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「おばあちゃんの知恵」がつなぐ出会いの場-共育ゼミナール「おばあちゃんの知恵から学ぼう。食から始まるシンプル暮らし術」-

2019年度のなごや環境大学共育ゼミナール「おばあちゃんの知恵から学ぼう。食から始まるシンプル暮らし術」を主催するのは養生キッチンふうどの松橋佳奈子さん。国際薬膳師の資格を持ち、カフェのメニュー監修や出版物への執筆、養生ごはんの料理教室・お話会なども行っている。4月から6月に開催された計4回のゼミでは、各10人弱の参加者が「おばあちゃんの知恵のイメージとは?」「この地域のおばあちゃんの知恵について知りたいこと、みんなと共有したいこと」を出し合った。

ゼミに参加した延べ32人の参加者が生み出した次への道筋は? そして、今なぜ「おばあちゃんの知恵」なのか。そこにつながる養生キッチンふうどの根っこを掘り起こしてみた。

掲載日
2019-07-24
取材・文
浜口 美穂
参加者の化学反応で話が深まるゼミ

6月20日、長久手市の「garden and cafe アルキペラゴ」で開催された第3回ゼミに参加した。まずは松橋さんから趣旨説明。

「薬膳の考え方とおばあちゃんの知恵を掛け合わせたものを『養生ごはん』と呼んで活動をしてきました。活動を始めてこの夏で5年を迎えますが、そのおばあちゃんの知恵をもっと深く知りたいと思い、ゼミを企画しました。料理教室やお話会を開催していると、健康や美容に関心の高い方の参加が多い。そして、身体に良い食事というのは、素材本来の味を丸ごと無駄なく楽しめるなど、環境や社会にとっても良いものが多い。意識の高い方だけではなくて、社会全体の流れとして、身体にも環境にも良い食事を求めるようになればいいなと思っています。日本には昔からやっていた食やシンプルな暮らし方があります。おばあちゃんの知恵ゼミでは、食を中心としながら、環境のこと、社会のこと、生き方のヒントなど、いろんな切り口で広げていけたらと思っています」

第3回のテーマは「この地域(東海三県とその周辺)のおばあちゃんの“食”の知恵」。この日の参加者7人で、この地域の食材や郷土料理、調味料など、知っているもの、気になるものを付箋に書き出し発表し合った。

赤味噌、モロコの箱寿司、五目飯、キクイモの味噌漬け、カリモリ漬け、イチジク、山菜、昆虫食……食だけでなく、植物を利用した民間薬、柑橘類の皮をアルコール漬けにしてお掃除に、プラスチック容器に入っていない納豆、朴葉や竹膳料理など植物を利用した容器などの話題も。ビワの種やラベンダーのウォッカ漬け(虫さされなどに)、果物で作った酵母液(ドリンクやドレッシングに)を実際に持参して紹介する参加者もいて、他の参加者は興味津々。発酵の話で盛り上がった。

「おばあちゃんの知恵」「シンプルな暮らし」「食」など、興味のベクトルが同じ人たちが集まっているので盛り上がるのは当然とも言えるが、それぞれの経験や知識が違うからこそ、化学反応のように一つずつの話題が深まっていくのが面白い。

ゼミの後は希望者だけでランチ会。アルキペラゴのランチは、松橋さんがメニュー監修をしているので、この日は6月の「むくみ対策の養生ごはん」をいただきながら、さらに話が弾んだ。

世界旅行で学んだこと

養生キッチンふうどとして活動を始めたのは、2014年8月。もともと料理好きだったことに加えてその数年前から薬膳について勉強しており、「養生ごはんについて教えてほしい」という周りからの声に応えて料理教室を始めたのが養生キッチンふうどのスタートだ。しかし、今の活動にもつながる芽は、それ以前から松橋さんの中にあった。さらにそのルーツを遡ってみよう。

実は松橋さんは理工学部建築学科卒業。卒論では、ベトナムのフエのまちづくりについて研究していたという。フエでは水路が発達していて、水路が各家庭の台所とつながり、暮らしを支えていた。その自然と寄り添う暮らしがテーマだった。

卒業後は約3年間、建設コンサルタント会社に勤めて公園設計などに関わった後、「自分の目で世界を見てみたい」という動機で仕事を辞めて1年間で35カ国、世界を巡った。同じ建築学科出身の夫も一緒の旅だった。

「今の時代、ネットや本でいろんな情報が入ってきてそのまま信じてしまうことも多い。でも、実際に行って自分で見てみないと分からないことがたくさんあるのではないか。きれいな写真集は見ていたけれど、誰かの感性によって切り取られた写真ではなく、自分の五感を使って実物に触れてみたいという思いがあって」

いざ旅に出てみると、知っているようで知らないことが多いと学んだ松橋さん。そして、食についての発見もあった。

「貧乏旅行だったこともあり、安くて手軽なもの、その土地のみんなが食べているようなものを食べていました。でも、大きな病気にならず、旅を楽しむことができた。当たり前のことかもしれませんが、その土地の食材を食べることがその土地で健やかに過ごすのに合っていると気付いたんです」

インドでは、伝統医学アーユルヴェーダについても学び、現地の人からヨガやスパイスのレッスンも受けた。しかし、インドではそれが合っていても、気候と風土が違う日本では同じことはやれない。帰国後は「日本のことをもっと知りたい」「日本の料理、薬草のことを知りたい」と強く思うようになったという。富山の片田舎出身の両親に育てられ、薬草や郷土料理が身近だったという下地もあった。

