ENVIRONMENTALCOLUMN 環境情報を知りたい方/環境コラム

つながる「人」と「ため池」のネットワーク Part4 〜なごやの生物多様性保全活動2012〜

取材・文 浜口 美穂
  • 自然

2011年9月、「なごや生物多様性センター」が設立されたことを昨年の本サイトで紹介した。保全活動の主体を担う「なごや生物多様性保全活動協議会」とネットワーク(人と情報)・情報集積の拠点となる同センターが車の両輪となり、なごやの生物多様性保全活動が進められている。
2012年5月12日・13日には同センターの開設記念行事が行われ、初めて多くの市民が訪れ、生きもの展示に見入ったり、講座や調査に参加した。これを皮切りに今年も、協議会の8つの部会* おのおのに、盛りだくさんの調査や保全活動が予定されている。

センターへ行ってみよう!

設備と体制を整えてきたセンターがやっと市民にお披露目されたのは、2012年5月12日・13日の開設記念行事だった。

市長や多くの来賓も出席した式典の参加者は約230名。地元の御幸山中学校のブラスバンド演奏や、港区にある「ビオトープ田んぼ」で収穫したもち米を使って餅つきも行われた。

センター1階では、協議会の構成団体などのパネル展示や魚類・水草・カメ類などの「なごやの生きもの」展示、屋外では、市民活動団体がクラフト・竹楽器づくりやチョウの標本づくりなど、多彩な出展を行った。

センター2階では植物や昆虫の生物多様性についての講座、また、センターの隣を流れる植田川では、子どもたちが実際に川に入り、カメや魚の捕獲と観察を行う調査体験をした。

5月12日に開催されたカメの調査体験には、30名の小学生と保護者が参加。日頃から植田川の継続調査を行っている名城大学の学生も加わって、わなにかかったカメを手に、種類や雄雌の見分け方を解説。子どもたちもカメを触りながら、「年は分かるの?」「何を食べるの?」などの質問をたくさん投げかけた。陸に上がってから、在来のニホンイシガメ・クサガメと外来のミシシッピアカミミガメの数を確認。外来カメが圧倒的に多く、センター長でカメの専門家である矢部隆さんから、「みんなもカメを飼うことがあるかもしれないけど、とにかく放さないでね」というメッセージが伝えられた。

* なごや生物多様性保全活動協議会の8つの部会:「アライグマ対策部会」「ミシシッピアカミミガメ対策部会」「外来スイレン対策部会」「熱田神宮の生物調査と外来生物対策部会」「ため池部会」「広報部会」「生きもの田んぼ部会」「生物情報データベース部会」http://www.bdnagoya.jp/

ビオトープ田んぼ(2011年)
このもち米を使って餅つき。つき上がったお餅は参加者に振る舞われた
なごやの生きものが大集合!
ワニガメも

「外来生物も一つの命。大切に食べてあげましょう」という趣旨で、ブラックバスの試食コーナーも
カメが身近に感じられた調査体験
13日には魚の捕獲と調査体験も行われた

今年も市民調査員の力を結集

2012年6月末現在、「なごや市民生きもの調査員(市民調査員)」には約290名が登録されているという。調査員は、「池干しによる外来生物除去」や「なごや生きもの一斉調査」をはじめ、様々な調査に参加している。2011年11月に天白区の大根池で行われた池干しには地元住民を含めて約600人が参加。その様子はこのサイトでも紹介した。

「なごや生きもの一斉調査」の目的は、(1)多くの市民に身近な自然や生きものに親しみ、関心を持ってもらうきっかけにすること、(2)データベースに登録し、なごやの生きものに関する基礎資料として活用することである。2011年度の一斉調査の対象は野鳥(「なごや丸ごと鳥さがし!!」)。2012年1月29日に、市民や専門家あわせて約600人が参加して45カ所で調査が行われ、91種類の野鳥が観察された。いつもならよく見られるツグミや渡り鳥などの野鳥が少ないという全国的な傾向が名古屋市内でも確認されたり、藤前干潟では最も多くの種類が観察され、貴重な渡り鳥の中継点となっていることが実証された。さらに、初めて野鳥観察をしたという参加者から「身近にこんなにたくさんの鳥がいるとは知らなかった」「いつも見かける野鳥の名前が初めて分かった」などの感想が寄せられ、前述した(1)の目的も達成できたようだ。

2012年度の一斉調査の対象は陸貝。陸貝といってもピンとこないかもしれないが、カタツムリはその代表格。名古屋城外堀や相生山緑地など市内各所で生息が確認されているヒメボタルの餌となっているのも陸貝である。調査は10月6〜8日に、市内30カ所で実施される予定だ。

また、池干しは、守山区の竜巻池(小幡緑地内)で11月中旬に予定されている。さらに、今後の池干し候補地として10カ所のため池* で、2012〜2013年の2年にわたり、外来生物や希少種等の生息・生育調査を行う予定である。

一斉調査および池干しの案内は、センターのウェブサイト** に掲載されるほか、市民調査員にはメールなどで連絡が届く。興味がある人は事前に、市民調査員に登録してはいかがだろう。

* 10カ所のため池:茶屋ヶ坂池、猫ヶ洞池(千種区)、神沢池、東ノ池(緑区)、二ツ池、竜巻池、安田池(守山区)、牧野ヶ池、塚ノ杁池(名東区)、戸笠池(天白区)
** なごや生物多様性センターウェブサイト

約600人が参加した「なごや丸ごと鳥さがし!!」
約600人が参加した「なごや丸ごと鳥さがし!!」

昆虫少年・少女が育つ場所として

その他の事業として、アライグマ・ミシシッピアカミミガメ・外来スイレン対策は、2012年度も引き続き、調査・捕獲(駆除)および希少種の保護と防止策を検討する。また、熱田神宮の環境生物調査や、地域住民による保全活動の支援も継続して実施する。

ビオトープ田んぼでは、今年も6月2日に地元の幼稚園児を招いて田植えが行われ、たくさんの生きものとの出会いもあったようだ。7月には草刈り体験と生きもの観察会、10月には稲刈りが予定されている。

さらに、今年8月20〜26日には夏休み特別企画として、「なごや生きものいきいきウィーク」が開催される*。テーマは「夏休みの宿題を応援します!」。屋内では、生きもの講座や展示、屋外では、コウモリ探し・昆虫の灯火採集など調査体験。そして、26日(日)には、小学校高学年を対象に、バスで猪高緑地に行って昆虫と植物の採集をし、午後からはセンターで標本づくりと、まさに子どもたちの夏休みの自由研究になりそうな企画が目白押し。センターは、昆虫少年・少女が育っていく場所でもあるようだ。

225万人都市なごやにもまだまだ多くの在来生物が生息・生育しているが、一方で外来生物が著しく増加している。なごやの生物多様性を守り、人を育てる拠点として、センターが市民に認知され、多くの情報と人が集まる場所になることを期待している。

2012年、ビオトープ田んぼの田植え
ビオトープ田んぼには多くの生きものがすむ