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特集・なごやエコ最前線

持たない生活〜自転車・かさ・車〜

これまで車や自転車は、持っていることで便利な生活を保証する存在だった。しかし、維持費がかかるし、置き場所も必要だ。マンションでは自転車ですら駐輪費用がかかる時代になり、都会にすむ人にとっては便利だけれど、やっかいな存在ともなっている。

そんな時代を反映してか、最近、車や自転車を自分で所有しなくとも便利に使える事業が始まっている。持たない生活への第一歩をサポートしてくれる、さまざまな試みを紹介したい。

掲載日
2010-03-31
取材・文
吉野 隆子
自転車を持たずに自転車に乗る生活

環境省や国土交通省はCO2排出量の削減を目的に、自転車の利用促進に力を入れてきた。自転車の交通分担率は、2000年代初めの15%から最近は18%に上昇している。

自転車を使い始めてみると、名古屋の街は自転車で動き回るのがちょうどいいと実感する。CO2削減はもちろんだが、それ以前に使い勝手がいい乗り物だ。

しかし、やっかいなのが置き場所だ。駅に置いて職場や学校へ通う人は多い。名古屋駅周辺は2008年5月に半径500m以内が放置禁止区域になり駐輪は有料化されたが、いまも駐輪スペースは絶対的に不足している。また、職場が変わり、学校を卒業すれば、最寄駅からの通勤・通学に使われていた自転車の多くは、放置自転車と化してしまう。マンションでは駐輪場が狭い。自転車には乗りたいけれど乗りづらいご時世なのである。

そうした中、名古屋に合った自転車の利用方法として受け入れられつつあるのが、市内の放置自転車を活用したコミュニティサイクル「名チャリ」だ。放置自転車を活用し、複数設置した専用の自転車貸出・返却場所「ステーション」であれば、どこでも自転車を貸出・返却できる交通システムである。自転車を持たずして、自転車が利用できる。名古屋市と名古屋大学大学院の竹内研究室名チャリプロジェクトチームが行ってきたプロジェクトだ。放置自転車を減らして生かしつつCO2も削減できる試みとして社会実験が重ねられ、2009年冬、3年目を迎えた。

定着した名チャリプロジェクト

「いってらっしゃい、気をつけて」

手続きが終わって自転車に乗って出かけて行く人たちに、スタッフが呼びかける。ステーションでの一日の利用客が最も多い名古屋駅近くのモード学園スパイラルタワーズ前のステーションには、借りる人、返す人が次から次へとやってきて、「いってらっしゃい」の声と「おかえりなさい」の声が交差する。

平日ここにやってくる人の多くは、通勤に名チャリを使う人。休日は栄や大須に遊びに行く若い人がやってくる。平均すると、1日約600人がこのステーションを利用するという。

3年目を迎えた名チャリ社会実験は、これまでより期間が長くステーションも増え、利用しやすくなったためだろうか、リピーターが非常に多いのに驚かされる。カードを差し出して自転車を受け取り、ステーションを出ていくまで1分かかるかどうかという、手なれた様子の人が多い。

津島から4人で遊びに来たという学生たちは、通りかかって名チャリを知り、この日登録。これから栄に遊びに行くという。「便利っすね。また利用したいです」

友人と訪れた女性は、「テレビで見て知ってたし、名古屋大学の学生なので友だちに『乗ったよ〜』って話したいから」と登録、こちらも栄までの利用だという。名チャリを着想した名古屋大学がかかわっていることもあり、学校でも話題になっているとのこと。

利用には登録が必要だが、何度でも利用できる。「1台の自転車をみんなで共有し利用する」のが基本の考え方。2009年は放置自転車を再利用して300台を用意した。借りて、乗って、返して、必要ならまた借りて、乗って、返す、という形で、短い時間、短い距離の移動に使う。

初期には郵送での登録も受け付けていたが、後半はステーションおよびEXPOエコマネーセンターなどでの登録のみとなった。当初用意した3万枚の会員証は12月初旬に在庫がなくなり、その後は仮会員証で対応した。登録には身分証明証が必要だが、名前、住所、電話番号などに加え、自転車利用についての簡単なアンケートに応えるだけなので、2〜3分でできる。手続きには専用の携帯電話を利用。このデータが5分ごとにHP上に反映され、ステーションごとの自転車の台数がわかる仕組みになっている。

