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買い手・売り手・作り手をつなげて CO2排出量削減を目指す 〜おかいもの革命!プロジェクト〜

取材・文 浜口 美穂(写真提供:リサーチャーズクラブ)
  • SDGs

昨今の環境意識の高まりから、環境にやさしい商品を求める消費者は徐々に増えつつあるようだ。しかし、何を買えばよいのか、どこに買いに行けばよいのか分からない。小売店は小売店で、消費者のニーズをつかみきれないでいる。生産者もまた然り。この3者の分断が、消費者の求めていないものを大量生産・大量消費・大量廃棄することにつながってきたのではないかという視点からスタートしたのが「おかいもの革命!プロジェクト」だ。

消費者(買い手)、流通販売者(売り手)、生産者(作り手)がコミュニケーションをとれる仕組みをつくることでCO2排出量を削減しようと、2008年10月から活動している。

おかいもの革命!プロジェクトとは

このプロジェクトは、文部科学省が所管する「独立行政法人 科学技術振興機構(JST)」が2008年10月に採択した5年間にわたるプロジェクト。JSTは研究開発を推進する団体で、同プロジェクトは「地域に根ざした脱温暖化環境共生社会研究開発領域」に属し、正式名称は「名古屋発!低炭素型買い物・販売・生産システムの実現」だが、通称は「おかいもの革命!プロジェクト」* と馴染みやすい。

「おかいもの革命」と謳うだけあって、簡単に言えば、「買い物」を中心に据えてCO2排出量削減を目指すプロジェクトである。買い物はライフスタイルの土台となる行動だけに、買い物を変えることがライフスタイルの変革にもつながると考えられる。

では、どのように買い物を変えるのか。先述したように、消費者(買い手)、流通販売者(売り手)、生産者(作り手)の3者が分断されている現在の関係を改め、対話や相互学習などコミュニケーションをとれる仕組みをつくろうというのだ。プロジェクトでは、最終的にそのCO2削減効果を検証することになる。

具体的な活動として、1)スーパーや百貨店の店舗を舞台に、消費者と流通販売者のコミュニティづくりを行った「リサーチャーズクラブ」、2)心地よい暮らし方を冊子にまとめた「生活レシピ」、3)フェイスブック上で消費者と生産者のコミュニケーションを図った「彩食健美さんのあいちごはん」プロジェクトの3つを紹介しよう。

*おかいもの革命!プロジェクト
ウェブサイト http://okaimonokakumei-pj.com/

「おかいもの革命!プロジェクト」ウェブサイトより

ユニー(株)と協働した「リサーチャーズクラブ」1期の活動

消費者と流通販売者が相互学習や対話を行うことで、CO2削減につながる買い物を進めようと立ち上がったリサーチャーズクラブ。そのメンバーの選定は、2009年3月、アピタ千代田橋店で約5,000人の来店者に向けて行った、「買い物と環境に関するアンケート調査」* に端を発する。そのうちの約700人にメンバー募集の案内を送ったところ、77名の応募があり、様々な年代の18人を選んでリサーチャーズクラブを立ち上げたのだ。応募の動機としては、「お店の人と話したい。伝えたいことがある」「社会に貢献できる」「学びたい」がそれぞれ2割くらいあったという。

リサーチャーズクラブ1期の活動は、2010年10月〜2011年3月の半年間。アピタ千代田橋店を舞台とし、月に一回、メンバーの疑問に店の担当者が答える「学びの場」をつくった。その中からテーマを、「食」「容器包装」「エコ商品・プライベートブランド(PB)商品」の3つに絞り、チームに分けてさらに深掘り。CO2削減につながる買い物を目指し、消費者目線のPOPを作ったり、来店者にアンケート調査を行った。

<食>

愛知県産の旬の露地野菜を来店者に買ってもらおうと、消費者目線のPOPを作成。意外と知られていない保存法やレシピも掲載した。

<容器包装>

店舗でリサイクルの取り組みが進んでいるにも関わらず消費者に知られていないことから、メンバーが独自に調査し、ポスターを作成。その他、簡易包装商品におすすめPOPを掲示したり、店頭で容器包装に関するアンケート調査も行った。

