動かそまい!NAGOYA

特集・なごやエコ最前線

町に住みながら、農にふれる暮らしを〜名古屋市の取り組み〜

「収穫の楽しさを味わいたい」「自分の手で自分の食べる野菜を育ててみたい」と望む人が増えている。名古屋市の市民ネットモニターのアンケート結果* によると、「収穫体験をしてみたい」「農作業を体験してみたい」と希望している人は41%、「趣味として農業を生き甲斐にしてみたい」という人は15%で、これらの回答をあわせると、農とかかわりたいと希望している人は50%を超えるという結果となっている。

残念なことにまだ周知されていない部分もあるが、名古屋市でも「町に住みながら、農にふれる暮らしをしたい」という多くの人の思いに応えようと、さまざまな取り組みを行っている。まずは農業体験の入り口からご案内しよう。

掲載日
2006-01-25
取材・文
吉野 隆子
農業体験 入門編

農業体験の入り口として、手っ取り早く楽しめるのが収穫体験だろう。管理は農家、自分は収穫だけに出かけるという、いいとこ取りの農業体験だ。『ふれあい農園』では野菜や果樹一品目ごとに、収穫体験の参加者を募集している**。

年間通した収穫体験として、野菜や果樹のオーナー制度も行っている。2005年度の場合、野菜は10月のさつまいも掘りから、伝統野菜の八事五寸にんじん・だいこん・白菜・ねぎ・ブロッコリー・キャベツ・玉ねぎ・スイートコーン・枝豆・じゃがいもと続き、くりあじかぼちゃまで年間5回12種類の野菜の収穫体験となっている。果樹は秋の柿、春の梅、夏のぶどうの3種類。人気が高いので倍率も高い。体験当日は子ども連れの家族でにぎわうという。

天白区にある名古屋市農業センターでも、収穫・加工体験を行っている。所長の舟橋和時さんにうかがった。

「農業センターでは、春のたけのこ掘りやさつまいもの栽培体験、豆腐作りなどの収穫や加工を楽しんでいただけます。ただ、人気があるのでどうしても抽選になってしまいます。特に人気があるのは親子乳しぼり体験で、毎年10回以上開催しているのですが、毎回5〜10倍程度の倍率になりますね。

いま温室にある青いミニトマトは、色づいた頃に当日受付型収穫体験をしたり、売店で販売したりしています。センター内で栽培しているたけのこ・だいこん・スナップえんどう・たまねぎ・なす・落花生なども、当日受付の収穫体験を開催することがありますので、ぜひセンターに遊びに来てください。

こうした体験についてはみなさんから要望が多く寄せられているので、機会を増やすことを検討しています」

*市民ネットモニターのアンケート
名古屋市の市民ネットモニターアンケート 2005年5月調査 500人対象
**収穫体験の参加者を募集
随時広報で募集
農業体験 中級編

収穫体験に続くのは、自分の手で一から育ててみたいという思いだろう。しかし、自分一人で栽培に取り組むのは、まだ不安 ?? そんなときには市民農業講座がある。『なごやか農楽校』と名付けられたこの講座は、年間9〜10回の講義と実習を通して、基礎的な栽培知識・農業の現状や楽しみを知って、名古屋の農業の応援団として活躍する人材を育成することを目指している。講座の人気は非常に高い*。参加者は、男性だと定年後、女性は子育てを一段落した人たちが多いが、昨年はじめて農業を学ぶ現役の大学生も参加した。

この講座を卒業すると、『なごやか農楽会』が待ち受けている。講座を修了した人たちが結成したボランティア団体で、農家からの要望に応えて農作業の手伝いをする。現在登録しているのは140人。農家から連絡員となっているメンバーに、「○日にブロッコリーの収穫があるから、3人来てもらえないだろうか」というような連絡が入ると、連絡員がボランティアに連絡して参加者を探すという形で、自主的に運営している。

まもなく5期目を迎えるが活発に活動を続けていて、メンバーの中には年間100日以上ボランティアに出かけている人もいるという。農家にとっては負担なく人手の確保ができ、ボランティアにとっては技術を得るだけでなく収穫の喜びも体験することができるわけで、互いに大切な存在となっている。

農家からは、「農業をしていくうえでの苦労を、一緒に作業しながら実際に知ってもらえるのがうれしい」「生き生きして楽しそう」といった声が寄せられているという。

*講座の人気は非常に高い
講座受講は一度だけ、400字の作文を応募条件としている 受講料は無料
農業体験 上級編

マンションのベランダに置いたプランターでも野菜は育つ。しかし、それでは飽き足らなくなったとき、畑で作りたくなる。自宅に畑を作ることのできる環境にある人は非常に少ないが、現状では畑をすぐに借りることも難しい。農地の貸し借りには農地法の許可が必要となるが、農地法では土地の貸借を農業で自立できる人にしか認めていないことが、農地を借りにくい大きな要因となっている。

