ENVIRONMENTALCOLUMN 環境情報を知りたい方/環境コラム

子どもも大人も本気になって「未来を考え、行動する」…それがESD

取材・文 浜口 美穂
  • SDGs

2014年11月10日から12日、名古屋国際会議場でESDに関するユネスコ世界会議が開催された。国連が位置づけた「ESDの10年」(2005〜2014)の成果を共有し、今後の方策について議論する会議だ。
名古屋市の地下鉄車内やまちの要所要所にESDのポスターが掲示され、久屋大通公園やオアシス21で交流イベントも開催されたものの、お膝元の名古屋であってもESDに対する認知度は相変わらず低いままだった。
幅広い分野にわたり展開されるため分かりにくいように思われるESD。この地域の10年はどうだったのか、そしてこれからの展開は…。中部地区でイニシアティブをとってESD推進に取り組んできた環境省中部環境パートナーシップオフィス(以下、EPO中部)のチーフプロデューサーであり、なごや環境大学の実行委員でもある新海洋子さんに話を伺った。

ESDの10年、東海では

2002年、ヨハネスブルグ・サミット(持続可能な開発に関する世界首脳会議)が開催され、日本のNGOと政府が共同で、持続可能な社会を実現するための人づくりに取り組む「ESD*の10年」について提唱。これを受けて、同年開催された国連総会でESDの10年が採択され、世界中で取り組みがスタートした。

このサミットに参加したNGOメンバーにより、2003年、ESDを推進するネットワーク組織「ESD‐J」が設立され、日本各地で地域ミーティングを展開。EPO中部は主に東海地域の活動の中心を担い、環境教育、まちづくり、国際理解教育など各分野のNGO団体と協働しながら調査、講座、フォーラムを実施してきた。

2007年11月には、国連大学が世界中で認定しているESD推進のための地域拠点の一つとして/<a href="http://chubu-esd.net" rel="external noopener" target="_blank"中部ESD拠点が発足し、翌年1月に中部ESD拠点協議会を設立した。協議会には、なごや環境大学もEPO中部も運営団体として入っている。協議会は「伊勢・三河湾流域圏」という視点で、12河川の上流・中流・下流において約100のESD講座を実施するなどの活動を展開し、NGO支援の中核を担うようになった。

これを機に、EPO中部では、ESDが「教育」であることから教育委員会や学校へのアプローチが早急に必要であるとし、国の施設であるという利点を生かして、教育現場との協働を手掛けることにした。ESDの10年の後半は、教育委員会や学校と一緒に、学校と地域の連携によるESD実践の仕組みをどのように形成するかという課題に取り組んだ。教育現場では、ユネスコスクールに登録するというミッションを持ち、ESDにどのように取り組めばよいか、これまでの授業や学校経営をどう改善すればよいかの検討を始めていた。

後半になると、各自治体でも研修や啓発イベントを開催。企業でもCSR(企業の社会的責任)活動の中でESDに取り組むところが現れてきた。全体的な認知度は低いものの**、各セクターの教育に携わる人たちはESDの大切さに気づき、行動に移し始めたのだ。こうして、10年の締めくくりであるユネスコ世界会議を迎えた。

*ESD:持続可能な開発のための教育
** 政府が2014年8月に行った世論調査では、ESDを知らない人が79.1%にも上った。

世界会議の併催イベント「ESD交流セミナー」において、中部ESD拠点協議会は、「流域圏ESDモデル」を提案した
EPO中部のESD交流セミナー「みんなのESD会議〜この10年の活かしかた〜」。学校でのESDの取り組みを話し合う「校長先生サミット」と、「持続可能な社会をつくるためには『自己肯定感』を育むことが大事」であるという認識のもとにこれまで取り組まれてきた「自己肯定感を育むESD」の2つのテーマに分かれて参加者が意見交換した

子どもたちからの本気メッセージ

ユネスコ世界会議の閉会全体会合で、愛知県内の小中学生が世界に向けてメッセージを読み上げ、会場内に感動の渦が広がった。

「私たちが考える『ESD』とは、『未来を考えて、行動すること』です。みんながESDの主人公となって、今、これから、未来に向かって、ESDに取り組んでいきます。私たちは本気です。大人のみなさんも、本気になってESDに取り組んでください」

