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特集・なごやエコ最前線

我慢せず、楽しく、かっこよく5アンペア生活は、エネルギーを自分の手に取り戻す暮らし

友人に『5アンペア生活をやってみた』(岩波ジュニア新書)を薦められ、手に取った。著者は斎藤健一郎さん。朝日新聞記者で転勤族だが、現在、名古屋在住で夫婦2人暮らし。本を読んでみると、苦行かと思いきや、逆に新しいチャレンジを面白がっている様子だ。名古屋の暑い夏をどう乗り切ったのか…。独身時代から5アンペア生活をしている健一郎さんと結婚した妻の亜紀さんは苦労していないのか…。ぜひその暮らしを見たいと取材を申し込んだ。

掲載日
2016-10-21
取材・文
浜口 美穂
エネルギー問題が自分事になった時

2011年3月11日、斎藤健一郎さんは福島県民だった。その前後の2年半、朝日新聞社郡山支局で勤務し、郡山市の借家で一人暮らしをしていたのだ。地震で家は半壊、取材現場で知らず知らずのうちに被爆した。そして取材を通して、福島県民のいらだち、悲しみ、怒りを見続けた。

半年後、東京へ転勤。健一郎さんは、携帯電話の充電器をコンセントに差し込んだ時、違和感を覚えたという。コンセントの先が事故を起こした東京電力福島第一原発とつながっている、コンセントの向こうに住む場所や財産を奪われた人がいる、と意識するようになったのだ。ただ、まだ自分でどうこうできる問題ではないと考えていた。

その頃、当時の野田佳彦首相が原発を再稼動すると発表した。理由は「国民の生活を守るため」。原発が国民の生活を壊しているところばかりを見続けてきた健一郎さんには、到底理解できるものではなかった。

「東京の夜は震災を忘れたかのように光り輝いていました。首相の言う国民の生活ってこういうことかと思ったんです。原発反対と叫んでも、自分たちが変わっていかないと説得力がない。そう思って、東京電力との契約を切って暮らそうと思いました」。エネルギー問題が自分事になった瞬間だった。ただ仕事柄、携帯電話もパソコンも使わざるを得ない。自分の家で使わなくても他に頼らなくてはならないのだ。5アンペアは電力会社と契約できる最低のアンペア数で、基本料金はゼロ。「自分が最低限責任を持つための契約」だった。こうして、2012年7月から5アンペア生活は始まった。

まずは電気の見える化から

いざ5アンペア生活が始まるとビクビクしたという健一郎さん。東京電力に5アンペア契約を申し込んだ時、「普通の暮らしはできなくなりますよ」と言われた。エアコンも電子レンジも、掃除機の「強」も使えなくなると。それでも「もう使いません」と踏み切った5アンペア生活。「ブレーカーが落ちたら負けだ」と思っていた。

5アンペアで一度に使える電力は500ワットまで*。でも、どんな家電がどれくらいの電気を使うかも分からなかった。消費電力量が見えるようになればと、ネットで探して購入したのがワットチェッカー。家電のプラグを測定器に差し込み、それをコンセントにつけると、電流(アンペア)、積算電力量(キロワット時)の他に、二酸化炭素の排出量や電気代まで表示される優れものだ。片っ端から家電を測り、洗濯機では脱水時に一番電力を使うことや、冷蔵庫の扉を頻繁に開けると電力を消費することなど、使い方や状況で変わることが分かってきた。

*家庭用のコンセントの電圧は一般的に100ボルト。電流(アンペア)×電圧(ボルト)=電力(ワット)。
家電墓場に積み上がった家電は…

5アンペアでは使えないたくさんの電気を使う家電は、部屋の隅に積み上げ、「家電墓場」と名付けた。いわばショック療法、やる気を引き出す「見える化キャンペーン」の一環だ。そこに集まった家電は、電子レンジ、トースター、炊飯器……ほとんどが熱を出す役割のものだった。電気は発電機を回してつくられる。投入されたエネルギーの多くが家庭に届くまでに熱エネルギーとなって奪われるロスの非常に多い高級エネルギーだ。その電気をわざわざまた熱エネルギーに変えて使う非効率な家電が家電墓場に集まった。

