ENVIRONMENTALCOLUMN 環境情報を知りたい方/環境コラム

エコキッズが名古屋を変える!?

取材・文 浜口 美穂
  • SDGs

今、名古屋の幼稚園・保育園(以下「園」)で、エコキッズがすくすくと育っている。資源・ごみの分別は当たり前。自然体験や野菜作り、節水や省エネなど、各園ごとに工夫をこらして取り組んでいる。
そして自宅に帰れば、「お父さん、それは“プラシゲン”だから“プラシゲン入れ”に入れるんだよ」「お母さん、テレビがつけっぱなしだよ。“シーオーツーマン”が出ちゃうよ」と、親が注意されることになる。そして親たちは「いや〜、怒られちゃった」とうれしそうに言いながら、分別や省エネに励んでいるのだ。
このように家庭を巻き込みながら、市内の公私立すべての園(465園)で取り組まれている「なごやエコキッズ」。名古屋で育つエコキッズが、名古屋のまちを変えてくれるに違いない。

園から家庭へ

園における「なごやエコキッズ」の取り組みは、学校における「なごやスクールISO」の取り組みとともに「ヤングなごやISO」として、平成15年度にスタートした。ヤングなごやISOは、ISO14001* を活かして、子どもたちの環境保全意識を高め、CO2排出量削減に向けた主体的な取り組みを促すことが目的だ。

今月はまず、なごやエコキッズについて紹介しよう。モデル事業として13園からスタートし、2年目は約半数の226園、そして3年目の今年度、全園がなごやエコキッズに取り組み始めた。

学校と違い、園での生活全体をエコにつなげられるのが、なごやエコキッズ。取り組み内容には、3本の柱がある。

1 園児に対する働きかけ
2 環境保全の日(毎月8日)における園全体での取り組み
3 家庭に対する働きかけ

それぞれ、具体的にどんな取り組みがされているのだろう。

<1 園児に対する働きかけ>

園児の環境に対する感性をはぐくむため、さまざまな取り組みがされている。例えば、自然体験を重視し、環境サポーターを招いて自然体験プログラムを実施したり、給食で出た生ごみをたい肥化して野菜作りをしたり。また、日常的に取り組める資源の分別や節水、弁当・給食を食べ残さないなど食育関連の取り組みもある。

ある園では、工作材料はすべて牛乳パックやプラスチック容器などの廃材。家庭で集めた廃材はみんなバラバラで、かえって独創的な作品になるという。そして、折り紙など紙を切ったり折ったりした残りは「みんなの箱」と書かれた段ボールへ。紙が必要なときは、そこから適当な大きさの紙を選んで使用する。「すぐに捨てる」のではなく、「使い回し」が当たり前のこととして身に付いているのだ。

生ごみをたい肥化して野菜作りをしている園では、野菜くずを細かくするのも子どもたち、密閉容器で発酵させた生ごみを土に混ぜ込むのも子どもたち。そして、数週間たってからスコップで掘り返し、生ごみがなくなっていることや手を入れて土が温かくなっていることを実感する。掘り返しながらミミズや幼虫も発見して、元気な土が元気な野菜を育て、虫たちのすみかとなることも子どもたちは体で知っているのだ。

<2 環境保全の日における園全体での取り組み>

毎月8日は名古屋市全体で取り組む「環境保全の日」。園でも、門に「環境保全の日」と書いたのぼりを立て、園児の親や近隣にもピーアール。園庭や近所の公園のごみ拾いを園児・保護者・職員が一緒になって行ったり、各家庭で「ノーカーデー」「ノーテレビデー」「ノー残飯デー」などを決めて実践するなど、家庭を巻き込んだユニークな取り組みを行っている。「今日はカンキョウホゼンの日だからテレビは見ないよ」というように、主導権を握っているのが子どもたちであることがおもしろい。親は目を細めながら、子どもたちに引っ張られエコライフを実践することになる。

<3 家庭に対する働きかけ>

なごやエコキッズは、園児のみならず、家庭への働きかけがあるのが大きな特徴。保護者の環境保全の意識を高め、家庭のライフスタイルを環境に配慮したものに変えるため、エコ情報を発信している。例えば、毎月、園だよりを通じて環境にやさしい園の取り組みを紹介。その裏面は、毎月環境局が配信するエコライフ情報を掲載したメッセージシートになっている。さらに、環境局発行の啓発冊子「ちきゅうにやさしいなつのせいかつ」「同・ふゆのせいかつ」を全園児に配布した。

また、生活発表会で子どもたちが環境寸劇を演じたり、運動会で保護者向けに「環境○×ウルトラクイズ」をやるなどのイベントも好評だとか。園から家庭へ、じわじわとエコメッセージが広がっている。

* ISO14001:環境に配慮した活動を行うための仕組み「環境マネジメントシステム」を国際的に規格化したもの。

園でも家庭でも分別は“当たり前”

活発な情報交流

取り組みの具体的内容は、園に任されている。各園では、なごやエコキッズの担当者を置き、工夫をこらして取り組むわけだが、参考になる情報はどこで仕入れているのだろう。

なごやエコキッズでは、次の3つの支援を行っている。

1  「なつのせいかつ」「ふゆのせいかつ」や環境紙芝居など教材の作成・提供
2  環境サポーターの派遣
3  メッセージシートを作成

メッセージシートは途中から、園からの発案で、絵を大きくし、ぬりえができるようになった。子どもがぬりえをした作品なら親は必ず見る。つまり、親に読んでもらうための作戦だ。

