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特集・なごやエコ最前線

家庭から「脱プラスチック」を始めよう。経木を使った昔ながらの「都納豆」とは?

プラスチック製の古い漁網に絡まったアカウミガメや、ビニール袋に覆われてコウノトリが息苦しそうに呼吸をする写真を見たことがあるだろうか―。他にも大量のプラスチックごみにより汚染された海や河川の写真を見て、ショックを受けたという方もいるかもしれない。

プラスチックは私たちの生活の至るところで使われているが、先に挙げた事例のように野生動物の暮らしを脅かしているのが現実である。このままだと巡り巡って私たちが食べる魚介類にも影響を及ぼすと予想されている。

こうした事態を受けて、EUは「2030年までにすべてのプラスチック包装をリサイクルし、使い捨てプラスチックを削減する」と発表。プラスチックを減らす動きは「脱プラスチック」と呼ばれ、企業や行政などでもさまざまな取り組みが行われている。

では、私たち一般市民が家庭で手軽に始められることはないだろうか。そのひとつの提案として、今回は経木に包まれた昔ながらの「都納豆」をご紹介したい。

掲載日
2020-03-31
取材・文
松橋 佳奈子
経木に包まれた昔ながらの納豆「都納豆」とは

日本の国民食のひとつとも言われる、納豆。「納豆は冷蔵庫にいつも入っている」というご家庭も多いのではないだろうか。2016年の総務省の家計調査によれば、直近5年間の一世帯あたりの納豆消費量の全国平均は年間3,541円。例えば「1セット(3パック)で100円」の納豆で計算すると、平均して1ヵ月に3セットを購入していることになる。

スーパーなどでよく見かける納豆は発砲スチロール製の容器に入ったもの。この容器は、名古屋市ではプラ製容器包装としてリサイクルされているが、自治体によって取り扱い方法が異なるものの「リサイクルできない」「可燃ごみとして出す」としている地域が多いようだ。リサイクル業者によれば「きれいに洗ったつもりでも納豆菌が残っている場合が多く、リサイクルの妨げになってしまう」ことが、納豆の容器がリサイクルできない大きな理由なのだとか。

その一方でスーパーなどの納豆売り場をよく眺めてみると、発砲スチロール製の容器に入っているもの以外に、紙製容器や紙に入ったものもあることに気が付く。今回ご紹介する「都納豆」もそのひとつで、納豆が経木(※)と紙で包まれている。

都納豆は、見た目も印象的であるが、実際に食べてみると豆の味と香りが豊かでとても美味しい!パッケージには「北海道産大粒大豆を100%使用」「環境問題を配慮し、焼却のできる紙容器を使用」「内側には納豆の発酵熟成に最適な経木を使用」「少しかためになる場合があるが、昔ながらの美味しい納豆をご賞味いただけます」などの文言があり、作り手のこだわりが随所に感じられる。

この都納豆のことをもっと詳しく知りたいと思い、製造者である三重県桑名市の株式会社小杉食品を訪問した。お話を伺ったのは、代表取締役の小杉悟さん。

「都納豆は当社のロングセラー商品で、戦後この納豆を作り始めた頃から変わらずに同じものを作り続けています。簡便なものを求めることの多い今の時代では『そのうちに売れなくなるのでは』と思ったこともありましたが、実際には根強いファンの方も多く、皆さまに愛され続けています。」

*経木とは、スギやヒノキなどを薄く削った木の板のこと。通気性や殺菌性に優れており、ビニール袋などが普及する前までは、魚や肉などの生鮮食料品やおにぎりなどの食品を包むのによく使われていた。他にも、紙の代わりに記録媒体として使われたり、供養ための経文を書き込んだりするなど、かつては私たちの暮らしに溶け込んだ素材であった。
環境にも人にもやさしい

都納豆が多くの人に長く愛されている理由は「包装が自然環境にやさしいから」だけではない。購入し続けている方のなかには「とにかく美味しい」「コンパクトなので買い物や保管にも場所を取らない」「経木のいい香りが好き」など、いろいろな理由がある。

