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渥美の磯でめずらしい生き物を探す ~環境ボランティアサークル「亀の子隊」の磯遊び講座に参加~

取材・文 新美 貴資
  • 自然

知多半島とともに愛知県の三河湾を両手で抱えるように伸びる渥美半島。豊橋市の一部から田原市全域をふくみ、南北を太平洋と三河湾に面した半島は、長い歴史と多様な文化をもつ豊かな自然にめぐまれた地域である。この地で長年活動している環境ボランティアサークル「亀の子隊」(事務局:田原市赤羽根町)による「磯遊びの会」がこの夏に2回開かれた。市内の磯で生き物を探し観察するこの催しは毎年実施されており、昨年度からは「なごや環境大学共育講座」としても開催された。7月に行われた講座に参加したので、その様子をレポートする。

海のごみがきっかけでサークルを結成

この磯遊びの会は、渥美の豊かな海を感じてもらおうと、地元の磯で企画されている。子どもたちが海の環境について学ぶ「亀の子隊」が結成されたのは、平成10年のこと。渥美半島の先端に広がる「西の浜」(亀山町)に漂着していた大量のごみがきっかけだった。当時、町の亀山小学校の生徒たちが、校区の西の浜に出かけたときに多くのごみを目にし、ごみ拾いを行う。そして「西の浜はごみ箱じゃない!」をテーマに、この浜をきれいにするため、自分たちができることを考えようと活動が始まった。

亀の子隊は、子どもたちの自発的な意思を尊重した環境ボランティアサークルとして、平成11年に渥美町(当時)の社会福祉協議会に登録される。活動の目的は「田原市渥美の西の浜をきれいにする活動を通して三河湾、伊勢湾、ひいては世界の海をきれいにしようとする心を広げる」「海をきれいにしようという団体と連絡を取り合い、海を原点として自然を愛する心を広げる」である。主な活動は、①西の浜をきれいにするためのごみ拾い②西の浜を通して三河湾、伊勢湾の環境を考え、よりよくしていくための啓発③スナメリ観察会などの体験的環境学習「海の環境を学ぶ会」を年に数回行う―などである。現在は、市内全域から3保育園、9小学校、2中学校から集まった亀の子隊員38名、亀の子隊員の保護者で活動を支援・協力してくれる親亀隊員17名のほか、賛助隊員や支援ボランティアなどで構成されている。

平成10年から活動を続ける亀の子隊(亀の子隊提供)
西の浜クリーンアップ活動(同)
浜に漂着したたくさんのごみ(同)
海の環境を学ぶ会の一つである栽培漁業センターの見学会(同)

渥美半島のなかでも貴重な磯

名古屋駅から電車に乗る。豊橋駅を経由し、約1時間30分くらいで終点の三河田原駅に着いた。東西に伸びる渥美半島のちょうど真ん中のあたりである。改札を出ると、集合場所となっている駅前で、亀の子隊の代表である鈴木吉春さんが待っていてくれた。環境カウンセラーでもある鈴木さんは渥美町(当時)の出身で、田原市の小中学校で長く教職を務めていたことから、半島の歴史や文化、自然などに詳しい。空をおおう雲によって日差しがやわらぐ好天のもと、集まった参加者を乗せたバスは目指す海に向かって出発した。

講座が行われる磯は、三河湾に面した宇津江(うづえ)町の宇津江漁港の横に広がっている。磯の入り口あたりの海岸は整備されており、ちょっとした公園になっていた。参加者は、名古屋市と東海市から大人2名と大学生2名、地元の小学生を含む子ども4名に保護者2名を加えた10人である。講座が始まると、まず鈴木さんがこの磯の特徴を説明し、生き物を観察するうえでの注意事項などを伝えた。

鈴木さんによると、このあたりの磯は渥美半島のなかでも貴重なところで、海水と淡水が混じる汽水域になっているという。海の後背は険しく切り立っており、緑が生い茂っている。そこから真水が流れ込んでいるため、他の磯では見られないアユカケやカジカのような淡水の魚も見られるという。参加者は、①磯を飛び越えない②海藻が滑るので気を付ける③小さい魚はそっとすくう④生き物は潮だまりの海藻の陰に隠れているーなどの要点を聞いて、用意されたマリンスコープや小さなたも網などの観察用の道具を選んで手に取り、目を輝かせながら磯へと入った。

亀の子隊代表の鈴木さん(右)が磯の特徴を説明し講座が始まった
浜に漂着するごみについても学んだ
磯で生き物を観察する道具。岩に付着している貝をはがすスプーンも用意された
生き物を探しに磯へと入る参加者