通勤時間帯に名古屋駅付近のステーションをチェックしてみたら、軒並み0台ということも。利用率が高いのは何よりだが、あてにしていて乗れないのは困る。利用が集中する時間に、ステーション間の自転車台数をどう予測し調整するかも今後の課題のひとつとなるだろう。

今回の名チャリは、市内中心部にステーションを30か所設置された。ステーションとは名チャリ専用自転車の貸出や返却を行う場所で、どのステーションで借りても返却してもいい。ただし、途中に止めて買い物などをすることは、放置行為にあたるので認められない。あくまでもステーション間のみの利用が許されている。

名チャリが目指すもの

名チャリプロジェクトが目指しているのは次の3つ。

1)放置自転車の削減:自転車の「所有」から「共有」へ転換を促す
2006年の内閣府による調査では、駅周辺の放置自転車は名古屋駅が日本一だった。名古屋市は2007年度には年間約8万台の放置自転車を撤去していて、そのうち約3万台を廃棄していたという。2008年度には放置が多かった地区でさまざまな対策をとった結果、約3万4千万台まで減っている。名チャリは自転車の「所有」から「共有」へ転換を促し、放置自転車を減らす提案でもある。

2)CO2排出量の削減:車から「公共交通+名チャリ」への転換を促す
これまでおこなってきた社会実験での利用者や市民へのアンケートでは、名チャリに対する需要は極めて高い。
名古屋市内の交通は自動車依存度が高く、CO2の総排出量の約25%を自動車交通が占めているという。車での移動が「公共交通+名チャリ」へと転換していけば、CO2排出削減に直結していくはずなのだが、残念なことに、アンケートで名チャリがなかった場合に代わりに使うものとして挙げられていたのは、徒歩45.5%、地下鉄43.5%、バス6.6%、車1.5%。名チャリの車利用者への浸透は、まだわずかであることがわかる。

3)まちのにぎわいの創出:都心部での移動の幅を広げ、まちの活性化に貢献する
2007年は5か所のステーションを設け13日間で約1400人が登録、2008年はステーションが10か所、3日間だけだったこともあり登録者は約750人にとどまっていた。

2009年は当初予測の5千人を大幅に上回り、10月20日の開始以来1日約500人のペースで増え続け、最終日の12月18日までに約3万1千人、利用回数は約9万9000回を数えた。こうした数字から、名チャリが定着しつつあることがうかがえる。早い時期に通年利用できるような事業化を期待したいが、それには名古屋市の関わりが欠かせない。

他の都市での取り組み

他都市での動向はどうなっているのだろうか。

富山市では全国初の自転車共同利用システム「アヴィレ」が3月20日に始まっている。「アヴィレ」とはフランス語でミツバチを表す「アベイユ」と街を表す「ヴィル」から生みだした造語で、ミツバチが花から花に移るように自転車が市街地で活発に利用される姿をイメージしているという。

中心市街地に約300メートル間隔で15か所のステーションを設け、専用の自転車150台を配置、GPS(全地球測位システム)装置をつけた自転車をコンピューターで管理する。パリで行われている「ヴェリブ」という自転車活用システムを導入したもので、名チャリ同様、ステーションで借りてステーションに戻す。乗った場所とは別のステーションで降りることも可能だ。

富山市では2009年12月、1973年に廃止された路面電車の線路を敷きなおし、次世代型路面電車LRTが運航する市内電車環状線が復活している。富山市は「環境モデル都市」として、この環状線と共同利用自転車を併せ、車がなくとも快適に生活できるコンパクトシティの実現を目指している。

また、環境省はコミュニティサイクル導入を検討するための社会実験を2009年度に公募、2事業が選定された。JTB首都圏は東京都千代田区の大手町・丸の内・有楽町地区で10月2日〜11月30日に社会実験を実施、今後につなげたいとしている。札幌では7月28日〜9月11日にドーコンとNTTドコモが共同で携帯電話のGPSを利用した社会実験を実施した結果、今後も協力しながらサイクルシェアリングを全国へ広げることになった。2010年度も6月1日〜9月30日に札幌市内で社会実験を行うことになっている。

