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名古屋の夏の気温を測ろまい! 〜緑地や水辺の“クール”アイランド効果を検証〜

取材・文 浜口 美穂
  • まち
  • 自然

今年の夏も暑かった。コンクリートやアスファルトから漂う熱気が街を覆う。少し前まで草地や雑木林だったところが、あっという間に宅地に変わっていく。名古屋の都市化は止まらない。打ち水も「焼け石に水」状態のヒートアイランド* である。
そんな灼(しゃく)熱の名古屋で、ヒートアイランドを緩和する緑地や水辺を見直してもらおうと、市内174地点で一斉気温測定調査が行われた。

350人が測定に参加

ひと昔前の名古屋では、夜風が街を冷やしてくれた。昼間、都心部で熱せられた空気は海風に乗って東部へ移動。夜間に東部丘陵の森で冷やされた空気は、早朝の陸風に乗って都心部に流れ込むという循環が働いていたのだ。ところが、東部丘陵も宅地化が進み、樹林地が減るとともに、ヒートアイランドが東部まで広がってきているという報告もある。

そんな中、名古屋のどこが暑いか、涼しいかを確かめることで、森や水辺の効果を見直し、まちづくりに活かしていきたいと、森づくりに携わる市民団体などにより名古屋気温測定調査実行委員会が立ち上がった。専門的なサポートとデータの分析は、名古屋工業大学堀越研究室が担当する。

5月末に実行委員会を設立し、測定参加者を募ったところ、最終的に約350人が参加。7月に2回開催した測定方法の説明会には、延べ190人ほどが参加し、熱心な質問が飛び交った。

調査日は8月7日(日)。14年前にも気温測定を行った東山の森(平和公園・東山公園)一帯は、当時と同じ500メートルメッシュで区分け(74地点)、その他の市内全域を2キロメッシュで区分けし(87地点)、日進市や海上(かいしょ)の森(瀬戸市)などでも測定を行った。

測定時間は、午前5時から午後8時までの毎正時(00分)。1日中1人で担当する地点、仲間数人で担当する地点、実行委員会が仲介して見知らぬ人同士でリレーする地点……。長時間にわたる調査の間に、それぞれのドラマがあったようだ。

* ヒートアイランド:都市では、人間の活動によりエネルギー消費が増大するとともに、アスファルトや建築物等の人工物による土地被覆が大きく、逆に緑地や開放水面が少なくなっている。そのため、郊外に比べて昼間の蓄熱が大きく、夜間の地面からの放熱が小さくなり、比較的高温の空気の塊が島のように残るという意味で名付けられた現象。(名古屋気温測定調査実行委員会テキストより)

7月に開催された説明会では、実際に温度計の目盛りを読むワークショップも行われた。温度計は、放射・反射熱を防ぐフードの中に入っている。目盛りが細かいため虫めがねは必需品だ

350人のつながり

眠い目をこすりながら暗い中、温度計を木の枝にセット。放射や反射熱を防ぐため、温度計は各測定者が手作りしたフードの中に入っている。蚊の襲撃に遭いながら、流れる汗をぬぐいながら、温度計と向き合う。

測定終了後、実行委員会に集まった記録用紙には、測定データとともに、たくさんの感想が書かれていたという。「眠かった」「暑かった」「蚊が多くて大変だった」……「でも、達成感があった」と、多くの人が満足感、感動をつづっている。また、雲や風によって温度が変わることを感じた人、時間(温度)によるセミ・野鳥・蚊・ヒトの行動の変化を観察した人、カブトムシやツチイナゴなどたくさんの昆虫との出合い、というように、さまざまな発見もあったようだ。

高校の卒業生が久々に集まり同窓会を兼ねて測定したグループ、現役の高校生・大学生グループ、近所の幼なじみグループなどは、測定の合間にのんびりとおしゃべりに花を咲かせた。散歩中の近所の人が「何をやってるの?」と声を掛けてくれたり、差し入れをしてくれたりと、新しい出会いを楽しんだ人もいる。

「時間の刻みと温度計を通して、見知らぬ人々が連帯していると思うと、夢が広がっていくような不思議な力を感じました」……見えない350人のつながりを感じ、力をもらった人も少なくはない。この調査の大きな副産物も、今後のまちづくりに活かされていくに違いない。

フードの窓から温度計の目盛りを読む
測定の3分前からフードの下をうちわであおぐ。また、手作りの吹き流しで風向・風力測定も。子どもたちも楽しくお手伝い
測定の3分前からフードの下をうちわであおぐ。また、手作りの吹き流しで風向・風力測定も。子どもたちも楽しくお手伝い

暑いところ、涼しいところ

さて、名古屋一のクールスポットはどこ? 朝の最低気温を記録したのは、名東区の猪高緑地の棚田。第2位が守山区の八竜緑地。湿地を抱く雑木林である。第3位は東山の森の中の谷筋(天白渓)だ。天白渓は、日中の最高気温の最も低い地点でもある。昔からの緑地が残っているところが、クールアイランドになっていることが証明された。またそこは同時に、市民グループによる森づくり活動が行われ、市民の“ホット”な汗と行政のサポートによって森や湿地が保全されているところでもある。

では、名古屋一のホットスポットはどこ? 栄のまちなかかと思いきや、片側3車線の幹線道路「東山通り」に面する公園が第1位。第2位が昭和区の古くからの住宅地、第3位が東区の古くからの住宅地。ヒートアイランドは住宅地に広がっているようだ。日中の最高気温で比べてみると、最も気温が高い東山通りの公園は、36.6度(15時)。最も気温が低い東山の森・天白渓では、31.8度(14時)。その差は4.8度もあった。

データ分析は、現在、名古屋工業大学堀越研究室が実施中。その結果は、10月22日・23日に開催されるなごや環境大学まちづくりシンポジウムで発表される。14年前の測定結果との比較も行われ、興味深い分析結果が期待される。またその後、測定者の感想も盛り込んだ報告書の作成や、実行委員会主催の報告会も行われる予定だ。

実行委員会では、今後も補足調査などを行い、夜風の吹く緑豊かなまちづくりを進めていきたいと考えている。

【なごや環境大学まちづくりシンポジウム】

* 気温測定調査の発表
22日:分科会「自然を活かすまちづくり」
23日:全体会議II

名東区・猪高緑地の棚田。2001年に棚田を復元し、名東自然倶楽部が中心となって稲作りを行っている。朝の最低気温第1位(23.2度)。日中の最高気温の低い順は、第7位(32.4度)だった
東山の森の天白渓。なごや東山の森づくりの会が、東海豪雨で埋まった湿地の復元作業や周辺の雑木林の手入れを行っている。朝の最低気温第3位(23.4度)。日中の最高気温は最も低かった(31.8度)
気温測定調査速報グラフ(8月7日調査当日発表)