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特集・なごやエコ最前線

地域でまわる嬉しくなっちゃうお金「おむすび通貨」

「おむすび通貨」という地域限定の「お金」を見たこと、聞いたことはあるだろうか。

「おむすび通貨」を紹介するパンフレットは、「嬉しくなっちゃう『お金』ができました」で始まる。

「おむすび通貨」を受け取るときは、お金で買えない何かも、いっしょ。

「おむすび通貨」を手渡すときは、お金で買えない何かも、いっしょ。

きっとそれは、嬉しい笑顔。きっとそれは、嬉しい会話。

きっとそれは、「ありがとう。」という嬉しい気持ち。

私たちが日常振り回されているお金と何が違うのか。どんな嬉しい気持ちが地域をまわっているのか、運営している物々交換局に話をうかがった。

掲載日
2013-11-21
取材・文
浜口 美穂
「おむすび」に込めた思い

市場経済システムはどんどんグローバル化する一方。その中で、かつては家庭や地域で働けた人たちが、賃金を得ることだけを目的に外に働きに出るようになった。それによって、核家族化や地方の過疎化が進み、地域格差、富の格差を生み出し、人々の結びつきを壊してしまった。しかも、人間がお金に振り回され、不安定な雇用の中で若者たちは翻弄されている。

物々交換局代表の吉田さんは、失われた地域の仕事と暮らしを取り戻すには、地域でお金を回していくローカル経済が必要だと考えた。しかし、それだけではない。国会議員や経済人は、人間の感情や健康や自然の恩恵といった価格に換算できないものの価値を、価値として加味することなく、GDPや売上だけで全ての物事を決めていく。このような貨幣経済に根ざした社会構造そのものを変えたいという想いで、吉田さんはおむすび通貨の普及に取り組んでいる。

おむすび通貨の主な約束事は次のようなものだ。

▲お米で価値が裏付けされている穀物本位制
有効期限まではお金として使い、有効期限後は地元で作られたお米に換えることができる。つまり、「おむすび通貨=米」。

▲おむすび通貨の単位
単位は、おむすび1個分のお米の価値を表す「むすび」。1むすびは50円として換算するが、原則として換金はできない。

▲有効期限は6カ月
お金としていつまでも貯めておくことができないため、お金がまわるようになる。

▲流通範囲は伊勢三河湾流域
地域の中でお金がまわり、地域の小さな仕事を守る。

「おむすび通貨」と名付けたのは、米が価値の裏付けとしてあるため、この通貨を持ち歩くことは「お米を持ち歩く」のと同じだということと、「人と人、人と地域、人と自然を“むすぶ”」ようにとの思いから。おむすび通貨の紙幣には、田植えの風景(流通期間6/1〜11/30)と稲刈りの風景(12/1〜5/31)が描かれている。自然の風景だけでなく、そこで働く人を入れたのは、「人と自然がつながっていること」や、賃金を得るだけの仕事ではなく「誇りを持って働く」ことを伝えたいからだという。

地域をまわり、地域を守る

これまで日本では多くの地域通貨が発行されてきたが、そのほとんどが休眠状態である。それは、「エコマネー」やサービスを交換する「ボランティア通貨」など、基本的には一度限り利用されるクーポンで、お金としての流通が起こりえないから。おむすび通貨は、日本型のエコクーポンではなく、ヨーロッパで普及している第二のお金「補完通貨」を目指している。

その循環システムは図1のようなものだ。

このシステムには、生活者、事業者(提携店)、発行事務局のほか、精算時には、米を提供する地元農家も参加する(図2)。有効期間内は、生活者と提携店、提携店同士の間をおむすび通貨が行き来し、地域の仕事を支える。そして、有効期間が終了すると、提携店がおむすび通貨を米と交換して精算。そのおむすび通貨分の代金は、発行事務局が支払う。代金は通貨発行前の事前契約で決まり、適正価格で買い取ることで地元の小規模農家を支援することにもなる。さらに、地元の山や水の恵みで丁寧に育てられた米を食べるということは、地元の自然を守ることにもつながっているのだ。

