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なごや環境大学まちづくりシンポジウム 〜なごや環境大学に期待する「協働」の力〜

取材・文 浜口 美穂
  • まち

10月22日・23日の2日間にわたり、なごや環境大学まちづくりシンポジウムが開催された。
1日目は基調講演と5つの分科会。基調講演は、スペインのビルバオ市助役であるイボン・アレソ氏が、ビルバオ市の都市基盤再生の取り組みを報告。また、菅原文太氏が、田舎暮らしの中から感じる自然観について講演を行った。
分科会では各テーマに沿って、さまざまな取り組み事例の報告やこれからの課題の整理が行われ、2日目の全体会議でまとめを発表。全体会議では各分科会パネリストや一般参加者も意見交換をし、最後に一同で承認した「名古屋からの呼びかけ」文を読み上げて、2日間の日程を終えた。

「なごや環境大学」でできていること、できていないこと

第5分科会のテーマは「『なごや環境大学』でできていること、できていないこと」。講座の受講者、講座の企画運営者、市民講座情報コーナーのスタッフなど、35名が車座になって、まずは「できていること」「できていないこと」について意見交換を行った。主な意見を以下に挙げてみよう。

*「できていること」
・広範囲の課題についてわかりやすい講義で市民の理解をはかった。
・ ハンドブックの刊行によって名古屋市の課題を整理・提示した。
・ 連続講座の最終回にワークショップを開き、提言をまとめた講座があった。
・ さまざまな現地学習の機会もあり、実体験と具体的な解説が効果的だった。

*「できていないこと」
・ 「共育講座」と謳(うた)われながら、受講者と講師の双方向のやりとりが少ない。
・ 受講者間の交流が少ない。
・ 講座間(団体間)の連携がない。
・ 学んだだけで終わっている。知識をどう実践に生かしていくか。
・ 生活に密着した講座が少ない。子育て中の人たちに興味を持ってもらいたい。
・ 人の輪がなかなか広がっていかない。
・ 情報発信が弱い。

参加者全員でなごや環境大学の成果と課題を共有したあとは、3つのテーマに分かれてワークショップ。環境大学に「これがほしい」、「これがやりたい」、「こんなふうにやりたい」という各テーマについて、それぞれアイデアを出し合った。

出てきた結果は、3テーマとも似通ったもの。たとえば……

* 地域に根ざしたムーブメントの創出
・ 小学校の空き教室などを利用して、各区に拠点を。
・ なごや環境大学「各区キャンパス」をつくろう。

*知識を「知恵」に転換するには
・ 講座終了後、または同時並行で「部活」(実践活動)を実施。

*交流の場づくり
・ 「大学祭」を開催し、受講者、講座企画運営者同士の情報交換と交流の場をつくる。

*参加者層の拡大
・ 小中学校への出前講座。
・ スクールISO・キッズISOとつなげる。
・ 市民で一斉にできる調査でムーブメントをおこす。

*社会実験プログラムの実施
・ なごや環境大学エコポイント制の実施。(実際に、来年4月から、受講者は「EXPOエコーマネーポイント」がもらえるようになる)
・ 逆エコマネー(環境にやさしくないことをすると借金がたまる)運動。

*多様なPR・情報発信
・ 「広報なごや」を占拠。なごや環境大学コーナーを設けて毎月、情報発信をする。
・ 「電通」のような大きな広報はできないが、市民がやれるのは口コミ「、通(てんつう)」(点から点へ伝えること)。
・ 名古屋から外に向かっての情報発信も。
・ 各講座の資料を「オンライン図書館」で発信。

たくさんのユニークなアイデアが発表され、最後には、「この提言を活かしてほしい!」ということで締めくくり。来年度への希望の芽を膨らませた。

グループに分かれ、建設的なアイデア出し
基調講演には430名が参加
プログラム表

2つの事例発表

2日目の全体会議の中で注目を集めたのは、2つの事例発表。行政・大学・NPO法人などの協働による社会実験「公共交通エコポイントの取り組み」と、市民・専門家・行政・企業の協働による同時多点観測調査「名古屋気温測定調査2005の取り組み」である。両事例とも、すでに、なごや環境大学のウェブサイト中の読み物「なごやエコ最前線」で記事として紹介しているため、詳しい内容は参照してほしい。

「公共交通エコポイント制度(エコポン)」
名古屋市では、「公共交通」対「車」の利用割合が3:7。それを2010年をめどに4:6程度にまで高めるための戦略の1つが公共交通エコポイント制度「エコポン」である。公共交通機関を利用すればポイントが加算され、アンケート回答者には、抽選で記念ユリカや協賛企業からの特典がプレゼントされる。全体会議当日も、希望者にエコポンICカードが配布され、会場にポイントリーダーを設置。さっそくポイントをゲットした参加者もいた。

「名古屋気温測定調査2005」
調査の分析結果発表には、約400人の調査参加者の一部も会場に訪れ、熱心に耳を傾けた。市内172の観測点のうち特徴的なポイントの気温経時変化のグラフや、各時間ごとの気温分布図などを示し、栄や今池の都心部と東部丘陵の林内では、最高気温で4.5度も差があることや、クールアイランドである東部丘陵で、大きな道路によって低温域が分断されている様子を発表。まとまったみどり(グリーンベルト)の大切さを証明した。このような市民・専門家・行政・企業の協働による同時多点観測調査は、画期的な取り組みであり、非常に貴重なデータであることに、会場一同が納得した発表だった。

名古屋気温測定調査2005の結果発表では、数々の貴重なデータが示された

キーワードは「協働」

第1・2・3分科会では、「都市のかたち」「自然」「交通」の各視点から、めざす環境首都のビジョンが提示された。実現へ向けての課題は、そのビジョンを市民と行政で共有し、計画段階から市民がかかわっていくこと。各分科会共通のキーワードは、市民・行政・企業・専門家の「協働」である。

市民参加や協働の有効な方法として、第4分科会のテーマである「参加型会議」* や第5分科会のテーマである「なごや環境大学」の果たす役割は大きい。なごや環境大学はまだスタートしたばかり。今回、第5分科会で提案されたアイデアを参考に、多様な市民がかかわれる機会を増やし、「行動する市民」「協働する市民」が育つ場として「環境首都なごや」の実現に力を発揮することが期待されている。

2日間の議論の成果は、「2005 名古屋からの呼びかけ」として、本サイトから日本そして世界の市民に向けて発信。協働により、人にも環境にもやさしいくらしやまちを創造しようと呼びかけている。

* 参加型会議:人々の関心の的となったり論議を呼んでいる社会的問題について、問題当事者や市民が一堂に会し、一定のルールのもとに対話を深め、論点を明らかにし、討議を通じて可能な限りの合意点を見いだそうとする試み。(「市民が創る循環型社会フォーラム実行委員会」報告書より)

全体会議には136名が参加