その後、体調を崩したことをきっかけに、体系的に学びたいと思って薬膳の勉強をし、国際薬膳師の資格を取った。薬膳を学ぶと、日本の昔ながらの素朴な食事は薬膳の考え方にも合ったものだと気付いたという。

「ほっとする味」を紹介した冊子

養生キッチンふうどの立ち上げ時は、中間支援NPOに勤めながらのダブルワーク。月に1回の料理教室をしながら、翌2015年の春から、郷土料理の冊子づくりに取り組んだ。ターゲットは、ご縁のあった豊田市足助町。足助支所やおいでん・さんそんセンターから紹介されたところ、自分の気になるところに足を運び、人から人へとつながっていって、まとめた冊子が『シンプル風土食ノート』だ。

「昔ながらの素朴な料理の中に薬膳や養生ごはんにつながるヒントがある。それはただレシピとして切り取られたものではなく、人の手の温もりやその土地らしさが現れたもので、まちなかで暮らす人も必要としているのではないか」という思いがあった。冊子の表紙には「『ほっとする味』、あなたもいかがですか?」の文字が添えられている。

もう一つの思いは、本をぱっと開いた時に、「作ろう!」と思えるような手軽に入手できる材料、簡単な工程でできるものを掲載したいということだった。掲載された6つの風土食は確かに材料も工程もシンプルだ。そして、足助の暮らしぶりがにじみ出るような協力者の顔写真とひとことメッセージも掲載されている。

例えば「手づくりきなこ」。スーパーで買えるし、買うものだと思っていた。しかし、大豆をフライパンで煎ってミルサーで砕けば簡単にでき、おいしいらしい。つぶつぶ感のあるきなこのおはぎの写真から香ばしい匂いまで漂ってきそうだ。

足助のキーパーソンとして冊子づくりに関わった河合廣美さんは冊子にこんなコメントを寄せている。

「最近は世界中の食材がすぐ手に入るようになった。しかし私は、親たちが工夫してつくってきたその土地ならではの食べものに、むしょうに幸せを感じる。…(中略)…昔からあるもの、何も変わらないもの、忘れられないおっかさんの味を、次の世代にも伝えることができないか、といつも考えている」

冊子作りがご縁となり、河合さんの足助のご自宅で年に一度の「味噌づくり会」も始まった。都市部から10~15人くらいが集まり、屋外の大釜で大豆を煮て、杵と臼でつぶして作る。お昼には、味噌で炊いた猪鍋や炭火で焼いた五平餅も。4年連続の恒例行事となったが、毎年キャンセル待ちが出るほど大好評。普段は静かな集落に賑やかな声が響く。

ひとりよりみんなで、「おばあちゃんの食の知恵」探し

1歳になる息子を育てながら、養生ごはんの料理教室、カフェのメニュー監修・開発、コラムの執筆、ヨガと養生ごはんのコラボ教室、その他のイベントや教室からコラボの依頼も多いという多忙な松橋さん。養生ごはんのモットーは「シンプル・簡単・ほっとする」。自分自身が慌ただしい日々を送っているからこそ、仕事や家庭などで忙しい人たちの気持ちも理解できるし、どうしたら本当の意味で役に立つのかを考えて日々活動しているという。

松橋さんには活動をしながら悩ましいことがあった。「普通の食材をうまく使って健康に役立てる」か、「こだわった食材をシンプルに料理する」か。考える中でたどり着いた答えが、当初から活動のコンセプトにも掲げて大切にしてきた「おばあちゃんの知恵」だった。普通の食材でもおいしく料理する知恵、農薬や化学肥料を使わなくても丈夫な野菜を育てる知恵、保存食を作る知恵、薬草利用の知恵……愛にあふれたものがいっぱいあるではないかと再確認したのだ。

ひとりの母としてもより深く知りたいと思ったが、同じように知りたい人がいるのではないか。こうした想いから、今回のゼミを企画することにした。また、これまで教室などに来てくれている、すでに経験知が豊富な人たちが集まり話せる場をつくることも目的の一つだ。実際にゼミのメンバーを募集してみると、母だけでなく、これからおばあちゃんになる人たちの参加もあった。

6月までに4回のゼミを終えた。多様な人が参加できるようにと、平日だけでなく日曜日にも開催。場所も4回ともバラバラだ。集まった人の分だけ話題が広がった。松橋さんはゼミをふりかえり、「知っているようで知らないこと、大切だけど忘れていたことがたくさんあること」「いろいろな人が集まることの面白さ、話し合うことでの広がりがある」と感じている。

「そういうバリエーションの豊富さであったり、包容力というものこそが『おばあちゃんの知恵の魅力』ではないかと思っています。好きなアフリカのことわざに『早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け』というのがあります。このゼミはまさにそれかなと思って」

ゼミの参加者が今後も情報共有できる手段としてFacebookのグループページも立ち上がった。2019年度の後半は、4回のゼミの話題を整理し、その中から2~3カ所、視察に行く予定だ。そして、2年目はそれらを体系的に整理、3年目以降に「伝える」もの(体験会でも情報紙でも)ができればよいと考えている。

養生キッチンふうどを設立してから丸5年。「はじめは想像していなかったような、たくさんの素晴らしい出会いに恵まれた」という松橋さん。これからもゼミを含めて、様々な人の関心をつなげていきたいと思っている。松橋さんが導くのではなく、参加者の化学反応で生み出されていく場。これからどんな展開になるのか、その担い手の一員になりたい人はぜひ養生キッチンふうどに連絡を。

養生キッチンふうど

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