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特集・なごやエコ最前線

つながる「人」と「ため池」のネットワーク〜ため池の生態系を守るために〜

2007年秋、なごや東山の森にある新池(以下、東山新池)で生息生物の調査とかいぼり*が行われたことは、本サイトでも紹介した。在来のカメや魚が比較的多く生息、絶滅危惧種のメダカも発見され、都会の中のため池としては良好な生態系が残っていることがわかった。外来生物の駆除により、現在は在来の小魚や水草が増殖していることも確認されている。

この調査を行ったのは市民と専門家による「名古屋ため池調査実行委員会」。「名古屋ため池」と命名したのは、名古屋に残っている111カ所のため池を視野に入れているからだ。東山新池をきっかけにため池に向けられた市民と行政の「まなざし」は、人のつながりとCOP10** の追い風を受けて、急速に広がりを見せている。

掲載日
2009-02-20
取材・文
浜口 美穂
ため池と生物多様性

名古屋市には東部丘陵地を中心に、111のため池が現存。これほど多くのため池が残る大都市は他に例がないという。多様な生きものが生息するため池の周辺には雑木林が残り、ため池と雑木林を行き来して、その一生を全うする生物も多い。ため池と雑木林はセットとなり、なごやの生物多様性ミュージアムになっているのだ。

雑木林が人々の暮らしを支える燃料や生活材料などを得る場所として、人の手が入ることで生態系を維持してきたように、ため池もまた、農業用利水施設として、かいぼりを行いながら生態系を守ってきた。ところが、都市化により、雑木林もため池も人々の暮らしから遠ざかり、外来種の移入も重なって、その生態系はどんどん貧弱になりつつあるのが現状だ。

*かいぼり
池干しのこと。ため池が灌漑に使われていたころ、農作業が終わる冬になると、池から水を抜き、1カ月ほど干して、底にたまったヘドロや土砂を取り除いたり、堤防や樋の点検修理を行っていた。このとき捕らえたコイやフナ、モロコなどは冬場のタンパク源として食されていた。近年は、外来生物の駆除を目的としたかいぼりが注目されている。
**COP10
生物多様性条約第10回締約国会議。2010年10月11日〜29日に名古屋で開催。
東山新池から広がる

ため池の生態系を守るために2007年に行われた東山新池のかいぼり。名古屋ため池調査実行委員会がつくった調査報告書の最後は、「この東山新池のかいぼりを出発点として、生物多様性への市民と行政の『まなざし』を磨いてゆきましょう」と締めくくられていた。そのまなざしが、今年度から10カ所のため池に向けられようとしている。環境省の補助事業(生物多様性保全推進支援事業)を活用して行われる「名古屋ため池生き物いきいき計画事業」* である。市民や行政のさまざまな蠢(うごめ)きがこのタイミングに集約されたようだ。

例えば、環境局地域環境対策課では、地元の要請を受けて、昭和区八事の隼人池で地下水を導入した水質改善調査を進めていた。地元からはかいぼりをしたいという声も上がっていたという。また、東山新池では、在来のカメや魚、水草の繁殖状況の継続調査が行われていた。さらに、緑区の篭池では、道路工事に伴い、水を抜くことが決まっていたため、かいぼりをやれる状況にあったという。

*名古屋ため池生き物いきいき計画事業
事業期間は2008年度〜2010年度。
市民調査員と一緒に

事業を推進するため、2008年10月31日に「名古屋ため池多様性保全協議会」が設立された。構成団体は、隼人池の地元から「八事学区連絡協議会」「隼人池を美しくする会」、東山新池のかいぼりを実施した「名古屋ため池調査実行委員会」「なごやの森づくりパートナーシップ連絡会」「なごや環境大学実行委員会」「名古屋市」。東山新池かいぼりの協働の成果も課題も、この事業に引き継がれ、広がりをみせる。

協議会のメンバーに加え、市民調査員も募集。市民調査員による季節ごとの生息生物調査や、かいぼりによる外来生物の駆除と在来生物の保全・再生を実施。市民に生物多様性の普及啓発も行っていく。

