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もう一つのオーガニックを体現……作り手・売り手・買い手がつながる場に 〜ミーツオーガニックマーケットの挑戦〜

取材・文 浜口 美穂

各地で地元密着型の小さな市(マルシェ)の開催が増えている。中でも盛り上がりを見せているのが、毎月28日に東別院(真宗大谷派名古屋別院)で開催される東別院てづくり朝市だ。主宰しているのは、津島市にあるイニュニックヴィレッジ。その前身は、2006年に名古屋市北区黒川でオープンしたオーガニックカフェ「みどりの屋根イニュニック」である。

まちなかのオーガニックカフェから始まり、甚目寺観音(あま市)のてづくり朝市、今や東海地区最大規模の市となった東別院てづくり朝市……そして2017年3月には満を持して東別院でミーツオーガニックマーケットをスタートした。ミーツオーガニックマーケットにかける思いは、これまでの経過を辿れば見えてくる。イニュニックヴィレッジ代表の飯尾うららさんと、二人三脚で運営にあたる夫・裕光さんに話を伺った。

まちなかのオーガニックカフェから

オーガニックカフェ「みどりの屋根イニュニック」が誕生したのは2006年6月。同年4月に久屋大通公園で開催された名古屋初の大規模アースデーの事務局長だった飯尾裕光さんとその仲間たちが立ち上げた。アースデーは年1回きりのイベント。常設でしっかりとアクションを起こし、ネットワークをつなげる場をつくりたかったという。それは、2005年に開催された愛・地球博で芽生えたアクションを次につなげようとする若者たちの活動の一つでもあった。

カフェの場所は、名古屋市北区黒川にあるエコビル「グリーンフェロー」の1階。同年4月まで営業していたオーガニックカフェ「みどりの屋根」をリニューアルする形で始まった。名前も引き継ぎつつ、そこにイヌイット族の言葉で「生命」という意味の「イニュニック」を付け足した。

「生命にまつわるアクションをやっていきたいという思いで付けました。ただのカフェではなく、農業体験とかワークショップとか、農に直接ふれることができる場としての機能を果たそうというのが目的。半農半カフェですね」と裕光さんは話す。

裕光さんは、自然食品の流通に携わる「りんねしゃ」(本社・津島市)の2代目。三重県伊賀市で有機農業を教える愛農高校の卒業生で、元々は農家になるのが夢だった。りんねしゃは流通を担うところ。お客さんが商品を買ったらその先は分からない。しかし、農的アプローチを人生のテーマにする裕光さんには、流通の先にある食卓まで、農の視点で提案を届けたいという思いがあったのだ。

自分たちの暮らし方も提案

2008年にうららさんと結婚し、2人で津島から名古屋に通う日々。自分たちの畑も津島にあった。まちなかのカフェは場として機能していたものの、自分のものではないという違和感があったという。そこで、自分たちの暮らし方まで含めて提案していきたいと、2013年にりんねしゃの近く、津島市宇治町に店舗付き住宅を構えた。それがイニュニックヴィレッジである。

イニュニックヴィレッジを目指し、名古屋方面から県道79号線を西に進む。目印は大量に積まれた薪だ。最新の燃焼効率の良い薪風呂に薪ストーブ、合成建材は一切使わず、ソーラーによる温水を床暖房に利用している。

「こういう暮らしをしたいという人のモデルになるものをつくりたかったんです。アースデーやみどりの屋根をやってきて、自分たちで何でもやる自給自足の良さは知っていますが、経済はそれでは回らない。それに『あの人たちだからできるんだ』で終わっちゃう。市場の中でいい商品があったら買って使う。暮らしまで見せて伝える場が必要だったんです」

