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名古屋のみどりをつなげ、人をつなげる 生物多様性NAGOYAしみんプロジェクト

取材・文 浜口 美穂
  • 自然

平成17年の名古屋市の緑被率は24.8%。平成2年からの15年間で中村区1つ分に相当するみどりが消失したという。わずかに残る緑地も道路や住宅地で分断され、外来種の移入などで生物多様性の質が著しく低下しつつあるのが現状だ。
そんな名古屋で今年10月に開催されるCOP10*。これをきっかけに、十数年前から地道に取り組まれている森づくり活動やここ数年注目されているため池の外来生物駆除のほかにも、名古屋の生物多様性を保全・創出する活動が活発になっている。そのひとつ、新たに芽吹いたばかりのプロジェクトを紹介しよう。

都市のみどりをつなげる3つのプロジェクト

平成21年8月から地域団体、企業、行政(まちを構成するすべての「しみん」)の協働で始まった「生物多様性NAGOYAしみんプロジェクト」は、次の3つのプロジェクトからなる。

1. チョウが舞い野鳥が歌う「生物多様性公園」プロジェクト
2.「学区でおやちゃい」プロジェクト
3.「おうちビオトープ・ガーデン」プロジェクト

1. は昭和区の鶴舞公園や北区の洗堰緑地公園などシンボル的な大きな公園で、2. は学区単位の人が集う小さな公園で、3. は家や会社の庭でというように、大きな公園から地域の公園、家の庭まで、都市のみどりをつなげようという試みだ。市内各地に生きものが集うビオトープを創出するだけでなく、そこに人も集える仕組みをつくり、人と自然のふれあいの場、人と人のふれあいの場とすることが目的である。

国の「地方の元気再生事業」に応募し、まずは平成21年から2カ年計画で始まった。

生物多様性公園

シンボル的な公園を「生物多様性公園」に変身させるプロジェクトの候補として挙がったのは鶴舞公園と洗堰緑地公園。鶴舞公園は平成21年11月に100周年を迎え、何代にもわたって市民に親しまれている名古屋の象徴ともいえる公園。洗堰緑地公園は庄内川に沿って広がる水辺のシンボル的公園だ。平成20年につくられた池が活用されずに放置されていたが、地元のライオンズクラブから、ここをビオトープとして地元の子どもたちに親しんでほしいという声が上がっていたという。

まずは、(財)日本生態系協会の協力で、2つの公園の生きもの調査から。周辺環境の調査も行い、環境が整えば来てくれる可能性のある生きものを探った。アンケートと2回のワークショップも実施。ワークショップでは、生物多様性公園に向けて、どんな生きものを呼ぶか、環境をどう整えるかなどを話し合った。これらの意見を元に生物多様性公園のガイドラインを作成。今後は、公園管理者である緑政土木局や(社)名古屋建設業協会などと連携しながら、ガイドラインを取り入れた施工管理を促していく予定だ。

洗堰緑地公園では、さっそくライオンズクラブが中心となり、地元の子ども会などに呼びかけて活動がスタート。8月には100人ほどの子どもたちにビオトープを紹介し、10月には池の水を落として魚などを捕獲し、生きもの調査。池の近くを耕して、虫たちのすみかとなるように愛知の伝統野菜などを植えた。春には花見を兼ねて春を感じるイベント、夏にはキャンプで夏を満喫と、四季折々の自然に親しむ企画が膨らんでいる。

ワークショップには地元の市民、専門家、事業者、行政が一堂に会した
洗堰緑地公園の池の水を半分以上落として魚の捕獲
冬はネイチャーゲームでビオトープの自然とふれあった

学区でおやちゃい

身近に田畑がなく、「自然」と「食」が切り離された環境で育つ都市の子どもたち。このプロジェクトでは、食という「自然のめぐみ」を実感し、そこから生物多様性の大切さを学ぶことを目的に、地域の伝統野菜や野草・薬草の栽培を行う。また地域の公園で住民が一緒に栽培・収穫体験をすることで、コミュニティーの活性化を図ることも目指している。

