ENVIRONMENTALCOLUMN 環境情報を知りたい方/環境コラム
ボランティアたちのCOP10 −−生物多様性交流フェア
10月11日〜29日まで、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋で開催された。その議論は一般市民には縁遠いが、それに伴って行われた生物多様性交流フェアには、200以上のNPO・NGO、企業、自治体、政府、国際機関が出展し、一般の来場者も多かった。
各国・全国から集まったNPO・NGOが交流したり、フォーラムで活動報告をしたり、乱開発から生物多様性のホットスポット* を守ろうというNGOアピールがいろいろな形でなされたりと激動の毎日。そんな盛りだくさんの交流フェアで、「名古屋市ブース」と「なごや環境大学」のブースでは何が行われていたか、総勢139人のサポートボランティアの動きを中心に報告したい。
名古屋市ブースのテーマ
名古屋市ブースは、名古屋市となごや環境大学の協働でつくられた。テーマは、「生物多様性2050なごや戦略」を表現すること。思い悩んだ末、未来のまちを描く「人」をつくっていくために、「気付きや参加へのヒント」を提供することに行き着いたという。それも、ボランティアガイドが一方的に伝えるのではなく、来場者と交流しながら共にそのテーマについて考え、最後は未来のまちに対して「自分がどのようなことで参加できるか創造する」場にすることを目指した。ブースタイトルは、「はじめています 生物多様性 なごやACTION」。
ブースは大きく5つのエリアに分かれている。「展示:過去のなごや」「展示:現在のなごや」「展示:未来のなごや」「ワークショップ」「カフェ」。来場者は、入口で名古屋市の絶滅危惧種6種のうち1種の折り紙を選び、その動植物になったつもりで、なごやの過去、現在、未来を眺めていく。長い進化の過程を経て今を生きているニホンイシガメは、コンクリート護岸の川で卵を産む場所もなく困っている。ハマグリは、汚れた水の中で息苦しいと嘆いている。このままではいけないと、なごやはもう未来に向けて行動をはじめているのだ。100年後のなごやを表した巨大パネルには、なごや西の森づくりなど、なごやで取り組んでいる施策が掲げられている。そして、最後に来場者に「あなたにできることは?」と問いかける。
*ホットスポット:多様な生きものが生息しているのに、絶滅などの危機に瀕している地域。
アクションへつなげるワークショップ・カフェエリア
展示エリアを出たところにあるのは、ワークショップエリアとカフェエリア。ワークショップエリアでは、「すでに(行動を)はじめている」市民団体(なごや環境大学で共育講座を実施している団体)が、日替わりで様々なプログラムを展開している。カフェエリアでは、サステイナブルコーヒー* を飲みながら休憩したり、時には、重曹を使ったエコ掃除法や、環境に配慮した買い物に役立つ環境ラベルなど、暮らしの中でできる取り組みを紹介する「カフェトーク」も行った。展示を見た後は、「自分もアクションを!」と呼びかけているのだ。
カフェエリアの隅では、NPO法人「NICE(日本国際ワークキャンプセンター)」** が企画した「世界七夕アクション!」を実施。展示を見終わった来場者が、短冊に自分のできるアクションを書き、最終的にその数は1,180枚に達した。COP10終了後はパリのユネスコ本部に運び、飾られる予定だ。
期間中に名古屋市ブースを訪れた人は10,496人にのぼったという。
* サステイナブルコーヒー:サステイナビリティー(持続可能性)に配慮したコーヒーのこと。自然環境や人々の生活を良い状態に保つことを目指して生産・流通されている。
**NICE:ワークキャンプなどを行う国際ボランティアNGO。http://www.nice1.gr.jp/
なごや環境大学ブースのテーマ
なごや環境大学ブースのテーマは、1992年の「地球サミット」で出された「環境と開発に関するリオ宣言」の27原則を表現すること。現在行われている多くの社会活動がリオ宣言に影響を受けているように、なごや環境大学もその流れの中に位置づけられることを表したという。27原則の原文は難解な表現だが、それを子どもでも楽しめるように伝えたいと、ボランティアがアイデアを出し、絵で表現、コミュニケーションツールに仕上げた。
なごや環境大学ブースを訪れると、壁には1本の柿の木。27個の柿の実が各原則の絵になっていて、それをめくると下に様々な市民団体(名古屋市ブースでワークショップを担当した団体)の活動写真が現れる。団体の活動がその原則に当てはまっていることを示しているのだ。赤い熟れた実の下にはたくさんの活動団体、青い実の下には団体がない。これからこの分野をがんばらないと・・・という訳だ。