店舗付き住宅「イニュニックヴィレッジ」
屋根にはソーラーパネルと薪ストーブの煙突。カフェは壁がなく外とつながっている

暮らしと自然のリズムに合わせて営業

飯尾さん家族の暮らしとともにあるイニュニックヴィレッジの3本柱は、体験ファームとカフェと市。

体験ファームは、農作業に必要な道具や肥料・苗を完備、トイレ・水場などの設備も整ったレジャー農園として開設。毎週土曜日の午前中には、地元で有機栽培を営むプロ農家の指導も受けられる。利用者は、小さな子どもを連れた家族、農家を目指す人、リタイアした夫婦、休日に土に触れて癒やされたいOLなど様々だ。

代表のうららさんは、「楽しい畑を目指しているんです。畑って面白い反面、夏の草取りなど大変なことも。それで脱落する人もいます。そんな時に仲間がいれば続けられる。土曜日の指導時間は、みんなが集まれる時間として意識してつくっているんです」と話す。貸し農園の他に、みんなで田植えや芋掘りをするワークショップも企画している。

今年度からは位置づけが変わり、津島市の事業「津島・農縁塾『みんパタ』プロジェクト」をイニュニックヴィレッジが受託する形になったが、内容や場所は全く同じで継続中。みんパタは「みんなの畑」という意味だ。

名古屋から場所を移したカフェは5月から9月までの期間限定。名古屋のカフェでは、自然に添った暮らしを提案しているのに、自分たちは忙しく働き、「自然なのに自然じゃない」と感じていたうららさん。自分たちの暮らしと自然のリズムに合わせて冬は休憩。ただその間に、夏に人気のかき氷に使う甘夏シロップなどの仕込みに力を入れる。カフェスペースには壁がなく、外の風を感じ、緑を眺めながら、ゆっくりと過ごせる空間だ。隣にはみんパタが広がっている。

イニュニックヴィレッジ代表、飯尾うららさん
2017みんパタジャガイモ掘り(津島農縁塾みんパタProject Facebookより)
外と隔たりのないカフェスペース。隣にみんパタが続く
かき氷のメニューは豊富だ。なるべく体にやさしいものを使うことを心掛け、ミネラル分の豊富な粗糖で甘みを付ける

あえてオーガニックを謳わなかった市

2011年、みどりの屋根イニュニック時代に始めたのが甚目寺観音てづくり朝市。自分の畑で作った野菜が、カフェで使う以上に余っていたため、その野菜を売る場所を求めていた。たまたま結婚当初住んでいたのが、あま市にある甚目寺観音の近くで、毎月12日に市をやらないかと声が掛かったのがきっかけだ。12日は昔から甚目寺観音の楽市楽座が行われていたというが、近年は近所の和菓子屋と農家の2店が露店を出すだけになっていた。

みどりの屋根に関わっていた仲間と一緒に「自分たちが作ったものを売る」ことを目的に市を始めたうららさん。生後2カ月の子育て奮闘中だった。自分も含めた子育て中のお母さんも気軽に買い物に来たり、出店できたりするように、時間も10時〜14時までと短く、子どもが自由に遊べるスペースも備えた。1カ月に一度、みんなでわいわい話して子育ての息抜きをする場になればという思いもあったという。商売というより「自分たちの場所をつくりたい」という思いが先にあったのだ。

目的も規模も小さく始めたのに、出店者も買い物客もみんなが面白がって集い、つながり、大人気に。市は人と人、人とモノ、人と情報がつながる場に育っていった。そして、出店を希望してもスペースがない状態に。そんな時に、甚目寺観音の賑わいを知った名古屋の東別院(真宗大谷派名古屋別院)から「地域のお寺として、多くの人にお寺に触れる機会を取り戻したい」と、お誘いの声が掛かったのだ。

東別院てづくり朝市は2013年にスタート。28日が親鸞聖人の命日だったことから、毎月28日に開催されている。こちらもあれよあれよという間に出店者は200店(2017年7月現在)に増え、境内は店と買い物客で埋め尽くされるようになった。