「畑を借りたい」という声に応えるものが『市民農園』*である。名古屋市が関わって運営している区画貸しの農園だ。期間は1年もしくは3年**、『憩いの農園』と名付けた、市が農家から土地を借りて区画割りした農園が市内10か所に470区画***、公園の一施設として運営している分区園が4か所314区画、天白区の『農園のあるまちづくり』事業の一環として作られたコミュニティ農園が32区画、名古屋農業センター内にある市民菜園80区画の合計896区画となっている(2006年度)。毎年2月と7月に募集が行われるが、今年度は1年の区画が4.4倍、3年の区画は8〜9倍と非常に高い倍率となった。倍率が高い中で多くの方が利用できるよう、期間が終了するごとに抽選を行うため、継続的に野菜を栽培できない、思ったような土作りをすることができない、という点が課題となっている。これについては先頃報道されたが、解決策として名古屋市は新たな形態の市民農園も検討しているようだ。

*市民農園
財団法人名古屋市みどりの協会と名古屋市緑政土木局が運営している。現在、市民農園が設置されているのは北区・西区・中村区・守山区・緑区・天白区・中川区・港区・緑区・名東区、1区画の面積は12〜45平方メートル(平均約15平方メートル)。一部の区画は天白区が「農園のある町作り事業」の一環でコミュニティ農園として、利用者が自主的に運営している。
**期間は1年もしくは3年
3年貸しの農園(21区画)を設置しているのは、4月から翌年3月という期間だと作ることのできない玉ねぎのような野菜を作りたいという声に応えたもので、土作りしながらの栽培が多少可能になる。1年の場合は、堆肥を入れて土壌改良した後に、次の人に引き渡している。
***470区画
うち12区画は福祉利用。
新たな形の市民農園に向けて

これまで市民農園の開設は、地方自治体と農協だけに認められていたが、昨年、特定農地貸付法が改正され、農家による市民農園の運営が可能となった。

農家による市民農園に先例がなかったわけではない。農協の協力のもと、農家主体の市民農園を96年以降続けている先進的なモデルがある。練馬区農業体験農園だ。

一区画を30ヘクタールと広めに設定し、土作りから作付け、栽培の技術まで、プロである農家の指導を受けながら野菜作りを体験することができるというものだ。契約は1年ごとだが、継続的に利用することができる。

東京都練馬区は宅地化が激しく、農地を持ち、農業を続けていく意志のある農家にとって地域住民の理解が欠かせない。農にふれる体験をはじめた結果、周辺住民が農業に対する理解を深めるという効果も生み出した。市民の希望も満たし、農家も経済的に潤う。好ましい形の市民農園となっている。

こうした形の農園を増やすことは、市民の農体験への希望をある程度かなえることができると同時に、町から減っていきつつある農地を残すことにもつながっていくから、環境面での意味合いもある。

2004年の名古屋市内の農地は1,710ヘクタール。これは全市面積の約5パーセントにあたる。この10年間で約600ヘクタール減少した。同じペースで減り続けると、30年で農地がなくなる計算だ。農業に携わっている人の約4割は70歳以上ということも考えあわせると、もっと減少率が加速する可能性も高い。名古屋市が2005年度に行った農家意向調査では、「今後経営規模を縮小したい」「やめたい」とした農家が40パーセント存在していたことも減少傾向を裏打ちしている。

一方、市民を対象にしたアンケートでは、「今後も名古屋に農業・農地が必要」「どちらかといえば必要」という声が89パーセントに及んでいる。また、冒頭にあげたように、農的な体験を望む人は多く存在している。

経営規模縮小を望む農家と農的体験をしたい市民。この両者が共存できる形のひとつが、農家の運営する市民農園と言えるのではないだろうか。

名古屋市は今年1月、『名古屋市新農業振興基本方針(案)』を発表した。そこで名古屋の農業を取り巻く状況を踏まえて、今後の目標を「『農』のある市民の豊かな暮らしを目指して」としている。町に住みながら、農にふれる暮らし??名古屋市のさらなる取り組みが期待される。

今年度の募集詳細については現在のところ未定です。以下にお問い合わせください。

憩いの農園(要領は1月末・募集は2月の予定 一部は7月)財団法人名古屋市みどりの協会 TEL052-302-5321

市民菜園(要領は1月末・募集は2月の予定)・なごやか農楽校(要領は3月末・募集は4月の予定)名古屋市農業センター TEL052-801-5221