<エコ商品・PB商品>

何がエコなのか分かりづらいことから、メンバーが実際に商品を使ってみた感想を掲載したPOPを作成した。

* 買い物と環境に関するアンケート調査:このプロジェクトが行ったアンケート調査などの結果は、すべてウェブサイトで公表されている。

<食>
<食>
<容器包装>店頭アンケート調査
<エコ商品・PB商品>

高島屋と協働した「リサーチャーズクラブ」2期の活動

リサーチャーズクラブの次なる舞台は、ジェイアール名古屋タカシマヤ。活動期間は、2011年5月〜12月の8カ月間。1期と同様に、まずは百貨店における買い物で疑問に思っていることを出し合い、テーマを「お買い物基準」と「適正包装」の2つに絞った。

テーマごとに百貨店の担当者と意見交換したり、売り場のリサーチや販売員へのヒアリングを実施した後、POPの掲示やアンケート調査を行った。

<お買い物基準>

今回はキッチン売り場を対象とし、5つの基準をつくった。百貨店らしく、「質のいいもの」「長く使えるもの」に焦点を当てた基準だ。売り場にデジタルコンシェルジュを設置し、5つの基準を紹介している。

<適正包装>

百貨店の場合は、遠くから来店したり、贈答用に包装が必要な場合があるので、「簡易包装」ではなく、お客さんが選べる「適正包装」を推奨することに。催事「ナチュラルビューティースタイル展」にて、簡易包装を呼びかけるPOPを掲示したり、アンケート調査を行った。

<お買い物基準>
<適正包装>
<適正包装>

トレイレスをテーマに活動した「リサーチャーズクラブ・プラス」

1期の活動で行った食品トレイに関する店頭アンケートでは、「トレイは不要」の方が多いという結果が得られた。ユニー(株)でも、トレイレス商品をどう展開していくかという課題を抱えていたため、今度は「トレイレス」をテーマとして活動することに。1期の中で意欲的なメンバー数名と事務局メンバーとで「リサーチャーズクラブ・プラス」を立ち上げた。

紙のトレイ(リーフパック)を使用している店舗へ見学に行ったり、実際にメンバーで使ってみた後、消費者目線で引き出した「ゴミが減る」「冷蔵庫の中でかさばらない」「まな板代わりに使える」という3つのメリットを打ち出したPOPを作り、ユニー(株)の店舗でリーフパックの販売実験を実施。2012年 1〜2月には1店舗、2012年6月には6店舗で、POPを掲示することによる販売量の変動とインタビュー調査を行った。

インタビュー調査では、POP自体は、「目立たない」「気付かなかった」という声が多かったものの、リーフパックの購入者からは「ゴミが出ないのが助かる」「かさばらない」などの評価が得られた。

リーフパック(右)とトレイを並べて販売
リサーチャーズクラブのメンバーが実際に使ってみた声を掲載したPOP

消費者と店の距離が近づいたリサーチャーズクラブ

リサーチャーズクラブに参加した佐生(さしょう)祐子さんは、元々、アピタ千代田橋店の利用者。「子どもが生まれてから環境を気にするようになったので、何か勉強できるかなと軽い気持ちで応募しました」という。活動を通じて、商品ができるまでの過程や流通でどのようにCO2削減ができるかなど、多くのことを学び、お店の人と会話したことで、「商品が店頭に並ぶまでにこれだけの人が関わっているんだということが分かり、1個1個の商品に愛着がわきました。環境が身近に感じられるようになったので、これからも地産地消を心掛けるなど、無理なくできることをやっていきたいと思います」と話す。リサーチャーズクラブの活動は終了したが、引き続き、ユニー(株)との関係は続き、環境配慮型のプライベート商品である「eco!on」の審査委員会のオブザーバーとして、消費者の立場で意見を出しているそうだ。

