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なごやの街路樹の可能性を考える

取材・文 浜口 美穂
  • まち
  • 自然

2010年12月18日に中区役所ホールで「なごや街路樹大討論会」(以下、討論会)が開催された。事前に応募した市民12人が街路樹について意見を発表したり、「なごや緑の基本計画2020」* の検討委員と河村市長によるパネルディスカッションが行われる中、劇団シンデレラ** によるミニミュージカルも。テーマは街路樹。紅葉を愛でる市民と落ち葉の清掃に苦労する住民の間に挟まれて苦悩する土木事務所の職員の姿が演じられ、今までにない方法での街路樹の問題提起になった。
広い道路が縦横に走る名古屋では、みどりのまちづくりにおける街路樹の役割も大きい。身近にありながら見過ごしがちな街路樹に目を向け、その可能性を考えてみたい。

なごやの街路樹の歴史

明治20年(1887)、名古屋駅の開業に合わせて笹島街道(現・広小路通)が開設され、沿道にシダレヤナギが植えられた。この並木が名古屋初の街路樹とされている(現在はケヤキ並木)。その後、市街地の開発拡大で街路樹の植栽も進み、プラタナス、イチョウ、アオギリ、トウカエデ、クスノキなど多様な樹種が植えられたという。

昭和になり、戦災による火災や燃料としての伐採で多くの街路樹が消失。昭和30年代以降に都市の早期緑化を目指して植えられたのは、トウカエデやアオギリなど成長の早い木だった。そして、昭和50年代以降になると、ハナミズキやサルスベリなど花が咲く樹種が好まれ、また、この地方固有の樹種であるヒトツバタゴ(別名、ナンジャモンジャ)やシデコブシも植えられるようになった。樹種には時代の要求が表れているのだ。

*なごや緑の基本計画2020:2020年を目標年次とする市の緑の基本計画。緑地の適正な保全や緑化の推進に関する計画が定められている。2011年3月末に策定予定。4月以降、名古屋市ウェブサイトよりダウンロード可。
*劇団シンデレラ:http://dozira.net/wp/

昭和33年頃、開設されたばかりの久屋大通。公園部(道路の中央帯)にクスノキ、歩道部にケヤキが植えられた(提供:名古屋市緑政土木局 緑化推進課)
街路樹大討論会。かわいい劇団によるミニミュージカルも(提供:名古屋市緑政土木局 緑化推進課)

見る楽しみ、関わる楽しみ

現在の街路樹の本数は、高木* が90種で約10万5千本、中低木を合わせると235種で280万本を超える。高木の本数トップ5は、1位から順にトウカエデ、イチョウ、ハナミズキ、ナンキンハゼ、ソメイヨシノ。やはり、紅葉や花が美しい木ばかりだ。落葉樹なので、夏は心地よい木陰をつくり、冬には暖かい太陽の日差しを地表に届けてくれる。前述の討論会の開催にあたり集計されたアンケートによると、多くの市民が街路樹で季節感を味わっていることが分かる(図1)。

2010年、名古屋開府400年の記念事業として行われた「夢なごや400」では、市民から「名古屋の魅力・財産」を募集し、1622件の応募があった。その中には、守山区森孝のソメイヨシノ並木や東区泉のオオカンザクラ並木、熱田区大宝のヒトツバタゴ並木など、街路樹をなごやの財産とする複数の応募があったという。

身近な街路樹を見て楽しむだけでなく、関わる楽しさを感じている市民もいる。地元の住民が中心となった「街路樹愛護会」だ。根元の除草や落ち葉の清掃、夏のかん水、街路樹の植樹桝に花を植えるなどの活動を行っている。2010年3月末日現在で市内各所に486団体がある。

* 高木:高さ3m以上の木。中木は高さ0.6〜3mの木。

<図1> Q 名古屋市内の街路樹について、どのようにお感じですか。(複数回答可、回答数975)
討論会では、街路樹の写真コンテストも行われた。最優秀賞は、平和公園のトウカエデ並木。撮影は岩崎信与さん(提供:名古屋市緑政土木局 緑化推進課)
桜通のイチョウ並木。1995年に市の都市景観重要建築物等(樹木)に指定された(提供:名古屋市緑政土木局 緑化推進課)
守山区森孝のソメイヨシノ並木(雨池公園南)(提供:名古屋市緑政土木局 緑化推進課)

