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絶滅危惧種のウナギは生物多様性の象徴 名古屋で開かれたシンポジウムを振り返る
この春に名古屋市内でウナギをテーマにしたシンポジウムが開かれた。ニホンウナギの生態や保全、利用や食文化などについて、専門家らによる報告が行われ、筆者も「ウナギと愛知のつながり」と題して発表した。会場には多くの人びとが来場し、ウナギをめぐるさまざまな報告について熱心に聞き入り、意見を交わした。シンポジウムの模様を振り返り、ウナギという生き物について考えてみたい。
ウナギとともに暮らす未来を考える
「ウナギの想いを探る名古屋シンポジウム」は2026年5月17日、名古屋市港区の名古屋港ポートビルで開かれた。主催は、森里海を結ぶフォーラムで、第1部に講演、第2部に現場からの報告が行われ、5名の専門家らが登壇した。この催しは、身近な絶滅危惧種であり、海と川を行き来するニホンウナギに関心を持ってもらおうと、京都大学名誉教授である同フォーラムの田中克代表と地元の有志らが協力して企画した。
田中代表らが編集にかかわった『ウナギの“想い”を探る』(花乱社)が、2024年に刊行されたのを契機に全国各地で連続シンポジウムが開かれており、その一環として名古屋で開催された。また、このシンポジウムが開かれた同月には、編者の一人として同氏がかかわった『高校生とニホンウナギ』(ヴィッセン出版)が発刊され、両書とも会場で展示された。
冒頭、田中代表が開会の挨拶に立ち、続いてこのシンポジウムを企画したメンバーである、瀬戸SOLAN学園初等中等部の三倉志仁教諭が開催にあたり趣旨を説明した。
田中代表は挨拶で以下のような話を述べた。東アジアでウナギは激減している。この問題に我々はどう取り組んでいくべきか。絶滅危惧種のウナギは、森里海をつなぐ生物多様性の象徴である。ウナギは、わたしたちの食であり、いのちでもある。ウナギの問題は身近に存在する。この問題を解決するのは未来世代であり、この世代が幸せになれるかどうかを大事な判断基準とする世界の流れが動きだしている。未来のために今日行動し、いま行動することが、わたしたちに求められている。このようなことを皆さんと共有したい。
三倉教諭は、「今日はウナギを食べるなと皆さんに呼び掛ける集会ではないんです。ウナギという生き物、そして食文化をつないで、ウナギとともに暮らしていくためにはどうしたらいいかということを、ここにいる皆さんと一緒に考えていきたい。このシンポジウムを開いて、ウナギの街、ひつまぶしの街である名古屋から発信していくことは意味がある」と話した。
子どもたちはウナギが大好き
第1部の講演では、京都大学大学院農学研究科の三田村啓理教授が「ニホンウナギの行動・生態を探るバイオロギング」、児童文学作家の阿部夏丸氏が「ウナギってすごい生き物!ウナギと楽しく遊ぶ」と題して報告した。
三田村教授は、魚に小型の発信機を取り付けて行動を追跡する「バイオロギング」や「バイオテレメトリー」という方法を使って、さまざまな魚が「いつ、どこで、どのように生きているのか」を明らかにすることを目指し、調べている。福島県の松川浦という汽水湖に放流した天然ウナギと養殖ウナギの行動を調べたところ、どちらのウナギも夜になると餌を求めて川を行き来し、規則正しい生活をしていることが分かったという。
一方で三田村教授は、養殖ウナギは放流後、2カ月くらいでデータが取れなくなったことから「鳥に食べられた可能性がある」と指摘。「養殖ウナギと天然ウナギの動きが違うことがわかってきた」とまとめた。そのうえで、人の手で育てられたウナギは、自然の環境では長く生き残れない可能性が見えてきたと述べ、養殖ウナギは放流してもすぐには資源の増加に役立たないかもしれない点について言及した。
子どもたちとの川での遊びを30年間続けている阿部氏は、その活動の様子を多くの写真を使って紹介した。子どもにとって大事なことは、ぜんぶ「川や魚が教えてくれる」とし、「僕たち人間は生まれながらにして水と親しむ力を持っている」と述べた。絶滅が危惧されているウナギについては、子どもがまたげるような川でも、町の真ん中を流れているコンクリートの用水路でも、田んぼの脇の水路でも、ほぼどこでも捕れると話し、「自分の家の近くに川があったらのぞいてみて」と呼び掛けた。
