動かそまい!NAGOYA

特集・なごやエコ最前線

「いいね!」じゃなくて、顔を見合わせて「そうだね」地域の交流拠点を目指し「ソーネおおぞね」が開業

名古屋市北区山田の大曽根住宅1棟1階に2018年3月31日、しげんカフェ・ショップなど5つの機能を併せ持つ「ソーネおおぞね」が誕生した。

大曽根住宅は築42年の愛知県住宅供給公社の賃貸住宅。老朽化に伴い空き室も目立っていたが、その一部を「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」として再整備するのに伴い、1階の元スーパーマーケット跡を改装してスタート。

企画・運営するのは、名古屋で長く障がい者福祉に携わるNPO法人「わっぱの会」だ。同会の新たな挑戦、地域の交流拠点を目指す「ソーネおおぞね」を紹介しよう。

掲載日
2018-06-08
取材・文
浜口 美穂
「共に生き、共に働く」をモットーに

障がいのある人もない人も共に生き、共に働く社会を目指し、1971年から活動を始めたわっぱの会「ソーネおおぞね」は、同会のこれまでの活動やつながりをベースに、新しい共生社会創造の拠点となるべく誕生した。まずは同会の活動の歩みを簡単に振り返っておこう。

1970年代、まだ社会は障がいのある人たちを自由のない隔離した施設に閉じ込めることを良しとしていた。そんな中で、障がい者差別と闘い、障がいのあるなしの隔たりを越えた共同体をつくろうと、若い障がい者1人と健常者2人が昭和区の古い木造一軒家で一緒に暮らし始めたのが同会の始まりだ。「わっぱ」の名は、「輪っぱ」、子どもを表す「小童(こわっぱ)」に由来する。

1972年には共同作業所を開設し、段ボール加工や印刷などを始めたが、1980年代に入ると需要が減少し、見直しを迫られることに。1984年に、今は同会の代名詞ともなっている国産小麦使用・無添加パン「わっぱん」の製造・販売に着手した。福祉施設としては全国初の取り組みで、パンや洋菓子を製造し一般市場で販売するモデルケースとなって全国の福祉施設に広まっていった。そして同時に、障がい者の自立を可能にする共同生活体を市内各地に開所していく。1987年には社会福祉法人化をし、「共生福祉会」を設立した。

1990年代に入ると、これまでの自分たちの中だけでの「共生」「共働」の場づくりから、真の共生社会を実現するため、社会全体に働きかける時代へ。まずは仲間の1人を名古屋市議会議員に当選させた。政令指定都市初の車椅子議員だった(現在6期目)。そして、公共交通機関のバリアフリー化など障がい者自身による数々の政策提言も行っていく。

また、1999年には、ペットボトルや牛乳パックのリサイクル中間処理を行う「名古屋市西資源センター」を市から受託して運営。2000年には知多に有機循環型農業を行う農園とジャムなど農産加工品の製造を行う「わっぱ知多共働事業所」を開所した。翌年には、西区に障がい者の職業訓練・雇用の場となる「なごや職業開拓校(則武家うどん)」を開校するなど、障がい者の就労支援、生活援助の様々な事業を展開していく。

生活困窮者支援へ

実績を評価され、2005年には市の「なごや障害者就業・生活支援センター」(北区大曽根)の運営を受託。そして新たに、生活困窮者自立支援法の制定に伴い名古屋市に3カ所設置された生活困窮者の相談業務を行う「名古屋市仕事・暮らし自立サポートセンター」の大曽根センターの運営を2015年に受託した。このセンターでの経験が「ソーネおおぞね」の構想につながっていく。

本来、障がい者、高齢者、母子・父子家庭などの支援はそれぞれの福祉制度で対応し、センターではそれ以外の領域の人が対象となるが、蓋を開けてみると、障がい者や高齢者などから既存の制度では対応しきれない相談が多数寄せられた。センターに寄せられる相談件数は年々増加し、開所から3年で件数は倍になっているという。このエリアの生活困窮者が多いことを実感する中で、これまでとは違う地域に根ざした新たな活動を展開する必要性を感じるようになったのだ。

