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特集・なごやエコ最前線

遺伝子組換えナタネについて考える〜市民参加の抜き取り調査に密着〜

より効率的な生産を目指し、バイオテクノロジーを使って除草剤の耐性や害虫の抵抗性をもつ遺伝子を組み入れ、新たな遺伝的性質をもつ品種へと人為的につくり変えられた「遺伝子組換え(GM)作物」。食品としての安全性や自然の生態系への影響が懸念されているこうした作物が、わたしたちの暮らしのなかに浸透している現実を、実感としてとらえるのは難しいが、実は気付かないうちにとても身近に存在する状況となっている。

食料自給率の低い日本は、トウモロコシやダイズ、ナタネなど、多くの穀物を海外に頼っている。その輸入先は、GM作物の栽培が盛んなアメリカ、カナダ、ブラジルといった国々で、すでに国内には大量のGM作物が輸入され、食用油の原料や家畜の飼料として使われている。

こうした状況の中、GM作物を身近に迫る問題として実感できる学習会が開かれたので、その模様をレポートする。

掲載日
2013-08-23
取材・文
新美 貴資
名古屋港で自生するGMナタネ

青空が広がり、照りつける初夏の日差しがまぶしい5月下旬。市環境科学調査センターとなごや生物多様性保全活動協議会との共催による「ナタネの抜き取り調査」が行われた。その内容は、GMナタネについての講義から始まり、南区にある同センターから車で移動し、港区の臨海地区を歩きながら自生しているナタネをはじめとしたアブラナ科の植物を観察して採取。再び同センターへと戻り、検査キットで持ち帰ったナタネを遺伝子調査にかける、というスケジュールだ。

ナタネを抜き取り調査するということが、GMの問題とどうつながるのか。疑問を抱きながらも、まずは講義「GMナタネって何が問題?なごやにも生息しているの?」を受ける。講義の冒頭、「遺伝子組換え食品を考える中部の会」のメンバーである村上喜久子さん(食と環境の未来ネット)が、GM作物の問題について説明した。

国内の港でGMナタネの自生が見つかったと農水省が発表したのは2004年のこと。衝撃を受けた村上さんら同会のメンバーは、さっそく輸入港である地元の名古屋港、四日市港周辺の調査にのりだす。そこで明らかになったのは、「GMナタネが大人の背丈を超える大株になっていた」という実態だった。危機感をつのらせた同会では、市民らに参加をよびかけ2006年に「GMナタネ抜取隊」を結成。自生の調査や駆除の活動を継続して現在にいたる。

国内で栽培されていないはずのGMナタネが、なぜ港の周辺で見られるのか。そして抜き取りを続けても一向に減らないのはどうしてなのか。村上さんは、「港から製油工場へトラックで運ぶ途中にこぼれ落ちたものが自生しているようだ」と話す。そしていま新たに持ち上がっている、GMナタネと在来のナタネや雑草との交雑が見つかっている問題にも触れ、自然界への拡散に警告を発した。

続いて、同センター環境科学室研究員の大畑史江さんが、GM作物とはなにか、そしてどんな問題が懸念されているかについて紹介した。大畑さんによると、実際に流通しているGM作物の主なものに、除草剤・害虫・ウイルスの抵抗性をもつものがあるという。

生物多様性(遺伝的多様性)への影響が懸念されている点として、?害虫抵抗性作物による影響、?除草剤耐性作物による影響、?組み換え遺伝子の拡散の3つがある。食の安全の問題点として、?食品としての安心、?生命倫理、?企業の独占、特許などの3つをあげた。風評被害については、「もし、ある地域でGM作物が栽培された場合、極端なケースだと、その地域の作物全体のイメージダウンにつながる怖れがある」と指摘、「人間のコントロール下から離れてしまったナタネを監視していくことが重要」とまとめた。

懸念される生物多様性への影響

講義が終わると現地での観察と抜き取りの調査となる。自生するナタネの中にどれだけGMが分布しているのか、その現状を把握するのが今回の目的である。

参加者は二手に分かれ、名古屋港に面した港区潮見町と船見町に向かった。どちらも海運会社の倉庫や製油会社の工場などが建ちならぶ臨海地区にある。筆者も潮見町を調べるグループに同行した。

週末で交通量は多くはないが、時おり大型トラックやタンクローリーが地響きをたてて通り過ぎる。引率する同センター職員らに従って、参加者は歩道の街路樹の植え込みや外側に広がる空き地などに生える雑草の茂みに目をこらした。

「ここにあった」。先頭の女性から声があがる。近寄って見ると、5センチほどの小さなナタネが、車道の路肩から芽吹いていた。それからは、同じような大きさのナタネがいくつも視界に飛び込んでくる。多くの種を内包した莢(さや)をたくさんつけた30センチくらいの背丈のものや、肩くらいまでありそうな太い幹のものが群生するなど、その後も次々と見つかる。どれがGMなのか、外見からはまったくわからない。参加者は手元の地図と専用のシートに、個体数や特徴などを書き込んでいく。また一部のナタネは抜き取り、持ち帰って遺伝子調査を行うため、ナンバーをつけたビニールの袋に入れて保管した。

「こぼれ落ちた種が発芽するから、いたちごっこ」。抜き取りを行う同センター主任研究員の榊原靖さんは苦笑いを浮かべる。センターでは昨年度から名古屋港周辺でGMナタネの調査を行っており、場所によって個体数にばらつきはあるものの、相当数が生息しているのを確認している(2011年10月の予備調査では、25個体中6個体で農薬「ラウンドアップ」の耐性遺伝子をもっているGMナタネを確認)。

陽性反応に驚きの声があがる

1時間半ほどの野外調査を終えて再び同センターへもどると、参加者は地図とシートを見せ合い、ナタネを見つけた地点や個体数などを確認し合う。持ち帰ったナタネを袋から取り出し、同センター職員の指導を受けながら遺伝子調査にかけていく。

検査には、一般的な農薬である「バスタ」と「ラウンドアップ」について耐性があるかどうかを調べる2種類の試験紙を使う。採取したものからいくつかを無作為に選び、試験管にちぎった葉と水を加えてよくかき混ぜ、2つの細長い試験紙を入れてしばらく様子を見る。試験紙に反応して、赤い横ラインが2本浮かびあがれば陽性。採取したナタネがGMであることを示すわけだ。

試験管を囲み経過をじっと見守る参加者。試験紙に2本のラインが現れると、驚きの声が重なった。今回の検査結果は潮見町で10検体中3つがバスタ耐性に陽性。船見町では12検体中バスタ耐性に陽性のものが6、ラウンドアップ耐性に陽性なのは3検体だった。陽性の出現率は調査地点によっても偏りが見られ、「思ったより低い」「こんなに高かったのは初めて」など、同センター職員も交え、さまざまな感想の声があがった。

GMナタネが生物の多様性に著しい影響を与えた例はまだ確認されていないというが、野外に定着して他の植物を駆逐したり、同じ種や近縁の種と交雑して自然界に拡散したりする懸念はぬぐえない。今後も、GMナタネの分布や他の生き物への影響について継続した調査が必要であり、積極的な情報提供などにより市民の関心を高めていくことが課題となるだろう。