熱田区大宝のヒトツバタゴ並木(名古屋国際会議場西側)。この地方の固有種で、4月末から5月上旬にかけて雪をかぶったような白い花が咲く(提供:名古屋市緑政土木局 緑化推進課)
街路樹愛護会の活動(提供:名古屋市緑政土木局 緑化推進課)

街路樹は先人から受け継いだ財産

実はなごやの街路樹は全国的に誇れるもの。単位面積あたりの街路樹の本数(街路樹密度)が政令指定都市の中で第1位なのだ。道路空間が広いので、枝ぶりの良い緑にあふれた並木道もある。

討論会のパネリストのひとりである東京大学大学院教授の石川幹子氏は、「名古屋の街路樹日本一には理由がある。それは先祖がしっかりとまちづくりをやった結果。市民はこれを誇りに感じ、財産として認識してほしい」と語った。大正15年の都市計画で、緑の拠点になり得る公園とそれにつながる広い街路を配置していたというのだ。つまり最近よくいわれるようになった「緑のネットワーク」の基盤が、すでにこの時代に考えられていたことになる。

折しも昨年は開府400年。清洲越しでつくり上げた基盤割の城下町に始まり、久屋大通の100m道路に象徴される戦災復興のまちづくりなど、どうやら、なごやはまちづくりに対する意識が高いようだ。先人から受け継いだこのまちの基盤を活かすのは、現代の私たちである。

大津通のケヤキとクスノキの並木。名城公園と街路樹の緑が一体となり、風格ある景観をつくりだしている(提供:名古屋市緑政土木局 緑化推進課)

街路樹の課題

しかし、課題も多くあり、広い道路空間がありながら、そのポテンシャルを活かしきれていないのが現状だ。ケムシなどの害虫や落ち葉、地上まで根が盛り上がり舗装をガタガタにする問題、沿道の看板や街路灯、電線など構造物との競合の問題もあり、強剪定されてしまう街路樹も少なくない。

落ち葉は住民の苦情が多い問題のひとつ。解決するためには、道路の清掃のあり方を行政と住民が一緒に考えていく仕組みをつくる必要がありそうだ。討論会のパネリスト、名古屋市立大学大学院教授の向井_史氏は、「街路樹問題を考えることは私たちの生活を見直すこと。街路樹は氷山の一角で、その下には、公共的な空間をどのように考えるかが存在する。自分のモノか、その他のモノかの『二分法』では、公共空間はだめになり、貧弱なまちになってしまう」と話す。

落ち葉を避けるため、紅葉前に剪定される街路樹もある(提供:名古屋市緑政土木局 緑化推進課)
「根上がり」でガタガタになった舗装の修繕前(提供:名古屋市緑政土木局 緑化推進課)
「根上がり」でガタガタになった舗装の修繕後(提供:名古屋市緑政土木局 緑化推進課)
強剪定で縮こまったイチョウの木(提供:名古屋市緑政土木局 緑化推進課)

未来の街路樹をつくるのは誰?

公園や街路樹などの緑は、先にも挙げたように、美しい景観をつくり、人工的な街並みに彩りや季節感を与える役割のほかに、ヒートアイランド現象* の緩和、大気汚染物質や二酸化炭素の吸収など、様々な役割を果たしている。そして、これらの機能は、緑がまとまればまとまるほど、効果が高くなるといわれる。

公園の既存の緑は可能な限り守り、その「公園=緑の拠点」を結ぶ道路を緑陰街路** にすることで、大正15年に計画された構造的なネットワークを「緑のネットワーク」として充実させることができる。今後10年の「なごや緑の基本計画2020」では、これが具体的なリーディングプロジェクトとして位置づけられている。

市域の約18%は道路。街路樹の果たす役割は大きい。私たちがどんな暮らしをしたいのか、どんなまちに住みたいのか考える、その延長に街路樹もある。行政任せにせずに自分たちの問題として捉えながら、まずは街路樹に目を向けていきたい。

* ヒートアイランド現象:郊外に比べて都市部の等温線が島状に浮き上がり、限られた区域が高温になる現象。樹木は、葉から水が蒸散するときに周りの熱を奪うことで、気温を下げるはたらきをもつ。
** 緑陰街路:樹冠がつながり、車道や歩道を被ったり、沿道の建物の緑化などと一体になり、緑のボリュームがある街路。

(提供:名古屋市緑政土木局 緑化推進課)
(提供:名古屋市緑政土木局 緑化推進課)