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笑顔とおいしい野菜をすべての子どもたちに~「遊び」を軸にしたこどもの居場所づくり「あうずっと」~

2019年9月7日、真夏並みの猛暑も夕方近くになり心地よい風が吹き始めた頃、港区西茶屋の「アグリパーク南陽体験農園」に4組の親子が集まった。一般社団法人「あうずっと」が運営する「こどもクラブ」の活動日だ。この日は農園スタッフの指導を受けながらブロッコリーとカリフラワーの苗を植える。ここで育てられた野菜は、「あうずっと」が運営するこども食堂「こどものひみつきち」でカレーや副菜の材料になる他、近隣のこども食堂にも提供される。

農業体験とこども食堂を組み合わせるだけでなく、昨年度は、寄付された食品・子ども服などを子どもたちがお店屋さんになって無償提供する遊び感覚フードバンク・リユース事業「こどもスーパー」も行い、大好評だった。名古屋市内でも年々増加するこども食堂の中でユニークな活動を展開する「あうずっと」。代表の春日井さつきさんに活動への想いを伺った。

掲載日
2019-10-09
取材・文
浜口 美穂
交流と発見の場「こども食堂」

近年注目され増え続けているこども食堂。NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」が調査したところ、全国では3,718カ所(2019年6月)で昨年の調査から1年間で1.6倍増えたことになる。愛知県内では140カ所(2019年5月、愛知県調べ)、名古屋市内では53カ所(2019年9月、名古屋市子ども青少年局子ども未来企画室調べ)のこども食堂があるという(把握しきれないこども食堂もあるので、実数はもっと多いと思われる)。

民間による自発的・自主的な取り組みで、貧困対策のイメージがあるが、必ずしもそうではないようだ。むすびえの理事長、湯浅誠さんによると、「こども食堂とは、自治会のこども会の現代版であり、地域と社会に交流と発見の場を提供している」そうだ。つまり、地域の人や子どもが交流する場であり、その交流の中で困り事のある子どもがかすかに出すサインを発見する場でもあるという。また、農水省は「食育の推進という観点から見たこども食堂の意義について」ということで、「(a)子どもにとっての貴重な共食の機会の確保」「(b)地域コミュニティの中での子どもの居場所を提供」の2点を挙げている。

場所も開催頻度も様々、対象も限定せず地域に開かれたところが多く、食事だけでなく様々な体験を提供しているところもある。まさに多種多様。近年は企業や地域の販売店などからの寄付金・食材提供も増えているそうだ。また、フードバンクを利用している団体もある。支援したい企業・団体とこども食堂をつないだり、学習交流会を通じてこども食堂の輪を広げることを目的に「あいち子ども食堂ネットワーク」も2017年から活動を続けている。

*湯浅誠Yahoo!ニュース個人(2018年4月3日)より
「自分もみんなも楽しく」がモットー

独学で保育士の資格を取り、子どもに関わる仕事がしたいと思っていた春日井さん。一般社団法人「あうずっと」のこども食堂の活動は、2018年8月から始まった。しかし、こども食堂という形にこだわっているわけではない。「あうずっと」のモットーは「自分が楽しく、来てくれた人も楽しく」。貧困や家庭環境、地域の問題などを理由に、学習機会だけでなく、好奇心や自己肯定感を育む体験機会の差も広がっている現状の中で、「遊び」を軸にして低年齢期からの子どもの居場所づくりに取り組む。「あうずっと」の名前には、「支えあう。育てあう。見守りあう。ずっと、いつまでも…」という想いが込められているという。

そんな想いを抱く中でたまたま2018年度に愛知県の「既存の社会資源を活用した子ども食堂開設モデル事業」に選ばれ、春日井さんが社員として勤める会社((株)アルバ)との共同企画としてこども食堂「こどものひみつきち」(以下、「ひみつきち」)を開設することに。同社が運営する介護施設を利用し、8月~12月に毎月1回、計5回実施した。

こども食堂だけでなく、毎回、家庭で余っている食品や調味料、サイズアウトした子ども服などの寄付を募り、それを子どもたちがお店屋さんとなって無償提供する「こどもスーパー」も実施した。ひみつきち専用のお金も制作し、子どもたちが段ボールで作られたお店やレジスターを使い、お店屋さんごっこ。遊び感覚フードバンク・リユース事業である。子どもたちがやりたいと言えば自由にやらせるのがひみつきちのモットー。店の飾りつけやPOPなど、子どもたちのアイデアは尽きなかった。

買いだめしたものの使い切れないレトルト食品など寄付もたくさん集まり、地域の人にも喜ばれた。5回で延べ174人の子どもが参加、来場者も含めると531人が交流を楽しんだ。

おいしい野菜と自然体験を子どもたちに

こども食堂のメニューにも工夫があった。「野菜を嫌いな子が多いので、苦手だといわれる野菜を集めて、栄養士さんに好き嫌い克服レシピを考えてもらって調理しました」と春日井さん。1回目はピーマン、その後、ナス、ニンジン、トマト、ホウレンソウと続いた。実生活にも活かしてもらおうと、参加者には毎回レシピブックもプレゼントし、好評だったという。

