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まちと里をつなぐ“エコ”ファーマーズマーケット 〜オアシス21えこファーマーズ朝市村〜

取材・文 吉野 隆子
  • 自然

食べ物の安心・安全が盛んに新聞や雑誌の話題にのぼるようになって久しいが、「地元の安心・安全な野菜を食べたいけれど、どこで手に入るのかわからない」「スーパーの片隅で見かける有機農産物って、確かなものなの」というような声も耳にする。
有機農産物* の流通量は増え、その存在も知られるようにはなったが、輸入が多く** 流通経路が複雑化していることから、作り手の名前はわかったとしても、顔が見え、思いが伝わる関係を持つことは難しくなっている。また、以前に比べて生産量が増えたとはいえ、国内で生産されている有機農産物は生産量の0.16%(2003年度)に過ぎないのだから、手に入れにくいのは当然のことかもしれない。
そうしたなか、名古屋・栄で安心・安全な野菜を農家が直接販売する朝市が、昨年(2004年)10月にはじまった。「オアシス21えこファーマーズ朝市村」だ。

地産地消の大切さを知る場

「えこファーマーズ朝市村」は、名古屋の中心街・栄にある公園オアシス21で毎月第2・第4土曜日の午前8時から11時、農家が自分や仲間の作った野菜を携えてやってきて直接販売する、まちと里をつなぐファーマーズマーケットだ。主催は農家と消費者によって構成されている「えこファーマーズ朝市村実行委員会」。毎回10〜15の個人やグループが出店している。名古屋の街中で生活する人たちに、地元の野菜を食べて「地産地消」の大切さ、すばらしさを知っていただくきっかけを作りたいとの考えから、参加は愛知・岐阜・三重・長野の生産者に限定しているのだという。

数の上ではわずか4県ではあるが、山も海もある地域なので、最も標高の高い長野の産地と、名古屋や岐阜の産地とでは、標高差は最大1000メートル以上。従って、朝市に並ぶ作物にはかなりの季節差がある。例えば、名古屋周辺の生産者がきゅうりを出荷し始める頃、長野県の飯田や阿智の生産者は山菜を持ってくる。名古屋周辺のきゅうりの収穫が終わっても、長野からは10月後半まできゅうりが届くといった具合なので、朝市に並ぶ野菜の種類は想像以上に多い。こんなところからも、この地域の豊かさに裏打ちされた「地産地消」の可能性を体感できるのではないだろうか。

* 有機農産物:JAS規格により「有機農産物」は、「種まきをする2年以上前から農薬や化学合成肥料を原則として使わない」「遺伝子組み換えの種を使わない」などといった生産方法に従って栽培することが求められている。登録認定機関が規格に沿った生産が行われているかを判定してはじめて、認証マークが与えられる。食べ物に「有機」「オーガニック」と表示するにはこのマークが必要となる。
** 輸入が多く:有機JAS認証を受けて日本に輸入されている有機農産物は、国内の有機農産物生産量の約6倍となっている(2003年 農林水産省消費・安全局による)。

持続的な農業を応援する場

朝市村の目標のひとつが、「持続的な農業を応援する市」となること。出店しているのは、有機農業に取り組み、安心・安全な農産物を作っている農家だけ。有機認証をとるには高額な費用がかかるため、認証取得を条件にはしていない。農家は朝市の場で消費者に直接語りかけたり、自らの通信を手渡したりすることで、野菜とともにその思いや栽培方法を伝えている。

野菜とともに並ぶ加工品も、くわしくうかがってみると、どれも栽培・加工に心配りが行き届いている。ビニールハウスではなく露地で太陽の光をいっぱい浴びて無農薬で栽培されたいちごを原材料に、添加物・保存料を使わずに作られたいちごジャム、在来種の小麦で作った地粉や麺類、昔ながらの方法で手作りされた梅干や切干大根、あっと言う間に売り切れてしまう干柿…。ながめていると、産地の風景が見えてくるようだ。

いまはまだ難しいが、やがてはこの場を「地域の持続的な農業を直接応援できるような、思いと力の集まる場所にしていきたい」というのが、ボランティアとして支えているスタッフの願いだという。

野菜やきのこ、卵と並んだ梅干や切干、つけものなどの加工品

生産者と消費者を結ぶ場

ファーマーズマーケットの魅力のひとつは、生産者と直接言葉を交わしながらの買い物だろう。ここには流通を通さない、最短距離の「顔が見える関係」がある。

開始後10か月が過ぎ、野菜の名前や食べ方、栽培方法などについて生産者とやりとりしながら買い物をする常連さんがかなり目立つようになってきたという。

生産者にもさまざまな気づきがあった。

「これまで自分が作ったものを直接手渡せるのは宅配先の主婦だけだったけれど、朝市村には独身の若い人が何人も、玄米を買いにきてくれる。意外でした。ファーストフードばかりじゃない、きちんとした食事をする子たちがいることを知って、作り手としてもうれしいですね。

朝市村でお客さんから、『おいしかった』って言われることが、仕事の張り合いにもなっています」(太田農園 太田博之さん)

「買い物に来てくださる方たちと野菜について話せるのが楽しみ。名古屋以外の地域で育った方たちから、知らなかった料理法を教えていただくのもうれしいですね。

直接顔を見ているから、いい加減なものは作れないという思いが強まっています」(なのはな畑 佐々木正さん・多美子さん)

