ENVIRONMENTALCOLUMN 環境情報を知りたい方/環境コラム

市民編集員が市民の目線と言葉で伝える3R手引書 「ごみとサヨナラ! こんにちはシンプルライフ 〜3R実践集〜」

取材・文 浜口 美穂
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昨年4月、小泉首相が提唱して開催された「3Rイニシアティブ閣僚会合」*、その後、制作された小池環境大臣プロデュースの「もったいないふろしき」など、国レベルでも「リサイクルから3Rの時代」に移行したことを実感する昨今。名古屋市でも、今年3月、くらしに根ざした3Rアイデアを盛り込んだ手引書が発行された。
企画・編集したのは、名古屋市から委嘱を受けた市民編集員14人。市環境局との協働事業として、「市民の知りたいことを市民の目線と言葉で伝えること」を目的に平成16年から2年間活動を行い、最終的に「ごみとサヨナラ! こんにちはシンプルライフ 〜3R実践集〜」を制作した。

市民の目線と言葉で伝える

市民編集員制度は、長期のごみ処理基本計画(第3次一般廃棄物処理基本計画)の中に「率直でオープンなごみ行政を進める取り組み」として位置づけられ、ごみ行政について市民の理解と協力が得られるように、市民の知りたいことを市民の目線と言葉で伝えることを目的にしている。ごみ非常事態宣言以降、市は説明会やパンフレットの配布など、あの手この手で情報発信し、行動を促すことで、大幅なごみ減量を達成した。しかし、まだ情報が行き届かなかったり、知っていても行動につながらない場合もある。今後、さらなる減量を目指すには、市民の目線と言葉でわかりやすい情報を伝え、効果的に行動に結びつけていく必要があるのだ。

市民編集員は、保健委員会・女性会・子ども会連合会・小中学校PTA協議会の代表、市民団体・NPOの代表、一般公募市民、広報・編集専門家、学識者から構成され、事務局は環境局減量推進室が担当した。平成16年度は、「資源やごみの分け方・出し方」などさまざまなテーマについてQ&A形式で広報する「ゴミごみQ&A」を作成し、名古屋市のホームページ上に掲載。平成17年度からは、Q&Aと平行して、3R手引書の制作に取りかかった。

* 3Rイニシアティブ閣僚会合:平成17年4月28日〜30日、東京にて開催。G8を含む20カ国の閣僚や関係国際機関の代表が参加。3R推進のためのビジョンや戦略を策定した。3Rとは、ごみ問題に対して私たち一人ひとりができることとして、ごみや資源の出す量を減らし【Reduce=リデュース】、再び使えるものは再使用【Reuse=リユース】や再生利用【Recycle=リサイクル】を進めようと、3つのRにちなんでつくられた言葉。(「ごみとサヨナラ! こんにちはシンプルライフ 〜3R実践集〜」より)

ゴミごみQ&A

ゴミごみQ&Aの作成は、まずテーマの選定から始まった。市民が知りたいテーマ、そして行動につながるテーマとして、「資源とごみの分け方・出し方」「資源のゆくえ」「資源とごみにかかる経費」「レジ袋削減」「3R」「生ごみ」などを選択。事務局から提示された行政の考え方や資料を基にしながらも、より効果的に伝えるために、現場見学・取材を行い、現場の声や身近な例も掲載した。

例えば、分別意欲を高めるためには、出した資源がどのような流れでリサイクルされているか(自分の行動がどのような成果を上げるのか)、また、間違った分別をすると現場がどのように困るかということを知ることが大切ということで、各資源のゆくえを掲載し、その中に現場の声を盛り込んだ。「ペットボトルリサイクルのゆくえ」では、「本体はペット樹脂(ポリエチレンテレフタレート)、キャップはポリプロピレン、ラベルはポリスチレン。素材が違うから、一緒にはリサイクルできないんだよ」「キャップがついているものが結構あります。必ずはずしてね! ときどき内容物が入ったままのものもあって、夏場は臭いんだよ」など、現場の声が掲載されている。「なぜ分けて出すのか」という理由がわかれば、行動につながるというわけだ。

名古屋市ホームページより

3R実践者を増やす手引書

16年度は、いわば助走期間。17年度は、目指すべき循環型社会に向けて、3Rを実践する市民を増やすための手引書づくりに取りかかった。まずは、Q&Aと同様に、「行動につなげるためには、何をどのように伝えたら効果的なのか」を議論。すでにたくさん発行されている3R関係のマニュアル・情報誌と比べて、どのように特徴づけるかにも頭を悩ませた。

何度も検討を重ねた結果、「生活者」「高齢者」「共働き」「単身者」という生活スタイルが異なる層に対象を分けて、具体的で楽しい3Rアイデアを提供することになり、アイデアは各編集員のネットワークを活かして取材。また、「買い物」「買わないで」「家事」「余暇」「出産・育児」「引っ越し」という生活シーンごとに、3R行動のポイントをまとめ、コラムでは「エコクーぴょん」や「名古屋市リサイクル推進センター」の紹介など、利用できる情報を掲載している。

慣れない取材・執筆作業、時間の制約、各編集員の意見の相違、編集員と事務局(市民と行政)とのスタンスの違いなど、思った以上に乗り越えなければならないハードルがたくさんあったが、効率的な会議運営*、自宅作業、Eメールでコミュニケーション不足を補うなどして、今年3月、「ごみとサヨナラ! こんにちはシンプルライフ 〜3R実践集〜」を完成させた。

* 効率的な会議運営:会議を効率よく進めるために、司会者の進行を助けるファシリテーターを置き、ホワイトボードに意見の要点を書き出して、全員で共有しながら進めていった。また、会議中に発言できなかった意見や気づいたことなどを各自、付箋や振り返りシートに書き出し、会議終了後にまとめた後、次回の会議に活かす工夫をした。

「生活者」「高齢者」「共働き」「単身者」別に具体的な3Rアイデアを掲載している

協働の新しい形

市民編集員は、今年3月末で解散。ゴミごみQ&Aは、減量推進室の管理の元で、引き続き市のホームページに掲載されている。また、「ごみとサヨナラ! こんにちはシンプルライフ 〜3R実践集〜」は、名古屋市でPRに努め、市のホームページからダウンロードできるほか、以下のところ* でも配布されている。

市民編集員の設置は、今回が初めての取り組み。当初は編集員の選出や会議の進行など行政主導で始まり、行政と編集員との立場や認識の違いが浮き彫りになる場面も多々あったようだ。しかし、作業を進めながら何度も、市民編集員の目的と役割(誰が主体なのか)を確認し、対話をする中で、お互いの立場を認めながら、程よい着地点を見いだしていった。特に、16年度が終了したときには振り返りを行い、目的の確認と会議運営のルールづくり、17年度の体制づくりを行って、編集員主導の形ができあがっていったという。

「ごみとサヨナラ! こんにちはシンプルライフ 〜3R実践集〜」の最後は、次のように締めくくられている。

「環境問題の解決に向けて、これからは、行政だけに任せるのではなく、私たち市民には何ができるのか、何をするべきかを自らも考えて行動に移すことが大切だと思います。〜中略〜 誰かが負担を背負うのではなく、市民と行政が協働しながら「環境」というキーワードを共有し、同じ方向を向いて歩んでいけたらよいですね。この冊子が、その一歩になれば幸いです」

* 配布場所:各区役所/各区環境事業所/名古屋市リサイクル推進センター/名古屋市環境学習センター「エコパルなごや」/名古屋市環境局減量推進室(本庁舎4階)