リサーチャーズクラブの活動を通じて、店舗側も、「エコ活動をしているのに伝わってなかった」ことや、「消費者目線がどのようなものか」分かったという。リサーチャーズクラブは、消費者と流通販売者の距離が近づく機会として、一定の成果は上げたようだ。

暮らしからのアプローチ「とっておきの生活レシピ」

買い物以外の暮らしの様々なシーンでもCO2削減を呼びかける冊子「とっておきの生活レシピ 〜ステキなあなたにプレゼント〜」が、2012年12月に発行された。CO2削減を前面に出さず、情緒に訴える心地よい暮らし方の提案で共感を呼び、結果的にCO2削減につながるような内容づくりを心掛けたという。

冊子の構成にも特徴がある。冊子づくりには、名古屋近辺に在住する衣食住の専門家が関わり、その専門家が「読者にやりたいと思わせる」エッセイと、衣食住の「とっておき生活レシピ」を提案。さらに、20代から60代まで93名の女性モニターが2週間にわたりレシピを体験し、その意見も反映させてレシピを完成させた。また、読者に、より身近な共感を呼ぶよう、モニターの声も掲載している。

冊子完成後、2012年12月15日には、今後の活用法や普及方法を考えるワークショップを開催。現在も作っただけに終わらない活用法を検討中だ。冊子は、ウェブサイトからも見ることができる。巻末に「生活レシピ体験1weekカレンダー」がついているので、自分の暮らしをチェックしてみるのもいいだろう。

あいちを食べるコミュニティ「彩食健美さんのあいちごはん」

消費者と流通販売者とのコミュニケーションを進めたリサーチャーズクラブは、参加できる人が限られている。時間と場所を越えたコミュニティをつくれないかということで目をつけたのがフェイスブックだ。ネット上であれば、生産者とのコミュニケーションも容易にとることができる。愛知県農林水産部食育推進課が展開している「いいともあいち運動」と連携しながら、消費者と生産者がコミュニケーションをとることで、地産地消を進め、CO2削減につなげようというのが「彩食健美さんのあいちごはん」プロジェクト* だ。

まずは2012年10月〜12月に2回にわたって、イベント的に料理レシピコンテストを実施した。フェイスブックのコミュニティに参加した生産者は、愛知県弥富市で有機農業をしている小島農園と、自然の原料のみを使った三州三河みりんを製造する角谷文治郎商店。他に、管理栄養士、料理研究家などの専門家、消費者で約20名のグループをつくってスタート。愛知県産の旬の野菜と三州三河みりんを使ったレシピを募集した。レシピ投稿期間は3週間。その期間中に、消費者の疑問に生産者や専門家が答え、その学びを活かしながらレシピを投稿する方法をとった。例えば、消費者からの「根元が赤いほうれん草を最近見なくなったのはなぜ?」という質問に、生産者が「根元が赤いのは東洋種。最近の流行は西洋種なんです」と、品種の特徴や味の違い、おすすめの料理を紹介するなど、交流を進めた。

コンテストの様子は、ネット上** だけでなく、中日新聞の折り込みのフリーペーパー「環境情報紙 Risa」にも2012年9月号から掲載され、2013年1月号には受賞作品が掲載されている。

* 彩食健美さんのあいちごはん: フェイスブックページ
** 料理レシピコンテスト:「彩食健美さんのあいちごはん」のコンセプトや料理レシピコンテストの様子は、ウェブサイトで公表されている。

つながる力に期待

「おかいもの革命!プロジェクト」は2013年9月で終了する。今後はこれまでの調査結果を分析し、このコミュニティを実現するためにはどうしたらいいか、などの要件をまとめる作業に入るという。

この5年間、様々な調査や消費者・流通販売者・生産者のコミュニティに参加した人は多い。少なくとも、これらプロジェクトを進める過程で、参加した人たちの意識は変わったことだろう。個人的な変化がまた新たなつながりを生み、社会を変える大きな力になることを期待したい。