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EXPOエコマネーの継承とCO₂削減を目指して 〜公共交通エコポイント社会実験〜

取材・文 吉野 隆子
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環境に配慮した行動をするたびポイントがたまっていき、たまったポイントはエコ商品に交換したり、植樹などの環境保全活動に寄付したりすることができる ?? 愛・地球博の会場で実験的に導入されたEXPOエコマネー活動には延べ48万人が参加、予想以上の反響があった。この結果を受けて、博覧会協会は実施エリアを万博会場から中京地区に拡大して、万博終了後もEXPOエコマネー事業を継続することを発表した。この地域での事業の継続と並行して、全国でも展開していくことを目標に掲げ、国や自治体、NPO団体などの関係者と、今後の事業のあり方を検討していく予定だという。
名古屋市・名古屋大学・NPO法人エコデザイン市民社会フォーラムなどによって運営されている「公共交通エコポイント社会実験企画会議」も、昨年度から行っている公共公通の利用促進を図るための社会実験に、より多くの市民の参加を促すため、EXPOエコマネーと連携を図る形でエコポイント制度「エコポン」を運用することを決め、参加を呼びかけている。

EXPOエコマネー事業のしくみと結果

EXPOエコマネーは、万博の入場券を買うと1ポイント、その後はレジ袋を断ったり、提携パビリオンで環境学習をしたりするたびに1ポイントずつたまっていく仕組みになっていた。会場外約3000あるサポーター店舗で行ったエコ行動でも、ポイントが加算された。ポイントは入場券の中に組み込まれたICチップを通して記録され、たまったポイント数に応じてリサイクル素材の文房具やエコバッグなどのエコ商品との交換や、植樹など環境保全活動への寄付に使うことができた。

万博期間中のEXPOエコマネー発行数は、300万ポイントを上回った。ポイント全体の約4分の3は、会場外の店舗でレジ袋を断るなど、万博会場外における取り組みの結果で得られたもので、会場周辺の店舗ではレジ袋を断る人が増加したという。

この結果、削減されたと考えられるCO₂の量は、200トン以上に及んだ(レジ袋1枚あたりのCO₂削減量を100グラムとして換算)。これは当初の予測を大幅に上回るものだった。

また、ポイントの使い途としては、当初エコ商品との交換が圧倒的に多いだろうと予想されていたが、植樹活動に対して4分の1近い約53万ポイントが寄せられ、すでに230本余りの木が植えられた。また、小学校に500本の苗木をプレゼントすることが決まり、現在希望校を募っている。

EXPOエコマネー継続へ

EXPOエコマネーを運営していた博覧会協会とNPO法人エコデザイン市民社会フォーラムは、EXPOエコマネーが予測していた以上に受け入れられた理由を次のように説明している。

1. 自発的に環境配慮活動に取り組む「エコ市民」が増加した。
2. 市民の声が企業の参加を後押しした。具体的には、当初は参加していなかった大手のスーパーやコンビニが相次いで参加、中部圏を中心とした参加店舗が約3000店舗となった。
3. EXPOエコマネー事業が市民の日常的なエコ活動を促進した。
4.事業を通じて、「環境保全活動に参加する」という環境意識が啓発された。

万博を契機に、高い環境意識を持っていながら行動を起こせないでいた「潜在的エコ市民」の活動が促された、というのが博覧会協会の分析である。

こうした成果を受け、EXPOエコマネー事業は万博閉幕後も金山総合駅(名古屋市中区)に隣接するアスナル金山に、2006年11月を目途に、EXPOエコマネーセンターを設置して、リスタートすることが決まっている。

エコポン社会実験の試み

EXPOエコマネーセンターのリスタートまでのつなぎの役割を担うのではないかとされる試みが、交通施策の一環として「公共交通エコポイント社会実験企画会議(以下、エコポン企画会議)」* の主催で実施される「公共公通エコポイント(通称エコポン)」だ。「公共交通は車より環境にやさしい」という考え方に立ち、環境活動の一環として地下鉄などの利用者にポイントを与えることによって、公共交通機関の利用を促す社会実験である。同様の実験は、もっと小規模ではあるが昨年も行われ、CO2換算で約33トンが削減されるという結果を残している。終了後のアンケートでは、実験参加後の行動の変化として、「公共交通の利用を増やした」「地下鉄で都心に行く回数を増やした」という声が多く寄せられた。

今回の実験は、EXPOエコマネーとエコポンをつなぐ形で、万博開催中の今年8月21日にはじまった。昨年度は事前に配布したICカードを利用したが、今年度はEXPOエコマネーにも使われ、ある程度普及していると思われる万博入場券を利用している。入場券を持っていない場合は、抽選で入手できるエコポンICカードを使う。これらのカードを地下鉄の駅構内などに設置されたカードリーダーにかざすと、ポイントがたまっていくシステムだ。計算上は1回ごとに1180gのCO2を削減できるとしている**。

地下鉄や協賛施設を利用する際や、環境関連のイベントへの来場時などに1ポイント(休日は2ポイント)付与される(詳細はポイントルール参照***)。また、EXPOエコマネーに参加していた場合は、ボーナスポイントとして10ポイントが加算される。