車で10分走ったとき排出されるCO2は約1〜2kg。1日10分車の利用を控えると、年間365〜730kgのCO2を削減できる計算になる。テレビを見る時間を1時間減らして削減できるのは年間13kgという数字と比較しても、車を使わないことがCO2削減に直結していくことは明らかだ。公共交通機関から降りたら、共有自転車に乗り換えて目的地へ。そんな風景が広がって当たり前になれば、自然とCO2削減にもつながっていくことだろう。

ビニール傘のレンタル

日本は世界一の傘大国なのだそうだ。1人当たりの所有本数、市場規模とも世界一だという。年間出荷本数は約1億3,000万本で、日本の人口とほぼ同じ。そのうちビニール傘の本数がどれくらいなのかは1億3000万本とする資料があれば、5000万本とする資料もあり、はっきりした数字はわからない。しかしいずれにしても、非常に多いことだけははっきりしている。この本数の多さは、言うまでもなく急な雨のときあわててビニール傘を買う人が多いためだろう。「そんなとき傘を気軽に借りられたら」という思いは誰もが一緒なのだろう、2種類の傘のレンタル事業が試みられている。

ひとつは学校が行う学内関係者だけの閉じたシステムで、金沢大学や駒澤大学などで行われている。もうひとつは市民を対象にした開いたシステム。東京都渋谷区で2007年12月から行われているシブカサは、企業・店舗・個人からビニール傘(無色透明もしくは半透明の白)を寄付してもらい、ちょっとオシャレにデザインして、再び渋谷の街で無料レンタル傘として貸し出すプロジェクトだ。提携しているカフェや書店に置き、誰でも借りることができる。返却はすべての提携店で可能。提携店に返すと、アースデイマネーという渋谷で使える地域通貨50r(50円相当)がプレゼントされる。

シブカサのHPには、雨が降ったときにその地域で消費される傘の本数の推定式が掲載されている。名古屋市にあてはめて計算してみた。

A×(B÷C)÷D=130,000,000×(2,257,249÷127,510,000)÷173.1=13294
A:傘総生産数 1億3000万本/日本洋傘振興協議会推定
B:名古屋市人口 2,257,249人(2010年3月1日現在)
C:日本の総人口(127,510,000人/総務省統計局人口推計月報2009年10月1日)
D:年間降水日数(173.1日/気象庁データから 1971年〜2000年の平均値)

名古屋市で雨が降ったときに購入される1日当たりの傘の本数は、13,294本ということになる。これだけたくさんの傘が買われているのなら、レンタルしたい人も多いのではないだろうか。

なごやかさ

冒頭でご紹介した今年の名チャリのステーションには、ビニール傘のラックも置かれていた。第4回の社会実験となるレンタル傘プロジェクト「なごやかさ」である。こちらは名古屋工業大学伊藤孝紀研究室が運営するプロジェクトで、名チャリ同様、放置されたり不用になった傘を募って再利用したものだ。ビニール傘には「なごやかさ」のロゴマークのシールを張り、専用ラックを用意、名チャリのステーションで150本の傘を無料貸し出しをする。傘にはシリアルナンバーを付けてあるが、貸し出し時には記録を付けず、利用者のモラルを信じて貸し出しを行なった。

併せて行った聞き取り調査では、制約なしでもデポジット制でも70%近くは「利用する」と答えたが、会員登録や連絡先記入を求めた場合は75%が「利用しない」と回答した。返却については特典付き、もしくはデポジット制なら確実に返却とする答えがそれぞれ70%を超えた。今回の社会実験の返却率が60%に届かなかったことと考えあわせ、ビニール傘のレンタル事業には、何らかの特典、もしくはデポジット制度の導入が不可欠だと思われる。

