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脱プラスチック!ライ麦でストローを作る「ライ麦プロジェクト」の魅力とは

取材・文 松橋佳奈子
  • SDGs

脱プラスチックの動きが各地で進み、プラスチック製ではないストローを見かけることが増えてきた。

こうした状況のなか、名古屋市守山区では「ライ麦プロジェクト」と題して、地域住民と一緒にライ麦を使ったストローづくりを行っている。

2023年夏に販売がスタートするということで、話題を集めている。これは一体、どんな取り組みなのだろうか。

今回は、プロジェクトの中心となっている社会福祉法人名古屋市守山区社会福祉協議会(以下、守山区社協)の山田理奈(やまだ・りな)さんと浅野晶子(あさの・まさこ)さんにお話を伺った。

「ライ麦プロジェクト」とは

ライ麦プロジェクトとは、無農薬のライ麦を栽培してストローを作る取組みのこと。地域住民や福祉施設に通っている人たちと一緒に、一つひとつ手作業で作っている。

ライ麦は円型で中心部が空洞になっていて、その形状をいかしたのがライ麦ストローだ。自然の素材なので色合いが少しずつ異なっていて、ナチュラルな雰囲気を演出している。

ライ麦ストローの大きな特徴は、耐久性に優れているということ。水分を吸うと柔らかくなりやすい紙製ストローに比べて、ライ麦ストローは繰り返し使うことができる。さらに、数回使ってストローの形状が崩れてきたら、ハサミなどで刻んで土の上に撒けば、肥料として再利用できる。

また、ストローには利用できないライ麦の細い部分は「ヒンメリ」というフィンランドの伝統的な飾りの制作に使っている。現地では、幸運のシンボルとして知られるヒンメリ。繊細で美しい作品づくりには、自然造形作家の仲宗根知子(なかそね・さとこ)さんと、金城学院大学生活環境学部環境デザイン学科の内田晶子(うちだ・あきこ)さんにも協力をいただいている。

「持続可能な社会を実現したいという想いで、ライ麦ストローを作っています」と山田さんは語る。

ライ麦ストロー
ストロー用に加工中のライ麦
ヒンメリをつくるメンバー
ヒンメリ作品

きっかけは「この地域ならではの居場所や仕事をつくりたい」という想いから

ライ麦プロジェクトが始まったきっかけは、2018年にさかのぼる。当時、地域のボランティアや福祉関係者と話し合って策定された「第4次守山区地域福祉活動計画」のなかの「しごとづくりプロジェクト」として、「地域の人が集える居場所づくり」と「緑地資源を活用した多世代交流」という計画があった。

守山区は名古屋市のなかでも、豊かな水と緑に恵まれた場所である。山田さんを含めた守山区社協のプロジェクトチームには「この自然資源を生かして誰もがつながれる仕組みをつくりたい」という想いがあった。

プロジェクトチームで話し合いを重ねていたところ、山田さんは偶然、長野県で先行して実施されていたライ麦ストローづくりの記事を見つけたという。「守山区でもぜひ実施してみたい」という想いから、チームで企画づくりを進めた。

2019年の秋にライ麦の種を植えたところ、野菜づくりが得意なメンバーの協力もあって、順調に成長して翌年5月に無事収穫。そして、初年度から約1000本のライ麦ストローをつくることができた。

収穫直前のライ麦
小さな芽が出たばかりのライ麦
春になると背丈がぐんぐん伸びていく
ライ麦プロジェクトのロゴデザイン

世代を超えて、多くの人が参加するプロジェクトへと成長

ライ麦プロジェクトは2023年で3年目を迎えた。現在は、地域住民や福祉施設に通う人たちだけでなく、地元の保育園やこども園、小学校、高校、大学まで活動の輪が広がっている。

この数年のうちに約50団体が活動に賛同・協力し、200名以上が参加するプロジェクトへと成長した。ライ麦の収穫は子ども園の園児たちが行い、その後のふし切りは隣接する施設の高齢者が行うなど、世代を超えた連携も見られるようになった。

「種をわけてほしい」「自宅でも育ててみたい」という要望も多いという。「正確な数を把握しきれないほど、多くの方がライ麦栽培に協力してくれています」と山田さん。

筆者が活動を見学したときには「昔はライ麦をストローの代わりに使っていた」と、ある女性が語ってくれた。ライ麦ストローというと先進的な取組みにも聞こえるが、実は昔からあったものだというから驚きだ。

古くて新しい、ライ麦ストロー。その魅力は、どこか懐かしい記憶がよみがえるところにもあるのかもしれない。

ライ麦プロジェクトの活動メンバー
収穫したライ麦を運ぶ男の子
ライ麦を切る作業に子どもたちは興味津々
福祉施設でのライ麦加工の様子

「また参加したい」と思うような居場所をつくる

ライ麦プロジェクトには「環境にやさしい活動がしたい」という気持ちで参加し始める人が多いという。

「初めて参加した人が、2回、3回と繰り返し来てくれるととても嬉しいです」と浅野さん。

何度も参加する理由は、初めて参加しようと思った動機とは別のところにもあるようだ。そのことについて浅野さんはこう語る。

「ライ麦プロジェクトが始まったのは、ちょうど新型コロナウィルスが流行した時期でした。コロナ禍での生活は、多くの人たちにとって自分自身の暮らしを見直したり、身近な環境について考えたりするきっかけになったのではないでしょうか。その結果として、人や社会とつながっていたいという気持ちを持つ人が増えたように感じています」

ライ麦プロジェクトを行うオープンスペースは、環境活動をする目的だけでなく、人や社会とのつながりを求める人にとって、居心地のよい場所になっているようだ。

オープンスペースは、基本的に誰でも参加できる。ライ麦ストローやヒンメリづくりをしながら、参加者同士がほどよい距離感で交流できる。「初めて参加した人が自己紹介をする時間をつくるなど、ゆるやかなつながりが生まれるような仕組みを作っています」と山田さん。

とはいえ、参加者のなかにはコミュニケーションを得意としない人や社会復帰の過程にある人もいる。そうした人たちには無理に話を引き出そうとしないで、温かく見守るようにしているという。

「参加する動機は人それぞれですが、また参加したいと感じてもらえるような雰囲気づくりを心掛けています」と浅野さんは話してくれた。

オープンスペースの様子
ライ麦の収穫
プロジェクトには高校生の参加も
メンバーが作った看板

ライ麦を通して人と人のつながりを広げていく

今回の取材を通して、ライ麦プロジェクトの魅力は、脱プラスチックへの新しい環境活動というだけなく、世代を超えてたくさんの人が参加していることにもあると感じた。

活動の輪が広がる一方で、課題もまだまだ多い。たとえば、収穫したライ麦を乾燥して保管する場所やふし切りの人手は不足しているという。引き続き、協力してくれる団体や人を募集中とのこと。関心のある人は、プロジェクトのサイトをぜひ確認してみてほしい。

最後に「これからの展望」について尋ねてみると、こんな言葉が返ってきた。

「ライ麦ストローをきっかけに、身近な環境問題について考える人が増えるといいですね。ライ麦を通した人と人のつながりが、さらに広がっていくと嬉しいです」(山田さん)

プロジェクトが始まった頃から、利益やメリットを追いかけるのではなく「楽しくやっていこう」ということを意識してきた。そのスタンスは3年経ったいまも変わらない。

取材の終わりに、山田さんは「このプロジェクトをずっと続けていきたいですね」と結んだ。

■名古屋市守山区 ライ麦プロジェクト サイト
http://www.moriyama-shakyo.jp/plan4/work.html