動かそまい!NAGOYA

特集・なごやエコ最前線

なごやの生物多様性保全活動の窓口〜なごや生物多様性センターのいま〜

2011年9月に設立され、2012年5月に市民にお披露目された「なごや生物多様性センター」。設立されるまでの経緯や開設記念行事については、すでにこのサイトで紹介した。

設立当初から「①なごやの生きもの調査」「②生きもの情報の収集・発信」「③連携・交流とネットワークづくり」を3本柱として活動する同センターの4年間の活動実績と今年度の企画を紹介しよう。

掲載日
2016-06-10
取材・文
浜口 美穂
①-1 なごやの生きもの調査

市民団体・市民を中心に構成される「なごや生物多様性保全活動協議会」(以下、協議会)と、協議会の事務局を担う行政機関である「なごや生物多様性センター」(以下、センター)は、2008年度から2010年度にかけて行われたため池調査等の実績が基盤となり設立された。その流れを組み、両者は協働しながら、ため池、河川、緑地の生きもの調査を継続している。その調査で捕獲した生きものについては、センターの生物多様性専門員が種・大きさなどの個体調査を行った後、在来種は元に戻し、ミシシッピアカミミガメ・アメリカザリガニ・カムルチー(雷魚)に代表される外来種をはじめオオクチバス(ブラックバス)・ブルーギルのような特定外来生物も適切に防除を行っている。そうすることで、その場所がもつ本来の生物多様性を回復させようとしているのだ。

主なフィールドは、センターの隣を流れる植田川、山崎川などの河川、継続調査を行っているため池や名古屋城外堀などだが、地域団体から環境教育や外来種防除を目的に池干しをしたいという要望があり、地域住民の活動を支援しながら新たな調査フィールドとする場合もある。2015年度は、南区呼続公園内の曽池や緑区の東ノ池で、地域住民や土木事務所と連携して池干しと生きもの調査を行った。このような場合、前述の外来種以外に、ヘラブナやコイ(飼育型)も国内移入種または外来種であり生物多様性に悪影響を及ぼしていることを地域住民に説明し、合意形成を経て取り除くようにしている。

「日本人にとってコイは親しみがあり、取り除くことに違和感がある方も多いと思いますが、日本古来の野ゴイはいまや琵琶湖と一部の清流にしか生息していません。皆さんが普段ご覧になっている黒いコイは食用目的に古くに大陸から移入された外来種です。このコイは雑食性が強く、食欲も旺盛で大きく育つため、その場の生態系に及ぼす影響はオオクチバスと同等以上とも言われています。また、糞もたくさんするため、水質汚濁の原因にもなっています」と、センターの森山博光さんは話す。

このように、調査活動を通じて外来種の問題を啓発することも重要な役割だ。最近、名古屋城外堀で注目されているアリゲーターガーや、ミシシッピアカミミガメ、ヘラブナなどは、人間が故意に放流したもの。飼いきれなくなって放流されるものも多い。花がきれいだということで池に入れられる園芸用スイレンも、ガガブタなどの在来水生植物の生育を脅かす存在になる。「外来種といっても、生きものが悪いわけではありません。人間の勝手都合で自然の中に入れられたものが日本の生態系を破壊しています。だから、人間が責任を持った態度で自然に向き合わないと、この問題は解決しないんです」と森山さん。センターでは、環境省が掲げるスローガン「入れない 捨てない 拡げない」という外来生物被害予防三原則に沿って、今後も調査活動や催し物などのたびに啓発活動を行っていく。

①-2 なごや生きもの一斉調査

生きもの調査には、登録された「なごや市民生きもの調査員」(市民調査員)も参加している。現在の登録人数は、729人(560家族、5月20日現在)。この数が力を発揮するのが「なごや生きもの一斉調査」である。2011年は野鳥、2012年は陸貝(カタツムリの仲間)、2013年はオオキンケイギク、2014年はアメリカザリガニなど水辺の甲殻類、2015年はカマキリの調査を実施した。

2015年は、10月2日〜5日の4日間で延べ503人が参加。市内96カ所の緑地や公園で、カマキリの種類や生育状況、外来種のカマキリの分布状況を調べた。大勢が市内各所に散らばって実施する一斉調査は、市内の生きもの分布状況についてある程度の傾向がつかめることはもちろん、市民が身近な自然や生きものに親しみ、関心を持つきっかけにもなっている。また、2015年は地域の協力が多く、空前の規模で調査を実施できたことや人的ネットワーク構築の一助になったことも大きな成果であった。

②-1 生物情報モニタリングデータベース

2012年から、協議会が主体となりセンターがサポートしながら、生物情報モニタリングデータベースの構築を進めている。市民調査員などに呼びかけて、外来生物や近年数が減ってきている貴重な在来種の生きもの24種の目撃情報を収集。情報は協議会のウェブサイトから登録できるようになっている。各種の見分け方についても掲載されているので、一般の市民も気軽に参加できそうだ。

その蓄積されたデータの一部、オオキンケイギク、ミシシッピアカミミガメ、ツバメなど6種については、現在、協議会のウェブサイト「なごや生物情報閲覧システム」で情報が閲覧できるようになっている。種名や時期などを入力すれば、目撃されたエリアが名古屋市の地図上に表示される仕組みだ。

また他にも、生きもの調査などで得た生物情報を蓄積し、データベースを構築中。中には標本を作って保存したり、サンプルとして大学などに遺伝子解析を依頼したりするものもあるという。