食について学ぶ場

食について学べる場の提供も、朝市村の目的のひとつとなっている。

愛知県栄養士会は毎回健康相談コーナーを開設、朝市にやってくる人たちの体脂肪の測定をしたうえで聞き取りをして、食事や生活についてのアドバイスを無料で行ってきた。今年(2005年)4月からは栄養士会の事業の一つと位置づけ、力を注いでいる。

栄養相談のコーナーには、大学で栄養学を学ぶ栄養士の卵たちも参加して、ベテラン栄養士のバックアップを受けながら健康相談に取り組んでいる。最近は実地経験が重要視される傾向にあるため、学生たちにとっては数少ない現場経験を積める場となっているのだという。学生たちは、健康相談に加え、朝市で見かけた野菜について生産者に話をうかがい、ホームページに「突撃インタビュー」として掲載したり、旬の野菜についての知識やレシピを作って配布したりと、さまざまな形で朝市を支えてもいる。

このほか、エコプラットフォーム東海「食チーム」は、自給率認知度クイズを通して食料自給率に関心を持っていただくという試みを不定期で行っている。また、東海農政局はパンフレットなどによる食の情報提供を続けている。

健康相談を行っている栄養士会のブース。話だけでは伝わりにくいだろうと、見た目も重さも本物そっくりに作られた体脂肪などの模型も並んでいる
ホームページに掲載する突撃インタビュー取材中の女子大生たち

まちと里をつなぐ場

「まちと里をつなぎたい」という思いがかたちになったのは、朝市だけではない。この春から取り組んでいるのが、「たんぼと里の楽校」だ。出店農家のひとり、太田博之さんの愛知県美浜町にある田んぼで、太田さんと朝市にやってくる消費者が一緒に米作りに取り組んでいる。

5月末に行った田植えには13人が参加。除草剤を使わずに米作りをするため、紙マルチ* と呼ばれる再生紙を田んぼに敷きながら苗を植える方法をとった。もちろん他の農薬も使わずに米作りをし、収穫後は参加回数に応じて米を分けていただくことになっている。

7月の草取りには10名が参加、草取りの後は切り出した竹を使って樋や器、箸を作り、流しそうめんを楽しんだ。田んぼに入って作業をしていると、そこここでカエルが飛び上がり、クモがさっと姿を隠す。頭上にはトンボが群舞する。見慣れない虫を見つけるたびに歓声があがっていたことから、次回はこうした田んぼの生き物探検をすることになっているのだという。

この夏には、長野県飯田の生産者を訪れてトマトを収穫、卵を集めてマヨネーズを作り、夏野菜のランチを食べた後、ヤギの乳搾りというような、農体験がたっぷりできるツアーも計画している。

また、各地のグリーンツーリズムの紹介も随時行っている。

* 紙マルチ:紙マルチで土を覆うと、土に太陽があたらないので草がはえにくくなる。紙は40〜50日でとけ、その頃に草がはえても、すでに稲は草に負けないくらいに生長しているので除草剤の必要はない。

太田さんの田んぼでの田植え。参加したメンバーのほとんどは田植え初体験。こわごわ足を踏み入れた田んぼは、「あったかくて気持ちがいい」。手前におかれているのが紙マルチ

朝市村にはふろしきを持って

朝市村はノーレジ袋宣言をしている。生産者はレジ袋を準備せず、消費者には買物袋持参で来ていただくことが原則。朝市の折りに配布している通信で呼びかけているので、買物袋を持参する方は多い。買物袋持参の方には、希望があればエコクーぴょんを配布している。

ノーレジ袋と並行して、「朝市村にはふろしきを持って」と呼びかけ、ふろしきを使った買い物袋を提案、要望があれば随時ミニふろしき講座を行っている。最近、若いふろしき派の女性が数人現れ、スタッフを喜ばせているそうだ。

ふろしきの包み方を展示しておくと、なつかしげに見ている方も多い

生活を支える場を目指して

間もなく一周年を迎える朝市村であるが、課題もある。

オアシス21付近にはスーパーがない。住民の多くは、「いつもデパートで野菜を買っている」ので、朝市がはじまったことを歓迎しているのだが、月2回の朝市では、そうした方たちの食卓をまかなうまでにはならない。生産者にとっても、月2回では作付け計画が立てにくい。そうしたことから、現在、毎週開催を視野に入れて検討中だという。もちろん、来場者、出店者が増えるよう努力していかなければならないことは言うまでもない。

都会の真ん中で安心・安全な野菜を手に入れることができる朝市は、まだめずらしい存在であることは確かだ。消費者だけでなく生産者のためにも、継続・発展していってほしいものである。

オアシス21 えこファーマーズ朝市村

オアシス21地下「銀河の広場」外周スペース NHK名古屋放送センタービル通路手前で毎月第2・第4土曜日午前8時〜11時に開催

主催 えこファーマーズ朝市村実行委員会/栄公園振興株式会社

後援 名古屋市/東海農政局/愛知県/岐阜県/三重県/長野県/ルーラルライフ・イン東海連絡協議会

朝市村事務局 名古屋市中区富士見町9-16 有信ビル2F TEL052-324-2660 FAX052-339-5651

ホームページ http://www.asaichimura.com/

ブログ http://blog.livedoor.jp/oasis21ecofarmers_asaichimura/

朝市開催の3日前から、出店する産地と品目を順次ホームページに掲載。朝市終了後の報告や、田んぼの状況などはブログに掲載。