また一方で、わっぱの会自身の市内5カ所にある共働事業所はどこも満杯状態で新たな受け皿を増やす必要にも迫られていた。

しげんカフェを名古屋で

いくつかのタイミングが重なり誕生したソーネおおぞねだが、一番のきっかけになったのは、「しげんカフェ」を名古屋でやりたいという思いだった。

しげんカフェは、元津島市職員の浅井直樹さんが2013年に津島市唐臼町でオープンしたのが始まり。資源買い取りセンターとカフェを併設し、市民がセンターに持ち込んだ古紙などの資源の量に応じて現金あるいはポイントで対価を支払う。ポイントの方が買い取り価格は倍になり、ある程度貯まったところで換金するかカフェのコーヒーチケットに交換もできるという仕組みだ。

浅井さんは津島市で長くごみ行政に携わってきた。「行政が多額の税金を投入して行うリサイクルや市民がボランティアでやるリサイクルの時代は終わった。これからは行政でも市民ボランティアでもない、市民事業としてのリサイクルをやるべき」との思いから始めた事業だった。

市民が自ら分別し、繰り返し持ち込むことでリサイクル意識も高まる。さらに、津島のしげんカフェは、地域の高齢者の雇用の場ともなっていた。わっぱの会では、障がい者雇用の可能性を探るため、3年前に津島のしげんカフェを視察。名古屋でもやってみたいとずっと思っていた。

そこに大曽根住宅の再整備に伴う1階の空き店舗活用の話が持ち込まれた。当初はその広大なスペースの一部を借りてしげんカフェをやるつもりだったが、他のスペースの借り手が見つからず、全スペースを借りることに。1年半の構想期間を経て、資源買い取りセンター「ソーネしげん」、カフェ・レストラン「ソーネカフェ」、ショップ「ソーネショップ」、地域サービス・相談コーナー「ソーネそうだん」、イベントスペース「ソーネホール」など5つの機能を盛り込んだ「ソーネおおぞね」が誕生した(図1参照)。

「ソーネ」の名前は、インターネットという仮想空間での「いいね!」ではなく、顔と顔を見合わせて「そうだね」と言いながらつながる場になるようにとの願いを込め、大曽根の地名にもちなんで付けられた。

これまでの活動とネットワークを結集

ソーネおおぞねの構想を練る中で考えたのが、これまでの活動をどのように活かしてこの事業に集約するかということ。34年の実績を持つ「わっぱん」もあり、知多共働事業所や連携農園の有機野菜・加工品もある。西区のなごや職業開拓校ではうどんも作っている。しげんカフェから、地産地消のカフェ・レストランへ、愛知の物産を扱うショップへというのは自然の流れだった。さらに、愛知県の他の障がい者事業所にも貢献したいと、事業所で作った商品や介護用品・福祉用具などを置くアンテナショップ「みんなのわ」も設置した。ここには、一般の人に棚の1スペースを貸し出すコーナーもある。

そして、生活困窮者の相談業務を行う中で実感した地域に根ざした拠点の必要性から、広いスペースを地域の人や団体に活用してもらうためのホールに。そしてその奥には地域の総合的な相談窓口を設置することにした。

内装自体にもこだわりがある。愛知の木材を有効利用したいと、主に豊根村の木材を使用。カフェ・レストランのテーブルやショップの陳列棚、レジカウンターなどは、地元の木工所に依頼し、市内の街路樹や公園などで伐採された木を活用している。

地域の多様な年齢層を呼び込むため、ソーネカフェには子どもが遊べるキッズコーナーや高齢者もゆっくりできる座敷のコーナー、足湯席もある。営業時間もモーニングの朝6:30から、ディナーの夜8時まで長時間にわたり、アルコールも提供している。

スタートして2カ月。利用者を増やすためには、各コーナーの連携も必要だ。モーニングの利用客を増やすため、ホールで「朝のテレビ体操」も始めた。後から分かったことだが、もともと大曽根住宅では老人会主催のラジオ体操が行われていたが、運営が困難になり1年ほど前に終了。復活を喜ぶ高齢者もいるという。また、今後はソーネしげんとソーネショップの連携で、弁当・総菜などの宅配と一緒に、買い物代行サービスや資源の引き取りサービスなども予定している。

