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市民の力でエネルギーをカエル

取材・文 浜口 美穂
  • SDGs

昨年の3.11以降、国任せにしてきたエネルギー供給のあり方に疑問を持ち、関心を向け始めた方も多いのではないだろうか。市民が主催するエネルギー講座も各地で開催され、名古屋では地域のエネルギーを考える市民会議も行われている。
折しも今年5月5日には国内にある50基すべての原発が停止し、「原発ゼロ」で夏を迎えようとしている(福島第一原発の1〜4号機は、2012年4月19日、電気事業法に基づき廃止になっている)。電力需給の逼迫(ひっぱく)が問題となるのは、夏の数日間のピーク時。その7割は産業用・業務用が占めているので(図1参照)、家庭より、まず産業用・業務用の節電が必要だ。
そんな状況のなか、自治体や産業界に対して「トクする節電・電力切り替え」を提案することで、省エネ・省電力型社会をつくろうと活動しているのが、市民グループ「電気をカエル計画」である。

電力切り替えでトクする提案を

家庭の電気の購入先を選ぶことができたら・・・と思っている方は多いだろう。2000年から電力は自由化されているが、50kW以上の高圧受電に限られる。電力会社以外に電気を販売しているのは、特定規模電気事業者(PPS)という電気事業に新規参入した会社。3.11以前は、建物によっては* PPSの方が10〜15%電気代が安かった。名古屋市の場合は、2008年度から庁舎や小・中学校などをPPSに切り替え、2010年度は約1億8千万円(切り替え前と比べると11%)の経費を削減している(「全国市民オンブズマン連絡会議」まとめ)。

自分の家の電気は電力会社からしか買えない。でも自治体なら自由に買える。しかもその電気代は自分たちが出している税金だ。ということで、まず自治体の電力をPPSに切り替え、経費を削減し、その削減分で再生可能エネルギーを導入してもらおうと、「電気をカエル計画」が立ち上がった。

岐阜県北方町で有機農業を営む石井伸弘さんの呼びかけに集まったのは東海3県で約40人。2011年7月のキックオフミーティングから1カ月後には、東海3県の全自治体アンケート調査を実施した。結果は図2のとおり。アンケートでは再生可能エネルギーの導入について尋ねる項目もあった。

アンケートと同時に、市町村議員に向けて電力切り替えについて議会質問を促すキャンペーンも実施。把握しているだけで14市町において議会質問が行われたという。さらに10月には、PPSと省エネ蛍光灯の導入で大幅に経費を削減した奈良県大和郡山市の職員を招いて、自治体向けセミナーを実施。東海3県から自治体職員や議員が70名ほど集まり、具体的な電力切り替えの進め方から、省エネ蛍光灯の話まで熱心に耳を傾けた。

これらの活動が功を奏したのか、2011年度から2012年度にかけて愛知県、岐阜県で10自治体ほどがPPSに電力切り替えを進めたという。石井さんの地元、北方町もその一つ。石井さんが直接、町の議員を説得し、議会質問を経て実現した。人口2万人の北方町はこれにより、電気代が年間100万円安くなるという。

* 建物によってはオフィスビル、学校、官公庁など昼間だけ電気を使うような施設。

図2)東海3県全自治体・電力切り替えアンケート調査結果(2011年11月現在)

PPSが供給頭打ちで路線変更

カエル計画では、自治体の需要を積み上げれば、PPSの供給がついてくるだろうと目論んでいた。でも実際は、PPSの供給量は頭打ち。しかも、電力需要の逼迫を受け、PPSに切り替えても電気代があまり下がらなくなっている*。PPSにもアンケート調査を試みたが、「供給能力の拡大について」などは、国の施策がはっきりしない現況では答えにくかったのか、回答率は22%に留まった。

