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環境問題、食育から多文化共生まで。みんなで創っていく、お寺の新しい在り方とは?

取材・文 松橋 佳奈子
  • まち

「ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保」ということが盛んに言われ、これまでの生活様式が大きく変わりつつある。私が担当している記事も、その多くはリモート取材や取材なしで執筆できるものへと変化したが、そんななかでぜひ訪ねてみたい場所があった。その場所というのは、名古屋市天白区にある徳林寺だ。
コロナ禍ではベトナム人労働者の滞在場所を提供し、数々のメディアで紹介されている。環境問題、食育から多文化共生まで、幅広い取り組みの根本にある想いは一体どのようなものなのだろうか。
今回は、徳林寺の住職・高岡秀暢(しゅうちょう)さんにお話を伺った。

ベトナム人の受け入れにより「お互いに学び合う」

徳林寺では、コロナ禍で職を失ったまま母国に帰れなくなってしまった外国人労働者に対して、滞在先を無償で提供している。実は、このお寺では過去にも難民やホームレスの受け入れなどを行っていた経験がある。以前にお寺で暮らしていた女性の縁で、ベトナム人の協会から「受け入れられるかどうか」という打診があったことが、今回の滞在先提供のきっかけだった。その問いに対して、高岡さんの答えは迷いなく「イエス」。そこから受け入れが始まり、現在に至っている。

受け入れを行っている事実は、瞬く間に広がった。ベトナム人を中心とする外国人労働者が、全国からお寺にやって来て、多い時には51人の方が滞在。2020年12月時点では、滞在者は13人にまで減ったが、この間に受け入れをした人数は計130人にものぼるという。こうした一連の取り組みはマスコミでも多数取り上げられているが、高岡さんは「苦労してやっているわけではない」「大変だと思ったことはない」とあっけらかんと語る。さらに「ベトナムの人たちは参加意欲がとても高く、お互いに学び合っているんですよ」と話は続く。

お寺の周辺を案内してもらうと、裏の畑では里芋や大根、南瓜、柚子などの柑橘類の他に、ベトナム料理には欠かせない唐辛子やレモングラスなどものびのびと育っていた。「自分たちで食べるものは自分たちで作る」。これがお寺の滞在中のルールだ。料理だけでなく、野菜なども滞在者が自ら育てている。「気が付いたら、畑は彼らに乗っ取られていましたよ」と高岡さんは笑いながら語る。

ちなみに、徳林寺では固定種や在来種について考える場を設けたり、「在来種のタネ交換会」などを開催したりもしている。畑では有機農法や自然農法を取り入れている。全てが「環境にも人にもやさしく」という一貫した哲学のなかにある。一見すると特殊な取り組みのように感じるかもしれないが、実際に現地を訪れてお話を伺ってみると、とてもやさしくて大らかな空気が流れていることに気が付く。

徳林寺の住職、高岡秀暢さん
徳林寺の本堂
お寺の裏にある畑では、いろいろな作物が元気に育つ
バリアフリーのため、滞在者と一緒に舗装工事を行う

「人と人との関わりが、生きる勇気になっていく」

こうした独自の取り組みの根っこには、高岡さんが若い頃に滞在していたネパールでの経験があるという。現地でいろいろなお寺を間近に体験したことで「お寺にもいろんな在り方がある」「自分の信念を持ってお寺を創っていけばいいと思った」と高岡さんは語る。

高岡さんとの話はベトナム人の受け入れやセルフビルド、朝市だけでなく、子育てや人生のことなど多岐に及んだ。お話のなかで特に印象的だったのは、結果的に出来上がったものには執着がなく「人と人との深い関わりが生きる勇気になっていく」ということ。今ある風景のなかで私たちは生きている。その時に置かれた状況のなかで、どう生きるのか。そうしたことの積み重ねは、身近な環境問題や食育、多文化共生をいろんな角度から考えることにも結び付いていく。いろんなことは全て、つながっているのだ。

