ENVIRONMENTALCOLUMN 環境情報を知りたい方/環境コラム

大学生のエコ活動 〜なごやユニバーサル・エコ・ユニット(UEU)〜

取材・文 浜口 美穂
  • まち

保育園・幼稚園の「なごやエコキッズ」、小・中・高校・養護学校の「なごやスクールISO」*、そして大人向けの「220万市民の『もういちど!』大作戦」などエコライフ啓発事業は進められてきたが、ぽっかり空いた大学生への働きかけ。それが、2007年になって一気に、いくつかの学生グループがエコ活動を始めた。
そのひとつは、「なごや環境大学ガイドブック2008春」や毎月配信のなごや環境大学メールマガジンで活動紹介をしている「エコネクスなごや」。その他、「We Love NAGOYA」** や、市民団体・行政と組んで「OSHARECO(おしゃれこ)栄2Rマップ」*** を作成した学生たちも。そして今回紹介する「なごやユニバーサル・エコ・ユニット(以下、「なごやUEU」)は、8大学11キャンパスの大学祭実行委員会のネットワークである。

持続可能な大学祭実行委員会

なごやUEU発足のきっかけは、名古屋市環境局からの呼びかけだった。将来を担う大学生の環境教育を行う仕組みをつくり、自ら考えて行動できる人づくりをしていきたいと考えていた名古屋市。ねらいをつけたのは各大学に必ずある大学祭実行委員会だった。

大学の環境サークルは、個人の活動という色合いが強く、卒業してしまえば、それで終わってしまう場合が多い。しかし、大学祭実行委員会は、毎年引き継がれ、一年をかけて準備を行う。大学の組織やクラス・サークル・ゼミなどとの連携も持ち、大学祭にエコというテーマを浸透させ、広く学生にPRできる立場にいるのだ。

市の呼びかけに応じて集まったのは、愛知大学、愛知淑徳大学、椙山女学園大学、中京大学、名古屋市立大学、南山大学、南山短期大学、名城大学の8大学11キャンパスの大学祭実行委員たち。こうして2007年6月になごやUEUが発足した。

市は情報・資金提供などサポートに徹し、学生が主体的に進める。エコ活動を通して、学生個人にも、大学にも、環境首都を目標とするなごやにもプラスになる、本当の意味での協働を目指す。

大学の壁を越えて

今までも大学の壁を越えて大学祭を手伝い合うことはあったというが、企画の段階で顔を合わせることはない。まずは、各大学の環境への取り組みについて情報交換や意見交換を行い、その中で「大学祭ではこんなことがやりたい」「せっかく集まったのだから一緒に何かしよう」という声が上がり、小委員会も発足した。

2007年に取り組んだのは以下の3つである。

○ 日常生活で取り組める「大学スタンダード」を提案し、大学ごとに独自に取り組んでいく。
○ 大学祭でエコを広める共通ツールをつくる。
○ 共通イベント「キャンドルナイト」を企画・運営。

メンバーには、今まで環境に関心がなかったけれど、これをきっかけに取り組みを始めるという学生も多く、知識やモチベーションに差があったという。しかし、知識がある学生が引っ張っていくのでは意味がない。大学間で壁をつくらないことも難しい。それを解決したのがなごやUEUとして取り組むイベント「キャンドルナイト」だった。

「イベントを通じてつながりを持つことで、大学の壁を崩していけたと思います。誰がトップでもなく、お互いを認め合うことができ、自然に役割も決まっていきました。初年度としてはよい形で進められたと思います」と、名古屋市立大学医学部3年の福島一彰くんは話す。

打ち合わせは各キャンパスを会場として、2008年1月7日までに計14回。パソコンとプロジェクターは必需品

学生版エコライフチャレンジシート

大学祭でエコを広める共通ツールとして採用されたのは、クリアファイルとブックレット。「学生は難しい話をいやがる。どれだけ親しみやすい形で伝えられるか工夫しました」と福島くん。ブックレットだけでは読んでもらえないと考え、学生必須のアイテムであるクリアファイルの中にブックレットを挟み込む形を選んだ。プラスチック製品を使うのは抵抗があったが、再生プラスチックを利用し、気に入って長く使ってもらえば意義があると考え直したという。

学生の関心をひくため、イラストやデザインにも工夫をこらした。担当したのは、名古屋市立大学芸術工学部の学生たち。クリアファイルとブックレット共通のキャラクターを設定し、ストーリー性を持たせた。クリアファイルで学生の興味をひき、ブックレットの内容を読むところまで誘導する作戦だ。

クリアファイルの表面は、大人版のエコライフチャレンジシートを参考に作成した「学生版エコライフチャレンジシート」になっている。登場するキャラクターはシロクマくん。ところが、そのシロクマくんのエコライフぶりがちょっとヘンなのだ。

□ 再生紙だからたくさん使っていい
□ 分別するから毎日ペットボトルを使っている
□ 低燃費カーをいつも乗り回している
などなど。

実はこのシロクマくん、北極の氷が溶けているのに何も感じていない怠惰な性格。しかし、エコに関心のあるアザラシちゃんに恋をして、何とか気に入られたいと、シロクマくんなりにがんばっているというのだ。このキャラクター設定は、最初から「〜しなさい」的な高いハードルを設けるのではなく、親しみやすくすると同時に、実際に良いといわれていることも本当にそうなのか確証がないという皮肉も込めているという。

