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「おかえりやさい」の危機!? から考える食品リサイクルの課題

取材・文 関口威人
  • まち

名古屋市内の学校給食やスーパーから出る生ごみを堆肥化して野菜を育て、消費者に戻す「おかえりやさい」。なごや環境大学の共育講座でもおなじみだが、今その取り組みが存続の危機に立たされている。直接的な要因は堆肥(たいひ)化施設の事業廃止だが、それを取り巻く食品リサイクルの課題も大きい。その事情を追った。

■生ごみの循環「見える化」で市内外から注目

「おかえりやさいプロジェクト」は名古屋市の生ごみ(食品残さ)の減量化を話し合う市民参加の議論の中で、「リサイクルの輪をつなげる」「循環を見える化する」試みとして当時、名古屋大学に所属していた岡山朋子さん(現・大正大学地域創生学部教授)や市民、事業者が中心となって2008年にスタート。ネーミングは参加していた主婦のアイデアで決まり、「おかえりぼーや」というキャラクターも誕生して親しまれた。市の学校給食でも「おかえりやさい」のタマネギとブロッコリーが使われ、リサイクルや地産地消の取り組みとして紹介された。

共育講座では、野菜が育てられる畑で収穫体験をしたり、売られているスーパーを見学したり、調理して味わったりしながら市民に「リサイクルの輪」を実感してもらっていた。2014年には環境省の「グッドライフアワード」のグッドライフ特別賞を、2018年には「生物多様性アクション大賞」の環境大臣賞を受賞するなど、内外からも注目されていた。

ところが、その「輪」の中にあった市内の堆肥化施設が、2025年に稼働を停止してしまった。これまでも一時的な停止はあったが、事業が譲渡されるなどして存続してきた。しかし、今回は事業譲渡の見込みもなく、施設の解体にまで着手するという。共育講座で続けてきた施設の見学ツアーの内容も、25年度は一部が変更された。

岡山さんは「資源化のループの中で堆肥化は一番のカギでした。その施設がなくなることは『おかえりやさい』も終わることだと覚悟しました。結果的に『やめなくてもいい』というメンバーの声が多く、来年度もプロジェクト自体は継続することになりました。しかし私たちにできることは非常に限られ、その先は見えていません」と話す。いったい何が起こったのだろうか。

2025年度の共育講座で「おかえりやさい」の売られているスーパー(フランテロゼ覚王山)を見学する参加者=岡山朋子さん提供
2025年度の共育講座で「おかえりやさい」のダイコンを収穫する参加者=岡山さん提供
2025年度の共育講座で大府市のバイオガス発電施設を見学する参加者。バイオガス化も生ごみの資源化の一つだが、「おかえりやさい」にとって堆肥化ほど直接的なリサイクルではない=岡山さん提供

■港区の堆肥化施設は資源化率目標達成にも貢献

「おかえりやさい」の堆肥化は、名古屋市港区に「バイオプラザなごや」として建設された民間施設で担われていた。

この施設は、熊本県の廃棄物処理会社が開発した独自技術に注目した名古屋市が誘致する形で2007年に完成。最大1日約300トンの処理能力を持ち、生ごみを堆肥化して農家などに出荷する国内最大級の食品リサイクル工場として、市内の学校給食の生ごみの処理も任された。市はリサイクルの推進や食品ロス対策として、事業系生ごみの資源化率を50%にする目標を掲げており、「バイオプラザ」の効果もあって2017年には目標を達成していた。

ところが2019年、この施設から排水基準を超える汚水を名古屋港に垂れ流していたとして、愛知県警が運営会社(A社)の元社長らを水質汚濁防止法違反の疑いで逮捕。名古屋地裁での公判で、元社長は「ごみの受け入れ量が増えて水質が悪くなり、違法に排水し始めた」が、それを「公にして食品リサイクルが止まるのが怖かった」などと供述し、有罪判決を言い渡された。

事件を受けて、名古屋市と愛知県はA社の事業許可を取り消し、施設は稼働を停止。生ごみはいったん焼却処分に回される時期が続いたが、やがて名古屋市内の別の企業(B社)が施設を引き継ぎ、稼働を再開。一時14%にまで落ち込んだ事業系生ごみの資源化率は、再び40%前後まで回復していった。

名古屋市の事業系生ごみの資源化率=市環境局資源循環推進課の資料を基に筆者作成
名古屋市の事業系生ごみリサイクルの仕組み=名古屋市第6次一般廃棄物処理基本計画から抜粋
スーパー(フランテロゼ覚王山店)のバックヤードで収集車に積まれる「おかえりやさい」の堆肥の原材料となる生ごみ=岡山さん提供

■引き継いだ企業はコロナ禍でごみ量減少に苦しむ

だが、ここにコロナ禍が直撃し、事業系生ごみの量が激減する。市環境局資源循環推進課によれば、B社からは「コロナ禍で減った事業系生ごみの搬入量が、コロナ禍が明けてもなかなか元に戻らない」との話があり、昨年4月に事業廃止の意向を伝えてきた。7月末で生ごみの受け入れは終了し、今年1月に会社は解散された。