では、自治体への「トクする提案」をどうするか。そこで目を付けたのが2011年の自治体セミナーで報告があった「省エネ蛍光灯」。LEDは価格が高いため設備投資の元をとるのに長い年月がかかるが、大和郡山市では庁舎の蛍光灯を反射板のついたインバーター式の高効率蛍光灯(FHF蛍光灯1灯型など)に取り替えるなどして、3年で約700万円の電気代(庁舎電気代の3分の1)を削減した**。

もう一つ、目を付けたのがガスヒートポンプエアコン(GHP)だ。省エネ効果の高い最近の電気式エアコンと比較しても電気代は10分の1に削減できるほか、夏場のピーク時の電力消費量が抑えられることで基本料金も下がる*** という二重のメリットがある。

日本の電力事情は約6割が産業・業務用で、そのうちオフィス需要では約4割が空調、約3割が照明なので、エアコンと照明器具のエコ替えは節電の大きなポイントになる。また、夏と冬の電力ピークをつくり出しているのは空調なので、この節電が原発ゼロでもやっていける鍵を握っているのだ。

* 2011年8月の愛知県庁本庁舎入札では、0.2%程度しか安くなっていない。
** この電気代削減には、照明器具の取り替えのほかに、PPS導入や、一つ一つの照明器具に紐スイッチをつけて、器具ごとの消灯を可能にするなどの取り組みで節電した効果も含まれる。
*** 50kW以上の高圧受電では、その年の一番多く電力を使ったピーク(最大デマンド)で基本料金が決まる。

反射板のついたFHF蛍光灯1灯型。ラピッド式2灯型と比べると省エネ率は約47%
反射板のついたFHF蛍光灯1灯型。ラピッド式2灯型と比べると省エネ率は約47%

トクする節電キャンペーン

東海3県で始まった活動は、人のネットワークにより11都府県* まで拡がった。2012年5月現在で東海地方のメンバーは約50人、全国で約200人が活動に参加している。

節電を働きかける手法は、PPSのときと同じアンケート調査とセミナー。2012年3〜4月に、まずは10都府県で、自治体に照明&空調設備の更新状況アンケート調査を行った。愛知県の調査結果は図3・図4のとおり、照明器具も空調設備も9割以上の自治体で節電対策が進んでいないことが分かった。更新をしていない理由として最も多かったのは、「導入予算の確保が難しい」とのこと。

ならば上手な導入方法を紹介しようと、再び大和郡山市の職員を招いて、自治体及び教育機関を対象としたセミナーを5月に名古屋、大阪、東京で開催した。大和郡山市では、2012年度に、全幼稚園・小・中学校の照明器具のエコ替えを、実質的な予算増のないリース契約方式で行う予定だ。セミナーでは、2009年度から段階的に行ってきた照明器具のエコ替えの成果と、実際に自治体担当者が取り組む際の進め方のポイントまでをレクチャーした。そして、カエル計画からは、自治体に向けて、照明器具・エアコンのエコ替えのほかにも、デマンドコントローラー** の導入などの節電提案を行った。

* 愛知県、岐阜県、三重県、大阪府、兵庫県、滋賀県、静岡県、茨城県、神奈川県、東京都、鳥取県
** デマンドの目標値を設定し、それを超えそうなときに警報などでお知らせするタイプと、自動的に電気機器を制御するタイプがある。

(図3)愛知県アンケート調査結果・節電のための照明器具更新について(%)(2012年4月現在)
(図4)愛知県アンケート調査結果・節電のための空調設備更新について(%)(2012年4月現在)
2012年5月11日に名古屋市で開催された節電セミナー。自治体職員、議員、NPO職員など約80人が参加した

節電戦隊カエルンジャーが増殖中

省エネ蛍光灯に替えるだけでかなりの節電効果があることを知ったカエル計画のメンバーは、街を歩きながらついつい蛍光灯に目がいってしまう。JRや地下鉄などでも、まだまだ古い蛍光灯が主流なのが気になって仕方がない。ということで、新たに始めた活動が、街を歩きながら古い蛍光灯を探し、それをウェブサイトで公表することで、「新型の省エネ蛍光灯に替えることでこんなにトクするよ」と提案する「節電戦隊! 古い蛍光灯をカエルンジャー」。目指すは「日本全体の電力消費を5%減らす」ことだ。

