動かそまい!NAGOYA

特集・なごやエコ最前線

10年ぶりの気温測定調査に約350人が結集!同時多点観測でヒートアイランド現象をあぶり出す

十年一昔。まさか10年後に同じプロジェクトの記事を書くことになるとは思わなかった。

2005年に行われた市民による気温測定調査から10年後の今回の調査は、暑い盛りの8月8日、名古屋市内165地点に約350人の市民が張り付き、実施された。今回は実行委員会と名古屋市との共催。そして、多治見市、春日井市、豊田市の実行委員会とも連携し、同日、同じ方法で測定するという広がりも見られた。合計238地点、570人ほどが参加する大観測ネットワークだ。唯一無二のこの壮大な市民調査についてレポートする。

掲載日
2015-09-29
取材・文
浜口 美穂
2005年調査(前回)の報告会

172地点、約400人の市民が参加した2005年気温測定調査。その内容・分析結果は約130ページの報告書にまとめられた。都心部の市街地にヒートアイランドが形成され、市内東部の丘陵地にクールアイランドが形成されること、その気温差は最大で約4.5℃だったこと、そして、沿岸部では海風によってヒートアイランドが解消されることなどが示されている。また、測定ポイントの気温が高いほど、その場所の緑被率は小さいという相関関係も示され、緑地が形成するクールアイランドは夜間から早朝にかけて谷地に沿って広がり(冷気が滲みだし)、谷地に隣接する市街地では局所的に熱帯夜が解消されることが報告された。

報告書の完成にあわせ、2006年2月26日、名古屋市都市センターの大研修室で報告会が開催され、測定に参加した市民約180人が集まった。暑い夏の日に流れる汗をぬぐいながら、蚊の襲撃と闘いながら、見づらい水銀温度計の目盛りと対峙した結果がここに実を結び、感激した参加者は少なくないだろう。専門的な分析を担当した当時名古屋工業大学教授(現・愛知産業大学学長)の堀越哲美さんは、専門家ではできえない、多くの市民による同時多点観測の成果を称えた。

また、この報告会で、水と緑のまちづくりをすすめる「提言」が承認されている。後日、実行委員会有志は市の各部局を回り、局長に調査の報告・提言を伝えたり、2006年3月末に開催されたなごや環境大学の活動報告会に出展し、当時の松原武久市長に直接、活動紹介する機会にも恵まれた。あれから10年、名古屋市の水と緑のまちづくりはすすんだのだろうか…。 

市民調査の変遷

実は市民による気温測定調査は2005年が初めてではない。1991年に市内東部の丘陵地を500mメッシュで区分けし、その中に置いた各ポイントで調査を実施。このエリアに広がる緑地を開発から守るために、その価値を科学的な数字で示そうと取り組んだ経緯がある。この時に、百葉箱の原理に近いものを手作りしようと、アルミ箔を貼ったフードで直射日光や輻射熱を遮り、3分前からうちわで扇ぐという方法が考案されたのだ(2005年、2015年も同様の方法で実施)。

2005年の第2回気温測定調査は、東部丘陵エリアは同じく500mメッシュで、その他の市内全域を2kmメッシュで区分けして、全体で172カ所の測定ポイントに規模を広げて実施された。この測定の実現には、当時、森づくり活動が市内各所へ広がり、2003年にこれら活動団体のネットワーク組織「なごやの森づくりパートナーシップ連絡会」(略称:森パー連)が設立されたことが大きく貢献している。市内の緑地の保全に関する情報の集約と人的ネットワークの結集が可能になっていたのだ。2005年はこの森パー連も核となり、実行委員会立ち上げから調査実施までたった2カ月余りという驚異的なスピードでこのプロジェクトを成し遂げた。

2005年は愛知万博が開催された年。なごや環境大学もこの年にスタートした。名古屋市内、愛知県内で様々な環境プロジェクトが実施された年でもあった。その後、2010年には名古屋でCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開催され、2014年にはESD(持続可能な開発のための教育)ユネスコ世界会議も開催された。これらの世界会議を追い風に、市民活動は大きく動いていく。

