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名古屋市のエネルギー事情 〜電気はどこから買っている?〜

取材・文 浜口 美穂
  • まち

電気は(このエリアなら)中部電力から買うもの。当たり前にそう思ってないだろうか。電力自由化の制度改革は平成12年から段階的に行われ、現在は50kW以上の高圧契約をしているところなら、民間の電力会社(特定規模電気事業者<PPS>)からも自由に買えるようになっている。一般家庭は無理だが、公共施設やオフィスビル、マンションでも電力を一括契約しているところなら可能だ。
例えば名古屋市では、平成22年度、市庁舎(本庁舎、東庁舎、西庁舎)で使用する電気については電力入札により丸紅(株)から買っている。これにより、中部電力から買った場合と比べて約1千万円の経費節減にもなるという。
今回は、電力入札制度について、また、名古屋市の再生可能エネルギー* 導入の動きについて紹介しよう。

環境に配慮した電力入札制度

名古屋市では、平成19年に施行された「環境配慮契約法」に基づき、平成20年度から環境に配慮した電力入札を行っている。これは、国や地方公共団体などが、製品やサービスを調達する際に、温室効果ガス等の排出削減など環境に配慮した契約を推進することを目的にした法律だ。

電力の場合は、環境に配慮した一定の基準を満たした事業者だけが入札に参加できる「裾切り方式」を採用している。その評価項目を以下に挙げてみよう。

基本項目及び加点項目を合わせて70点以上の事業者が入札参加資格を得る。入札では価格のみの競争となるため、必ずしも入札前の点数が高いところに決まるとは限らないところが、裾切り方式の課題でもある**。

平成22年度は、市庁舎のほか、国際展示場、大江破砕工場、東山公園、小中学校、鶴舞中央図書館、伏見ライフプラザなど455施設で入札を実施し、総計で、中部電力の入札価格の88%、約1億8千万円ほど安くなっているという(「全国市民オンブズマン連絡会議」まとめ)。

* 再生可能エネルギー:太陽光、風力、小水力、地熱、バイオマスなどのエネルギー。自然エネルギー、新エネルギーともいう。
** 裾切り方式の課題:東京都では、この裾切り方式に加え、契約した電気事業者に対し、自主的に5%以上の再生可能エネルギー利用に取り組むように求めている。
*** グリーン電力証書:新エネルギーによって発電されたグリーン電力の環境負荷価値(化石燃料削減・CO2排出削減など)を証書の形にして、個人や企業などが省エネルギーや環境対策の一環として取り引きできるようにした仕組み。

評価項目

PPSの環境への取り組み

PPSは平成23年6月現在、45社ある。商社、自社発電の余剰電力を売る製紙会社、風力発電の会社など様々だ。

これまでPPSは、一般電気事業者(電力会社)に対するコスト面で優位性を示してきたが、昨今の火力発電の燃料高騰により、その優位性が揺らいでいる事業者も多い。そんな中、PPSは競争力を高めるため、発電効率の向上や再生可能エネルギーの導入* によるグリーン化を進めている。

平成22年度に名古屋市の公立小中学校が契約している(株)エネットは業界最大手で、PPSの中で50%のシェアを占める。エネットは、NTTファシリティーズ、東京ガス、大阪ガスの3社の共同出資により設立。自社発電所や親会社である両ガス会社の天然ガス火力発電所をはじめ、企業や自治体の自家発電施設から余剰電力を買って、それを電力会社の送電網を使い契約先へ届けるシステムだ(名古屋市のごみ焼却場からも余剰電力を購入)。両ガス会社関係の風力発電所(約2万kW)やNTTファシリティーズ関係の太陽光発電所からも電力を調達し、再生可能エネルギーの積極的な活用に取り組んでいる。

* 再生可能エネルギーの導入:電気事業者は、平成15年に施行された「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)により、毎年、その販売電力量に応じ、一定割合以上の再生可能エネルギー(風力、太陽光、地熱、小水力、バイオマス)等から発電される電気の利用が義務付けられている。

大阪ガスの泉北天然ガス発電所。火力発電の中で最も環境負荷が小さい天然ガスを燃料とし、発電効率の高いガスタービンコンバインドサイクル発電方式を採用している。全4基で約111万kW(大阪ガス(株)ウェブサイトより)
東京ガスの袖ヶ浦風力発電所。出力1,990kW(東京ガスウェブサイトより)

名古屋市の再生可能エネルギー導入の取り組み

名古屋市は今年3月に「名古屋市役所環境行動計画2020」を策定した。市民・事業者に率先して市役所自ら環境行動を実践していこうという計画だ。基本方針として4つの環境都市像(「健康安全都市」「循環型都市」「自然共生都市」「低炭素都市」)を掲げ、実現に向けて、持続可能な事務・事業活動を実践する「eco市役所」をめざすとしている。