子どもも大人も夢中で生き物を探す

磯は潮がぐんと引いて、ごつごつとした黒い岩場があらわれていた。参加者はそれぞれに分かれ、岩をおおう海藻に足をとられないよう注意しながらゆっくりと歩いて、潮だまりをのぞきこむ。小さな潮だまりに顔を近づけると、いろんな貝や海藻が見え、たくさんの生き物でざわめいている。鈴木さんが指さす先には、褐色のイソギンチャクが張り付いている。触ってみるとグミのようなやわらかさで、生きている命に触れた、たしかな感動を味わった。

「うわーすごい」。子どもたちの声が聞こえてくる。子どもも大人も、みんな下を向いて夢中になって生き物を探す。少し移動して、別の潮だまりのなかにたもを入れ海藻をすくってみた。何回か繰り返すと、勢いよく跳ねる3センチくらいの小さな魚が捕れた。ハゼの仲間のようだ。鈴木さんによると、この魚は一匹一匹で色や模様が異なるという。石をどかしてみると、親指の先くらいの大きさの黒いカニがあらわれた。その後も生き物はどんどん見つかり、そのたびにあちこちから声があがる。鈴木さんは参加者のいるところをまわり、捕れた魚や貝の名前を解説する。ほとんど人の入らない磯は、たくさんの生き物が躍動していた。そこには豊かな自然があった。

「山から水が下りている。それが豊かで多様な磯をつくっている」と鈴木さんは言う。そして「山が腐ると海に栄養が入らない」とも。つながっている海と山、さらにはこの湾の流域を一体のものとしてとらえ、環境を守っていくことが大切であると説く。開始から1時間が経ち、あっという間に観察の時間は終わった。どんな生き物が捕れたか、大きな水槽に集めて調べてみるとハゼの仲間、アサリ、オオアサリと呼ばれているウチムラサキ、何種もの巻貝やカニ、アメフラシ、ヒトデなど20種は捕れただろうか。めずらしいものでは、なぜか潮だまりの表面をアメンボがすいすいと走っていて、見つけたときには驚いた。

子どもと一緒に参加した地元の母親は「楽しかった。身近にこんな海があるのに、参加したのは初めてでした」と笑顔で話す。今回の講座では、鈴木さんが思っていた以上にたくさんの生き物を見て触れることができ、収穫の多い内容となった。観察の最後に、捕まえた生き物を子どもたちが海へと帰し、磯での学習は終わった。

磯遊びの会で見つかったたくさんの生き物
参加した子どもが大きなカニの死がいとイカの甲を見つけた
岩のすき間に密集していたイソギンチャク。タテジマイソギンチャクと思われる
新たな種類の生き物が見つかるたびに驚きの声があがった

環境への意識が高まることを期待

一部の参加者はその後バスに乗り、鈴木さんが勧めるスポットである蔵王山の展望台に移動した。4階の展望フロアからは360度渥美半島を眺めることができ、晴れた日は条件がよいと富士山も見えるという。床には大きな半島のガイドマップが一面に描かれており、地形を確認しながら半島全体を一望することができる。鈴木さんの案内でフロアをぐるっとまわる。渥美半島の先にある火力発電所や知多半島の先端に位置する南知多町の師崎、三河湾をはさんだ対岸の蒲郡市、田原市と豊橋市にまたがる汐川干潟などが見えた。三河湾のなかでも宇津江町を含む渥美半島の多くの部分は、一つの入り江になっており「渥美湾」と呼ばれている。地元では豊かな海として、この湾に特別な愛着と誇りを持っている。

渥美半島を眼下に眺めながら、これからの亀の子隊の活動について鈴木さんに聞いてみた。「このような催しをもっとやりたいです。四季の違いも見てほしいですし。干潟があってアサリが育つ、三河湾にとって重要な渥美の海に名古屋の人も興味を持つはずです。名古屋も含めて伊勢・三河湾でつながっている流域の人たちに、半島の環境のことや歴史、文化についても知ってほしいです」。また「もっと人を呼びたいのですが、協力スタッフの確保など課題も残っています」と話す。亀の子隊は設立から20年になるが、地元でもまだその存在を知らない人が多いという。取り組みの輪を広げようと「伊勢湾流域圏再生ネットワーク」や「海に学ぶ体験活動協議会」にも登録した。3年前には「渥美半島環境活動協議会」を立ち上げ、鈴木さんが会長を務める。地域の人びとが集まって学び、つながることでこの半島の環境意識が高まることを期待している。

今後は他の団体や行政、企業とより連携や協力を深め、海を学び環境を守る活動に力を入れていきたいとしている。亀の子隊が主に活動している西の浜は、伊勢湾と三河湾に面している。同じ海でつながっている名古屋の人びとにも、渥美半島のことをもっと知って、魅力を体験してほしいと筆者も思う。亀の子隊では、引き続き西の浜クリーンアップ活動や海の環境を学ぶ会などを実施していく。今回のような一般から参加できる講座も開かれると思うので、興味のある人は参加してみてほしい。

渥美半島の豊かな自然や歴史、文化を伝え発信する鈴木さん