この柿の木は、子どもたちがやってきたら、キーワードを読み上げて、それに対応する絵を当てる「かるた」遊びにも使用。ほかにも、28個の箱で生態系ピラミッドをつくり、子どもたちに箱を抜いてもらう遊びも行った。各箱には、表面に生きものの絵、裏面に27原則の絵が描かれている。ピラミッドの頂上は「人」だ。子どもたちが抜くのは下段にある「Today」と書かれた箱。さて生態系ピラミッドは壊れるか? これにより、私たちの暮らしが、小さな生きものに支えられていることを感じてもらいたいという。
期間中になごや環境大学ブースを訪れた人は5,510人だった。
ボランティアがつくった名古屋市・なごや環境大学ブース
名古屋市となごや環境大学ブースに関わったサポートボランティアは総勢139人。なごや環境大学が組織し、8月上旬からミーティングを進めていった。
<アイデア会議>
8月に行った3回のミーティングの延べ参加者は96人。リオ宣言の27原則をどのように表現するかを話し合い、各人がイラスト案を描いたり、名古屋市ブースの展示の最後に設置する「できることBOX」をどのようにつくるかを話し合った。
<ものづくり作業部会>
9月に行った3回のミーティングの延べ参加者は118人。なごや環境大学ブースの生態系ピラミッドをつくったり、名古屋市ブースで来場者に選んでもらう絶滅危惧種6種の折り紙をひたすら折り続けた。
<ワークキャンプ>
物づくり部会のスペシャルバージョンともいえるワークキャンプは、前出のNICEとなごや環境大学の共催で、合宿型のボランティアプログラムとして行われ、主にブースで使う机と椅子づくりを担当した。COP10前の3回の企画には、大学生を中心に各回10人ほどが参加。間伐材を使った製作作業に加え、なごやの飲み水やごみのこと、里山のことも知ろうと、水源の森である御嵩町の山や、ごみ埋め立て処分場がある愛岐の森、猿投の森を回って、地元の人とも交流しながら森林整備や里山仕事の体験をした。
また、期間中同時に行われた国際ワークキャンプでは、アジア7カ国のNGOリーダーと名古屋の大学生、ブースボランティア、一般来場者が集い、カフェエリアでフリーディスカッションを行い、交流を深めることも。最終的には、COP10終了後の11月にふりかえりを行って、今回の成果と来年以降の取り組みを発表する予定だという。
<ガイドボランティア>
ガイドボランティアを担当したのは139名。事前にマナーや話し方トレーニングを受け、直前には現場でリハーサル。来場者によってその都度、対応は変わるため、ボランティアの個性も発揮され、回を重ねるごとに来場者との交流を楽しむ余裕も出てきたとか。また、休憩時間にワークショップに参加したり、実施団体の人たちと交流する場面も見られた。多くのガイドボランティアが「他ではできない学びがあった」と感じたようだ。
<成果は?>
ブースの企画・運営コーディネーターの児玉記幸さんは、「まだ成果は出ていないと思っています。ボランティアの7割は学生。今回の経験が心に刻まれ、将来、なごやのまちづくりに参加してくれたら」と話す。
11月末、ボランティアが集合してふりかえりを行い、次へのステップを考えるという。
つくろマイHashiプロジェクト
最後に、本サイト(2010年6月エコ最前線)でも紹介した「つくろマイHashiプロジェクト」の成果についても触れておこう。
COP10までに1,000セット(箸&箸袋)を目指して始まったプロジェクトは、実質7カ月の作業期間で1,164セットを完成。定例で作業を行った工房以外にも、小学校PTAや中学校生徒会、コミセンなど、地域31カ所で出前ワークショップを行い、製作に携わった市民は延べ646人。参加者からは、「楽しかった」「次はここでやりたい」などの声が上がり、真の目的であった製作の過程でのつながりづくりも満足な成果を残したようだ。
万全の体制で迎えたCOP10。毎水曜日の午前中は、名古屋市ブースで「マイHashiづくりワークショップ」を実施。毎回、ほぼ満席の盛況ぶりだった。午後からはコアメンバーが、海外のブースを回って箸をプレゼント。たどたどしい英語で箸について説明したり、一緒に記念撮影をして交流した。会期終盤には、環境NGOの副理事長として会場を訪れていたハリソン・フォード氏にもメンバーが直接、手渡しするラッキーな場面も。その他、会議場内に配布ボックスを置いたり、なごや環境大学ブースで配るなどして、1,164本の箸がメッセージと共に渡っていった。
COP10終了後の11月、これまでのつながりから生まれたご縁で、名古屋市消費生活フェアでワークショップをするなど、今後もオファーがありそう。どのように展開していくか、ふりかえりを行いながら検討するという。
人、技、志・・・様々な交流が行われた生物多様性交流フェア。人もまた多様であることが、豊かなまちをつくることにつながると確信できたCOP10だった。