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身近な水辺に目を向けることが水質改善の第一歩 〜水質環境目標値市民モニタリング〜

取材・文 浜口 美穂
  • 自然

今年4月、本コーナーに「堀川1000人調査隊」についての記事を掲載した。市の堀川浄化の実験を多くの市民が調査という形でバックアップするという堀川1000人調査隊は、市民の目を堀川に向け、堀川浄化への意識を高めることに大きな役割を果たしている。このように、行政だけが水質改善に取り組むのではなく、市民も一緒に、まずは身近な水辺に目を向け、水質改善への意識を高めていこうという新たな取り組み「環境目標値市民モニタリング制度」もスタートした。

条例で位置づけられた「親しみやすい指標」

名古屋市では、市民が健康で快適に暮らせるよう、大気と水質の各項目について、汚染物資の濃度などの目標値を定め、その達成状況を毎月1回調査している。平成17年7月、この目標値を時代にあったものに見直そうと、環境基本条例に基づく新たな環境目標値を告示。この中に、以前から調査してきたpH*、BOD** などの理化学的指標に加えて、感覚的にわかりやすい「親しみやすい指標」*** が加わったことにより、市民による調査が可能になった。

これを受けて、同年8月に水質調査を行う市民モニターを公募したところ、定員を超える応募があり、ヒアリングによって調査可能な35グループ・190名が選ばれたという。川を守り親しむ活動を行っているグループのほかにも、家族参加、森づくりに携わるグループ、子育てグループ、ボーイスカウトの子どもたちなど、多彩な顔ぶれが集まり、環境目標値市民モニタリングがスタートした。

* pH:溶液中の水素イオン濃度を示す尺度で、酸性、アルカリ性の度合いを示す。
** BOD:生物化学的酸素要求量。水中の汚濁物質(主として有機物)が微生物によって酸化分解されるときに必要とされる酸素量。河川の汚濁状況を測る代表的な指標。
*** 親しみやすい指標:「透視度」「水のにおい」「水の色」「水量」「ごみ」のほか、生物指標も加わっている。

環境目標値市民モニタリング

調査個所は、市内の15の河川30地点とため池13地点。35グループそれぞれが担当の地点を春夏秋冬各1回調査する。調査項目は、親しみやすい指標に基づき、透視度計で透視度を測ったり、水のにおい・色・ごみ・水量を感覚で判断して選択肢を選ぶほか、pHやCOD* など基本的な水質調査も行う。

調査に先立ち、9月から10月にかけて3回の説明会を開催。調査実習も行った。10月中旬、いよいよ本番。10日間ほどのモニタリング対象期間からグループごとに都合のよい調査日を選び、実施した。中には1日で8地点も調査したグループもあったという。

橋の上からロープを結んだバケツを落とし、水をくみ上げて、水温を測ったり、透視度を測ったり、pHやCODのパックテストをしたりと盛りだくさん。また、水中や周辺の様子を観察して、記録用紙に「気づいたこと」を記入したり、スケッチをしたり…。「橋の下にごみが落ちていて、何とかしなきゃと思った」「こんな花や鳥がいた」など、さまざまな発見が報告された。裏側の自由記述欄には、事細かにスケッチしたり、写真を貼り付けたり、規定調査以外の生き物調査や回数・場所を増やして調査した結果を記入したりと、熱心な様子が伺える。

* COD:化学的酸素要求量。水中の汚濁物質(主として有機物)を酸化剤で化学的に酸化するときに消費される酸素量。

調査項目(水質環境目標値市民モニタリング 調査マニュアル「記録用紙の記入例」より)
説明会で透視度計の使い方を実習
説明会でため池での実習も行った

家族で力を合わせて測定(扇川)
山崎川のグリーンマップ(世界共通のアイコン=絵文字を使った環境地図)を制作しているグループによる山崎川の調査
記録用紙の裏面にはオリジナリティーあふれる記録がつづられ、熱心さが伺える

成果はホームページで公表

各グループの調査結果は、事務局を担う環境局公害対策課に送られ、環境目標値達成の判定基準により判定。その結果などは、名古屋市のホームページで公表されている。17年度秋季と冬季の結果は、市が行っている化学的な機器分析の結果と概ね一致するが、「水量が少ない」「ごみが目につく」といった、感覚による調査ならではの結果も読みとれるという。

また、今年3月には平成17年度の成果発表会も行われ、多くのモニターが参加。事務局による調査結果の報告の後、2つのグループが成果を発表した。モニターが一堂に会するのはこれが初めて。秋冬各1日の規定調査を含め年間240日も調査したグループの発表に驚いたり、子どもたちの「晴れの日が続くと魚がくさったようなにおいがした」という率直な感想を交えた発表を和やかな雰囲気で聞いたりと、次年度へのよいエネルギーが充電されたようだ。

調査項目および環境目標値達成の判断基準
平成17年度成果発表会

身近な水辺に目を向けることから

ホームページで公表されている成果の中には、各グループの感想も記されている。「普段何気なく眺めていた川がより身近に思えるようになりました。これ以上汚れないように私も心掛けていきたいと思います」「普段行くことのなかった川岸に下り、川の水を触ってみて水がきれいなことを発見すると同時に、川岸のごみの多さに驚きました」など、川が身近に感じられるようになり、水質や周辺の環境などに関心が高まったことがよくわかる。環境目標値市民モニタリングの最大の目的である「関心を持つことが水質改善への第一歩」の達成状況は◎のようだ。

現在活動中の市民モニターは来年度まで引き続き調査を続ける。事務局では、モニター同士の情報交換の場をつくったり、よりよい調査のやり方を市民と行政で相談しながら進めるなど、協働ならではの成果も高めていきたいと考えている。

今後の調査結果や活動内容はホームページで随時公開されていく。今後の展開に期待するとともに、私たちも身近な水辺に目を向けていきたい。