1回目の時、家庭菜園をしている人からピーマンをいただき、チンジャオロース丼に。

「それがめちゃくちゃおいしくて、みんなもりもり食べてくれました。スーパーで買った野菜とは違うと思ったんです」

それをきっかけに自分たちでも野菜を作りたいと思い、インターネットで探して見つけたのが「アグリパーク南陽体験農園」だった。農機具やタネ・苗も農園が準備、作付け計画や植え方などの講習も受けられるのが魅力だ。さっそく農園を訪ねて「こういうことがやりたいんです!」と直談判。栽培協力を取り付け、資金は「子供の未来応援基金」から支援を受けて、2019年4月から親子農園「こどもクラブ」を始めることになった。

テーマは「おいしい野菜をすべての子どもたちに」。小学6年生までの親子を対象に月2~3回活動。参加費は無料。都会の子どもたちが農業体験できる貴重な場であり、親子の触れ合いの時間にもなる。土の温かさに触れ、農作業の合間に虫を追いかけるなど、自然との触れ合いも子どもたちには楽しみの一つだ。新聞記事でこどもクラブを知り6月から頻繁に参加している小学3年生の母親に感想を伺うと、「毎回大満足です。収穫野菜を家で料理して食べながら、子どもとああだったね、こうだったねと話すのも楽しい」と笑顔で答えてくれた。

これまで野菜の種まきや苗の植え付け、田植え、春夏野菜の収穫を行った他、6月には農園で「青空こども食堂」を開催した。子どもたちは畑でタマネギとジャガイモを収穫し、自ら洗って皮をむき、ボランティアの調理スタッフに渡す。メニューは塩だれ牛丼と「じゃがちー」(チーズ入りじゃがいも餅)。メニューを考えたのも調理するのも、栄養士を目指す名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科・栄養士専攻/内田ゼミの学生たちだ。昨年度のこども食堂で好評だったレシピブックを、今年度は学生と一緒に作成しプレゼントした。

想定外の効果もあった。こどもクラブの活動日以外に畑の手入れをしてくれるのは、農園スタッフの他に、一般の農園の利用者も。高齢の利用者が自分の畑の手入れのついでにこどもクラブの畑も見てくれたり、活動日には子どもたちに声を掛けてくれるという。農園だからこそ出会える多世代交流の場所になっている。

新鮮野菜をこども食堂ネットワークでシェア

こどもクラブの畑は20区画(1区画25平方メートル)。カボチャ、ナス、ピーマン、シシトウ、トウモロコシ、ズッキーニ……収穫された野菜は、参加者に分けられる他、あうずっとが2019年8月から中区で再開した「ひみつきち」の食材になる。それでも使い切れないため、他のこども食堂やひとり親家庭の支援をしている団体に寄付してきた。

そのご縁が基盤となり、9月8日に中村区で設立された「なごや中村こども食堂・こども応援ネットワーク」にひみつきちも参加。近隣のこども食堂5団体(6カ所)と中村区社会福祉協議会が連携を取り、支援・応援に対する窓口の一本化と情報交換を行っていくことになった。もちろん、こどもクラブで育てた野菜もこのネットワークでシェアすることになる。こどもクラブは採れたて新鮮野菜のフードバンクの役割も果たしているのだ。

メニューは「こどもおうえんカレー」

2019年度のひみつきちのメニューはカレーに特化。春日井さんいわく「研究に研究を重ねた秘伝のカレー」で、名付けて「こどもおうえんカレー」。こどもクラブの収穫野菜と無添加の材料を使い、6種類のスパイスや10種類を超える隠し味で手間と時間をかけて作る。9月3日の夜に開催されたひみつきちでは、カレーの副菜としてこどもクラブで育てたバターナッツかぼちゃのサラダも添えられた。

先着30食で子どもは無料、大人は500円。こどもクラブに参加している親子も調理をしたり、農園で収穫した野菜の直売をお手伝い。2019年度のひみつきちの場所は元高齢者施設のワンルームマンションで高齢者の入居が多く、入居者が食事に来て子どもたちとの交流も楽しんでいるという。

課題はいろいろある。あうずっとのスタッフは3人。ボランティアを含めて主に5人ほどでひみつきちを切り盛りしている。こどもクラブの参加者も手伝ってくれるがまだまだ人が足りないのが現状だ。そして、助成金に頼らない自立した運営を目指し、自己資金づくりを模索中。こだわりのカレーもゆくゆくは商品化したいと考えている。また、こどもクラブの活動は専任のカメラマンが写真を撮り、参加者のみが閲覧できる交流サイトにアップする他、外部の写真販売サイトにも掲載している。販売して活動資金にしたいという狙いもあるが、親が自分の子どもの写真撮影に夢中になることなく、農作業を楽しみながら手伝ってほしいという願いもある。

誰一人取り残さない

現在、国、自治体、企業、学校、民間団体など、SDGsを掲げた多様な取り組みがある。SDGsは2015年9月の国連サミットで採択された国際目標で、「貧困をなくそう」、「飢餓をゼロに」、「すべての人に健康と福祉を」、「質の高い教育をみんなに」等々……17の大きな目標があり、その特徴の一つが「誰一人取り残さない」ということだ。

あうずっとの理念もまさに“すべての子どもたち”が笑顔でいられる居場所づくり。あうずっとをはじめ各地に広がるこども食堂のように、小さな単位で支え合う仕組みはすべての人が笑顔で暮らせる社会づくりに大きな力を発揮するに違いない。