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防災をカジュアルに。日常に溶け込む“備え”を提案する、女性防災士の挑戦

取材・文 松橋 佳奈子
  • まち
  • 自然

防災という言葉に少し身構えてしまったり、防災への意識はあっても手が回らなかったりという人は意外と多いかもしれない。

そんな防災のイメージを変えようと活動しているのが、magocoro base(まごころベース) 代表で、伴走型防災士&防災ライフデザイナーの佐藤里香(さとう・りか)さん。

「防災をカジュアルに」というコンセプトを掲げ、日常に溶け込む“備え”を提案している。防災士としての原点から、現在の活動、そして今後の展望まで、お話を伺った。

恐怖から使命へ——防災と出会った原点

佐藤さんが「防災」に向き合うきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災である。当時、関西の大学院に通っていた佐藤さんは、テレビに映る被災地の光景に強い衝撃を受けたという。

「強い不安を感じる中で、被災地から離れている自分に何ができるのか。模索する中で“防災”というテーマにたどり着いた」(佐藤さん)

大学内で「防災教育」のチームを立ち上げ、代表として活動を始めた。これが起点となり、市役所職員から大学での学生の地域活動をサポートする仕事をするなかで、自らの“使命”を模索してきた。

一方で、「HSP(エイチ・エス・ピー)」と呼ばれる繊細な気質を持つ佐藤さんは、災害のニュースを見るだけでも心身に強い負担を感じていた。

生きづらさを感じる中で、そのことを佐藤さんのご主人に相談したところ、「防災を仕事にしてみたら」という言葉がかえってきた。その一言が転機となり、防災士の資格を取得。2021年に独立し、“magocoro base”としての活動がスタートした。

佐藤里香さん
防災をテーマにした小学校での授業

寄り添う伴走型スタイルで「防災をカジュアルに」

佐藤さんの活動のコンセプトは「防災をカジュアルに」。ここには、防災を特別なものではなく、暮らしの延長として感じてほしいという願いが込められている。

「防災に正解はない。家族構成や住まい、好みによって必要な備えは異なる。だからこそ、寄り添いながら一緒に考える“伴走型”でありたい」(佐藤さん)

個人向けのサービスでは、必要な備えの整理だけでなく、防災グッズの購入代行サポートも行っている。「何を買えばいいかわからない」「つい後回しにしてしまう」といった声に応える形で、実践しやすい仕組みづくりを重ねてきた。

また、防災イベントではない場所に出店することが多く、その背景には「防災専用グッズではなく日常使いができるおしゃれな防災グッズを提案したい」という想いがある。

ハンドメイド市やフェアトレードのマーケットなど、防災に関心の薄い層が訪れる場に出向くことが多いという。「防災に興味がない人にも、備えの大切さを伝えるきっかけをつくりたい」と佐藤さんは語る。

出展ブースでは日常に溶け込む防災グッズのワークショップを開催
お絵かきパンワークショップ

おしゃれな防災グッズをつくる独自のワークショップ

現在、佐藤さんが力を注いでいるのは、防災のワークショップだ。愛知県内を中心に展開するワークショップでは、どれも“日常に防災を取り入れる”工夫に満ちている。

たとえば、「お絵かきパンワークショップ」では、5年間保存できるパンが入った缶詰を使って、白紙や塗り絵用のラベルに自由にペイントしてもらって、“飾れる備蓄”を提案している。

また、「ソネングラスワークショップ」では、太陽光で充電できる南アフリカ製ランタン「ソネングラス」に花や小物を入れ、自分だけの灯りを製作することができる。ソネングラスは、しっかりとした明るさのLEDライトで、夜間の子どものお世話や読書にも活用できる。

このほか、「リメイク缶バッヂワークショップ」ではお菓子やペットボトルのラベルを再利用してオリジナル缶バッヂを作るというもので、リサイクルを通じて環境への配慮や防災について少しでも考えるきっかけになると好評だ。

「“おしゃれ”“使いたい”という気持ちから、備えが始まってもいい。難しく考えず、楽しみながら防災を取り入れてほしい」(佐藤さん)

最近は、企業や学校関連と連携した出張講座やワークショップの機会も増えている。「おしゃれで日常使いができる防災グッズを考えてみよう」というテーマを投げかけると、子どもたちから多様なアイデアが出てきて、佐藤さん自身も驚くことが多いそうだ。

これまでは単発講座や出店でのワークショップが主だったが、今後は「企業研修や教育プログラムなど、多くの人と一緒に課題にじっくり取り組むものに携わっていきたい」と佐藤さんは話す。

インテリアとしても活用できる「ソネングラス」
お菓子やペットボトルのラベルを再利用したオリジナル缶バッヂ

防災を“事業”として広げていきたい

自らの想いを原動力に、これまで活動を続けてきた佐藤さん。その中で、「防災ビジネス」はまだ少なく、事業として成立させる難しさを感じているという。

「想いだけでは続かない。価格設定や利益の生み出し方など、現実とも向き合う必要がある」(佐藤さん)

活動初期、初めて出店したイベントでは売り上げゼロ。しかし、その経験を糧に、ハンドメイドの出店などを参考にして見せ方を工夫し、売り上げを伸ばした。

「お客さんに購入してもらえると、“思いが伝わった”と感じられる。それが励みになった」と佐藤さん。

こうした試行錯誤の中で、「防災をカジュアルに」という現在の“主軸”ができてきた。

今後は、佐藤さんの活動を手伝ってくれる仲間を全国に増やしたいと考えている。想いに共感して一緒に活動できる仲間が増えれば、防災をより身近に感じてもらうきっかけにもなる。

また、企業の福利厚生に防災を取り入れてもらえるような仕組みづくりや、家庭向けのサブスクサービスも検討中だ。

「防災を考えることは、自分や大切な誰かを想うという“やさしさ”を形にすること。防災を、特別なことではなく“自然なこと”として暮らしの中に根づかせていきたい。防災を仕事にする人や会社が増えればもっと広がっていく。そのために頑張りたい」

近年の災害の増加により、防災への意識がより高まっている。こうした背景の中、佐藤さんは最後にこのような想いを語ってくれた。

防災に関する一般向けセミナーにも登壇
活動のコンセプトは「防災をカジュアルに」