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特集・なごやエコ最前線

なごやの環境の番人「名古屋市環境科学調査センター」を訪ねて

1960年〜70年代前半、高度経済成長とともに日本各地で公害問題が顕在化した。名古屋でも、南部臨海工業地帯の工場排煙や国道23号名四バイパス(名四国道)の騒音・振動・排ガスなどによる健康被害が発生し、訴訟も起こっている。そんな中、名古屋の公害に関する調査研究を行う専門機関として1971(昭和46)年に誕生したのが「公害研究所」である。時代の移り変わりとともに行政の組織変革や名称変更を経て、2012(平成24)年には、大気や水質などの常時監視システムを運用する「公害総合監視センター」を編入し、「名古屋市環境科学調査センター」となった。

公害の時代から名古屋の環境の番人として調査研究に励む環境科学調査センターだが、意外に市民には知られていないのではないだろうか。その仕事の一端を垣間見たいと、同センターを訪ねた。

掲載日
2017-10-27
取材・文
浜口 美穂
常時監視システムで「みはる」

環境科学調査センターの仕事を大まかに分けると「みはる」「しらべる」「つたえる」の3つになる。

「みはる」は、常時監視システムによる監視。1965(昭和40)年、市内2カ所に大気環境測定局を設置したことから始まり、公害総合監視センターに引き継がれていた。現在は、大気汚染物質、水質、二酸化炭素濃度を測定するほか、大規模工場の排ガスや排水の測定データを事業者から収集し監視をしている。大気汚染物質の濃度は、市内17カ所の測定局(図1参照)に置いた自動測定機のデータが、センターのコンピューター室に置かれた常時監視サーバに10分おきに送られ、1時間ごとの測定値を名古屋市愛知県環境省のウェブサイトで公開している。

公害の時代から現在に至るまで、名古屋の大気環境はどのように変化してきたのだろうか。二酸化硫黄(SO2)、二酸化窒素(NO2)、微小粒子状物質(PM2.5)* などの濃度は年々減少傾向にある中で、光化学オキシダント(光化学スモッグの主成分)だけは増加傾向にあり、環境基準も達成していない(図2参照)。これについては環境基準が厳しいこともあり、他の自治体でもほとんど達成できていないようだ。

2013(平成25)年1月に中国北京市で非常に高濃度の汚染が観測されて一気に注目の的となったのがPM2.5。PM2.5の環境基準は2009年に定められ、名古屋市では2011年から常時監視システムでの濃度測定を始めている。また、発生源の解明や効果的な対策を行うため、他の自治体の調査地点より多い、市内6地点で成分分析を実施している。観測当初は環境基準を達成していなかったものの、ここ1~2年はほとんどの測定局で環境基準を下回っている。PM2.5の測定値については、メーテレのdボタンでも見ることができ、それを見た人から「ちょっと高いようですが……」と電話が入ることもあるという。

*PM2.5
大気中に浮遊する粒子状の物質のうち、粒径が2.5マイクロメートル(1マイクロメートルは、1000分の1ミリメートル)以下の微小粒子。
大気、水質、騒音、生物など多様な環境を「しらべる」

「魚が大量に死んでいる」「川に油が浮いている」などの目撃情報や、大気汚染や騒音などの公害について市民から苦情が入ると、専門的な技術を必要とする調査を担当するのが同センター。また、まだ規制されていない化学物質の実態把握や、河川・ため池の生物調査、酸性雨調査など、環境問題を未然に防ぐための継続調査も行っている。

さらに大気、水質、騒音などの環境保全に関する調査研究として、2017年度は14の研究が進められている。そのうち、環境省の環境研究総合推進費で実施している2つの先進的な調査研究について、研究員の方に話を伺った。

まずはPM2.5の成分分析の話を聞くため屋上へ。屋上にはPM2.5を捕集する装置が並んでいる(写真参照)。掃除機のように強い吸引力でPM2.5を吸い込み、フィルターでキャッチ。1時間ごとにサンプル(試料)を集めて、どういう成分が含まれているのか、そしてその発生源の推定を行っている。2016年度からは国の研究所や大学と共同で、風向別(陸風・海風、北風・南風)にPM2.5を分けて捕集し、成分分析を行っている。これによって例えば、冬の北風に乗って郊外から都市部に流れてくるPM2.5の発生源が植物の燃焼(野焼き)であることが推察できるという。また2016年の夏に南風に乗って流れてきた高濃度のPM2.5は、硫酸イオンとバナジウムを含んでいたため、重油の燃焼が発生源だと推察されている。