生きもの調査を通じてアライグマやハクビシンの防除に取り組み、分布域の経年変化を解析していこうとしているため、これらのデータベースが役に立ちそうだ。その他、自動撮影カメラを用いて、タヌキや、名古屋では目撃例の少ないアカギツネなどの在来哺乳類の分布状況も調べている。アカギツネが東谷山から小幡緑地につながる緑地帯を移動しながら市街地の方に分布域を拡大していることや、庄内川沿いに下ってきて名古屋駅ビル群が見えるようなまち中に近い河川敷も行動範囲としているなど、興味深いデータも得られてきた。

外来種や絶滅のおそれがある在来種などの捕獲情報が市民から寄せられるなど、センターが情報収集の拠点となり、なごやの生きものの現状や推移を把握できるようになったことは大きい。

②-2 名古屋市版レッドリスト・レッドデータブック

名古屋市では環境省の方針に基づき、絶滅のおそれのある野生生物を調査し、2002年11月に初めて「名古屋市版レッドリスト」を公表し、2004年3月に種の解説を加えた「レッドデータブックなごや2004」を発行した。環境省の方針では、動植物の生息・生育状況の変化に対応するために、リストは5年おき、ブックは10年おきに更新することになっている。2011年9月にセンターが設立され、その役割はセンターに移された。

これまでの経緯を表1に示した。専門家によるフィールド調査に基づくレッドリスト・レッドデータブック作成には、多くの労力が必要とされる。センターでは、2012年に専門家で構成する「名古屋市動植物実態調査検討会」を立ちあげ、調査・検討を開始した。調査種数は、前回リスト(2010年)の10種類にコケ植物を加えた11種類* である。3年間の調査・検討を経て、2015年3月に「名古屋市版レッドリスト2015」を公表。4月には、リストに上がった野生生物の生息・生育状況や減少要因などを解説した「レッドデータブックなごや2015」を公表した。また、レッドデータブックは学術的要素が強く内容も膨大なため、一般市民用に分かりやすくまとめたパンフレットも作成している。

センターが設立され、専門家とのネットワークが構築されたことで(後述「連携・交流とネットワークづくり」)、レッドリスト・レッドデータブック作成のための十分な調査・検討の体制が取れ、今回の成果につながったといえるだろう。さらに、センターでは、2016年1月・2月にレッドデータブックの執筆者を講師に招き「レッドデータブックから学ぶ『なごやの生きもの』」という連続講座を開講。野生生物の現状や保全にあたっての注意点などについて学ぶ講座は、全回満員で好評を博したという。

** 11種類
維管束植物、コケ植物、哺乳類、鳥類、は虫類、両生類、魚類、昆虫類、クモ類、カニ類、貝類。
③ 連携・交流とネットワークづくり

センターでは、研究機関や大学と情報交換・交流を進め、人のネットワークづくり、情報のネットワークづくりを行っている。その他にも、大学の生きものサークルや生きものを扱う専門学校と協力して調査活動を行ったり、大学のサークルが調査活動の一環でデータ収集・標本整理などを担ったりすることもある。

また、年に一度開催している「なごや生物多様性センターまつり」では、協議会の構成団体がブース出展をして活動紹介をするほか、「生物多様性ユースひろば」を設け、高校の生物部が日頃の活動成果の展示や発表をするなど、様々な立場・年代の人たちが交流する機会もある。「夏休みの宿題応援します!」のキャッチコピーで2012年から毎年開催している「なごや生物多様性サマースクール」では小中学生に生きものと触れ合う機会をつくり、市民調査員が参加する調査の実地体験会では親子を含めた家族にも生物多様性の重要さを伝える。こうして、多様な世代が参加・交流できる場をつくるのがセンターの役割でもあるのだ。

環境局では2014年に開催されたESDユネスコ世界会議の成果を受け、2015年に「なごや環境学習プラン」を策定した。このプランを受けた環境局の2016年のテーマは「分野・主体・世代を超えた学び合いの場を、様々な事業、様々な場を通して提供し、主体的に行動する人づくり、人の輪づくりにつなげる」というもの。まさにセンターもこの役割を果たす機関の一つとなっている。

2016年度も盛りだくさんの企画

この他にもセンター主催のイベントとして、2013年8月から生物多様性に関わる活動をしている話題提供者を招き、参加者と気軽に語り合う「生物多様性カフェ」を開催。2016年度からは奇数月に定例化している。

7月・8月は、小・中学生を対象に開講されるサマースクール。2016年も蝶の採集と標本づくり、甲虫の採集と標本づくりをはじめとし、田んぼの生きもの、池のプランクトン、東山の森の土壌生物など、様々なフィールドに生息する生きものとの出会いが待っている。

そして、2016年のなごや生きもの一斉調査は、8月26日(金)から29日(月)にかけて「セミの抜け殻調査」を実施する。市民調査員のほか、一般の市民も参加可能なので、広報なごややセンターのウェブサイトで確認し、申し込んでみてはいかがだろう。

センターまつりは10月30日に予定。市民になごやの生きものの生息状況を知ってもらうことを目的に、標本や生きものの展示、小動物の移動動物園もあって直接生きものと触れ合える機会にもなる。

その他、様々な生きもの調査の予定は協議会のウェブサイトに随時アップされる。市民調査員にはメールでお知らせも届くので、興味のある方はぜひ登録を。

「様々な活動がありますが、最終的には生物多様性の保全が目的なので、この活動の3本柱に横串を通さないとそれもできません。実働調査も必要だし、情報も必要だし、ネットワークも必要。それを取り持つのがセンターの役割です」と森山さん。これからも協議会と車の両輪のように動きながら、なごやの生物多様性を保全する役割を担っていく。

バックナンバー