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特集・なごやエコ最前線

愛・地球博と市民参加〜名古屋市・エコライフプラザの取り組みと併せて〜

愛知県瀬戸市・長久手町・豊田市を会場に開催中の2005年日本国際博覧会(愛知万博)。3月25日の開幕以来の総入場者数は、6月13日に750万人を超えた。博覧会協会が目標とする1,500万人の半分を、全期間の中間日より12日早く達成したことになる。「万博に行ってきたよ」「もう行った?」というやりとりが、名古屋のちまたではよく聞かれるようになった。

掲載日
2005-06-20
取材・文
内藤 大輔
オオタカが運んできた愛・地球博

思い返せば6年前の1999年5月、会場予定地だった海上(かいしょ)の森で、絶滅危惧種のオオタカの営巣が確認されたことが始まりだった。当初、豊かな里山である海上の森を切り開いて会場を整備し、会期後には、跡地に大規模住宅地を開発する計画だった。地元の市民団体や環境保護団体は、海上の森の開発に反対した。国際博覧会事務局(BIE)もまた、会場計画の再考を求めたのだ。そして2000年4月、住宅地開発の中止、海上の森の会場計画の見直しへと方針を転換。会場計画案の策定は、まったく見通しのないまま「愛知万博検討会議(海上地区を中心として)」(検討会議)に預けられたのだった。

検討会議は、愛知万博における市民参加の第一歩だった。地元関係者、環境保護団体、有識者、博覧会協会企画運営委員により構成され、その中には、愛知万博に批判的な意見を持つ市民も多かった。2000年5月から12月にかけて13回開催された検討会議は、会議の模様をインターネットで中継するなど、情報公開にも積極的だった。そして、環境面で一定の評価が得られている、現在の長久手会場を中心とした会場計画案をまとめ上げたのだ。検討会議の懸命な働きがなければ、同年12月のBIEへの正式登録は実現しなかったかもしれない。

市民参加への第一歩とその限界

それから約2年後の2003年3月、「市民参加の検証と拡充のためのフォーラム」(検証フォーラム)の報告書がまとめられている。検証フォーラムは、2002年12月から翌年1月にかけて9回の公開フォーラムを開催し、愛知万博の準備に関係した市民など、合計26人の発言者から聞き取りを行ったものだ。フォーラムのコーディネーターを務めた有識者がまとめた報告書では、検討会議の第一歩以降「市民の関心や市民参加が決定的に不十分な現状」(同報告書)に留まっているという基本認識の元、愛知万博における市民参加の経緯の検証と、より広い市民参加に向けた博覧会協会への提言がなされている。手厳しい報告内容をふまえ、博覧会協会は市民参加の拡充に向けたメッセージを発表している。その内容は公開されており、私たち市民の目で確かめることができる(検証フォーラムの報告書および市民参加の拡充に向けた協会メッセージは、愛・地球博公式ウェブサイトから入手可)。

そうして2005年3月25日、「自然の叡智」をテーマに「環境への配慮」と「市民参加」を柱のひとつに据えた愛知万博は、華やかに開幕したのだ。

名古屋市の愛知万博関連事業 〜情報センター「エコライフプラザ」〜

愛知万博の関連事業として、名古屋市はいくつかの市民参加事業を実施している。そのひとつが、民間の共同企業体とともに開催する、ささしまサテライト事業「デ・ラ・ファンタジア」だ。愛知万博のウェルカムゲートとして、名古屋駅近くののべ12万平方メートルにわたる会場で、食・音楽・アートなどのエンターテイメントが提供されている。ファミリーや若者でにぎわう会場の一角に、市民の情報発信と交流の場、市民展示館とステージ広場はある。

その市民展示館に常設されているのが、エコライフプラザ。フェアトレードカフェ*、エコグッズ販売・展示コーナー、ワークショップコーナー**、トレーサビリティ体験コーナー*** からなる、市民・事業者・行政の協働によるグリーン購入****の推進を目的とした情報センターだ。その運営は、市民団体や民間企業の代表者で構成する「エコライフプラザ実行委員会」が担っている。

*フェアトレード
発展途上国の人々が生産したものを公正な商取引で輸入・販売することにより、経済的自立を支援する活動。
**ワークショップ
一方通行の知の伝達ではなく、参加者が主体的に「参加」して「体験」するグループ学習の場。
***トレーサビリティ
農畜産物の生産者や生産過程の情報、食品加工や流通に関する情報を食料品に添付して、履歴をさかのぼって確認できるシステム。
****グリーン購入
商品を購入するとき、環境への影響をよく考え、環境への負荷ができるだけ少ないものを選んで買うこと。
エコグッズ展にずらり43ブース