この2つのてづくり朝市は、あえて「オーガニック」を謳わなかった。それは、みどりの屋根時代に「オーガニックの壁」にぶつかって苦しんだから。

「オーガニックというと、敷居が高い、入りづらいという声がありました。間口が狭まるんです。だから、市をやるときは『オーガニック』と謳わなかった。それでも、てづくりのもので、体にやさしいものが多く集まってきました。そして、謳わなかったからここまで広がったと思います。だから『いよいよ今だ!』って。今だったら根付くんじゃないかと思って、オーガニックマーケットを始めました」と、うららさんは話す。

原点となる甚目寺観音てづくり朝市
200店が露天を並べる東別院てづくり朝市
東別院てづくり朝市にも子どもの遊べるスペースが設けられている。授乳やおむつ替えもできるように小さなテントも設置(写真右奥)

原点回帰のオーガニックマーケット

2016年12月18日に試験的にミーツオーガニックマーケットを開催。好評だったため、毎月12日の定期市となった。東別院では、25年前から、開基である一如さんの縁日が命日である12日に開かれている。ただ人出がいまいちなので、もう一度、盛り上げたいと東別院側から打診があったのだ。一如さんの縁日は山門前エリア、ミーツオーガニックマーケットは隣の桜の木広場で開催されている。

2017年7月12日の出店者は30店。うららさんは「人はまだ少ないけれど、内容には満足している」とのこと。お客さんの数のわりには売り上げも良い。ただブラッと来るのではなく、欲しいものを買うために来るからだ。

「オーガニックマーケットは原点回帰なんです。28日の市は膨れあがってしまってゆっくり話ができない。もう一度、作り手と売り手、買い手がもっと密につながる場に戻したい。そして、名古屋の人が気軽にオーガニックに出会える開かれた場にしていきたいんです」

一カ月に一度、愛知県や岐阜県の山奥からもこの日を楽しみに出店者がやってくる。のんびりとした時間の流れの中で、出店者同士、出店者と買い物客が出会い、会話し、新しいアクションにつながる。それが暮らしのリズムに組み込まれていく。

裕光さんは、「オーガニックって何だろうという疑問が紐解けた」という。「日本ではオーガニックというと有機農業運動が先行してきたけれど、オーガニック=有機野菜ではない。オーガニックのもう一つの意味は『opportunity』、機会とかきっかけとかいう意味で、有機的なつながりすべてを指します。ここで目指すオーガニックの基準は二つ。出会う場であることと、さかのぼれることです。さかのぼれるというのは、誰が作っているか分かることです」

新たに一如さんの縁日と合同のチラシを制作した。浄土真宗らしく、区別するのではなく、新旧混在した市として全体で盛り上がりたいという思いもあった。市は暮らしの中にあるもの。ミーツオーガニックマーケットも、特別な場ではなく、暮らしの中に根付くような場所に成長させたいと飯尾夫妻と仲間たちは考えている。

運営者でもあり、一出店者でもある、りんねしゃの飯尾裕光さん
あちこちで会話の花が咲くミーツオーガニックマーケット
ゆっくりと買い物ができるミーツオーガニックマーケット
岐阜県東白川村から毎月出店する「土の子農園」。楽しみは「いろいろな人と話せること」。一人でも多くの人に知ってもらい、宅配BOXのお客さんにつなげたいと頑張る

★甚目寺観音てづくり朝市 https://www.facebook.com/jimokujiasaichi/

開催日時:毎月12日 10:30〜14:00

会場:甚目寺観音境内 愛知県あま市甚目寺東門前24

◎名鉄津島線「甚目寺」駅より徒歩5分

★東別院てづくり朝市 http://higashi-asaichi.jp

開催日時:毎月28日 10:00〜14:00

会場:東別院境内 名古屋市中区橘2-8-55

◎地下鉄名城線「東別院」駅下車/4番出口より西へ徒歩3分

★ミーツオーガニックマーケット http://higashi-asaichi.jp

開催日時:毎月12日 10:00〜14:00

会場:東別院・桜の木広場