また阿部氏は、「おらが川にはウナギがいるということを知っているのと知っていないのでは、川に対しての想い、その川をどうしたいのかという気持ちに大きな違いがある」と、話す言葉に力をこめた。そしてウナギについて、河口から山のてっぺんの渓流までどこにでもいるのに正体が不明で、見た目はあやしいのに愛嬌があると、その魅力について力説。子どもたちは、妖怪のようなウナギが大好きだと語った。
石倉カゴや雌化、食文化について報告
第2部の「現場からの報告」では、いはらの川再生PJ会の伏見直基代表が「石倉カゴによるウナギモニタリング調査」、愛知県水産試験場の稲葉博之主任が「ウナギの雌化とその意義」、ライターである筆者が「ウナギと愛知のつながり」について発表した。
静岡市清水区庵原在住で、地元の土木資材商社で働いている伏見代表は、2013年にウナギの棲みかとなる石倉カゴの技術開発を行う。石倉カゴは、樹脂製ネットに石を詰めたもので、伝統漁法「石倉」と伝統土木工法「蛇カゴ」を組み合わせたものである。2016年には、同県静岡土木事務所が庵原川の工事で石倉カゴを設置したことから、地域住民を主体とする「いはらの川再生PJ会」を立ち上げる。そして、県や市、大学や企業、自治会などの協力を得て、ウナギを対象に棲みかづくりの調査を続けている。
伏見代表は、これまでの調査から多くのウナギと水生生物が、石倉カゴを棲みかとして利用していることがわかったと解説。このカゴを使うことによってウナギを含む水生生物の棲みかができ、多自然川づくりが可能になると期待をこめた。そして、住民が主体となって行う庵原川での活動が「全国に広がっていくようになれば」と抱負を述べた。
食味に優れた大型雌ウナギの生産技術を開発した稲葉主任は、ウナギの雌化とその意義について報告した。ニホンウナギの養殖用の種苗には、天然の稚魚が用いられているが、その稚魚が減少し、近年は資源の有効利用が求められていた。その解決策の1つとして、出荷サイズの大型化があげられていたが、ウナギは養殖過程で大半が雄になり、しかも雄ウナギは大きく育ちにくいうえに大型になると肉質が硬くなるという問題があった。一方で、養殖ウナギの中でわずかにみられる雌ウナギは、雄ウナギより大きく成長し、身がやわらかくおいしいことが知られていた。
そこで稲葉主任は研究を重ね、大豆イソフラボンを用いて雌化した大型ウナギの生産技術を開発する。この技術は現在、愛知県だけでなく、静岡県など全国各地で導入されており、ウナギ資源の有効利用や養鰻業者の収益向上に大きく寄与することが期待されている。
最後に筆者が登壇し、愛知県は西尾市一色町や豊橋市などで養鰻が盛んであるとともに、名古屋市をはじめ県内各地には多くのウナギ専門店があることから、同県はウナギの生産と消費の両方がとても盛んであることを強調した。さらに県内の尾張地方は、江戸時代から天然ウナギの産地として知られており、食文化の視点からウナギと愛知のつながりについて話題を提供した。
また、筆者は「鰻」のつく地名が県内に数多く点在し、ウナギが登場する伝説や昔話が名古屋市や岡崎市、豊川市にあることを紹介。「今も残る地名や伝説から、ウナギと愛知県のむすびつきが見えてくる」と話し、強靭な生命力と謎の生態をもつウナギは、水の神の象徴として昔から人びとに畏れられ、敬われる特別な存在だったのではないかとの考えを示した。
ウナギから謙虚に学び、考える
その後、質疑と意見交換の時間へと移り、会場からは多くの声があがった。進行役を務めた田中代表が「また名古屋でウナギに関するいろいろな取り組みができればと思う。ウナギというのは多少意見が違っても、ウナギのためなら一緒にやろうという、そういう人をつないでくれるような存在である。今日はウナギがいかにすごい生き物かというのを感じる場になった」と述べて閉会となった。
今回のシンポジウムには、大人から子どもまで100人を超える参加があり、ウナギに対する関心の高さがうかがえた。わたしが記憶している限りでは、名古屋でウナギについてのこのような催しが開かれたのは、初めてのことである。さまざまな視点からウナギをとらえ、その魅力を掘り下げる画期的な催しであったと思う。
大きな内湾と多くの河川を抱え、養鰻が盛んで蒲焼の文化が発達している愛知県には、ウナギとの深いつながりがある。海と川を行き来する生き物で、水産資源でもあるウナギの存在は、環境と食の問題を考えるうえでとても重要である。その生態に謎を秘めたウナギは、人と自然をつなぐだけでなく、人と人をむすぶ、魅惑にあふれた生き物でもある。この魚から謙虚に学び、人類が進むべきこれからの道について多くの人とともに考え、探っていきたい。