調査対象となるため池は、今後の展開も見据えた上で、自然度の低いものから高いものまでバリエーションがあるように、また実現可能な「人とため池とのかかわり」があるかどうかでリストアップし、次のため池が決められた。

人的ネットワークが広がった篭池のかいぼり

かいぼりは大がかりな作業になるため、全池では行わず、2009年1月に篭池、11月に隼人池、2010年に塚ノ杁池で実施の予定。篭池は、道路工事に合わせて、年明け早々の今年1月10日に市民・専門家・行政130人が参加して行われた。

市民に広く告知する間もなく、あわただしく決まったかいぼりにもかかわらず、これだけの人が集まったのは、東山新池かいぼりの揺るがない基盤と、さらに広がった人のつながりがあったため。特に、東海工業専門学校、名古屋コミュニケーションアート専門学校、四日市大学、学泉大学、名古屋市立大学、天白高校などなど、若い学生たちの活躍は、未来に希望をつなぐものとなった。

篭池に暮らす生きもの

篭池は、昔は葦が生え、モロコなどの在来魚もたくさんいたというが、今は、コンクリート護岸された自然度の低い池になり、外来魚であるオオクチバスの釣り池になってしまっていた。

かいぼりの午前中の作業は、地引き網・投網・タモで魚の捕獲をし、外来魚と在来魚に仕分け。貝やエビの採取も行った。昼前から午後にかけては外来性スイレンの除去。4〜5人で協力して、全長10.6メートルの根を掘り出したグループもあった。最後は一列に並んで、竹の棒でつつきながら、泥に潜ったカメ探し。全身泥だらけになりながら、篭池の生きものを探し、スイレンの根と格闘した一日だった。

駆除した外来生物は、スイレン1.2トン(後日、重機で掘り出したものと合わせると3.2トン)、オオクチバスなど421匹、約400キログラム。いけすに保護した在来魚は、フナやモツゴが334匹、約250キログラムで、在来の水草や在来のカメは見つからず、極めて乏しい生態系が証明された。

今後は、市民調査員による生息生物調査を行いながら、釣り池からビオトープへの転換を模索。オオクチバスなど外来生物の放流禁止を啓発する看板の設置も検討課題である。

市民のまなざしが集う

市民調査員の応募は1月31日現在で、120人を超え、現在も増え続けている。調査項目は、「植物類」「昆虫類」「鳥類」「甲殻類・貝類・魚類」「は虫類・両生類」「ほ乳類」の6種類。事前に専門家から講習を受けて調査に臨む。2月16日には、第一回目の講習会、2月21日・22日にはさっそく冬の調査が実施される予定だ。

この事業は3年間。今後は右表のようなスケジュールで進められる。

名古屋城外堀では、ヘドロサンプリングを行い、その中に眠っているオニバスなど在来植物の種子を探し出し、復活させる計画。1610年の築城以来、浚渫した記録はなく、泥のタイムカプセルの中には、60年代まで繁茂していたオニバスやヒシ、ガガブタ、ジュンサイなどの種子が眠っていることが期待されている。それを発芽・育成させて外堀に戻すのだ。

お堀のロマンに心躍らせる市民もいれば、東山新池のスイレンの根絶* に意欲を燃やす市民もいる。ため池に暮らすカメや魚にまなざしを向ける人もいる。一人ひとりのまなざしがため池に集まり、学び合い、力を出し合うことで、ため池の生物多様性は守られるのだ。

*東山新池のスイレンの根絶
2007年のかいぼり前は、東山新池の水面を覆い尽くしていたスイレン。かいぼりでは、葉と茎を除去するのに手いっぱいだったが、一部、試験区をつくって根から除去を行った。この結果と経験を活かして、継続して除去しながら根絶を目指す。

ごみ非常事態宣言から10年。そして、なごやの森づくりが始まってから10年。市民力が支える協働の時代は、今年、また新たな転機を迎え、ため池というフィールドで華を咲かせることだろう。

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