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「脱プラ」の行き先は? ~万博食器から食べるスプーンまで

取材・文 関口 威人
  • SDGs

石油由来のプラスチック製品をなくす「脱プラ」の流れが急だ。ここ数年でストロー、レジ袋、スプーンなどが次々と注目を浴び、「使わない」「もらわない」「代わりのものを」と呼び掛けられている。一方、名古屋を中心としたこの地域では、15年以上前からさまざまな試行錯誤が繰り返されてきた。その流れをたどりながら、「脱プラ」の目指す先を探ってみたい。

2005年万博の食器、19年まで県庁食堂に

2005年に開かれた愛知万博(愛・地球博)は、環境問題を解決するさまざまな技術開発の実験場でもあった。燃料電池車や再生可能エネルギー、壁面緑化のほか、トウモロコシなど植物由来のバイオマスプラスチックが当時「世界最大規模の実証実験」として導入。具体的には、会場内のレストランなどで食器類約2000万個が使われたのをはじめ、場内のサインや包装紙、ごみ袋にも利用された。

食器類の中で「ワンウェイ(使い捨て)」タイプのものは、食べ残しと一緒に回収、会場外で堆肥化処理され、農作物の肥料として再利用された。より耐久性のある「リターナブル(繰り返し利用)」タイプは、一部が閉幕後、中央の6府省と全国25の府県庁に提供されたと報告されている。

筆者も2009年、愛知県庁の食堂にあった食器を見せてもらったことがある。大小の皿にトレーもあり、万博のロゴマークと一緒に「この食器はバイオマスからできています」と印刷されていた。食器の表面は白くツヤツヤ。目立った傷などは見られなかった。

あの食器はどうなったのか。気になって今回、県庁の食堂を運営する愛知県職員生活協同組合に聞いてみた。すると、「2019年までは西庁舎の食堂で使われていました」との返事。そのタイミングで納入業者が替わり、食器もほとんど入れ替えてしまったのだという。「バイオプラ食器は親しまれていましたが、さすがに耐久性が落ちていたと聞いています」と生協の担当者。それでも14年間は使われたということだから、立派だったと言えるのかもしれない。

万博当時は、まだ「バイオプラ」の定義もはっきりとはしていなかった。

石油由来のプラスチックでも、微生物によって水と二酸化炭素に分解される「生分解性プラスチック」という名称がある。一方、植物由来でも分解されにくいプラスチックがあり、消費者には分かりにくかった。

万博でのプロジェクトを機に議論が整理され、万博翌年の2006年7月、業界団体による「バイオマスプラ識別表示制度」が成立。一定の基準を満たした植物由来原料を重量比で25%以上使った製品がバイオマスプラスチックと定義され、認定マークを使えることになった。

一方、石油由来成分も認められる生分解性プラスチックの認定制度は「グリーンプラ識別表示制度」という名称を経て、2021年から「生分解性プラ識別表示制度」に。「生分解性プラ」のうち、植物由来の基準を満たすものを「生分解性バイオマスプラ」と呼ぶようにもなっている。

レジ袋は「海中で分解」まで進化

万博をきっかけに「生分解性レジ袋」を開発したのは、名古屋市港区に本社を構える「キラックス」。旧・吉良紙工として1965年に創業した包装資材メーカーだ。

食品全般の包装容器やガラス加工なども手掛ける中、万博会場で採用された生分解性レジ袋を閉幕後も地道に改良を重ね、商品化してきた。

コストや運用面で普及はなかなか進まなかったが、最近の「脱プラ」や「脱レジ袋」の流れで注目を集めているのが、3年ほど前から大手化学メーカーと共同で研究開発してきた「海洋生分解性レジ袋」だ。

実際の商品を同社で見せてもらうと、おなじみの半透明なレジ袋の表面に「海洋生分解性袋」と大きく書いてある。「こうやって印刷しないと違いが分からないので」と商品開発部の嶋崎太郎さんは控えめに説明する。

嶋崎さんによれば、この商品はトウモロコシなど植物由来のプラスチック原料を、特殊な製法で厚さ0.03ミリに加工。文字通り、海中で微生物によって水と二酸化炭素に分解され、約1年でほぼ形がなくなることが分かっている。