年に12回、園の教員・保育士を対象とした研修会もある。公園での自然体験や焼却工場などの見学のほか、園の取り組み視察および情報交換会も行われる。これらをまとめたものは、各園にフィードバックされ、取り組みの参考にされているという。

また、日ごろから園と事務局がEメールや電話などで相談しあったり、情報をストック・提供するなど「顔の見える関係」がつくられている。この連携が、各園のやる気を引き出しているようだ。

最近はやりのエコソング

♪ ちょっとそこまでどちらまで

  交通機関で行きましょう

  バス乗って 電車乗って

  そこまで歩いて

  みんなでへらそうCO₂ ♪

名古屋の園でちょっとしたブームになっているのが、このエコソング「みんなでへらそうCO₂」*。3年ほど前に環境局の職員が作詞・作曲。環境イベントなどで紹介していたが、なごやエコキッズの教材として活用し始めてから、口コミで広がっていった。

曲に合わせたふりつけもあり、研修会でふりつけ指導したところ大好評。全園にCDとともにふりつけマニュアルも配布された。もちろん園児たちに大人気。CO₂排出量削減のための身近な行動を盛り込んだ歌詞「みんなで公園行きましょう それなら自転車こぎましょう」「家族で買い物行きましょう 買い物袋を忘れずに」なども園児に浸透していて、親が車で行こうとすると「自転車でいこうよ」、買い物に行くときは「買い物袋持った?」と言う園児もいるとか。曲と子どもたちの笑顔が、CO₂排出量削減のメッセージを広めてくれることを期待したい。

* 「みんなでへらそうCO₂」:エコソングの歌やふりつけは、名古屋市環境学習センター「エコパルなごや」のホームページからダウンロードできる。

「シーオーツー!」の歌が子どもたちは大好き(「名古屋市立第一幼稚園」提供)
自分たちで絵を描いたバスに乗ってお買い物に。「ちょっとそこまでどちらまで 交通機関で行きましょう」を実践(「名古屋市立第一幼稚園」提供)

お日さまに感謝

都心にある名古屋市立第一幼稚園を訪ねた。園児が廊下で踊っている。「♪みんなでへらそうシー・オー・ツー!」。完ぺきにふりつけをマスターしている。もうひとつのエコソング、ペットボトルや紙パックの分別のポイントを歌った「おいしくのんでリサイクル!」も踊り慣れた様子だ。

同園が環境に対する取り組みを始めたのは、平成15年。周りに高いビルが建ち並ぶ谷間にあるため、園庭にあまり日が当たらなくなってきた。そこで、日が当たる屋上を何とか活かせないかと、屋上緑化に取り組み始めたのだ。ちょうどそのころ、なごやエコキッズの取り組みが始まり、平成16年度から参加した。

屋上の真ん中にはシンボルツリーとしてジャンボユズの木、その周りにたくさんの野菜や花々が植えられている。雨水タンクを設置して、そのたまった水で園児が水やりを行う。日当たりが良いので夏野菜が豊かに実り、お弁当のときに食べたり、多いときは自宅に持って帰ったり。自分たちで収穫したトマトなどの夏野菜を「甘い!」と喜んで食べるという。また、親のサークル「フラワーメイツ」も誕生。親子で水やりや土いじりをすることもある。

同園では自然に接し、自然から気づきを得る体験を大切に考えている。数年前、縁あって知り合いになった名城大学の自然復元サークルの協力を得て、園庭にあったコンクリートの池をビオトープに改修。池の底の粘土は、園児も一緒に踏み固め、ビオトープづくりのプロセスも体験した。今では、メダカが泳ぎ、トンボが卵を産みにくるという。

屋上にも、使用できなくなったプールを活かした水辺をつくり、ソーラー発電による噴水で水をかくはん。日射量が多いときは噴水が高く上がり、少ないときは低い。「お日さまの力が目に見えることは、子どもたちにとって身近な良い体験になっています」と園長は話す。

「雨の水が屋上の野菜やお花を育てているんだ。すごいね」(「名古屋市立第一幼稚園」提供)
「やった〜! 大きいよ」。自分たちで育てた野菜は苦手なものでも進んで食べるとか(「名古屋市立第一幼稚園」提供)
園庭のビオトープ。3年目になってトンボが来るようになった(「名古屋市立第一幼稚園」提供)
園庭のビオトープ。3年目になってトンボが来るようになった

ソーラー発電の噴水。「お日さまってすごい!」(「名古屋市立第一幼稚園」提供)
ソーラー発電の噴水。「お日さまってすごい!」(「名古屋市立第一幼稚園」提供)

自然に身に付く

「ごみが落ちていたら、子どもが拾って分別しながら、『これってCO₂減らすんだよね』と、会話の中に自然にCO₂という言葉が出てきます。ザリガニが住んでいる池にビニール袋が落ちていたら、『ザリガニが息できない』と言ってビニール袋を拾います。そういう行動が自然に身に付いているんですね」と、第一幼稚園のなごやエコキッズを担当する主任教員。

これはこの幼稚園だけに限ったことではない。市内全園で、環境に意識を向けて行動できるエコキッズがすくすくと育っているのだ。幼児期に身に付いた習慣は一生もの。そして、家族にもエコメッセージが伝わっていく。長い目で見ると、なごやエコキッズを継続していくことは、一番確実な「環境首都なごや」を支える人づくり、そして「地球の未来」を託せる人づくりになりそうだ。