PM2.5の調査研究において、センターはパイオニアの役割を果たしていた。国の環境基準もない2000年から、これから問題になってくるであろうことを予見し、国や他の自治体に先駆けて調査研究を行ってきたのだ。そして2003年からは屋上に捕集装置を置き、サンプルを取り続けている。長年にわたって集めたデータとノウハウは、国や大学からも注目を集めている。

もう一つの先進的な研究は、災害や事故の時、環境中にどのような化学物質がどのくらいの量で流出しているかをいち早くつかむ分析方法の研究だ。現在の分析方法は、あらかじめ調査物質を決め、一物質ずつ分析を行っているが、調査すべき化学物質が判らない状態でどのような物質がどれくらいあるのかを一斉に分析する方法はまだ構築されていなかったのだ。東日本大震災の際にも化学工場が倒壊して大量に化学物質が流れ出し、捜索活動に携わった人が体調を崩すこともあったという。いち早く汚染物質が判れば、その対策をとることが可能になる。そんな最先端の分析ができる装置がセンターに導入され(写真参照)、現在、データベースを構築中だ。

情報や研究成果を「つたえる」

調査研究というと、どうしても研究所にこもって閉鎖的になりがち。でもそれではだめだと、環境科学調査センターとして生まれ変わったのを機に、市民への情報発信や研究の還元(環境教育)にも力を入れ始めた。

調査研究の成果を発表する「調査研究発表会」は毎年2月頃に開催。市民向けに研究をかみ砕いて紹介する「環境科学調査センターだより」を年4回発行している。

また、小学4〜6年生を対象とした「かんきょう実験スクール」を毎年8月頃に開催。2017年は、3日間連続で「紫外線について知ろう」「身近な水の性質を学ぼう」「水の中の小さな生物を調べよう」という内容で開催し、延べ73人の小学生が受講した。白衣を着て、気分はすっかりミニ科学者。紫外線の強さで色が変わるビーズで色の変化を観察したり、PHによって色が変わるお茶で虹をつくったり、ゾウリムシの食事の様子を高性能顕微鏡で観察したり。「顕微鏡を使うことができてよかった。普段はできない体験ができた」「実験は楽しかった」という感想も聞かれ、好奇心が刺激されたようだ。

高校生以上を対象とした「なごや環境大学共育講座」も毎年開講している。2017年度は11月に「実験!体験!かんきょうラボ」をテーマに3回実施する予定だ。第1回「生き物に倣う!バイオミメティクスの世界」では、汚れにくいトイレや雨をはじく傘など、生きものの微細構造を模倣した先端技術の一端を電子顕微鏡で観察する。第2回「PM2.5を測る」では、簡易測定器を使ってPM2.5を測定する。第3回「おいしい水ってどんな水? 〜飲み物を科学する〜」では、水に含まれている物質を化学分析した結果からおいしい水とはどんな水か考える。最後に効き水も行って、舌が確かかどうかも試験するという。

このような講座に参加できなくても、センターの研究の一端を垣間見たい人には、1人からでも施設見学を受け入れている。事前に申し込みが必要で、研究員の都合と合わせて日程を決定。屋上のPM2.5を捕集する装置を見ながら名古屋の状況について説明を受けたり、音が響かない無響室で珍しい体験ができたりする。

科学を身近に感じてみよう

研究・調査というと、難しい、素人には理解できないという印象がある。確かにその通りだが、対象としているものは私たちの暮らしに関わること。文字で読むと理解しにくい、読む気がしない内容でも、講座に参加したり、見学に行って研究者と直接話したりすると理解しやすい。さらに質問すれば、科学が自分の方に少し引き寄せられて面白くなってくる。意外な発見もあるかもしれない。センターを訪れて、科学を身近に感じてみてはいかがだろう。

【名古屋市環境科学調査センター】

名古屋市南区豊田五丁目16-8
TEL:052-692-8481
FAX:052-692-8483
Email:a6928481@kankyokyoku.city.nagoya.lg.jp

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