動かそまい!NAGOYA

特集・なごやエコ最前線

ため池かいぼりで名古屋の生態系を守る!

COP10、生物多様性……ちらほらと耳にするようになってきた言葉。名古屋は2010年、COP10=生物多様性条約第10回締約国会議の誘致を進めている。

そんな中、都会の中に残されたため池で、生物多様性を学び、考えるための「かいぼり」が実施された。市民・企業・大学・行政の協働で展開するなごや環境大学の「東山新池かいぼり事業」である。

ため池とは……、かいぼりとは……、生物多様性とは……。暮らしと切り離されてしまったため池にもう一度、注目してみよう。

掲載日
2007-12-07
取材・文
浜口 美穂
ため池の多様な役割

もともとため池は、農業用の利水施設として、奈良時代から江戸時代にかけてつくられ、その利用者によって維持管理されてきた。しかし、都市化の進展や農業の衰退、大規模農業用水の完成などに伴い、埋め立てられるなど、その数は激減している。名古屋市の場合、1965年の段階で360カ所あったため池が、40年後の2004年には116カ所になってしまったという。

ところが近年になって、ため池の価値が見直されてきた。多様な生物のすみかとして、環境教育の場として、近隣の人々の親水空間として……。また、ヒートアイランドの緩和や、大雨が降ったときに河川に流出する雨水を一時的にため込んで洪水を緩和するなど、多くの役割を持っているのだ。もちろん、人々の暮らしと共にあったため池の歴史・文化的遺産としての価値も忘れてはならない。

名古屋市は、このような役割を持つため池の消滅に歯止めをかけようと、1992年に「ため池保全要綱」を制定している。埋め立ての危機にあるため池を買い取ったり、ため池の管理に要する費用を補助することで、ため池を保全しようというものである。

かいぼりとは

ため池が灌漑(かんがい)に使われていたころ、農作業が終わる冬になると、池から水を抜き、1カ月ほど干して、底にたまったヘドロや土砂を取り除いたり、堤防や樋の点検修理を行っていた。これをこの地方では「かいぼり」と呼んでいたそうだ。取り除いたヘドロは、肥料として活用。このとき捕らえたコイやフナ、モロコなどは冬場のタンパク源として食されていた。かいぼりは、地域の人々の暮らしを支えながら、多様な生物たちのすみかの環境も守っていたと言えるだろう。

ため池が利水から治水へと役割を変え、かいぼりも消え去ってしまった現代だが、外来動植物の繁殖が大きな問題になる中で、その駆除を目的としたかいぼりを行うところも出てきた。今回のかいぼり事業も、単にかいぼりを体験して学ぶだけではなく、生息生物の調査を行い、ブラックバスやブルーギル、ミシシッピアカミミガメ(通称ミドリガメ)、園芸種(おそらく熱帯性)スイレン、オオカナダモなどの外来動植物を駆除し、在来の魚やカメ、水草などを保護することも目的のひとつに挙げている。

なごや東山の森の新池で

名古屋のため池は、東部丘陵地にベルトのように点在して残っている。ちょうど森づくり活動が盛んな里山の分布と一致しているのがおもしろい。名古屋の生態系は、この里山とため池が一体となって支えているのだ。里山の生態系が人の手によって守られているように、ため池も人の手で守っていかなくてはならない環境である。

今回のかいぼりの対象となったため池は、なごや東山の森にある新池。その北側にある猫ヶ洞池、南側にある上池(東山動物園内ボート池)と共に山崎川源流のため池として、かつては田代・広路・御器所・前津・東古渡・東熱田あたりまでの田んぼを潤していたという。1980年代の雨水貯留事業により、3つの池が暗渠(きょ)で結ばれ、これらの池の許容量を超えた雨水は、猫ヶ洞池から矢田川へと排水。また、現在でも猫ヶ洞池は山崎川の源流として、4月中旬〜10月までの晴天時には、毎秒0.2立方メートルの水が放流されている。

協働のパワーで

かいぼりは、なごや環境大学の「なごやを動かそまい事業」として企画され、本番の10月21日は、共育講座「なごや環境学番外編『新池かいぼり大作戦』」として、107人の受講者がかいぼりを体験し、新池に生息する生物や生物多様性について学んだ。

ただ一言で「かいぼり」と言ってしまうと簡単そうだが、4カ月前から水深・ヘドロ堆積量調査、生物調査を開始。本番1週間ほど前から池の水を抜き、スイレンの除去、魚・カメの捕獲、在来種はいけすに一時保護する作業を行った。また、本番終了後も、池干し期間の約1カ月は、ヘドロの除去、いけすの管理などの作業。池に水を戻して在来魚・カメ・水草を放流した11月25日まで、半年以上にわたる長いプロジェクトであった。

