見て、とても切ない気持ちになったのだとか。「自分にできることはないか」。そう考えていて思いついたアイデアが、自身が料理人を務めるカフェで野菜メニューを増やすことだった。

個人的な想いとSDGsが重なって始まった、ベジライフマンデー。いろんな想いが込められているものの、「カフェを利用する人たちに考え方を押し付けるようなアピールはしたくない」と河田さんは言う。ベジライフマンデーが支持を集めている理由には、このさりげないも気遣いも関係しているのかもしれない。

話を進めるなかで「食を通して、もっときっかけづくりをしたい」「何らかの行動につながれば嬉しい」と河田さんの胸のうちを語ってくれた。

なごや地球ひろば入口付近のSDGsに関する展示
菜食を意識した「大豆ミートのタコライス」
野菜のおかずを彩り良く盛り付けたランチプレート