この中の「低炭素都市」とは、「化石燃料から再生可能エネルギーへ転換が進むとともに、駅周辺に都市機能を集積した、少ないエネルギー消費で快適な生活ができるまち」。計画に先立ち、すでに新しく建てられた公共施設などで取り組みが進んでいる。その一つ、平成22年5月にオープンした緑区役所徳重支所等共同ビル(愛称「ユメリア徳重」)を訪ねた。ユメリアは、1階・2階に銀行などの民間施設が入り、3階は緑区役所徳重支所、徳重地区会館、緑保健所徳重分室、図書館、憩いのオープンスペース「区民プラザ」、4階は地区会館の体育室が備えられている。

地下鉄延長により新しく開設された「徳重」駅を上がると、商業施設が入るヒルズウォーク徳重ガーデンズに出る。その隣がユメリアで、両者は一体となり、おしゃれな近代的空間を創り出している。ここが、まさに前出の環境行動計画に盛り込まれた取り組み、■再生可能エネルギー設備の導入 ■LED照明や屋上緑化・壁面緑化による省エネ ■駅そば生活圏* の形成に資する公共施設 を実現した先進事例なのだ。

緑区の名前の由来になった豊かな緑が、開発により急速に失われるなか、環境デザインにより緑の再生をしようと設計されたユメリアは、建築物の環境性能を総合的に評価する手法「CASBEE名古屋」** で最高のSランクを誇る(今年3月にリニューアルした名古屋市科学館もSランク)。そのエコアイテムを紹介しよう。

3階入口を入ると正面のパネルに、太陽光発電の「現在の発電電力」と「本日の発電電力量」が表示されている。学校が夏休みに入った取材当日、区民プラザでは子どもたちがゆったりと椅子に座って本を読んだり、鉛筆を動かしていた。節電のため所々消された照明の暗さを、天井の高さと間接照明、天窓が補っている。床にぽつぽつと配置された銀色の吹き出し口からは、地熱を利用した空調の涼しい空気が吹き出している。多くの住民が出入りし、交流する拠点施設に当たり前のように整えられた環境先進空間。ここから環境への取り組みが広がっていくことを期待したい。

* 駅そば生活圏:駅を中心として歩いて暮らせる生活圏。
** CASBEE:名古屋市役所環境行動計画2020にも、建築物の省エネ性能をCASBEEなど評価手法を使って「見える化」することが盛り込まれている。

エコアイテム
ユメリア徳重。ユメリアを建設するに当たっては、平成18年から公募の市民によりどんな建物にしたいかを話し合うワークショップを何度も開催。「気軽に集い交流できる場にしたい(区民プラザ)」「キッズスペースがほしい」などのアイデアが設計に取り入れられた。オープン後はそれが「みどり区民プラザサポータークラブ」につながり、現在66名が登録。館内案内をしたり、イベントの企画運営をしている
区民プラザ

区民プラザの床に配置された地熱を利用した空調の吹き出し口。涼しい空気が出るので子どもたちは興味津々
屋上に設置された太陽光パネル
西壁に取り付けられた日除けルーバー
壁面緑化。窓ガラスに組み込まれた小さな太陽光パネルと緑が縞状に交互に並ぶ

再生可能エネルギーの広がり

「名古屋市役所環境行動計画2020」では、「低炭素都市」に関する具体的な行動目標として、平成32(2020)年度までに温室効果ガスを平成21年度に比べて17%削減、太陽光発電設備1万kW導入を掲げている。では、一般住宅での太陽光発電設備の導入はどれくらいあるのだろうか。

名古屋市では平成10年度〜17年度、少し空いて平成21年度〜今年度まで補助事業を行ってきた。今年度の補助金額は、国の補助金と同額の「太陽電池モジュール最大出力1kWあたり4万8千円(上限10kW)」だ。

昨年度までの補助件数は2,039件。今年度は6月9日に500件(2,000kWまで)程度の募集したところ、その日のうちに約1,000件の申請があり、一日で受付を終了することに。急遽、補正予算で1,400件(5,600kWまで)の追加募集を8月24日から行うことになった。

再生可能エネルギー特別措置法* の審議が本格化するなか、再生可能エネルギーへの関心は市民にも広がっているようだ。名古屋市はソフトバンクの孫正義社長が発案した「指定都市 自然エネルギー協議会」にも参加。市長は「脱原発」についても発言している。

今後の再生可能エネルギーの広がりと、名古屋市の動向に注目していきたい。

* 再生可能エネルギー特別措置法:再生可能エネルギーで発電された電気について、その全量を電力会社が一定額で買い取るよう義務付ける「全量固定価格買い取り制度」を導入するためのもの。

屋上は緑も多く、展望も良いのでくつろげる穴場スポット