ENVIRONMENTALCOLUMN 環境情報を知りたい方/環境コラム

いのちの連鎖をつなぐ藤前干潟に 環境学習の拠点が誕生

取材・文 浜口 美穂
  • 自然

1999年2月に宣言された「ごみ非常事態」。そのきっかけとなったのが藤前干潟の埋め立て処分場問題だった。埋め立ての危機から免れた藤前干潟は、2002年11月、水鳥の生息地として国際的に重要な湿地と認められ、「ラムサール条約」に登録された。
そのころから、干潟の保全のみならず、その活用についても、環境省・環境保護団体・地域住民などの間で議論が進められ、今年3月末、環境省の施設として2つの環境学習の拠点が誕生した。

近くて遠い2つの施設

干潟の保全のみならず、その活用についても、環境省・環境保護団体・地域住民などの間で議論が進められ、今年3月末、環境省の施設として2つの環境学習の拠点が誕生した。藤前干潟の基本的な情報を発信する「稲永(いなえ)ビジターセンター」と体験学習の場となる「藤前活動センター」である。環境省から管理・運営を委託されているのは、藤前干潟の重要性を長くアピールし続けてきたNPO法人「藤前干潟を守る会」。各施設2名のスタッフが常駐し、館内の案内などを行っている。

2つの施設は、庄内川と新川の河口を挟んで対岸に建っている。海を隔ててすぐ眼前に見えるにもかかわらず、歩いて移動すれば約2時間かかるという不便さ。アクセスが大きな課題となっている。

* ラムサール条約:正式には「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」。多くの生きものの生息地や渡り鳥の休息地となっている湿地を、国際的に協力して保全することをめざしている。

稲永ビジターセンターのテラスから見た景色。すぐ近くに南陽工場(ごみ焼却施設)が見える。この隣に藤前活動センターがあるというのに、歩けば2時間……

情報発信拠点「稲永ビジターセンター」

あおなみ線「野跡」駅から徒歩10分の稲永公園内にあるのが「稲永ビジターセンター」。隣には名古屋市野鳥観察館もある。散歩がてらふら〜っと立ち寄っても、気軽に藤前干潟に関する基本的な知識や情報を知ることができる。

施設自体も屋上緑化に取り組んだり、年間を通じて変動が少ない(約15℃の)地中の空気をチューブで館内に巡らせるなど、省エネに配慮したつくり。館内に入ると、ほんわか木の香りが漂ってくる。

展示は、ラムサール条約登録地ならではの、渡り鳥に関するものが中心。吹き抜けになった2階から1階を見下ろすと、北はアラスカ・シベリアから南はオーストラリア・東アジアまでの渡り鳥(シギ・チドリ)のルートがひと目で眺められる。もちろん、藤前干潟はその大事な中継地だ。そのほか、つばさの形と飛行のメカニズムなど渡り鳥の生態に関するコーナーや、藤前干潟に注ぎ込む庄内川の流域マップなどもある。

2階のライブラリーでは、海から吹き込むさわやかな風を感じながら、自然関連の図書を読むことができ、夏休みの宿題におすすめ。疲れたらテラスに出て海を眺めるのもよい。また、40人定員の会議室と研修室は、無料で借りられるので、環境系市民団体には耳寄りな話である。

稲永ビジターセンター
吹き抜けになっている館内
小学生の見学も多い

体験学習の場「藤前活動センター」

展示がメーンの稲永ビジターセンターとは違い、活動がメーンの藤前活動センター。ここをベースにして干潟探検に出かけたり、干潟や磯の生物を顕微鏡で観察したり、2階の展望室からは望遠鏡で野鳥観察をすることもできる。展望室には展示スペースもあり、7月いっぱいは企画展として、中川区下之一色町の漁師さんが手作りした漁具の模型が展示されている。帆船で風の力を利用して網を引く漁、カニかご漁など25種類の模型が、豊かだった名古屋の海を物語っている。

ところで、干潟体験といっても、干潟には多くの貴重な生物が生息し、危険もあるので、勝手に入れるものではない。そこで活動センターでは、毎月、藤前干潟を守る会の干潟の案内人「ガタレンジャー」による体験プログラム「干潟探検隊」と「生きもの調べ隊」を開催している。

「図鑑のカニを知っていても、カニを知ったことにはなりません。どんなふうに動いているか観察したり、時には挟まれて痛い思いをしたり……。毎回毎回発見があります。ぜひ体験にきてください」とスタッフは話す。また、子どものみならず、大人でも、ぬるっとした干潟の感触を味わったり、小さくたくましい生物とふれあえば、干潟の魅力にハマるに違いない。

藤前活動センター。こちらでも屋上緑化および太陽光発電に取り組んでいる
2階の展望室。7月末まで漁具の模型を展示中。スタッフとして地元の住人が入るなど、地元色が表れているのも特徴

パートナーシップではぐくむ

2つの箱ものは完成した。しかし、中身を詰めていくのはこれから。施設完成と同時に誕生したのが、藤前干潟の管理や利用方法について話し合う「藤前干潟協議会」。環境省・県・市と、藤前干潟を守る会や藤前に関心を持つ市民、学識経験者などで構成されている。

展示物の充実、ガイドプログラムの開発、人材育成、イベント企画……。課題は盛りだくさん。パートナーシップが生み出す力で、藤前干潟がより魅力的な場所になり、さらに、名古屋を循環型社会へ導く拠点となることを期待したい。

◆稲永ビジターセンター
名古屋市港区野跡4-11-2
TEL /052-389-5821
アクセス/あおなみ線「野跡」駅下車、徒歩10分

◆藤前活動センター
名古屋市港区藤前2-202
TEL /052-309-7260
アクセス/名古屋駅名鉄バスセンターより、三重交通バス
「サンビーチ日光川」行、「長島温泉(名四国道経由)」行、「南桑名」行に乗車、「南陽町藤前」下車、徒歩10分

◆いずれも
開館時間/9時〜16時半
休館日/毎月曜日(祝日の場合はその翌日)、第3水曜日(祝日の場合は第4水曜日)、年末年始
※団体(15名以上)の場合は要予約。