伊藤研究室の学生がこれまでビニール傘について行ったアンケートでは、以下のようなことがわかったという。

1)ビニール傘を使用する期間は半年以内が大半。50〜60 代は1 年以上使う割合も比較的高い。
2)時間帯に関係なく、雨が降ると1〜2割の人がビニール傘を購入していると見られる。
3)環境問題に意識を持っている人でも、ビニール傘の利用率は高い。ビニール傘の価格が安いためだと思われる。
4)レンタル傘に対する期待は、年代を問わず非常に高い。しかし、なごやかさのシステム認知度は低い。

こうした結果から、伊藤孝紀研究室では名古屋市でのレンタル傘事業の展開可能性は高いと考えている。とりわけ20代の意識が高いため、若者を対象としたイベントや広告などを展開することでシステムの定着を図ることができ、社会実験によって得たデータを基に設置箇所や導入本数などを検討、レンタル傘システムを構築していきたいとしている。

使うときだけ分単位で車を借りるカーシェアリング

高いお金を払って買った車は、買った後もさらに維持費として税金や保険、駐車場代、車検費などがかかり大きな負担となっている。そこで最近注目され、企業の参入も増えているのが、自ら車を持たずに必要なときだけ使えるカーシェアリングのシステムだ。参入する企業も増加しているが、使う側にとってわかりにくいのは、レンタカーとの違いではないだろうか。

大きな違いは利用形態だ。レンタカーを借りるのは不特定多数の利用者。利用時間は数時間から1日単位が多い。一方、カーシェアリングは会員制で、利用時間も15分から長くとも24時間以内。レンタカーより日常的に使いやすい利用形態だ。

貸出の仕組みや料金体系も違う。カーシェアリングは会員制なので、利用するたびに書類に記入したり代金を支払ったりする必要がない。故に車を貸し出す場所も無人。料金はまとめて請求され、車を使う際にかかるガソリン代や保険などのランニングコストはサービス利用料に含まれる。返却する際に給油して戻すことも必要ない。車を所有すれば財産・資産とみなされるが、カーシェアリングはかかる費用すべてが経費扱いとなる。日本ではレンタカー会社がカーシェアリング事業にも携わる例が多く、両者の棲み分けがはっきり位置づけられている。

カーシェアリング会社の試算によれば、現状では車の利用距離が年間9000Km以下で、駐車場が月額1万5千円程度であれば、カーシェアリングを利用した方がお得なのだという。ガソリンが高騰した場合も、価格が一定なのでさらにお値打ちだ(ただし、ガソリン代高騰の場合は追加料金が必要となる会社もある)。

名古屋でもカーシェアリング事業は数年前から行われている。オリックスレンタカーは2004年、名古屋でのカーシェアリング事業を開始した。2009年9月末現在、全国の会員は6500人で名古屋は850人となっている。

名古屋での展開の特徴は、個人会員と法人会員の割合がほぼ同じということだという。名古屋駅前はここ数年、企業の進出が増えて駐車場が不足がちで、カーシェアリングを利用する企業が増えたため、拠点も台数も増えている。

拠点はそのまま会員の獲得と直結するので、どう決めていくかが企業にとって重要な鍵となる。JRや地下鉄の駅、コンビニの駐車場をはじめとして、マンションを建てる段階からデベロッパーと契約して拠点を設置したり、大学のキャンパス内に学生と教職員を対象とした拠点を設置するなど、さまざまな動きが加速している。

カーシェアリングの特色のひとつである「ガソリンが高騰した場合も価格が一定」という価格設定は、企業にとってみればコスト変動に弱いということであり、弱点となる。これを解決するのが会員の拡大なのだという。カーシェアリングが広がることは車を持たない生活が広がるという意味があるが、一方で企業にも安定をもたらすことになる。

フランスでは今年、電気自転車のレンタル制度が始まる予定だ。パリとその周辺の22市町村に1400か所のステーションを設け、4000台の電気自動車を配備する。公共交通の幅を広げつつ、マイカーの利用を抑えてCO2削減に一役買うのが狙いだという。

持つことが快適な生活を意味した時代から、持たないことが快適な生活を意味する時代へ。うれしいことに、気付かないうちに条件は整いつつある。

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