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つながる「人」と「ため池」のネットワーク Part2〜新しいステージへ向けて〜

2009年2月、本サイトでレポートした「名古屋ため池生き物いきいき計画事業」* は2008年度から2010年度までの3年間の事業。先回は、事業立ち上げの経緯や初年度の活動を紹介したが、今回は、その後の活動について紹介したい。

市内10カ所のため池における生物調査や池干し** は、各池周辺で自然保護活動に取り組む「守り人」、市民調査員***、専門家、関係する行政機関が連携して実現した。その協働のパワーで、名古屋初の貴重な発見や外来種の駆除の効果も確認されたという。3年間で広がった人のつながりと活動の成果は、今後どこへ向かうのだろうか。

掲載日
2010-12-20
取材・文
浜口 美穂
<2009年度> 多様な目で生物調査

2009年度に市内10カ所のため池で繰り広げられた調査は延べ195回、参加者は延べ3,300人に及ぶ。調査した生物は、池の中だけでなく、周辺の陸地に生息する生物も対象とし、「植物」「昆虫類」「プランクトン類」「魚類」「爬虫類」「鳥類」「哺乳類」「貝類」「甲殻類」「両生類」の10項目。幼児から年配の人まで幅広い年齢層の市民調査員が参加し、多様な目できめ細かく探すため、たくさんの発見があったという。何気ない道端にたたずむ生きものを見つける名人の幼児もいたそうだ。年代や所属は違っていても、「生きもの好き」という共通点があるからか、どの現場も和気あいあいとした雰囲気。ほかでは得難い交流も生まれたようだ。

ここでは、特筆すべき調査結果を紹介しよう。

【植物】湿地には貴重種が残っている
水面を含めたため池全体の植物数に占める帰化植物(外来種)の割合「帰化率」を調べたところ、周辺に森がないため池は帰化率が高いことが分かった。例えば、住宅街の中にぽつんと残されたコンクリート護岸の篭池は、10の池の中で一番帰化率が高く47%。都会では一般的に帰化植物が3割侵入しているといわれているので、それと比べてもかなり高い数字だ。一方、森があり、湿地を水源に持つ八竜新池の帰化率は5%だった。そして、その湿地にはトウカイコモウセンゴケなど東海丘陵要素の貴重な植物が残っている。

【昆虫類】名古屋初発見のエサキアメンボ
昼間の調査と夜間の灯火採集調査を実施。環境省と愛知県のレッドリストに記載されているエサキアメンボを名古屋で初めて確認したほか、愛知県や名古屋市のレッドリストに記載されているヒメタイコウチなど、国・県・市のレッドリストに挙げられている生きものが14種見つかった。

【プランクトン類】国内2番目の発見
塚ノ杁池では、高山市に次ぐ国内2番目の発見になるヒダケブカミジンコ、隼人池では、矢作川河川敷(安城市)に次ぐ国内2番目の発見になるケンザンイカダモ(緑藻類)が確認された。

【魚類】外来種に占領されたため池
どの池でも、ブルーギル、オオクチバス(ブラックバス)という外来種が優占種となり、次いで国内移入種のコイも優占種になっていた。モツゴ、タモロコ、ナマズ、ヨシノボリといった本来のため池に生息する魚類も各池で確認されたが、一見すると本来のため池の姿を残しているように見える塚ノ杁池では、ブルーギル、オオクチバスしか発見されず、池の中は完全な外国状態。一方、名古屋城外堀では、モツゴ、スジエビ、オイカワも多く捕獲された。これは、ヨシ原があることや、木曽川から工業用水が供給されていることに由来しているようだ。

【爬虫類】外来種と在来種の交雑個体を発見
ため池を代表する爬虫類といえばカメ類。すべての池で外来種のミシシッピアカミミガメが5割以上を占め、外来種のハナガメと在来種のニホンイシガメあるいはクサガメとの交雑個体も複数発見されている。

【鳥類】絶滅危惧種のコアジサシを発見
環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定されているコアジサシを3つの池で発見。「川の宝石」と呼ばれるカワセミは8つの池で確認された。

【哺乳類】名古屋城外堀に特異的な大きさのコウベモグラ
名古屋城外堀では、他の地域に生息するコウベモグラの1.5倍の大きさの個体が多数確認された。また、以前から目撃情報のあった八竜新池のほかに、東山新池でも初めて特定外来生物**** のアライグマが確認され、市内での分布を拡大していることが予想される。

*名古屋ため池生き物いきいき計画事業
協働組織「名古屋ため池多様性保全協議会」が主体となり、環境省の補助事業(生物多様性保全推進支援事業)を活用して実施。
**池干し
この地方では「かいぼり」「かいどり」という呼び方も。ため池が灌漑に使われていたころ、農作業が終わる冬になると、池から水を抜き、1カ月ほど干して、底にたまったヘドロや土砂を取り除いたり、堤防や樋の点検修理を行っていた。このとき捕らえたコイやフナ、モロコなどは冬場のタンパク源として食されていた。近年は、外来生物の駆除を目的とした池干しが注目されている。
***市民調査員
2010年度までに370人を超える登録があった。
****特定外来生物
海外起源の外来種で、日本の生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、またはその恐れのあるもの。「外来生物法」によって、飼育や運搬、輸入、放流などが規制されている。

隼人池の池干し

昭和区の住宅街にある隼人池の池干しは2009年10月31日に行われた。地元住民、地元の八事小学校の児童、市民調査員など市民が約300名、行政などの関係者が約60名、見学者約500名で、合計約860名が参加。子どもたちもごみを拾ったり、泥だらけになってタモで魚などを捕獲。プールに運んで外来魚と在来魚に選別をし、最終的にブルーギル、オオクチバスなどの外来魚490キログラムを駆除した。