おむすび通貨を元に、地域内で完全循環する商品をつくり出した提携店もある。地域の活性化に積極的に取り組む関谷醸造(株)がつくる「お結びの酒」だ。商品をおむすび通貨払いで販売し、そのおむすび通貨を米に換えて、その米だけで仕込んだ、まさにおむすび通貨が生み出したお酒。2011年から販売し、2013年は300本が製造されている。

物々交換が生み出すもの

おむすび通貨の運営母体は「物々交換局」。おむすび通貨=お米なので、おむすび通貨での売り買いは物々交換。物々交換は、やりとりするモノに対し、それぞれの価値観が釣り合わなければ成立しないので、双方向の関係性を生み出す。 そこには、ただの数字のやりとりではない、あたたかい気持ちも添えられる。

実際に、提携店からは、次のような「使って嬉しい」という感想が寄せられている。

「お金は何でも買えるけれど、ただそれだけのこと。おむすび通貨は大事なお米だから、使っていただけるととっても嬉しいんです。おむすび通貨は、会話が生まれて感謝の気持ちが伝わる、あったかいもの。もっともっと広がってほしいです」

「普段、お金がどのように動いているのかわかりにくいですが、おむすび通貨は、人を思いやる人たちの中を動いているなと感じます。気持ちよくお金を使うことを改めて感じさせてくれるおむすび通貨に、これからも期待しています」

2010年に提携店17店で始まったおむすび通貨も、口コミで広がり、10月24日現在は219店。主に豊田市内だが、名古屋市の円頓寺商店街など、商店街ぐるみで協力する動きもあり、急増している。それでも、第二のお金として便利に流通するためには、提携店が千店以上は必要とのこと。それを目指して、豊田商工会議所青年部や商店街などと連携し、提携店を増やす様々な取り組みが行われている。

笑顔いっぱい「こども夢の商店街」

提携店を増やす取り組みのひとつに「こども夢の商店街」がある。もともとは、おむすび通貨が使える場をつくろうということで、2012年に2回、名古屋の提携店を舞台に「夢の商店街」を開催したのがきっかけ。フリーマーケットのイメージでいろいろな人に出店してもらい、おむすび通貨だけで売り買いするイベントだ。そこに、たまたま子どもが出店していて好評だったため、子どもたちだけの夢の商店街として回を重ねることになった。2013年3月、円頓寺商店街を皮切りに、豊田スタジアムや中京競馬場で開催されている。

11月3日に開催された第2回目の円頓寺商店街の「こども夢の商店街」では、150店以上が出店し、自分たちで手作りしたという雑貨を売ったり、ゲーム屋さんをしたり・・・。また、訪れた子どもたちは「こども役場」で住民登録をした後、「ハローワーク」へ。「放送局」や「こども銀行」「こども警察」「こども清掃局」などでオシゴトをし、給料をおむすび通貨でもらった。

円頓寺商店街界隈には、おむすび通貨提携店が34店舗あり、店頭にステッカーが貼ってある。大人も「こども銀行」でおむすび通貨を入手し、商店街の飲食店で使う場面も。また、出店した子どもたちは、子どもたちが「お米屋さん」のオシゴトで計量したお米とおむすび通貨を交換することもできた。

商店街の活性化にもつながり、おむすび通貨を広げる場にもなる「こども夢の商店街」。おむすび通貨が、子どもから大人までたくさんの人の笑顔と元気な「いらっしゃい!」の声とともに、手から手へと渡っていく。おむすび通貨はただの道具。でも、あたたかい道具。手にした一人ひとりが主役であり、地域を元気にする主体であることが、その笑顔から感じられる。

使って初めて分かる嬉しい気持ち。あなたもおむすび通貨を手に笑顔の輪に入ってみてはいかがだろう。

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