ENVIRONMENTALCOLUMN 環境情報を知りたい方/環境コラム

「みつろうラップ」から始める脱プラスチック 自然素材を活用する魅力とは

取材・文 松橋 佳奈子

2020年7月から、全国で一斉にプラスチック製レジ袋の有料化がスタートした。経済産業省のホームページによれば、その目的は「普段何気なくもらっているレジ袋を有料化することで、それが本当に必要かを考えていただき、私たちのライフスタイルを見直すきっかけとする」としている。
ここでは詳しくは解説しないが、実際にはレジ袋の有料化による「プラスチック製ごみ」削減の効果については、疑問視する声もある。しかし、これまで何気なく消費をしてきたプラスチック製ごみについて考えるきっかけを提供するとともに、ライフスタイルや意識の変化を促すという意味では、大きな役割を果たしていると言えるのではないだろうか。
そのひとつの動きとして、私の周りでは「みつろうラップ」が最近話題になっている。みつろうラップというのは、通常の使い捨てのラップとは異なり、自然の素材からつくられた繰り返し使用できるラップのこと。少し前からじわじわと広がりつつあったが、レジ袋の有料化をきっかけに再び注目を集めている。
そこで今回は、みつろうラップの概要や作り方を紹介するとともに、使い捨てラップの代わりに昔から使われてきた自然素材についても触れてみたい。

みつろうラップとは?

みつろうラップは、コットンなどの布にみつろう(※)・植物性オイル・天然樹脂などを染み込ませて作られる食品保存用のラップのこと。料理などの入った器にかけたり、野菜や果物のなどの切り口を覆ったりするほか、おにぎりやサンドイッチ、おやつなどを包むのにも利用できる。抗菌作用があることから食材の鮮度を保つのにも適している。

「みつろうや油を染み込ませる」と聞くと、べたべたしているのでは?と思う方もいるかもしれないが、表面はさらっとしている。冒頭にも書いたとおり、水などで優しく洗って乾かせば何度も使うことができる。繰り返し使えるということは家庭ごみの減量だけでなく、余分なものを買う必要が無くなることから節約にもなり、経済的なメリットもある。

ちなみに、通常のプラスチック製ラップの主な原料は、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルなど。燃やした際のダイオキシンの発生が、以前に問題になったこともある。それに対して、みつろうラップは全て天然の素材で作られており、長い時間をかけて土に還ることができる。こうした特徴から「エコラップ」とも呼ばれている。

みつろうラップを使う時は、手の熱などで温めて食品や器を包むようにすると、それぞれの形になじんで上手にフィットする。私自身も使用しているが、一枚の布がみつろうと一緒になって「ラップ」に変化し、それが包むものに合わせて形を変えていく様子はとても面白い。

最初は「少し使いにくい」と感じるかもしれないが、そのうちにいろんな魅力を感じるようになるのもこのラップの特徴だ。例えば、好きな柄を選んで作ることができるので、通常のラップに比べて、キッチン周りを明るく彩ってくれることも大きな魅力だ。おにぎりやサンドイッチなどの簡単料理も、いつもの何倍にも美味しそうに感じられる。もちろん軽くて、食べ終わった後はコンパクトにたたんで収納できるので、持ち運びにも適している。

「百聞は一見に如かず」。まずはお試しで、その使用感をぜひ味わってみてはいかがだろうか。

* みつろう:みつばちの巣から採れる「ろう」のこと。抗菌作用や保湿作用があると言われている。

みつろうラップを使って器を包む
みつろうは、みつばちの巣から採れる
野菜の切れ端などを包むのにも適している
形状に合わせていろんなものを包むことができる

みつろうラップを作ってみよう!