ただし、通常の保管状態でも3~4カ月で品質が低下してしまう。そのため、店舗で導入する際は在庫を大量に持てない。また、製造コストは従来の7~10倍もかかる。

今回のレジ袋有料化制度では、海洋生分解性プラスチック100%の袋は例外として無料配布も可能だ。しかし、「エコを謳う商品が無料で配られるのも違う。どう売り出していくべきか、私たちもまだ模索中です」と嶋崎さん。「レジ袋は使わない方向でいいと思いますが、使う場合に少しでも環境負荷のないものの選択肢として選んでもらえれば」と、やはり控えめに話す。

名古屋市は、1999年の「ごみ非常事態宣言」のころからレジ袋の削減を呼び掛け、スーパーなどでレジ袋を辞退するとポイントのたまる「エコクーぴょん」制度(2003~09年)などを経て、有料化を先導してきた。しかし、全国チェーンのコンビニやドラッグストアなどは消極的で、機運が盛り下がる中、国が追い付く形で有料化の旗を振る。ふたを開ければ全国的にレジ袋の辞退率は急上昇、昨年1年間でレジ袋の国内流通量は約35%減り、環境省は一定の削減効果があったとする。

ただ、それが海洋環境の改善などにどれだけ効果があったのか、消費者からは懐疑的な見方も消えない。業界団体もレジ袋を単に「悪者」にして排除するのではなく、生分解性などの「環境にやさしいレジ袋」の普及を国が後押しするべきだと要望している。行政と企業、消費者が同じ方向を見て取り組めるかが「脱レジ袋」についての課題と言えそうだ。

万博をきっかけに開発が始まり、改良が続いている「キラックス」の生分解性レジ袋

インパクト大!「食べるスプーン」

国はレジ袋に続いて、コンビニなどで無料配布しているスプーンやフォークも「脱プラ」するための法律、いわゆる「プラスチック資源循環促進法」を制定した。使い捨てプラスチック製品を大量に使用する事業者に対して、2022年4月以降、有料化や再利用などの対応が義務化される。

これによって象徴となったスプーンについても、この地方でユニークな取り組みがある。「食べられるスプーン」だ。

その名の通り、スプーンの形をした食品。主な原材料は小麦粉だから、堅焼きのクッキーというイメージが近い。「PACOON(パクーン)」の商品名で、昨年10月から売り出されている。

開発したのは愛知県刈谷市の「勤労食」。社員食堂や学生食堂の運営が主な事業で、名古屋市役所の食堂も運営している。そんな会社がなぜ「食べられるスプーン」なのか?

「社員食堂を利用してもらうのは主に大人ですが、野菜を多く食べてもらうなど体の健康については子どものうちから考えてもらいたい」

同社常務の濱崎佳寿子さんは、こんな思いが開発のきっかけだったと明かす。それが形になったのは、碧南市の「丸繁製菓」との出会いからだった。同社はイベントで出す食品のトレーを小麦粉やコーンから作り、「食べれる食器イートレー」として販売していた。

「これを子どもたちの喜ぶデザートのスプーンにも使ったら『食育』になるし、ごみを減らすことにもなる」

濱崎さんたち勤労食は2年ほど前から、丸繁製菓と提携してスプーンの開発に着手。大きさや形、硬さに加えて、カラフルな色の取り合わせもさまざまに試した。最終的に「おから」「抹茶」「かぼちゃ」「いぐさ」「ビーツ(赤いホウレンソウの仲間)」のパウダーを国産小麦に混ぜた5種のスプーンが完成した。20本入り1620円の定価で自然派食品の店に並べてもらったり、かき氷店で使ってもらったりしている。

実際に使用してみると、牛乳などの液体に浸けてもふやけない。シリアルをすくって食べていたら、野菜の香りや味が染み出してくるような感覚もあり、最後にはスプーン自体もサクッと食べられ“お得感”があった。

濱崎さんによれば、発売以来じわじわと反響を呼び、特に新たな法律が決まってからは幅広い飲食店などからの問い合わせが増えているという。名古屋市内では、中村区のJICA中部なごや地球ひろば内のセレクトショップ「meets」で扱われており、今後も販路を拡大していく予定だ。

濱崎さんは「学校給食などでも期間限定で取り入れてもらいたい。これをきっかけに大人と子どもが環境やSDGsのことを話し合ってくれれば、世の中がより早く変わっていきそう」と期待する。

コロナ禍で、さまざまな感染予防の道具や持ち帰り容器などに使われるプラスチック製品が増えているのも事実。だからこそ“不要不急”のプラスチック製品はできるだけなくして、メリハリを付けるべきだろう。特にこの地域は、そうした意識改革や行動変容、そして画期的な技術開発のできる土地柄なのだから。

刈谷市の「勤労食」が売り出した食べられるスプーン「PACOON」