しげんを窓口に地域のコミュニケーションの場として

2018年3月31日のオープンに先駆け、資源の買い取りは前年10月からスタート。始めるにあたって、わっぱの会代表の斎藤縣三さんには懸念があった。名古屋市では、子ども会などの地域住民団体が実施する一般集団資源回収のほかに、名古屋リサイクル協同組合が学区協議会方式で実施する資源回収、中部リサイクル運動市民の会などがスーパーの駐車場などを借りて実施するリサイクルステーションなど、資源回収の機会は多い。その中で事業として成り立つのかという心配だ。

他と違うところは、回収品目が多く、登録制で買い取ること。古紙や古着、びん・缶・牛乳パック・ペットボトルのほかに、洋食器や羽毛布団、金属、車のバッテリーや自転車なども買い取る。例えば、新聞は1㎏当たり3ポイント、アルミ缶は1㎏当たり20ポイント。ポイントは換金ができるほか、300ポイントでソーネカフェのコーヒーチケット、500ポイントでランチチケットに交換ができるシステムだ。通常コーヒーは380円、ランチは650円なのでポイントを貯めた方がお得になる。

登録は団体でもできる。メンバーが資源を持ち込み、団体のカードにポイントを貯めれば、団体の活動費としても活用できる。地域団体に貢献できる仕組みになっているのだ。

実際に体験してみようと取材当日(5月9日)に古着を持参した。まずは登録用紙に記入。この段階で662人目の登録だった。2.3kgで3ポイントをもらったが、コーヒーチケットまでには道のりは遠い。しかし、2カ月ですでに現金千円と交換した人やコーヒー券・ランチ券と引き替える人もぼちぼち出てきたという。

登録することで、「資源ごみ」という感覚ではなく、きれいな状態で「資源」として出そうという意識も高まるだろう。ソーネしげんの店長、酒井玲さんは、訪れた人がリピーターになってくれるよう、持ち込んだ資源がどのように活かされているか、そしてどのような意義があるかについても機会があれば伝えるようにしている。さらに、非営利団体としての新たな役割も見いだした。

「やり始めていろんな人と接する中で分かってきたんです。例えば、地域の子どもたちがふれあいを求めてやってくるんです。なぜかなと考えると、学校や家庭で居場所のない子が自分のことを見てほしいんだと気付いたんですね。一人ひとりと向き合い、話を聞き、子どもたちのSOS、高齢者のSOSを受け止める。地域に根ざすというのは、そういうことの積み重ねじゃないかと。損得のものさしじゃなく、非営利団体だからこそやれる役割を果たしていきたいと思います」

関わる人たちで創造する・変化する

ソーネホールでは、地域のグループ・個人が高齢者向けのヨガや体操、料理教室、サロン、親子のふれあい遊びなど、毎日のように様々な催しを企画し、徐々にソーネおおぞねの存在も知られるようになってきた。

そして、わっぱの会独自でも、人を呼び込むための様々な企画を展開。まず3月17・18日にはオープニングイベントとして「キッズカフェ&ショップ」を開催した。地元の小学校などに声を掛け、多くの子どもたちが参加。子どもたちがカフェやショップ、資源買い取りセンターの店員になって働き、稼いだソーネ券でパンを買ったり、カフェで使えるというイベントだ。事前にワークショップも行い、接客の練習や店の看板を作った。子どもたちは生き生きと働き、「次はいつやるの?」と大好評だったという。

4月29日にはサ高住の入居者を対象に夕食会を企画。率直な意見を伺う場とした。その中で「値段が高い」という意見が出たという。

「お米は知多の低農薬米コシヒカリ、野菜も農薬不使用など、この店が他とどのように違うかをまだ情報提供できていない。だから、実際に知多の生産地を訪ねる日帰りバスツアーを6月2日に企画しています。単なる観光でなく、自分たちの生活につながるような、そして愛知県を見直してもらえるようなスタディツアーにしたいですね」と、斎藤さんの構想は膨らんでいる。

また以前からつながりがあった団体と連携してカフェでジビエ料理の提供や、地元の調理専門学校の学生に新メニューを考えてもらう計画も。「これからも皆さんと一緒につくっていきたいと思っています。地域住民の交流拠点であり、市民活動の一大交流拠点としての役割も担っていきたいですね」と斎藤さんは話す。

多様な人がここで出会い、関わる人たちが一緒につくっていくソーネおおぞね。施設自体の変化もさることながら、地域がどう変わっていくかも楽しみだ。

バックナンバー