その詳しい理由について、B社の親会社だったC社に取材を申し込んだが、応じてもらえなかった。しかし、B社との取り引きもあった廃棄物収集運搬業の関係者は、「前の会社の事件もあり、施設自体の信頼が取り戻せなかったところにコロナ禍が来て、モノが集まらなかった。しかたなく質の悪い生ごみも処理したところ、水分が多くて腐ってしまうなどうまくいかなかったようだが、まさか廃業にまで追い込まれるとは思わなかった」と事情の一端を明かした。

量とともに、もう一つの大きなハードルとなったのが「手数料」だったという。生ごみを排出する事業者は、生ごみの収集・運搬・処分費用をそれぞれの事業者に手数料として支払う。その手数料の合計は、市の条例で上限が1キロ当たり50円と決められていた。そのうち処分手数料は原則1キロ当たり20円と定められ、A社やB社もこの手数料を主な収入源としていた。堆肥化事業には他に公的な補助金などもなく、「(少ない時期には)一日20〜30トン程度の量で、この手数料単価では、経営が難しかっただろう」と関係者は証言する。

港区でA社が経営していた時代の堆肥化施設「バイオプラザなごや」=2016年、筆者撮影
A社から経営を譲り受けたB社の廃業で完全に稼働を停止した旧バイオプラザなごや=2026年2月、筆者撮影
廃業を受けて施設は既に取り壊しが始まっていた=2026年2月、筆者撮影

■「環境都市」の象徴的な取り組み、官民で再考を

市内で堆肥化ができなくなることで、資源化するには市内で家畜などの飼料にするか、市外で堆肥化したり、バイオガス化して発電したりする選択肢に絞られている。このうち飼料化は守山区の民間施設の規模が限られ、堆肥化・バイオガス化は名古屋市内に施設がないというそれぞれの問題がある。

市資源循環推進課は「市外での処理については各市と協議をして、押し付けとならない範囲で協力をいただいています。市としてはできるだけ焼却に回さず、資源化するよう排出事業者に対して呼び掛けをしています」とする。

ただ、先述の関係者は「現実的には排出事業者の意向や収集・運搬の効率的なルート選定などさまざまな要因があり、昨今は物価や人件費も高騰して、リサイクルは高くつく。手数料が上がらないとリサイクルは進まない」とも指摘した。

近年の物価や賃金高騰などを踏まえ、市は25年度に全庁的な使用料・手数料を見直す動きの中で、事業系ごみ処理手数料の引き上げも含めた条例改正案を市議会2月定例会に提出。今年3月19日に可決され、10月1日から手数料の合計上限は1キロ当たり50円から61円に、処分手数料は原則、同20円から27円に引き上げられることになった。今後この価格が適用されて、状況が変わるかどうか注目される。

岡山さんは「昨今の物価高の中、民間の経済を回すためにも手数料は上限を外すぐらいでもいいと考えています。ただし、同時に事業者の生ごみを焼却する際の処理手数料をリサイクルにかかる費用以上に上げなければ、排出事業者にはリサイクルをするインセンティブがなくなってしまいます。本来、一般廃棄物の処理責任は市にあるので、堆肥化施設は公営化するなど、生ごみリサイクル事業を民間から行政に変更してもよかったのではないでしょうか。

また、事業者側も社会的責任は重く、本来は行政と信頼関係を結んで適切な処理を行うべきでした。廃業に至った一因は、事業者が最後まで行政と良好な関係を構築できなかったこともあったと思います。

名古屋市民と行政、事業者は1999年の『ごみ非常事態宣言』以降、全国に先駆けて循環社会づくりに取り組んできました。『おかえりやさい』はその象徴のようなもので、それが危機に瀕している意味を考えてもらいたい」と呼び掛ける。

「おかえりやさい」プロジェクトでは段ボールコンポスト講座など、個人でできる食品リサイクルの取り組みは継続される。食品リサイクルは規模が大きくなるほど難しくなる面があるが、そうした困難を官民一体で乗り越え、もう一度「おかえりやさい」を多くの市民が手に取れる日が来ることを願いたい。

「おかえりやさい」から派生した米づくり「おかえりライス」。こちらは液肥を使うなどしてしばらくは継続できる見込みだという=岡山さん提供
「おかえりやさい」から派生した米づくり「おかえりライス」。こちらは液肥を使うなどしてしばらくは継続できる見込みだという=岡山さん提供
「おかえりやさい」講座の一環でもある段ボールコンポストづくり。2026年度も継続する見込み=岡山さん提供
2026年度最初の「おかえりやさい」共育講座は、春野菜を使ったクッキング講座だった=2026年4月20日、関口威人撮影