「エネルギーも適材適所。電気には苦手な仕事があって、熱を出すものはガスを使った方が効率がいいんだなと分かりました」と健一郎さん。ガスコンロでご飯を炊く方法は、同僚の料理担当の記者に聞いた。最初から失敗もなく、早く美味しく炊けてびっくりした。電子レンジは蒸し器で、トースターはガス台の魚焼きグリルで代用。掃除機は職人が作ったほうきに代えた。騒音がなく、さっさっという音が気持ちよかった。「家電があって当たり前」の生活をやめてみると、意外な快適さがあったという。

暑い夏は水シャワーと扇風機、ゴザの上に寝て乗り切り、冷蔵庫の24時間稼動をやめて買い物の仕方を考え直すと、電気代は一気に下がり、200円台を推移するようになった。

発電所の所長に就任

電気の自給自足ができないかと考えていた頃、名古屋への転勤が決まった。2013年9月に名古屋での5アンペア生活をスタート。ベランダ太陽光発電も始めた。ポイントは独立型であること。一般に普及している系統連系は、家の発電システムを電力会社の電線とつないで発電した分は電力会社に売り、自分で使う分は通常通り電力会社から買う方式。独立型は、自分でつくった電気を自分で使う「エネルギーの自産自消」だ。健一郎さんのように節電生活をしていれば、ソーラーパネルもたくさんは必要ない。転勤族の身の丈にもあったものだった。発電所は所長の名前にちなんで「健康第一電力」と名付けた。東電に対抗して「健電」の誕生だ。誰も傷つけず、汚染物質をまき散らさない自然エネルギー発電所である。

そして2014年3月、結婚して2人での5アンペア生活が始まった。

夏の暑さ対策は自然の風を味方につける

取材に伺った家は、名古屋へ来て2軒目の築約100年の平屋。新しい住宅街の中で、庭の緑に埋もれひっそりと建っていた。実は日当たり重視で選んだ1軒目の家は、谷底にあって風の通りが悪く、夏には2階にある居間の室温が36℃になることも。妻の亜紀さんは、涼しい喫茶店や図書館に避難するしかなかった。そんな家に住んでいてはいけないと、自然の風を味方につけられる家を探したのだ。

取材に伺ったのは、10月に入ったというのにまだ半袖がやめられない暑い日。網戸の玄関と縁側をつなぐ居間に腰を下ろす。居間に入ってすぐに縁側のおしゃれな戸が目に入った。穴がたくさん空いている。近づいてみると、おしゃれに見えた戸は手作り感満載で、なんと穴の裏側には半分に切り取られたペットボトルが100個以上は刺さっていた。風が通ると涼しいペットボトルクーラーらしい。バングラデシュではやっているとネットで見つけ、たまたま知り合った近所の女性に伝えると、作ってくれたという。この日は網戸の前とペットボトルクーラーの前にデジタル温度計を置いて比較実験中。14時35分に網戸前では28.8℃、ペットボトルクーラーの前では27.3℃を示していた。

「エアコンは自然に抗っている。一生懸命、部屋に冷たい空気を送って、外には熱い空気を吐き出している。人間のエゴイズムという感じがするんです。この家は風通しがいい。人間が100年も住み続けられる家は、うまくできているんでしょうね」。

庭の緑が目に涼しく、バッテリー付きの扇風機が静かに回っていた。亜紀さんが車載用(12ボルト)の冷蔵庫から冷たいお茶を出してくれた。懐かしくて優しい空間だった。

冬は灯油ストーブと豆炭あんかで暖をとる

冬は、ロングセラーの灯油ストーブと豆炭あんかが必需品。電気こたつがあるが電気は使わず、中に豆炭あんかを入れてほのかな温かさで暖をとる。寝る時はそのあんかを取り出し布団に入れる。東京に住んでいた頃は湯たんぽを使っていたが、朝には冷めているのが難点だった。名古屋に来てホームセンターで見つけた豆炭あんかは24時間温かい優れもの。