みつろうラップは既製品もあるが、10分程度で簡単に手作りすることができる。ではさっそく、作ってみよう。

--------〈材料〉--------

コットンなどの布(25cm×25cm程度)、みつろう(15g程度)

※みつろうは、アロマやオーガニック製品を扱う実店舗、またはネット通販などからも購入できる。おおよその価格の目安として、みつろう100gにつき1000円前後。

----〈用意するもの〉----

アイロン、アイロン台、クッキングシート、新聞紙

--------〈作り方〉--------

(1)アイロン台の上に新聞紙、クッキングシート、布の順に重ねて置く。布の上に、みつろうを広げる。

(2)(1)の上にクッキングシートを置く。アイロン(低温)をあてて、みつろうを溶かす。様子を見ながら、みつろうが全体に行き渡るように調整する。

(3)布全体にみつろうが染み込んだら、上のクッキングシートを外す。完全に熱が取れたら、下のクッキングシートも外す。これで完成!

みつろうラップはいろいろな用途に使用できるが、熱には弱いのが特徴だ。料理などを包む際には、粗熱を取ってから使うなど工夫するようにしたい。

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新型コロナウィルスの影響などもあり自宅で過ごす時間が増えている昨今、空いた時間を利用して作ってみるのもいいかもしれない。子どもとの夏の自由研究などのテーマにするのもおすすめだ。また、昨今の関心の高まりに合わせて、みつろうラップをつくるワークショップなども随時開催されている。「自分だけでつくるのは不安」という方はそうした企画に参加してみるのもいいかもしれない。

今回使用する材料は布とみつろう(チップ状のもの)
布の上にみつろうを散らした様子
アイロンで熱を加えて、みつろうを溶かす
完成したばかりのみつろうラップ

食品の包装には、朴葉(ほおば)や竹の皮なども

そもそも、使い捨てラップが日本で初めて販売されたのは戦後のこと。ということは、それまではどんなものを使って食品を包んでいたのだろう。そこにも、脱プラスチックのヒントがあるかもしれない。

例えば、この東海地方独特のものとしては「朴葉寿司」がある。岐阜県などでよく作られる郷土料理で、山菜などのちらし寿司をホオノキの葉(朴葉)で包んだもの。ホオノキはモクレン科の植物で、その葉は30~40cmほどの大きさ。よい香りがあり燃えにくいことから、朴葉味噌や朴葉包み焼きなどにも利用されてきた。

朴葉寿司は酢飯や朴葉の殺菌作用などにより、持ち運びにも優れている。また、朴葉の程よい固さが包むのにちょうどよく、手を汚さずに食べられることから、農作業や山仕事の合間の食事などに昔から重宝されてきた。

この他、笹の葉寿司や柿の葉寿司なども全国的によく知られている。いずれも、葉の形状や性質などを上手に活用したものであり、料理を美味しく包むだけでなく、野趣あふれる見た目が食欲をそそる。

また、昔話などによく登場する「竹の皮で包まれたおにぎり」も忘れてはいけない。ジブリ映画「千と千尋の神隠し」に登場し、SNSなどで話題にもなった。竹の皮には殺菌作用のほかに吸湿作用があり、おにぎりの余分な水分を吸い取り、美味しさを保つことができる。そこに気が付いて使い始めた先人の知恵はとても素晴らしいと感じるし、ぜひ後世にも伝えていきたいという気持ちになる。

ちなみに、竹の皮はホームセンターなどでも手軽に入手することができる。我が家でも竹の皮おにぎりを作ることがあるが、子どもに大人気。いろんな包み方を試作してみるもの面白いし、「包む」という日本の伝統文化に触れるきっかけにもなる。こうした楽しみが生まれるのも、自然素材を使う魅力のひとつだ。

朴の葉で包まれた「朴葉寿司」
大きな葉が特徴のホオノキ
竹の皮で包んだおにぎり
野趣あふれる見た目も食欲をそそる

家庭から、気軽に始める脱プラスチック

昨今話題になっているみつろうラップだけでなく、昔ながらの自然素材にも、家庭から楽しく脱プラスチックを始めるヒントがたくさんありそうだ。まずは気軽にできそうなものから、始めてみてはいかがだろうか。そして、自分が「いいな」と思ったことを身近な人に伝えたり、ぜひシェアしたりしてみよう。

意識や行動を少しずつ変えていくことが、やがて大きな力へと変わっていく。「0か100か」ではなくて、身近にできることからひとつずつ。この記事がそのきっかけになれば幸いである。