慣れてしまうと見ただけで古い蛍光灯か高効率の蛍光灯かは分かるそうだが、そうでない人でも簡単に見分けられる方法があるとか。携帯電話のカメラ機能で蛍光灯を見て、縞模様(写真参照)が出たら古い蛍光灯。もし、街で蛍光灯に携帯電話を向けている人を見かけたら、カエルンジャーに違いない。

カエルンジャーには今すぐ誰でもなれる。古い蛍光灯を発見したら、カエルンジャーのウェブサイトにアクセスして、「調査場所」「蛍光灯の本数」などを書き込もう。報告がアップされるたびに、エコ替えによる電気代の節約額の合計が加算されていくのがユニークだ。かなり大雑把な調査ではあるが、これだけの電気代を浪費しているかと思うと、もったいないという気持ちが募る。カエルンジャー増殖によって、蛍光灯のエコ替えが進み、節電意識が拡がることを期待したい。

古い蛍光灯に携帯電話のカメラを向けると、このような縞が見える(カエルンジャー・ウェブサイトより)
中日新聞2012年5月9日朝刊記事

まだまだある、節電手法

カエル計画では、今後も自治体や企業に向けてさまざまな節電提案をしていく予定だ。例えば、中小企業向けには、省エネ蛍光灯の共同購入を提案できないかと考えている。また、夏に向けて、デマンドコントローラーなど、電力ピークを抑える提案もしていきたいという。

代表の石井さんは「家庭の節電も大切ですが、市民として大きな節電効果が見込めるところに働きかけていくことは重要です。電力料金の値上げ

エネルギーについて考える市民会議

最後にもう一つ、エネルギーをテーマにした市民活動を紹介しよう。3.11以降に動き始め、2012年3月に発足した「中部エネルギー市民会議」だ。電力会社も原発推進派も反対派も、ただ不安な人も、多様な考え・立場を超えて地域のエネルギーのあり方について議論と情報提供を積み重ね、方向づけしていくことを目指す。

仕掛け人は、名古屋におけるリサイクル運動を先導してきた萩原喜之さんと、中部電力OBの今尾忠之さん。1年かけてできるだけ多様な21人の呼びかけ人を集めてスタートした。2012年3月に行った2回の会議には延べ300人弱が集まり、各自の思いを出し合った。この会議の課題を踏まえ、5月20日の第3回市民会議では、中部電力が初めて公式に参加し、電力需給などについて情報提供を行うことで、対話に向けて第一歩を踏み出した。

市民会議では2年後にこの地域のエネルギーについて方向づけを行い、行動に移す組織づくりまでしたい意向だ。しかし、そこまでの道筋は未定。参加者たちでつくっていくという。また、様々な疑問を抱えながらどう行動すればよいか分からない人が参加することで、気づきと具体的な行動につなげることも大きな目的だ。

市民会議の設立趣意書には、「地域の信頼とつながりをもとに、一人ひとりがこの地域の将来を決定するのだという自覚を持って、自ら判断できる状況をつくらねばなりません」という一文がある。萩原さんは「目指すは持続可能な社会。その土台に、人と人の信頼をベースとした地域がなくては実現しない。それが切れてしまっていることが、今の都市の問題だ。市民会議は、人と人のつながりを築き直すための場でもある」と話す。

2012年5月20日に開催された第3回中部エネルギー市民会議。81人が参加した

市民が社会をカエル

カエル計画と市民会議はまったく性格が異なる活動だが、ともに、今までのように国任せにしないで市民が当事者意識を持って社会を変えていこうとする姿勢と、地域を軸にしているという点では同じ。震災・原発事故が社会の問題点をあぶり出し、市民がそれに気づき、行動し始めたということだろう。これからも「市民が社会を変える」「地域が軸」の取り組みが、あちこちで芽吹いていくに違いない。