これは協働の力なくしてはできないこと。調査は、専門家や学生も含めた市民による「名古屋ため池調査実行委員会」が担当。水位の管理やスイレン・ヘドロの除去など物理的な作業は市緑政土木局、魚の捕獲にはその道のプロである立田漁業協同組合に協力を求めるなど、実に多くの人々が力を出し合って実現したのだ。かいぼり本番は50名余りのスタッフが、自らも楽しみながら参加した。

新池に暮らす生物たち

7月28日、8月17日、10月13日に行った生物調査は、カメ、魚、水草、プランクトン、ほ乳類、カエル、トンボ、貝、夜間灯火に集まる虫など、多岐にわたる。カメについては、他の都心のため池では、外来種のミシシッピアカミミガメが70〜80%を占めているというが、新池では意外にもイシガメ、クサガメの在来種が多いことがわかった。魚は、ブラックバス、ブルーギル、ライギョなどの外来種のほかに、在来のモツゴ、ギンブナ、スジエビ、オイカワ、ヨシノボリ、メダカ、ナマズなどを捕獲。水草は、スイレンが全水面の80〜90%を占めていたものの、近年姿を消しつつある在来のマツモ、コオニビシも生育していた。また、トンボは東海地方の平地で一般的に見られるものが発見され、近年名古屋から減りつつあるキイトトンボも捕獲されている。

これらのことから、都心のため池としては、想像以上に豊かな生態系が残っていたといえる。比較のために、新池の上流にあたる動物園内の上池も、9月17日・18日に調査を行ったが、ウシガエル、ブルーギル、アメリカザリガニなど外来種が多く、新池で多く捕獲されたスジエビはごくわずかだった。ボート池として整備され、生息環境が単調なために、新池より多様性が低いのではないかという。

かいぼり体験でため池が身近に

10月21日、いよいよかいぼり本番。子どもから大人まで受講生107人は、4班に分かれて「スイレンの除去・運搬」「泥の中に残ったカメなどの救出(竹でつついて探し出す)」「救出した魚の運搬と在来種・外来種の選別」「ため池の生物の観察と生物多様性の学習」を交代しながら行った。

スイレンの除去とカメの救出は、池に入っての作業。やわらかい泥の中を一歩一歩慎重に歩く受講者たち。時々、泥に足を取られて、「わ〜」「きゃ〜」という叫び声も。足元でたくさんのカエルが動いたり、竹がこつんと当たった先にスッポンも発見した。

立田漁業協同組合の漁師さんによる投網で救出された魚を運ぶ作業では、我先にと競争で魚を取り合う子どもたち。「うわ〜、ライギョでかい!」と歓声があがる。外来種のほか、もともとこの池にはいなかったコイやヘラブナは選別して駆除された。名古屋の本来の生態系に戻すために。

受講者は五感を使って体験しながら、身近な自然の中にこんなにもたくさんの生物が生きていること、外来種と在来種について、生態系を守るにはどうすればよいのかなどについて学習。ため池の自然に関心を持つきっかけとなったに違いない。

名古屋の生態系を守るために

11月25日、水が戻った新池に、いけすで保護していた在来の魚やカメを放流した。カメについては、個体識別できるよう甲羅に記号がついている。今後も追跡調査を行い、繁殖しているかどうかを確認するという。カメは陸に上がって産卵するが、新池の周辺には産卵できるような土の部分が少ない。できれば、産卵場所もつくることができれば……と調査に携わった実行委員は話す。

今回の調査では、絶滅危惧種のメダカが7匹捕獲された。もともと名古屋にいたメダカかどうか遺伝子分析するには数が少ないということで、動物園のメダカ館に預けられ、繁殖させることに。スイレンについては、葉と茎を除去するのに手いっぱい。根絶するには何年も続ける必要があるが、今年は根から除去した試験区をつくって今後データをとっていくという。

外来の魚やスイレンがはびこって、在来種が絶滅の危機に瀕しているため池は増えている。今回の調査データや経験が、他のため池でも活かされそうだ。名古屋には116のため池が残っている。多様な生物のすみかであり、貴重な生物種の隠れ家になっているため池。実行委員会が講座用につくったテキストは、「この東山新池のかいぼりを出発点として、生物多様性への市民と行政の『まなざし』を磨いてゆきましょう」と締めくくられている。

バックナンバー