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ヒートアイランド現象を抑制する「緑」の力〜緑の仲間を増やして、住宅緑化率を高めたい!〜

ヒートアイランド現象が話題となる季節がやってきた。気象衛星アメダスの観測データによると、名古屋における熱帯夜はこの20年間で約2倍にふえている。

都市上空からサーモグラフで撮影すると、建物の屋上部分が明らかに高温になっていることがわかるという。真夏に60度を超えるのは当たり前、70度近くなることもあるのだそうだ*。熱を蓄えてヒートアイランド現象の原因を作り出すのは、コンクリートの建築物やスレート**の屋根、そして道路を覆っているアスファルトなど。夏の夜を涼しく過ごすには、建築物や地表面の温度が上がらないようにするのが一つの対処法ということになる。その有効な手段として注目されているのが、屋上や壁面を含む「住宅の緑化」である。

掲載日
2007-05-16
取材・文
吉野 隆子
緑化率向上を目指して

名古屋市の調査によると、緑(樹林地、芝地・草地、農地、水面)で被われた土地の割合(緑被率)は2005年現在、市内全域の24.8%となっている。15年前には29.8%だったから、かなりの勢いで減っていることがわかる。ちなみにその差5ポイントという数字は、面積にすると約1,643haで、中村区に相当する面積だという。

こうした状況を受けて市内の緑化を進めるべく、名古屋市は今年1月、「緑化地域の指定(素案)***」を発表した。2005年に発表した「緑のまちづくり条例」をさらに進めるもので、来年度に予定されている緑化の一部義務化に向けたものである。

これまで、緑化というと公園や街路樹、公共施設を主体として整備が進められてきたが、その一方で、民有地を中心とした農地や樹林地などが減少し、市全体の緑は減ってしまった。今後は、都市の環境改善策として、公有地・民有地を問わず、緑をどの地域にどう確保し、「風の道****」などとどうネットワークさせていくのかが課題となる。

名古屋市が緑被率の減少を止め、その向上を目指すとき、市域の3分の2を占めている民有地の緑化を置き去りにすることはできない。この素案では民有地も含めた市内全域に、各用途地域の指定建ぺい率に応じて、10%・15%・20%と3段階の緑化率最低限度を設けることを提案している。

緑化を民有地に広げていくのにあたって必要となるのが、具体的な緑化手法のモデルである。屋上緑化や壁面緑化と言われても、イメージがわかない人の方が多いだろう。実際の緑化住宅を目にする必要性は高まっている。

*70度近くなることもある
環境緑化新聞第537号
**スレート
セメントに繊維を混入して形成した薄い板状の素材
***緑化地域の指定(素案)
「次世代におくる魅力的な都市の実現に向けて 緑化地域の指定(素案)」名古屋市 2007年1月
****風の道
都市に吹き込む風の通り道。風の通り道を作ることによって、都市中心部の大気を冷やすことができるという考え方。名古屋市は、市内の河川や緑地を活用して「風の道」を確保しようという計画を策定している。
家庭緑化のモデル「東山植物園ガーデンズハウス」

*東山動植物園HP
http://www.higashiyama.city.nagoya.jp/
「東山植物園ガーデンズハウス」実現まで

都市公園内に設置される施設には法律上制限があり、東山植物園も例外ではない。都市公園に企業出展のモデルハウスを建てることは難しいのだが、どうやって実現までこぎつけたのか。以前「名古屋市みどりの基本計画」の策定にかかわり、昨年東山総合公園でこの事業の担当を務めた安藤有雄(すみお)さんにうかがった。

安藤さんは基本計画策定(平成13年)当時から、「民有地の緑化を進めるためには、緑化手法を一般住宅のスタイルで見せることが必要ではないか」という思いを持っていたのだという。

「植物園として家庭緑化の手法を展示する公園施設=展示施設の位置づけであれば、法律に適合し企業の協力も得られるのではないかと考えました。国営公園の事例を参考に、緑化推進課などとも相談した結果、家庭緑化推進をテーマにした協働プログラムとして進めていこうという結論になりました」

名古屋市・積水ハウス(株)・(社)日本造園建設業協会愛知県支部・(財)東山公園協会・(財)名古屋市みどりの協会の5者が、家庭緑化の推進をはかる協働事業として「花と緑のある暮らしプログラム」を企画し、ガーデンズハウス建設まで漕ぎ着けた。

積水ハウスがガーデンズハウスの出展にあたったのは、緑化や環境配慮に真剣に取り組むハウスメーカーとしての方針と、名古屋市がもっと広げたいと考えている家庭緑化の推進を、共通の目標として重ねることができたから。設計チームのメンバーとは、非常に建設的なやりとりを交わしながら、ガーデンズハウスを形にしていくことができたという。