市民調査の次のアクションは、「名古屋の棲息生物調査」だった。夜間、灯火に集まる昆虫を採集し、緑地環境の質の変化を調べようという調査だ。この調査は、なごや環境大学の共育講座として2006年から現在に至るまで毎年実施されている。

次のさらなる展開が、ため池の生物調査と池干しだった。2007年度に1カ所のため池で実施した後、2008年度からは環境省の補助事業として3年間で市内10カ所のため池で実施。この間に、森づくりに関わる市民、ため池保全に関わる市民、専門家、なごや環境大学、名古屋市との協働の体制がつくられていき、2011年のなごや生物多様性センター(名古屋市施設)設立へとつながっていく。このあたりの動きは、本サイトで折に触れレポートしているので(つながる「人」と「ため池」のネットワークPart1~4)、興味のある方はご参照願いたい。

10年で育てた協働の力で

しかし、このような市民活動の盛り上がりとは裏腹に、名古屋市の緑被率の減少には歯止めが掛かっていない(右図参照)。街路樹の剪定も容赦なく行われ、市街地の木陰も減っていた。

それによってヒートアイランドの状況がどう変化したのかを調べ、再び緑地の価値を科学的に示したいと、10年ぶりの調査に向けて集結したのが前回の実行委員たちだった。市民調査の流れを今後に継承するためにも「やるなら今!」ということになったのだ。さらに、熱中症の患者が増え、市民の関心も高まっている昨今、気温とともに暑さ指数も測ってみることとなった。

準備会を始めたのは1年前の2014年7月。10年前と異なるのは、そこになごや生物多様性センターを含む名古屋市環境局の職員が同席していたことだ。前述したように、これまでの協働の流れを受け、今回は名古屋市が共催者となり、なごや環境大学が事務局機能を担うことになったのだ。

今回は時間的余裕がたっぷりあるということで、まずは10年前の記憶を呼び覚まし、2015年の調査に向けてキックオフするプレフォーラムを2015年3月22日に開催した。集まった46人は、前回調査の参加者、名古屋市の職員、今回初参加の名古屋工業大学(名工大)の学生たち、そして、2005年調査の結果を元に議会でヒートアイランド対策について質問した名古屋市議の姿もあった。前回の参加者からは「報告会の感動が忘れられない。今回も参加します」、研究者は「専門分野で市民を応援します」、行政マンからは「行政としても頑張るが、一市民としても測定に参加します」などの決意表明と、初参加の学生からは「今日の話を聞いてワクワクしてきました」という期待が寄せられ、会場に一体感が生まれた。

さらに4月・5月・6月には、気温測定調査の経緯と意義、名古屋の緑と水辺の現状、ヒートアイランドや地球温暖化などについて学ぶ連続セミナーを開催。延べ152人が受講した。2005年調査の報告書を読み、全3回のセミナーを受講すれば、気温を測って語れる市民科学者になれたのだ。

地域をつなぐ観測ネットワーク

2015年調査の特徴の一つは、多治見市(30地点)、春日井市(4地点)、豊田市(40地点)の各実行委員会との連携が実現し、同日、同じ方法での測定が行われたことだ。合計238地点、約570人の大観測ネットワークとなった。

日本一暑い街として知られている多治見では、「多治見の気温を測る会」が10年以上にわたり毎年独自の方法で測定しているが、2015年は名古屋と同様の方法を採用。気温とともに記録する風向・風力調査のための吹き流しは、多治見が採用している防鳥テープを使う方法に全体を統一した。

ヒートアイランド現象が顕著になってきた豊田市でも、その実態を明らかにし、矢作川による緩和効果を科学的に示したいと初調査を行うことに。多治見と名古屋の間に位置する春日井も加わり、地域間の比較や連続的分析も期待できそうだ。