また、小さな子どもを持つ家庭などからは「都納豆を刻んでひきわり納豆を作ると、とても美味しい」という声も多いようだ。小杉さんによれば「通常のひきわり納豆は、豆の皮を取って豆を砕いた状態で発酵させるので、どうしても豆の風味が落ちてしまう。好みにもよりますが、丸粒の納豆を後で叩いた方が美味しいと思いますよ」とのこと。都納豆の場合、経木の上で納豆を叩けばまな板を汚すこともない。ひとつの納豆で2種類の食べ方を楽しめるので、あれこれ購入する必要がなくシンプルに暮らしたいという方にもぴったりだ。

「都納豆に使う大豆には、当初から黒っぽい目のある品種を使っています。見た目は悪いかもしれませんが、美味しさを優先しているんですよ」と小杉さん。

そう言われてみると最初に都納豆を食べた時、豆にある黒い部分が少し気になっていた。この話を聞いて、他にはない美味しさの秘密が少し見えたような気がしたし、作り手の想いを知って何だかとても温かい気持ちになった。包装には「つながるえがお つくるまごころ」という文字が印字されているが、こうした言葉にも表れているのかもしれない。

一方で、ロングセラー商品ならではの苦労もある。戦後ワラで包まれた納豆から経木に移行してきたのだが、現在はその経木が希少になりつつあるそうだ。以前は和歌山県や群馬県の赤松を使用していたが、松と業者の減少により、現在は北海道のシナを使用している。経木の種類が少し変わるだけでも、香りや強度に微妙な変化が生じてしまう。本来の美味しい味を消費者に届けるために日々試行錯誤しているとのこと。

時代に合ったものを作っていく

都納豆に興味を持ったことがきっかけで始まった今回の取材であったが、お話を伺っていくうちに、他にもいろいろな取り組みを行っていることに驚いた。現在小杉食品で作っている商品の数は、30種類以上にも及ぶ。パート・アルバイトの方も含めて80~90名の方が、土日なども休みなく交代制で勤務しているそうだ。

都納豆は経木を使った商品であるが、製造している商品のなかには発砲スチロール製の容器を使ったものもある。しかし脱プラスチックという時代の流れを考慮して、できる限り少量の材料で作れないかという検討を行っているそうだ。実際に1gというごく少量のプラスチックを膨らませて納豆40~50gが入る容器を作ったり、容器をリサイクルする試験を行ったりと、日夜研究を重ねている。

もちろん、容器だけでなく納豆自体の研究・開発にも力を注いでいる。大豆を発酵させて作られる納豆は、そのままだと消化が悪い大豆の欠点を克服し、大豆の栄養を丸ごといただける素晴らしい健康食品である。納豆そのものが健康づくりに役立つ食品ではあるが、血糖値が気になる人のための納豆や、腸を元気に保ちたい方のための納豆、持ち運びにも便利な「どらいなっとう」「なっとうふりかけ」などの数多くのラインナップがある。

また最近では、「発酵ブーム」も重なって、ワラに包まれた納豆づくりを行う体験教室も人気を集めている。納豆と言えば身近な食品の代表選手であるが、手作りしたことのある方は意外と少ないのではないだろうか。

体験教室では、大豆と納豆菌を合わせてワラに包み、それを各家庭に持ち帰り、箱のなかで一晩温めて発酵させる。蓋を閉めた状態だと納豆の発酵に必要な酸素が足りなくなってしまうため、3~4回程度蓋を開けて酸素を取り入れる。こうしてできあがった納豆に「美味しかった!」と感動する人も多いのだそう。「自分で手作りしてみることで、食べ物の大切さがよく分かった」という声もあり、評判が評判を呼んで学校や子連れでの参加も多い(10名以上のグループで申し込みできる、詳しくはホームページを参照のこと)。

納豆から始める、脱プラスチック

ペットボトル入りの飲み物や、プラスチックトレイに入った食品など。「脱プラスチック」という言葉を頭では理解しつつも、私たちの生活のなかにすっかり溶け込んでしまったプラスチックを減らしていくのはそんなに簡単なことではないかもしれない。

でも、今回ご紹介した都納豆のように、これまで購入していたプラスチック容器の納豆を経木に包まれた納豆に変えるだけでも随分と違ってくるのではないだろうか。一人ひとりの小さな一歩が、そのうちに大きな力になっていくはずだ。

もちろん、どんなに素晴らしいことであっても「環境にやさしい」だけでは、なかなか広がらない。でも美味しくて続けやすいとなれば、多くの人に浸透していくような気がするのは私だけはないだろう。まずは、それぞれの家庭でできることから始めてみてはいかがだろうか。