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広がる森づくりネットワーク 〜対立から協働へ〜

取材・文 浜口 美穂
  • まち
  • 自然

市民と行政のパートナーシップ事業が花盛りである。かつては対立の構図になりがちだった環境の分野でもしかり。その草分けは「森づくり」だったように思う。その動きを振り返ってみよう。
20年ほど前、「開発」から「自然」を守ろうと、行政施策に対する反対運動が相次いで起こった。名古屋オリンピックの誘致で開発の危機にひんした平和公園を守りたいと活動を始めた「平和公園自然観察会」*、公園内施設建設に対し緑地を守りたいと活動した「猪高緑地の自然を守る会」**、「天白公園を考える会」*** などなど…。これらの市民団体は、反対運動の一方で、「この貴重な自然をみんなに知ってほしい」と、定期的に自然観察会やイベントも実施するようになる。
このような動きの中で、里山の必要性、みどりの必要性が見直されるようになり、行政も地元の保護活動団体と話し合いながら、保全・整備を行うようになってきた。そこに、「雑木林研究会」**** など専門家のサポートが加わり、協働の森づくりが本格的にスタートしたのだ。

相生山緑地からスタート

それは、1998年に開園した「相生山緑地オアシスの森」から始まった。名古屋市の「オアシスの森づくり」事業***** の第1号地である。

開園の2年前から、市は雑木林を守り育てる「人づくり」に取りかかった。地元にある天白社会教育センター(現・生涯学習センター)で「雑木林インストラクター養成講座」を行うとともに、2年間で8回のしば刈り大会も実施。しば刈り大会は、地元の人たちに呼びかけ、前述の雑木林研究会がサポートを行った。行政の立場で参加した人、講座の受講生、雑木林研究会会員、地元の人たち……2年の準備期間に相生山緑地とかかわった人たちと相生山緑地との心の距離は次第に近づき、「自分たちの森は自分たちの手で」という思いも育つことに。そして、開園と同時に「相生山緑地オアシスの森くらぶ」が誕生した。

月に一度の定例活動では、雑木林の手入れ、トンボ池づくり、炭焼きなどに取り組んでいる。また、自分たちの活動を多くの人たちに知ってもらおうと、春と秋にはイベントを開催。自然観察会やクラフト、森のコンサートなど、森の楽しさ・豊かさをPRし、仲間づくりを行っている。

現在、市内各所で行われている森づくりにかかわる人たちは、一度はオアシスの森くらぶの活動に参加し、身近な自然のすばらしさ、森づくりの心地よさを体感した人も多い。また逆に、オアシスの森くらぶの会員が、ほかの森づくりのサポートに入ることもある。協働の森づくりは、ここから広がっていったのだ。

* 平和公園自然観察会:現在も継続して活動。「なごや東山の森づくり」の原点となる。
** 猪高緑地の自然を守る会:現在、猪高緑地の森づくりを行う「名東自然倶楽部」に合流していく。
*** 「天白公園を考える会」:現在、子どもたちが自分の責任で自由に遊ぶ場「プレーパーク」を運営し、子どもたちが遊ぶ「冒険の山」の手入れを行う「てんぱくプレーパークの会」(天白公園冒険の山公園愛護会)の原点となる。
**** 雑木林研究会:1992年設立。人と雑木林との関係を取り戻そうと、さまざまな視点から活動を展開。市民活動団体や自治体の里山保全活動のバックアップも行っている。
***** オアシスの森づくり事業:都市計画公園緑地として計画決定されながらも、事業化して買収するには多額の費用と時間がかかる。そのため、民有地を無償で借り、市民と行政との協働で雑木林の保全と活用を行うという名古屋市独自の事業。

雑木林を侵食する竹林の手入れ
ビートルズ・アパート(カブトムシのすみか)づくり

森づくりはコミュニティーづくり

オアシスの森づくり事業は、猪高緑地、東山公園、荒池緑地と続き、2000年に策定された「名古屋新世紀計画2010」には、かつての里山の再生をめざす「なごや東山の森づくり」(東山公園・平和公園)と、植樹によりゼロから始める「なごや西の森づくり」(戸田川緑地)が先導的プロジェクトとして位置づけられた。

また、2004年には、樹林地の保全のために市が民有地を借り、地域住民に自然とのふれあいの場として開放する「市民緑地」* が「大将ヶ根市民緑地」と八竜緑地でオープンした。このほかにも、小さな緑地で公園愛護会** という形をとって、市内各所で森づくりが進行中だ。

名古屋の森づくりには「片手にノコギリ、片手にビール」という合い言葉(?)がある。各々の違いを認め合いながら1つの目標に向かって汗を流し、楽しく語り合う場。ときには、どんな森にするかで議論を戦わせることもある。知恵を出し合ったり、議論をしたり、一緒に汗を流し、笑い合う。森づくりは、コミュニティーづくりにつながっているのだ。

* 市民緑地:都市緑地保全法に基づく制度。
** 公園愛護会:市と公園の周辺住民が協力して公園管理を行い、あわせて公園を大切にする心を地域に広めることを目的とする。除草、清掃活動などに対して報奨金を交付している。

森づくりネットワーク

しかし、早期に立ち上がった団体には、広がらないという悩みや、会員の中でめざす森づくりについてコンセンサスが得られにくい状況が生じている。また各団体は、大都市の中の森づくりとして共通の課題(例えば、行政との関係の取り方や、保全と人が入り込むこととの兼ね合い、外来種の移入の問題など)も抱えている。そこで2003年、それらの課題を共有化し解決に向けて議論したり、スキルアップのための交流を行い、各活動を活性化しようと、市民活動団体と市が協力して「なごやの森づくりパートナーシップ連絡会」を設立した。各フィールドを訪問し、一緒に作業を体験して学び合う「フィールド訪問」や、森づくりを広く市民にPRし仲間づくりを進めるためにイベントを行う「パートナーシップ事業」などを行っている。

名古屋で本格的な森づくりが始まって7年ほど。おのおののフィールドを中心に活動してきた団体がネットワークを組むことで、大きく外に向けて森の魅力と森づくりの情報を発信し、森(里山)と一般市民をつなぐことができるようになる。また、市政に市民の声を届ける場にもなり、行政と市民が一緒に名古屋の自然環境をつくっていく体制ができたのだ。名古屋の森づくりは新たな展開に向けて動き出した。

市民緑地第1号の「大将ヶ根市民緑地(愛称「大将ヶ根ざわざわ森」)」(緑区)。緑地の保全と活用に携わるのは、地域住民と「なごや環境塾」修了生でつくる「大将ヶ根ざわざわ森クラブ」。毎月の定例活動には、季節を楽しむお楽しみ企画を盛り込んでいる(写真提供/大将ヶ根ざわざわ森クラブ)

○ なごやの森づくりパートナーシップ連絡会の情報

(財)名古屋市みどりの協会「グリーンナビなごや」(みどりのまちづくりパートナーシップ)

https://www.nga.or.jp/