このガーデンズハウスは70周年記念事業のひとつとして建設されたが、6月3日に70周年事業が終了した後もそのまま残る予定だ。運営方法については、現在検討中とのこと。

「これまで植物園が緑化そのものに取り組んだ事例は、ほとんどありません。主体は植物の展示で、施策としての緑化を訴えることはあまりしてきませんでした。でも、せっかくこのような施設ができたのですから、環境を考えるイベントなどの場として有効活用されるようになればと願っています」

緑化された屋根や屋上とその下にある部屋の温度など、緑化の効果が出ると思われる部分について、現在のところデータをとっていないとのことだったが、今後さまざまなデータをとっていくことができれば、このガーデンズハウスを、「緑化住宅」としてきちんと位置づけることができるのではないだろうか。

草屋根の魅力にひかれて

北区に住む中村成利さんは、今年1月、家を新築した。ちなみに、中村さんはこれまで主に緑化や公園などを担当してきた名古屋市の職員である。

家を建てると決めたときから、草屋根を思い描いていたという。その理由は、「夏の暑さ対策ですね。実家の屋根はスレートだったのですが、夏はひたすら暑かった。そのうえ冷房が苦手ですから。

屋根緑化を知ってからはずっと意識にあったので、家を建てるとき、まず設計士さんに検討していただくようお願いしました」

設計にあたった青木正剛さんには、草屋根の知識も経験もなかった。

「これまでに集めていた資料をお見せして、こんな形でやっていただけないかとお願いしたところ、神戸で草屋根の家を何棟も設計している前田由利さんが行っていた見学会に、何度も足を運んでくださった。その結果がこういう形になりました。色々と苦労をおかけしたのですが、『楽しい現場でした』と言っていただけたのはありがたかったです」

屋根に植えた芝を枯らさないように、自動散水装置を取り付けて週2回20分ずつ散水している(夏は週3回の予定)。夏に涼しく過ごせるのは、土が含む水分量と植物の気化熱の力。芝が枯れたら土が流れてしまって保水できないし、芝による気化熱もなくなってしまうから、芝の管理は草屋根の要だ。

屋根はアスファルトで防水。その上に根がはらないようにシートを張ってから、ヤシ殻からつくった人工の土を10cmの厚さに乗せて、芝を植えた。

「土の厚みがこれくらいあると、水を含んだときに違いを感じますね。ただ、設計上、屋根の重さが気になるとのことだったので、構造計算もしてもらいました」

家を新築して草屋根にすると、みどりの協会から名古屋緑化基金の助成があるという。中村さんの場合は25万円の助成があった。

屋根に登らせていただく。中村さんの真似をして、裸足になって歩いてみたら気持ちがいい。

「ネコが登ってきませんから、安心してごろんと寝ころんで空を眺めたりしているんですよ。草にもあまり神経質になる必要はないようです。前田さんはぼさぼさでいいとおっしゃって、コスモスの種を播いてお花畑にしているようですよ」

中村家の草屋根のように新築時に草屋根にする以外に、既存の住宅の屋根を草屋根にする方法もあると聞いた。いま住んでいる家の屋根をそのまま草屋根にできるなら、屋上緑化のハードルをかなり下げることができるのではないだろうか。

肝心の中村家の草屋根によるヒートアイランド現象抑制効果は、まだ夏を迎えていないので何とも言えないというが、「神戸の前田さんのお宅は3階建ての一番上が子ども部屋ですが、夏でも『暑いから下の階で寝る』という言葉を聞いたことがないそうです」

和歌山大学助教授の山田宏之さんは、草屋根にすると冷房の使用量は20分の1以下になるという試算結果を発表している*。夏が待ち遠しい中村家である。

*試算結果を発表
環境緑化新聞第537号
*青木正剛さんHP
http://www5d.biglobe.ne.jp/~aokiseke/index.htm
*前田由利さんHP
http://www.yuri-d.com/top/top.html

「緑化住宅」という言葉からは、家の姿がなかなか見えてこない。しかし、中村家の草屋根を見て触れた人たちがその魅力を知るように、目にして居心地のよさを体感すれば取り組み方も変化していくのではないだろうか。そうした意味で、東山植物園ガーデンズハウスは、民有地緑化促進への新たな一歩と言えるだろう。

「緑の大切さは皆さん何となく知っている。でも、身近な場所から街全体のあり方まで、将来の姿を考えて緑化に取り組んでいる人はまだ少ないのかも…。今回のガーデンズハウスもそのひとつですが、科学的な形で緑化の魅力と技術を伝えて、緑の仲間を増やしていきたい」という安藤有雄さんの思いとあいまって、名古屋市の緑化のこれからが楽しみになってきた。

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