「結局、古くから生き残ってきたものに戻っていました。そういう商品は何の宣伝もしないけど、実力を持っていて、しかも合理的なものだと気づいたんです」。

新電力に変えてみた

2016年4月から家庭向き電力の小売りが自由化された。これまでは住んでいる地域の大手電力会社としか契約できなかったものが、新規参入した電力会社からも自由に選べるようになったのだ。ただ、すべて自然エネルギーで発電している電力会社はまだなく、プランもたくさんあるので切り替えを迷っていた健一郎さん。最近になって、新エネルギーの取材をしている人から情報を得て、「Looop(るーぷ)でんき」という新電力に変えてみた。Looopでんきは、東日本大震災後、被災地に太陽光発電を設置するボランティア活動から始まったベンチャー企業で、自然エネルギーの普及を目指している。基本料金はなく、自分が使った分だけ支払う明快な料金プランも気に入った。「選挙と同じで、自分の志に近いものに一票を投じる」気持ちだった。

エネルギーを自分の手に取り戻す

結婚前から「ドライヤーと冷蔵庫は必須」と言っていた亜紀さんに5アンペア生活はすんなり受け入れられたのだろうか。「思った以上に頑固だったんですよね」と亜紀さん。健一郎さんは「節電道を極めていたので」と笑う。

でも常に欲しいと言い続けていた甲斐もあって、充電式の掃除機や冷凍庫など、徐々に希望が叶えられている。健電と、新電力で賄っている斎藤家の節電の様子をもう少し紹介しよう。

玄関の照明はLEDセンサーライト。充電式乾電池で動かしている。亜紀さんの希望でこの夏に買ったのは冷凍庫。資源エネルギー庁の省エネ性能カタログを見て、冷蔵庫・冷凍庫の中で省エネ基準達成率が一番高い商品を選んだ。上開きなので、横開きより冷気が逃げにくい。冷凍庫で保冷剤を凍らし、独身時代に買った高性能の保冷庫に入れて冷蔵庫代わりに使っている。健電で動かしている車載用冷蔵庫もあるので不自由はない。

健電でつくった電気は2つの性能の良いバッテリーに蓄電する。今は夜でもテレビやドライヤーが使えるようになった。健一郎さんが子どもの頃から使っていてどうしても手放せなかった温水洗浄便座は、使う時だけ節電タップでスイッチを入れている。便座が冷たいのは、何度も洗える便座シートを貼って対応している。冷凍庫が新たに加わっても、電気代は560円だった。

「東電に電話した時、『普通の暮らしはできなくなりますよ』と言われました。僕ら一人ひとりが普通の暮らしだと思って盲目的に電気に依存してきたことが全国各地にどんどん原発がつくられことにつながり、福島の事故を起こしたともいえる。5アンペア生活は、そういう大きくて不健全なシステムに寄りかからないで自立するということなんです。エネルギーを自分の手に取り戻すとすごく気持ちいいんだなと感じました。僕にとっては今が普通の暮らしです」。

一人ひとりの意識が大事

最後に、節電生活を始めるためのポイントを健一郎さんに伺った。「一番大事なのは意識。エネルギーの問題は他人事ではない、自分事なんだと考えるのが第一だと思います。そして何でもいいからアクションを起こす。白熱電球をLEDに変えるだけもいいんです」。

東日本大震災以降、それまでの価値観が揺さぶられた人は少なくないだろう。私もその頃、毎月中部電力から送られてくる「電気ご使用量のお知らせ」を見て、初めてわが家(賃貸マンション)の契約が50アンペアであることを知った。アンペアダウンをしようと思ったものの小心者の私は40アンペアに落としただけだった。それでも基本料金は数百円安くなった。

今回の取材をきっかけに30アンペアに落とすことを決断。中部電力に電話した。アンペアダウンを申し込むと、「同時に使えなくなる電化製品が出てきますよ」と言われた。「大丈夫です。同時に使わなきゃいいんですから」と答えた。使えなければ考える。工夫する。それが楽しい節電生活の第一歩となる。

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