コロナ禍での制約の多い暮らしが続くなかで、私たちはどんな気持ちを持って日々を過ごしたらいいのだろう―。そんなことを考える時、高岡さんの一貫したスタンスや徳林寺での取り組みに学ぶことはたくさんあるように感じた。

高岡さんは「新型コロナウィルスが終息したら、いろんな人が集まって交流できるような場をまた創りたい」と語る。師走の寒さのなか、手作りのロケットストーブ(※)を囲んで熱のこもった貴重な時間だった。

* ロケットストーブ:暖房にも調理器具にも利用できて、少ない燃料で効率よく燃焼することから、東日本大震災を機に注目を集めている暖房器具のこと。徳林寺では、手作りのロケットストーブがたくさん活躍している。

セルフビルドや朝市開催など、これまでの歩み

ベトナム人の受け入れの様子はメディアなどでもたびたび取り上げられており、それがきっかけで「徳林寺のことを知った」という方も多いかもしれない。でも、こうした独自の取り組みは最近始まったものではない。

まず徳林寺を訪れると、個性的な建物群が目に留まるだろう。お寺の敷地内には、「セルフビルド(※)」で建てられた建物が複数ある。透明なドーム型の建物は温室として、パパイヤやマンゴー、アボガドなどを育てたり、南瓜などの野菜を貯蔵したりするのに使用している。その奥にあるのが、2011~2012年に設計をスタートし、2014年に完成した「みんなの家」だ。こちらは「土壁」という日本の伝統工法を取り入れた味わいのある建物であり、現在はベトナム人の滞在場所になっている。

「セルフビルドには、たくさんの仲間が必要だった」と高岡さん。セルフビルドに関わりたい人を募集すると興味を持つ人たちは集まってきたが、いわゆる「素人」の人たちばかりだった。専門家がいなかったので苦労したことも多かったが「技術に気が付くだけでなく、できるだけ工夫してみようと常に考えていた」と当時を振り返る。ここでいう「工夫」というのは、とても幅広い意味を指す。例えば、協力してくれる仲間のチームワークなども工夫に含まれる。「『できる』とみんなが思えば『できる』し、一歩でも前に進めばそれでいい」という気持ちで、セルフビルドに取り組んできた。

「普通は、最後にできあがった建物が『主産物』で、一緒に創ってきた仲間とのつながりは『副産物』ということだろうけどね。実際にやってみると、建物は副産物に過ぎなくて、主産物は仲間とのつながりだなって思ったんですよ。」

もともとみんなの家は、知り合いのクリスチャンが「難民やホームレスの人たちが滞在する場所はないか」と探していた時に、「部屋なら簡単に作れる!」と高岡さんが思い立ったのがその始まりだった。でも実際に作り始めてみると、建築基準法による規制など課題は山積みだった。そうした課題に一つひとつ向き合い、乗り越えていく過程のなかで、建物の材料のことを知ったり、社会問題でもあるシックハウスのことを考えたりすることもあった。「お寺は経営力がないと言われたりもするけれど、そこからセルフビルドが生まれるし、社会に対して問いを発したり、何かを深く考えたりするきっかけにもなる」と高岡さんは語る。

この他、毎月第二土曜日に開催されている「つながりの朝市」も、このお寺ならではの取り組みだ。「ちゃんと向き合ってちゃんとつながる。つくるひとと食べるひと・使うひとが、のんびりじっくり話ができて、ちゃんと向き合いつながる朝市」とfacebookページには書かれている。私も何度が足を運んだことがあるが、独特のアットホームな雰囲気があり、消費者と生産者のつながりが薄くなりつつある昨今において、とても貴重な取り組みだと感じた。

* セルフビルド:自分の家を自分たちで建てること

セルフビルドによる「みんなの家」
みんなの家の近景
まず目に留まるのが、この手作りの温室だ
温室では、たくさんの果樹や植物が育っている