去る6月5日、エコプラザ実行委員会は「買い物で世界を変えよう〜市民がつくるエコグッズ展」を開催した。43ブースが並んだエコグッズ展には、環境に配慮した商品やサービスがずらり。東海地方はもちろん、関東や関西地方などから、生活雑貨や自然食品の生産者や流通業者、市民グループが出展した。衣服や雑貨などのフェアトレード商品を扱うショップや、有機栽培野菜の生産者などの各ブースでは、出展者に熱心に質問をする来場者の姿もみられる活況ぶりだ。

そんなブースのひとつ、東白川村森林組合が出展したワークショップスペースは、6,000個の積み木が用意された遊びの広場。集まった子どもたちはレンガ大の積み木を小さな手に持ち、思い思いのかたちを作り上げていく。触発された創造力にまかせ組み上げられた積み木は、彼ら・彼女らの背丈をゆうに超えていく。あまりの夢中ぶりに、見守る大人たちも楽しめるブースだ。この積み木、東白川村の森林の間伐材を使った商品「モッキー」。植樹林が木材として使えるまでには何十年もの歳月がかかる。その間、手入れをしなければ、森林は廃れてしまうと言う。手入れで間引きした木からつくられる間伐材を消費者が買うことで、手入れ作業が支えられ、森林を守ることにつながるのだ。現在この「モッキー」、子ども向けの公共施設などでの導入が、少しずつ進んでいると言う。

*エコライフプラザ
市民・事業者・行政の協働によるグリーン購入の推進をめざす、エコライフプラザ。デ・ラ・ファンタジアの市民展示館内にある。
*東白川村森林組合
岐阜県東南部に位置する東白川村の森林組合。森林の保全に取り組む。
*NPO法人 環境リレーションズ研究所
生活者・事業者・NPO・自治体などのリレーションシップ構築による環境保全をめざし、「プレゼント・ツリー」プロジェクトなどを実施するNPO。
キラリと光る創意工夫

少し変わったところでは、自転車屋さんが出展するブースが目を引く。リサイクル自転車の展示ではない。名古屋市昭和区で営業するイトーサイクルは、「発明ママ」の自転車屋として知られる地元の名物店なのだ。その発明品のひとつが「肩たたき」。自転車屋では、すり減りやパンクで使えなくなった自転車のタイヤとチューブがたくさん発生すると言う。そこで発明したのが、捨てるしかなかったタイヤとチューブを再利用した「肩たたき」だ。適当な長さに切ったチューブの中に、適当な長さに切ったタイヤを詰め込んでつくった棒に、手編みのカバーがかけられている。何のことはない構造だが、肩にフィットするそのわん曲、凝りに心地よい弾力と重量感は、使ってみてこそ実感できる良質の発明品だ。

エコグッズはモノだけではない。NPO法人 環境リレーションズ研究所が出展するのは「プレゼント・ツリー」。大切な人への贈り物として、苗木をインドネシアのカリマンタン島に植樹できるサービスだ。贈り先には、氏名や植樹場所の緯度・経度などが記載されたオーナー証書などが送付される。カリマンタン島の熱帯雨林は、地球温暖化の原因とされる CO2を大量に吸収する「地球の肺」。そして、多様な生物が生息する豊かな森だ。しかし1997年、広大な熱帯雨林が火災により焼失。生態系や地球温暖化への影響は深刻だと言う。植樹した苗木は大切な人へのプレゼントであり、大切な人が住む地球へのプレゼントでもある。心意気を贈るエコサービスなのだ。

興味深い出展はまだまだあるが、取り上げればきりがない。さまざまな分野の事業者の創意工夫が、多様なエコ商品を生み出しているのだ。

エコ商品を広める「共感マーケティング」

午後からは会場内のステージで、トークライブ「今、買い物で世界を変えるとき」が開催された。エコ商品の普及に取り組む事業者やNPOのキーパーソンたちをゲストに迎え、村岡経営法務事務所 代表の村岡浩氏のコーディネーションにより意見が交わされた。