350通りのドラマ

2015年調査の測定日は8月8日に決まった。それに先駆け、気温測定の方法を学ぶ講習会が7月12日と18日に開催され、延べ169人が集まった。企業として測定に参加するブラザー工業(株)が、会場を提供。庭に測定具を設置し、実際に水銀温度計の目盛りを読み取るワークショップも行った。この時、虫めがねなしには目盛りが読み取れないことを認識し、10年の歳月(目の衰え)を実感した参加者もいたという。

こうして迎えた測定日。測定は朝5時から夜8時まで毎正時(00分)に行う。3時、4時に起床、まだ暗い中、多くの測定器具や虫よけ・熱中症対策グッズを持って現場に向かう。木の枝に温度計を設置し、3分前からうちわで扇ぐ。朝5時の測定はまだ薄暗い。ライトで照らしながら水銀柱の目盛りに目を凝らす。吹き流しを掲げ、風向・風力の測定、空を見て雲の量を観察する。長い一日の始まりだ。

これを16回、繰り返す。1時間を長いと感じた人、短いと感じた人、様々だが、その“間”にこそ、350通りのドラマがあった。測定終了後、事務局に送られてきた記録用紙には、測定データとともに、感想(ドラマ)が記載されていた。日頃はほとんど話さない近所の人とコミュニケーションを深めた人、仲間と一緒におしゃべりしながら過ごした人、時間とともに変化する太陽や雲、動物の動きに目を見張った人、慌ただしい日常から解放されてゆっくり読書を楽しんだ人…。友人や近所の人から差し入れをもらった人、休憩場所を提供してもらった人もいる。これら測定者を支援した人、そして測定者から気温の話を聞いて関心を持った人などを考えると、この調査の広がりは計り知れないものとなる。

時を越えてつながる若い力

10年前と比べ、目の衰えや体力の衰えを感じた測定者も多いが、次につながる若い力もあった。セミナーから熱心に参加した高蔵高校理科部の生徒たち。2005年も参加した(人は違うが)天白高校自然科学部の生徒たちは、今回も4カ所の測定を担当した。そして、前回と同様に名工大の学生たちが多くの測定地点に散らばり測定したほか、測定器によって生じる誤差を標準温度計と照らし合わせて補正する事前作業も担当した。

横浜から駆けつけた若者は、10年前に実行委員だった研究者が現在勤める大学で学ぶ学生。10年前の資料を読み込み、フードを手作りして持参。最後まで埋まらなかった測定地点に一日張り付いて測定し続けた。

7月12日、講習会の会場に一番乗りした女子高生は、10年前にお母さんの測定を手伝っていた小学生の成長した姿。今回は自分が中心でやると、講習会に一人で参加した。そして、今回の測定にも子どもたちの姿が見られた。うちわで風を送ったり、吹き流しを持って風向きを見たり。10年ぶりの調査にも、時を越えてつながる若い力があったのだ。

その成果は…

9月初め、各測定者の元に、調査の速報が届いた。代表8地点の測定結果から、東山丘陵部など緑が多い地域と市街地の間には、最高気温に明らかな差があり、最大で5.9℃の差があったという。

実行委員会では今後、全地点の測定値を分析し、来年2月6日に報告会を開催する予定にしている。孤独に一本の温度計と向き合った測定者が一堂に会し、改めて連帯感を感じ、同時多点観測の成果に感動することだろう。

それにしても様々なデジタル機器が存在する時代に、なぜ読み取りにくい水銀温度計なのか。愛知産業大学学長の堀越さんに聞いた。

「水銀温度計の方が、精度が高いことはもちろんですが、デジタルはしょせんバーチャル。温度測定の基本である水銀の伸び縮みで気温を可視化する水銀温度計は、一目で気温の変化が分かるし、感じられると思います」

水銀柱に目を凝らし、空を見上げ、風を感じた350人の心には確かな名古屋の夏の姿が刻まれたに違いない。

名古屋気温測定調査2015 報告書

名古屋気温測定調査2015 報告書

*本報告書から引用を行う場合は、引用元として「名古屋気温測定調査2015 報告書(名古屋気温測定調査2015実行委員会)」と必ず記載をお願いいたします。

バックナンバー