 そのほか、海から遡上するモクズガニ1個体と多数のテナガエビも捕獲。住宅街の池でも生物が海と行き来していることが確認された。また、カメは、竹の棒やタモの柄で泥底をつついて探したり、タモ網で捕獲。ミシシッピアカミミガメのほかに、在来種のニホンイシガメの子ガメ3頭も捕獲した。どうやらここで繁殖しているようだ。在来カメの繁殖が確認されたのは隼人池だけ。今後のモニタリング調査で繁殖の要因が明らかにされることを期待したい。

<2010年度> 池干し後のモニタリング調査

池干しは、2007年度に東山新池、2008年度に篭池、2009年度に隼人池で行われ、放流されたコイも含めて多くの外来種が駆除された。

池干し後のモニタリング調査は、2010年6月〜7月に行われ、3つの池とも在来のモツゴが大繁殖。池干し時には見られなかったフナ類の幼魚も確認された。外来魚を駆除したことによって、今までは捕食されてきた在来の幼魚が育ったのだ。また、篭池ではスイレン3.2トンを除去した結果、ヒメガマが復活。池干し時には見られなかった在来のヒメタニシが多数採集された。稚貝も含まれていたことから繁殖しているようだ。このように、池干しの効果が大きいことが改めて認識された。

さらに、隼人池の近くの八事小学校では、モツゴの産卵床を受け入れ、孵化させて育成中。また、2009年にタネを採った東海丘陵要素のマメナシを育苗し、2010年11月に池のそばに植樹した。地元の人が関わることで、このような独自の活動につながったことは大きな成果といえるだろう。自然を守るには継続的な調査や手入れが必要。池干しをきっかけに地元の自然にまなざしを向け、「ふるさとの自然は自分たちで守る」という活動につなげることは、この事業のねらいの一つでもある。

外来性スイレンの除去

2010年3月に東山新池、7月に塚ノ杁池で外来性スイレンの除去活動が行われた。外来性スイレンは繁殖力が強く、やがて水面を埋めてしまうと、光が水面下まで届かず、在来のヒシやガガブタなどの水草が育たない。また、水中の酸素濃度も低下して、魚などにも影響を与えるのだ。

東山新池では約300平方メートルの試験区を設け、遮光シートで覆うことで光合成を阻害し、株全体の成長を抑制する方法をとった。半年後の9月に確認したところ、遮光シートの下のスイレンの根茎は腐っていたという。

塚ノ杁池は40名が参加し、胴長で直接池に入ったり、ボート上からスイレンの茎を抜き取った。約3時間の作業で3.2トンのスイレンを除去したものの、これは池全体の2%にすぎない。しかも、根こそぎ除去できなかったため、1カ月後には復活していた。一方、2×2メートルの遮光シートをかぶせたところは新たに増えてこなかったことから、効果が大きいと考えられる。何層にも根を張っているため、簡単には抜き取れないということも分かったので、長期の継続した作業が必要だ。

雨池の池干し

守山区の雨池の池干しは2010年11月6日に行われた。2006年のウォーターレタス* の除去作業やコイ等の食害で、ヒシやガガブタなど在来の水草はほぼ絶滅したものの、ヒメタイコウチ、コオイムシ、ヒメボタルが息づき、隣接する大森北小学校や雨池ホタルの会など、守り人がたくさんいるため池だ。

参加者は過去最高の約1,000人。特徴は、スタッフとして多数の地元団体が積極的に関わったこと。池干し実行委員会の3分の2が地元住民で、名古屋ため池多様性保全協議会のメンバーを上回ったのは今回が初めてのことだ。

隼人池と同様に小型地引き網で魚などを追い込みながら、タモで捕獲。子どもたちも泥だらけになって魚を追い、大きなコイと格闘した。最終的に駆除した外来魚は、オオクチバス、ブルーギル、ソウギョ、コイなど420キログラム。中には1メートルを超えるソウギョ2匹がいたという。

全体的には貧相な生物相だったとはいえ、大型の二枚貝で水質の良い砂泥に生息するヌマガイや、希少な水草のヒルムシロが見つかったことは成果といえる。ヒルムシロは、市内の自生地が3カ所確認されているだけだったが、今回雨池で見つかったことでさらに調べてみると、上流3キロメートルで市内4カ所目の自生地が確認された。

産卵場所や稚魚などの隠れ家になるヨシ原は、コイやソウギョによると思われる食害跡が見られた。今回の駆除で、ヨシ原が保全され、ヒルムシロや元々生息していたヒシが復活するか、また捕食されていた在来魚や水生昆虫などが復活するかどうか、2011年6月頃にモニタリング調査を実施する予定だ。

*ウォーターレタス
ボタンウキクサの通称。特定外来生物に指定されている。繁殖力が強く、水面を覆い尽くすことで、他の植物の光合成を阻害する。
今後の展開

環境省の補助事業としては今年度が最終だが、2011年度は、外来種の駆除を主体とした新事業として、再び環境省に申請する予定。さらに、この協働の仕組みを引き継ぎ、環境局生物多様性企画室を拠点にした同様の名古屋市独自の事業を行い、今後は市内全域に拡大する計画もある。いずれはため池だけでなく、名古屋の生物多様性を保全する全般的な事業に発展させたいという。

ため池の継続調査や急速に分布を拡大しているアライグマなど外来種駆除をはじめとし、370人も集まった市民調査員のモチベーションを再び上げるにはどうしたらよいか、現在の協働の体制を強固にするには、など課題は山積。次のステージに向けて議論が始まったところだ。

新しい展開の形が見えてきたころ、このレポートのPart3を書いてみたい。

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