学生版エコライフチャレンジシートを印刷したクリアファイル

1万人がエコ宣言

さて、そのシロクマくんは、どうなるのか。ブックレットの中で、今の地球で起こっていることや心配される地球の未来について学び、自分でできることを考え始める。シロクマくんは、一人の学生の姿なのだ。

ブックレットの裏表紙には、クリアファイルのチェック項目に対応した解説と、次のような新たな「エコ宣言」の項目が書かれている。

□ プリントを裏紙として使うなど、紙をリユースします!
□ ペットボトルの購入は控え、買ったとしても詰め替え水筒にしちゃいます!
□ やたらに車を使わず、自転車や公共交通機関などを使い石油を守ります!
などなど。

エコ宣言にはチェックを入れ、名前と宣言日が書き込めるようになっている。しかし、大人版のように、この宣言を切り取って提出する形にすると、出したことで満足してしまう人もいるだろうと考え、ブックレットの宣言は手元に残し、ふりかえり用に。提出用には別紙を用意し、クリアファイルに入れて各大学祭や成人式で配布した。

市に集まった宣言の数は約1万人分。学生発のエコ情報に目を留める人の数はこれからも増えていくだろう。

バラエティーに富んだ大学祭

ブックレットには、各大学祭の宣伝も掲載。エコ企画だけでなく、目玉のステージ企画やゲストなども紹介され、環境に関心のない学生にも活用できる内容だ。

エコ企画は大学ごとにバラエティーに富んでいる。大学間で情報交換する場ができたことで、各実行委員会の刺激になり、さまざまなアイデアが飛び出したようだ。たとえば、南山短期大学では、模擬店でリユース食器を利用。ステージでは、エコ企画実行委員による「エコレンジャーショー」で盛り上がった。名城大学では、ごみの分別を徹底。ごみステーションに担当者を置いて分別指導を行うほか、環境クイズを実施した。名古屋市立大学山の畑キャンパス(市大祭)では、フェアトレードの発表を行ったり、地元商店街と連携して、フリマやクイズなどの商店街企画を実施。田辺通りキャンパス(薬学祭)では、ふろしきワークショップを行った。

大学祭では地域や市民団体と連携した企画をしたり、地域や父母の来場者も多い。大学から地域へ、父母への伝達も期待できる。4つのキャンパスでは、EXPOエコマネーセンター* の出張所も設けられて、さまざまなエコのメッセージが発信された。

南山短期大学(南短祭)のエコレンジャーショー
名城大学・天白キャンパス(名城大学大学祭)のごみステーション
名古屋市立大学・田辺通りキャンパス(薬学祭)のふろしきワークショップ

キャンドルナイトでやさしい心を

キャンドルナイトの取り組みは、夏至と冬至の夜8時から10時の2時間、趣旨に賛同した人たちが一斉に電気を消して、思い思いにスローな時を過ごすという「100万人のキャンドルナイト」* に端を発する。もともとは、2001年、「景気をよくするために、どんどん原子力発電所をつくってどんどん電気を供給しよう」という某アメリカ大統領のエネルギー政策に反対して、カナダで起こった「自主停電運動」。日本でも2003年の夏至から「100万人のキャンドルナイト」として、家族で、グループで、イベントで……と、ゆるやかに広がってきた。

なごやUEUが共通イベントしてキャンドルナイトを選んだのも、ろうそくの温かい光の中で「やさしい気持ちで環境のことにふれてほしい」という思いから。10月20日は大須商店街と連携し、大須秋祭りのイベントとして実施。キャンドルナイトだけでなく、クリアファイルを配布したり、天使の羽をつけてごみ拾いを行い、エコをアピールした。

12月22日の冬至の日は、栄のテレビ塔下で実施。夜8時から30分間、テレビ塔も消灯され、ろうそくの光の中で音楽イベントを行ったり、ブースでマイ箸やフェアトレード商品を販売した。この日は、学生ボランティアを募集。100名を超える学生が協力したという。

ユニークなのは、使用したろうそく。セレモニーホールや結婚式場でアルバイトをしている学生から「少し使っただけのろうそくを捨てているのでもったいない」という意見があり、それらの式場から廃棄前のろうそくを手分けして集め、使用したという。学生ならではの情報源により、捨てられるはずのろうそくが有効活用されたのだ。

* 100万人のキャンドルナイト:http://www.candle-night.org/

大須のキャンドルナイト。竹のキャンドルホルダーは、「ながくて灯路まつり」から借用
大須のキャンドルナイトの翌日、天使の羽をつけてごみ拾い。手伝ってくれる人もいた
栄のキャンドルナイト。雨のため、エリアをテレビ塔下だけに縮小して実施

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大学祭やキャンドルナイトも終わり、現在は、環境省中部地方環境事務所と協働でエコバッグを作成中。学生が使いやすい小さなサイズで、折り畳んでポケットに入れて持ち歩けるものなどを考えているという。また、4月19・20日に開催されるアースデー愛知では、子ども向けの環境教育ブースを企画中だ。

すでに大学祭実行委員会は、次の代に引き継がれている。大学祭の企画とともに、なごやUEUの活動も引き継いでいくのが、今の大きな課題である。