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特集・なごやエコ最前線

身近な場所にある酸性雨被害

酸性雨の被害というと、遠い山の立ち枯れた木の姿や北欧の魚が住めなくなった湖を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。実際には、酸性雨の被害は遠い場所のできごとではない。私たちが暮らしている身近な場所でも多く見られる。例えば、朝顔のような色鮮やかな花に雨水が落ちて、その部分だけ色が変わってしまったのを見たことがないだろうか。これも酸性雨の影響なのだという。今回は名古屋市内で見かけた酸性雨被害を写真で確かめながら、酸性雨について考えてみたい。

掲載日
2007-02-13
取材・文
吉野 隆子
ブロンズ像の涙

まず出かけたのは、北区名城にある愛知県スポーツ会館。会館前の筋骨たくましいブロンズ像に近づくと、汗を流しているように見えた。→写真1 この汗は酸性雨がもたらしたもの。ブロンズは銅を主成分とした錫(スズ)の合金だが、酸性雨が降ると錫が溶け出したり硫酸銅がさびたりして、汗のような痕跡を残すのだという。この現象は「ブロンズ像の涙現象」などとも呼ばれている。

続いて中区栄三の丸の名古屋能楽堂へ。ここには加藤清正のブロンズ像がある。4年前にはこのブロンズ像の右腕のひじの部分に、酸性雨の影響と見られる穴があいていたと聞いたが、現在は補修された様子だ。このときの穴は、雨の水滴が低い位置にあるひじに集まり、時間をかけて腐食して穴ができたものと思われる。現在は、一見すると酸性雨の影響が現れていないように見えたが、脇にまわって確認すると、膝のあたりに何本も白い筋が走っていた。→写真2・写真3

鶴舞公園の踊り子像にも涙の跡があった。→写真4・写真5 この銅像は名古屋市が80年度に開始した「銅像のあるまちづくり」事業で最初に設置された、イタリアの彫刻家クロチェッティの作品だ。何度か手入れされているようだが、でこぼこの多い頭部にどうしても雨水が残ってしまうようで、頭から顔にかけてかなり酸性雨の影響が見られる。同じ鶴舞公園にある鶴の噴水も、雨水を受ける形になる羽の部分が白っぽく変色しているのがわかるだろうか。→写真6

ブロンズ像の酸性雨被害

横浜市環境科学研究所が横浜市内のブロンズ像63体を対象に行った調査によると、屋内にある7体のブロンズ像には設置当初と比較して変化がなかった。屋外に設置されたブロンズ像は、56体のうち46体に涙現象が起きていた。環境科学研究所では被害の割合を4段階に分類して調査しているが、被害度3以上の比較的被害が大きいものが半分近くあり、被害は古い像ほど大きかったという結果が出た。屋外に置かれている被害度0のブロンズ像10体は、ほとんどが着色やコ−テイングを施して表面が保護されているものだった。

この調査結果より以前の99年の新聞記事では、「市内にある63体のブロンズ像のうち、約半数の30体に激しい変化が見られた」と記されている* ので、酸性雨の被害が加速しているであろうことがうかがわれる。これは横浜の例に限ったことではないだろう。

*参考文献/酸性雨に関する調査研究報告書(II)−酸性雨による器物影響−・横浜市環境科学研究所報第25号(2001年)
*99年の新聞記事
朝日新聞1999年5月26日
コンクリートを溶かす酸性雨

身近で目にする酸性雨の影響は、ブロンズ像だけではない。酸性雨はコンクリートの主成分であるカルシウムを溶かし、カルシウムイオンとなって溶け出す。溶け出したものが空気中の二酸化炭素に反応してできた炭酸カルシウムが、白い筋や固まり、ときにはつららのようなものになる。コンクリートはアルカリ性の物質だが、酸性雨の影響が強いと次第に中性化していき、その結果強度が落ちてしまうこともあるという。

鶴舞公園の噴水塔の屋根や名古屋市公会堂の正面玄関には、小さなつららがいくつもさがっていた。鍾乳石のような印象だが、成分的にも鍾乳石とおなじものである。→写真7・写真8

鶴舞公園噴水塔の階段には、石の間から溶けたコンクリートがにじみ出て盛り上がり、再び固まった様子が見られた。→写真9 公会堂の壁面にもそこここに白い筋が見受けられる。→写真10 

熱田区六番町にある東海道新幹線の六番町交差点付近の高架下には、コンクリートから溶出した白い筋が拡がっていた。コンクリートの層がはがれている部分もある。→写真11

石自体には金属やコンクリートほど顕著な影響は現れないが、それでも屋外で長い期間にわたり酸性雨にあたり続けると、痛みは激しくなる。鶴舞公園にも酸性雨の被害を感じさせる石柱があった。→写真12

海外の例では、ギリシアのパルテノン大神殿などの大理石像の顔が次第に溶けてメリハリのない顔になりつつあるとも聞く。タージマハールやアンコールワットでも、酸性雨被害は顕著のようだ。

愛知県の酸性雨

一般的に、pH5.6より小さい値を示した雨を酸性雨と呼んでいる。愛知県環境調査センターでは、現在、愛知県内の4か所(津島・半田・岡崎・豊橋)で酸性雨調査を行っているが、その結果によると、ここ20年、調査地点すべて(この4か所以外の設楽・一宮も含む)でpH5.6以下の雨が降っていることになる(年度平均)。→愛知県環境調査センター 酸性雨 http://kankyojoho.pref.aichi.jp/sougou/index.html

元々雨は純粋な水ではなく、やや酸性気味らしい。大気中の二酸化炭素や火山活動から発生する硫黄酸化物などが溶け込むためだ。自然な雨はpH5前後に落ち着くのではないかとの研究報告もある。

この報告に従って調査地点の酸性度を見ると、津島を除けば必ずしも酸性雨であるとは断言できない数値となっている。しかし、かなり酸性に傾いていることは確かであり、早急な対策が必要となるのは当然のことである。

酸性雨の原因と対策

酸性雨は、化石燃料の燃焼や火山活動などによって発生する硫黄酸化物・窒素酸化物・塩化水素などが、大気中の水や酸素と反応することによって強い酸が生まれて起きる。直接の原因となるのは、工場や車の排気や火山活動である。

また、近年は国を越えた飛来が非常に多くなっている。国立環境研究所による発生源調査によると、春は中国の大都市や華中付近から排出された硫黄酸化物が大量に日本列島に運ばれている。日本国内に降り注ぐ硫黄酸化物の発生源とその割合は、1年を平均すると、中国49%・日本(火山を除く)21%・火山13%・朝鮮半島12%と見られている。海外由来の酸性雨原因物質の飛来が多いことに驚かされる。→国立環境研究所 http://www.nies.go.jp/gaiyo/bunya/sanseiu.html

酸性雨を減らすために私たちができることは何だろうか。国を越えた汚染や工場やトラックの排気ガスを減らすためには、どうしても公的な対策が必要となるが、自家用車の排気ガスを減らす努力であれば、個人で取り組める。トラックやバイクを含む日本の自動車台数は7900万台(2006年)にも及び、このうち半分以上は自家用車と見られる。わずかずつでも低公害車がふえていけば、少しずつ変化をもたらすことができるに違いない。

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