万博入場券にポイントをためるだけなら登録**** の必要はないが、携帯メールを利用して登録すると、自分のポイントがどれだけたまり、それによってCO2がどれだけ削減できたか、画面上で確認することができる。また、期間終了後のアンケートに答えると、ためたポイントに応じて抽選で記念ユリカなどの特典を受け取ることができる。

* 公共交通エコポイント社会実験企画会議:名古屋市・名古屋大学・NPOエコデザイン市民社会フォーラムなどが主催。
** 「地下鉄駅構内設置のエコポンリーダーに1回かざすと1180gのCO2削減とみなす」という算出根拠:自家用乗用車のCO2排出量原単位:192.2g-CO2/人km(H16年度環境白書より)。地下鉄のCO2排出量原単位:10.8g-CO2/人km(H16年度環境白書より)。地下鉄利用1回あたりの平均乗車距離:6.5km(名古屋市交通局データより)。自家用乗用車の代わりに地下鉄を利用し、6.5km移動したと仮定すると、(192.2-10.8)×6.5=1179.1 → 約1180g-CO2となる。
*** ポイントルール:1 ・公共交通での利用(地下鉄・あおなみ線)平日の10〜16時、及び土・日・祝日はポイントが2倍となる ・同一交通事業者(地下鉄またはあおなみ線)内では、2時間以内の連続取得は不可 2 ・協賛施設などでの利用駅でのポイントと一体でポイント付与(1日1回) ・土・日・祝日はポイント2倍 ・オアシス21は駅ポイントなしでも付与
* 万博入場券保持者の参加申し込み方法(10月30日まで):1 携帯電話で空メールを a.ecopon@cep.jp に送信、2 返信されるメールに表示されたwebにアクセスする、3 必要情報(万博入場券ID・性別・年齢・郵便番号・公共交通利用についてのアンケート)を入力、4 登録完了

iセンターに設置されたエコポン

エコポンの抱える課題

エコポンは公共交通の利用促進を図ることを目的としているが、取り組みを広げていくにあたっては、いくつかの課題が残っている。

まずあげられるのは、カードリーダーの設置場所が少ないということである。この10月から3か所増設されたが、それでも主要駅を中心とした13か所にとどまっている*。この13か所が生活圏に含まれていない場合、参加が難しい。また、今回は実験であるため、カードリーダーの設置個所も限定されている。名古屋駅の場合は、東山線の中改札口、桜通線の西中改札口と西改札口の3か所、10月から設置された栄駅は、東山線の西改札口、名城線の南西改札口の2か所となっている。

集めたポイントに対する特典をどう用意するかということも、課題のひとつである。昨年度同様、今年度も記念ユリカを取得ポイントに応じて抽選で提供することになっているが、協賛企業を募り、特典の提供や店舗へのカードリーダーの設置を呼びかけている。

市民にどのように参加を呼びかけていくかも、大きな課題だ。エコポン社会実験への参加登録者は9月26日時点で約5100人。当初見込みの半数強にとどまっている。登録を締め切る10月末までにどれだけ増やせるだろうか。  

参加人数は先ほど記した特典とも大きく関わってくる。環境問題への意識からではなく、ポイントをためれば手に入れることのできる特典のために、ポイントゲッターとして参加する人も、もちろん多く存在するからである。しかし、インターネット上で見つけたいくつかの書き込みから、環境に関心をもってもらうきっかけ作りに一役買っていることを感じとることができた。

「最初はエコバッグがほしくてエコマネーをはじめたのですが、エコリンクに行ってから自分の安易な考えをすごく反省。環境のことを、うまれてはじめて真剣に考えました」

書き込みのひとつである。エコリンクとは、愛・地球博において地球環境問題について伝えた環境省のパビリオンのひとつ。エコポンやエコマネーの普及にあたっても、ここに記された「エコリンク」のような、情報を伝えて環境問題への理解を促す役割を果たすものが必要となってくるだろう。

これら現在の実験段階における課題は、エコマネー普及への課題とも重なっていく。実験を通して解決方法を見つけていくことが、エコマネーの普及にもつながっていくに違いない。

* ポイントリーダー設置個所:地下鉄:名古屋・栄・丸の内・金山・大曽根・星ヶ丘・新瑞橋、あおなみ線:名古屋・荒子川公園・金城ふ頭・中島、その他:オアシス21 iセンター・金山観光案内所

東山線栄駅西改札口に10月1日設置されたカードリーダー

エコポンからエコマネーへ

エコマネーは普及の方法が難しいのですが、万博のおかげで取り組みやすくなった。万博で根付いたエコマネーへの意識が、エコポンを通して育っていくことが望まれる。

名古屋市にとっては、平成17年度までに名古屋市の事務・事業における温室効果ガス総排出量を、平成12年度を基準として約8%削減するよう努めるとした「なごやエコ・アクション」の目標実現のための一助ともなるだろう。

エコポンの実験期間は今年の12月4日まで。万博を通じて社会に受け入れられはじめたEXPOエコマネーが、今後どれだけ定着し、広がっていくのか、そのためにはどのような環境整備が必要なのか。課題は多いが、エコポンが環境活動としてだけでなく、エコマネーを社会に定着させていくための試金石のひとつとなることを期待したい。