NPO法人ヘンプ製品普及協会 理事の赤星栄志(よしゆき)氏は、「ヘンプ(大麻)は石油に代わる植物資源。麻薬としての悪いイメージを変えていきたい」と意欲を語った。また、NPO法人 国産材 監事の角田(すみだ)惇氏は、「人工林は間伐することで成長し、CO2の吸収や水のかん養に役立つ。日本の森林は間伐材が使われず荒れ果て、海外の森林は伐採され過ぎて荒れ果てている。国産木材をもっと使わなければならず、製品にマークをつけて普及したい」と訴えた。フェアトレードによるコーヒー豆などの輸入・卸事業を実施する有限会社フェアトレーディング 取締役の林口宏氏は、「コーヒーの裏側には、第3世界の貧困問題と環境問題がある。手に取れる商品を広げることで、問題を伝えていきたい」と、商品を拡販することでメッセージを送るという事業姿勢を紹介。また、オーガニック生活情報誌『アイシスラテール』編集長の水上(みなかみ)洋子氏は、「オーガニック商品は生産に時間がかかり、原料のコストも高いが、品質がよい。結局『自分にとってトク』だということを伝えたい」と、エコ商品を消費者に訴求するポイントを指摘した。エコ商品の普及に向けた各ゲストに共通する課題意識は、商品のよさを伝える事業者の発信力。コーディネーターを務めた村岡浩氏は、「『共感マーケティング』が重要なキーワード。お客さまからみた言葉で、自分たちの思いに共感してもらえる伝え方が必要」と締めくくった。

環境のことを考えて、環境への負荷の少ない買い物をする消費者は「グリーンコンシューマー」と呼ばれる。グリーンコンシューマーとエコ商品を供給する事業者がお互いを育て合うことで、環境に配慮された経済活動や消費生活にシフトしていこうというわけだ。こうしたグリーン購入活動は、消費者や事業者といった市民が主体的に参加し、お互いに関与し合うことで初めて実現するのだ。

*アイシス・オーガニック生活便
オーガニック生活情報誌『アイシスラテール』が提供する、エコロジー&オーガニック商品のオンラインショップ。
*NPO法人ヘンプ製品普及協会
非木材資源の活用、化石燃料の使用削減のため、ヘンプ(大麻)製品の開発および普及活動を行うNPO。
*NPO法人 国産材
荒廃しつつある日本の森林を育て、また海外の森林を保全するため、国産木材の普及活動を行うNPO。
*有限会社フェアトレーディング
コーヒー生産者と自然環境に負荷をかけることなく生み出されたコーヒー豆の輸入・卸・販売を行う。
*村岡経営法務事務所
起業支援を専門とする中小企業診断士・行政書士事務所。
「ポスト万博」の市民参加 〜愛知万博が残す資産は正か負か〜

地元では早くも「ポスト万博」がささやかれている。これは、公共投資や来場者による経済効果がなくなる閉幕後を見越し、経済活性化策の必要性を指摘するものだ。しかし経済面だけではなく、今後の市民参加による環境活動を進める上でも「ポスト万博」を考えたい。開幕までのプロセスは、さまざまなひずみや摩擦を生む一方、環境への配慮と市民参加の取り組みをより実りのあるものにするための努力が重ねられた道のりだった。愛知万博で得られたその経験は、閉幕後も残される資産だと言えよう。地元地域のひとつである名古屋市がめざす「環境都市なごや」* は、市民参加あってこそ実現されるビジョン。愛知万博で得られた経験を整理し、正の資産としてこれからの市民参加に役立てたい。

*環境都市なごや
1999年に名古屋市が策定した「環境基本計画」で、総合目標として「環境都市なごや」の実現が位置付けている。

「愛知万博検討会議」 (愛・地球博公式ウェブサイト(日本語版)内)
http://www.expo2005.or.jp/jp/T0/T1/T1.8/index.html
愛知万博検討会議の概要のほか、会議録のダウンロードなど

「市民参加の拡充に向けた協会メッセージ」 (愛・地球博公式ウェブサイト(日本語版)内)
http://www.expo2005.or.jp/jp/A0/A1/A1.15/A1.15.3/index.html
「市民参加の検証と拡充のためのフォーラム」報告書のダウンロードなど

「市民参加拡充に向けた協会メッセージ」 (愛・地球博公式ウェブサイト(日本語版)内
http://www.expo2005.or.jp/jp/N0/N2/N2.2/N2.2.26/N2.2.26.1/
「市民参加の検証と拡充のためのフォーラム」の開催報告書を受けて、博覧会協会が発表した市民参加拡充に向けたメッセージ

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