このメッセージを発表したのは、2014年7月に発足した「ESDあいち・なごや子ども会議」。県内の小学5年生から中学3年生まで121人が集まり、「気候変動・エネルギー」「生物多様性(海、下流域)」「生物多様性(山、上・中流域)」「防災」「文化」の5つのコースに分かれて現地学習を行った。それを基にグループ討議で「持続可能な社会をつくるためにみんなができること」について考え、11月10日に名古屋国際会議場で行われた全体会議で発表。世界に向けてのメッセージは12日の閉会全体会合で読み上げられた。

「大人も本気になって」の言葉に胸を打たれた人も多かったに違いない。実は、子どもたちはメッセージをまとめる最終日に、セヴァン・スズキがリオ・サミットで行ったスピーチをDVDで見ていた。「22年前の子どもが言ったことと、自分たちが発表するキーワードは何も変わっていない。大人は22年間、何をやっていたんだ」と、世界に向けてプレゼンテーションをしたのだ。

コーディネーターである杉山範子さん(名古屋大学大学院環境学研究科特任准教授)のもと、各コースに付き添った新海さんをはじめ5人のファシリテーターは、あくまで子どもたちが自分で考え、行動することを見守り、子どもたちの持っているものを引き出すことに徹したという。年齢も学校も違う子どもたちが現場で考え、声を出し合い、苦労しながらもほぼ自分たちの言葉と思いでまとめあげた。このプロセスそのものがESDなのだ。

新海さんは、ユネスコ世界会議後、教育現場などの報告会で、子ども会議のプロセスとこのメッセージを伝え、「これからはティーチングではなく、ファシリテーション。大人は子どもたちの可能性を信じよう」と話しているという。

「ESDあいち・なごや子ども会議」の全体会議ではコースごとに「わたしのESD宣言」が発表された
閉会全体会合で、「わたしたちはESDの主人公」という横断幕を掲げてPRする「ESDあいち・なごや子ども会議」の子どもたち

なごや環境大学で進めるこれからのESD

世界会議で採択されたものの一つにグローバル・アクション・プログラムがある。その5つの優先行動分野を以下に挙げよう。

・ESDに対する政策的支援
・ESDへの包括的取り組み
・ESDを実践する教育者の育成
・ESDへの若者の参加の支援
・ESDへの地域コミュニティの参加の促進

「5つめの『地域コミュニティの参加』は、まさに環境大学がやっていこうとしていること。世界会議というと、私たちの地域や暮らしとものすごくかけ離れているように聞こえるかもしれません。でも、アフリカから参加された方も、ヨーロッパから参加された方も、置かれている国や地域の状況は違っていても目指そうとしている社会観は同じだということを世界会議で再確認できました。つながっていることに自信を持って、これからより具体的に地域でやっていかなければならないと思っています。そのためには、なごや環境大学ももっとアクティブに機能していかなければならないし、学校や企業との連携も強化していかなければならないし、やるべきことはいっぱいあります」と新海さんは話す。

世界会議の併催イベントとして同じ名古屋国際会議場で開催されたESD交流セミナーにおいて、なごや環境大学は「地域コミュニティによるESD主流化を実現するための大円卓会議」を実施(写真参照)。学区連絡協議会から具体的な活動報告があったほかにも、企業や学生、子どもの育成に携わるNPOなどから地域との連携を意識した活動報告があり、後半は参加者も加わって様々な意見・感想などが交わされた。そして、「地域コミュニティは、幅広い世代の考えを吸収でき、様々な社会問題に触れ、自分で考えることのできる価値ある機会である」ということも共有された。

なごや環境大学では2013年からESD推進チームをつくり、様々なプロジェクトに取り組んでいる。PRイベント出展や併催セミナーの実施のほか、世界会議に向けて「なごや環境大学を活用したESD実践のための提案書」をまとめた。市の各部局や都市センターなどの施設、教育委員会、市民団体など様々なセクターをつなぎ、よりよい講座をつくることで多くの市民を巻き込んでいく役割を果たすための提案になっている。10周年を迎える2015年度、この提案書を基に、世界会議でも確認されたESDのキーワード「参加と協働」を実践する器としてなごや環境大学も新たな10年のスタートを切ろうとしている。

なごや環境大学のESD交流セミナー「地域コミュニティによるESD主流化を実現するための大円卓会議」。学区からの参加、若者の参加も多かった
後半は、パネリストと参加者が意見交換する二重円卓会議方式で実施