「野菜」ではなく「おやちゃい」と命名したのは、生産や収穫を目的とした「野菜」のイメージを払拭するため。このプロジェクトの「おやちゃい」は、あくまでそこにやってくる生きものたちのつながりや植物の一生を学ぶためのものなのだ。そして、「おやちゃい」と呼んだときに、みんなが笑って心がほぐれることもねらっている。

モデル学区として選ばれたのは、名東区の貴船学区。学区30周年のイベントの際、生物多様性の講演会が開催されて、「何かやりたい」という声が上がっていたという。

9月末から10月にかけて、通学路にある2つの公園と貴船小学校の校庭の合計3カ所の「おやちゃい花壇」に愛知の伝統野菜の種をまくことからスタート。野鳥や虫たち、子どもたちが安心して集えるように、育てる際の約束は、化学肥料や農薬を与えないこと、日本在来の野草や雑草を抜かないこと。おやちゃいに集まる生きものについて学んだり、観察する機会も設けながら、見守ってきた。

今年度のゴールは、1月末に行った「めぐみ祭」。虫たちが食べて穴のあいたおやちゃいを今度は人間がいただく番だ。数日前は「虫食いなんて嫌だ」と言っていた子どもたちも、おやちゃいたっぷりの雑煮を「おいしい!」といただき、残りの虫食いだらけのおやちゃいもみんなで分けて、あっという間になくなった。また、COP10を知ってもらうために、環境省のCOP10のロゴを大きな折り紙で作り、身近な生きものから世界へと意識を広げて生きもののつながりを伝えたという。

今回いただいたおやちゃいは半分だけ。残りの半分は、このまま花を咲かせ、種を採って、また来年度に植える予定だ。多くのいのちのつながりと1つのいのちの循環を学ぶプロジェクトである。

おやちゃいの収穫
学区連絡協議会の人、子ども会・トワイライトスクールの子どもたちなど、学区のたくさんの人が集まった「めぐみ祭」。雑煮のほか、餅つきもした
めぐみ祭の合い言葉は「ありがとう いただきます ごちそうさま」。自然のめぐみに感謝!
COP10のロゴを折り紙で作り、地域から世界へと意識を広げた

COP10のロゴを折り紙で作り、地域から世界へと意識を広げた

おうちビオトープ・ガーデン

家の庭や会社の花壇などでビオトープ・ガーデンづくりを普及させるプロジェクト。でも、広いスペースが必要というわけではない。マンションのベランダや会社の屋上などで、バケツや植木鉢1つからでもできる生きもののすみかづくりだ。

誰でも気軽に取り組めるとあって、まずは、(財)日本生態系協会の協力で「はじめよう! ビオトープ・ガーデン」マニュアルを作成。ビオトープ・ガーデンの具体的なつくり方からどんな生きものがやってくるかという情報まで分かりやすく掲載されている。困ったときの相談先まで紹介してあり、実践的だ。

それでもマニュアルだけでは不安という人のために、日本ビオトープ管理士会中部支部がバックアップし、なごや環境大学共育講座の一環として、講義や実技講習のほか、実際に希望者の自宅の庭に出向きアドバイスする出張講座を行った。この受講者を中心に、インターネットでも募集してビオトープ・ガーデン・コンテストも実施。2月末に表彰式とこのプロジェクト全体の発表会を行う予定だ。

たとえ家々の小さなビオトープでも、たくさんつながり、それがさらに大きな公園や川とつながるみどりのネットワークができれば、まち全体が生きものたちの行き来するオアシスになるはず。それは私たちにとっても心地よいまちになるはずだ。

植木鉢に寄せ植えするミニビオトープづくりの講習会
マンツーマンの指導が好評だった出張講座

思いがつながり走り出した

生物多様性公園プロジェクトでは、まず地元のライオンズクラブの思いがあった。学区でおやちゃいプロジェクトでは、まず貴船学区の住民の思いがあった。おうちビオトープ・ガーデンプロジェクトではそこにビオトープに関心を持つ人たちの思いがあった。それらの思いは、なごや環境大学が学びの場やシステムを提供するなど後押しをして走り出した。いったん走り出せば、思いの輪がつながり、それぞれの力で継続することができる。まさにこれがなごや環境大学の果たす役割のひとつなのだろう。

なごやのみどりと一緒にマンパワーも育っていくことを期待したい。